この記事で分かること
- 軽水炉型とは:普通の水を減速材と冷却材に用いる世界で最も普及した原子炉形式です。核分裂の熱を水で取り出し、発生した蒸気でタービンを回し発電します。既存技術の蓄積が豊富で、多くの小型モジュール炉のベースとなっています。
- 沸騰水型の特徴:原子炉内で直接水を沸騰させ、生成された蒸気でタービンを回すシンプルな構造が特徴です。蒸気発生器が不要なため部品点数を抑えられ、低圧での運転が可能です。日立GEのBWRX-300もこの技術を継承しています。
- 加圧水型の特徴:原子炉で熱した水を高圧で沸騰させず、熱交換器を介して別系統で蒸気を作る方式です。タービン側に放射性物質が流れないため保守性が高く、出力密度にも優れます。世界で最も多くの原発で採用されている形式です。
軽水炉型
日立製作所と米GEベルノバは、2026年3月14日、次世代型原子炉である小型モジュール炉(SMR)の東南アジア展開に向けて協力する覚書(MOU)を締結しました。今後、両社が共同開発した「BWRX-300」の導入機会を、東南アジア諸国で調査・検討します。
https://jp.reuters.com/markets/global-markets/3DKYLEHMVBNHTJJS32RJXMAR5I-2026-03-14/
特に東南アジアではベトナム、インドネシア、フィリピンなどが原子力導入に前向きな姿勢を見せており、今回のMOUが具体的な受注につながるかどうかが今後の焦点となります。
前回は小型モジュール炉とは何かやBWRX-300の特長に関する記事でしたが、今回は原子炉の方式の一種である軽水炉型に関する記事となります。
軽水炉型とは何か
軽水炉(LWR: Light Water Reactor)は、世界で最も普及している発電用原子炉の形式です。SMRの主流である「BWRX-300」や「ニュースケール」もこのタイプに含まれます。
軽水炉の仕組み
「軽水」とは、私たちが日常的に使っている普通の水のことです(重水素からなる「重水」と区別するための用語)。この水に2つの重要な役割を持たせています。
- 減速材: 核分裂で発生する速い中性子のスピードを落とし、次の核分裂を起こしやすくします。
- 冷却材: 核分裂の熱を吸い取り、その熱で蒸気を作ってタービンを回し、発電します。
主な2つのタイプ
軽水炉は、蒸気の作り方によってさらに2種類に分かれます。
- 沸騰水型(BWR): 原子炉の中で直接水を沸騰させ、その蒸気でタービンを回します。構造がシンプルです(日立、東芝、GEが主に採用)。
- 加圧水型(PWR): 原子炉内を高圧にして沸騰を抑え、別の回路(二次系)に熱を伝えて蒸気を作ります。放射性物質を含む水がタービン側へ行きません(三菱重工、米ウェスチングハウスが主に採用)。

普通の水を減速材と冷却材に用いる世界で最も一般的な原子炉です。蒸気を直接作る沸騰水型(BWR)と、別系統で蒸気を作る加圧水型(PWR)があります。既存技術の蓄積が多く、SMR開発のベースにもなっています。
従来と比べてどの程度簡素化できるのか
日立GEの「BWRX-300」を例に挙げると、従来の大型沸騰水型軽水炉(BWR)と比較して、建屋の容積を約90%削減し、主要な機器点数も大幅に簡素化されています。
主な簡素化のポイント
- 原子炉隔離弁の直結: 原子炉圧力容器に隔離弁を直接取り付けることで、大規模な配管破断(冷却材喪失事故:LOCA)の可能性を物理的に排除しました。
- 非常用冷却装置(ECCS)の削減: 上記の設計変更により、大型炉に不可欠だった巨大な高圧・低圧注水ポンプやそれらを動かすための非常用ディーゼル発電機が不要、または大幅に簡素化されました。
- 格納容器の小型化: 機器点数が減ったことで、格納容器そのものを非常にコンパクトに設計でき、建設に必要なコンクリートや鉄鋼の量も大幅に削減されています。

大型炉比で建屋容積を約90%削減可能です。圧力容器に隔離弁を直結し配管破断リスクを抑えたことで、複雑な非常用炉心冷却装置(ECCS)の大部分を不要としました。機器削減により建設コストと工期も大幅に抑えられます。
沸騰水型の特徴はなにか
沸騰水型(BWR)は、原子炉内で水を直接沸騰させ、発生した蒸気でタービンを回す方式です。加圧水型(PWR)のような蒸気発生器が不要なため、システム構成が非常にシンプルである点が最大の特徴です。
沸騰水型(BWR)の主な特徴
- 構造の簡素化: 冷却水がそのまま蒸気になる一層構造のため、熱交換器などの巨大な中間設備を必要としません。
- 運転圧力の低さ: 加圧水型に比べてシステム内の圧力が低く(約70気圧)、原子炉容器の壁を薄く設計することが可能です。
- 制御方法: 炉心下部から制御棒を挿入する仕組みや、冷却水の流量調節によって出力を制御する特性を持ちます。

原子炉内で直接水を沸騰させ、生成された蒸気でタービンを回すシンプルな構造が特徴です。蒸気発生器が不要なため部品点数を抑えられ、低圧での運転が可能です。日立GEのBWRX-300もこの技術を継承しています。
加圧水型の特徴は何か
加圧水型(PWR)は、原子炉内で高温・高圧にした水を循環させ、別の系統で蒸気を作る方式です。
加圧水型(PWR)の主な特徴
- 放射性物質の封じ込め: 原子炉を通る「一次系」と、タービンを回す「二次系」が完全に分離されています。蒸気に放射性物質が含まれないため、タービン側のメンテナンスが容易です。
- 高い出力密度: 高圧で水の沸騰を抑えるため効率的に熱を取り出せ、炉心をコンパクトにできます。そのため、スペースが限られる原子力潜水艦や空母にも採用されています。
- 自己制御性: 温度が上がると核分裂が抑制される性質(負の反応度係数)が強く、安定した運転が可能です。

原子炉で熱した水を高圧で沸騰させず、熱交換器を介して別系統で蒸気を作る方式です。タービン側に放射性物質が流れないため保守性が高く、出力密度にも優れます。世界で最も多くの原発で採用されている形式です。
加圧水型の小型モジュール炉の稼働状況はどうか
加圧水型(PWR)の小型モジュール炉(SMR)は、2026年3月現在、中国の「玲龍一号(ACP100)」が世界に先駆けて商用運転直前の最終段階にあります。その他の主要プロジェクトも建設や認可のプロセスが進んでいます。
主要プロジェクトの進捗状況(2026年3月時点)
| プロジェクト名 | 開発国 / 企業 | 現在のステータス | 商用運転予定 |
| 玲龍一号 (ACP100) | 中国 / 中核集団 | 建設の最終段階。主要機器の設置が完了し、2026年内の稼働を目指しています。 | 2026年後半 |
| CAREM | アルゼンチン / CNEA | 建設中。資金難による中断を経て再開。 | 2028年頃 |
| VOYGR | 米国 / ニュースケール | 米国初の設計承認取得済。ルーマニア等で導入計画が進行。 | 2030年頃 |
| AP300 | 米国 / ウェスチングハウス | 英国などで規制当局の設計認証(GDA)審査の最終段階。 | 2030年代初頭 |
| NUWARD | フランス / EDF | 詳細設計段階。欧州諸国への展開に向けた調整中。 | 2030年代前半 |
特筆すべき動向
- 中国の先行: 海南省で建設中の「玲龍一号」は、陸上設置型の多目的SMRとして世界で初めて建設を開始しました。発電だけでなく、地域の暖房や海水の淡水化への利用も計画されています。
- ロシアの浮体式: すでに稼働している「アカデミック・ロモノソフ」はPWR(KLT-40S)を搭載した浮体式原子力発電所であり、極東地域で安定稼働を続けています。
- 三菱重工の取り組み: 日本では三菱重工が加圧水型の技術をベースにしたSMRの開発を進めており、2030年代半ばの実用化を目指して設計の高度化を図っています。

中国の「玲龍一号」が建設最終段階で、2026年内の運転開始を見込む世界最速のプロジェクトとなっています。米国や欧州でも既存のPWR技術を継承したSMRの開発が加速しており、2030年前後の商用化が相次ぐ見通しです。

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