Element3の油田の廃水からのリチウム抽出 どうやって回収を行うのか?

この記事で分かること

  • Element3とは:テキサス州のスタートアップで、石油・ガス採掘の廃水(かん水)からリチウムを抽出する革新企業です。
  • リチウムの回収方法:石油採掘の廃水(かん水)を使い、直接リチウム抽出(DLE)技術を適用します。特殊な吸着剤でリチウムイオンを選択的に分離・回収し、バッテリー原料を製造します。
  • 特殊な吸着剤とは:リチウム選択吸着剤やイオン交換樹脂です。特にリチウムアルミニウム層状複水酸化物(LDH)などが、マグネシウム等を避けリチウムを効率よく捉えます。

Element3の油田の廃水からのリチウム抽出

 スタートアップElement3(エレメント・スリー)が起こそうとしている「米国リチウム革命」は、主に油田の廃水(かん水)からリチウムを抽出する革新的なアプローチに基づいています。

 https://xenospectrum.com/startup-element3-sparks-u-s-lithium-revolution/

 これは、米国が抱えるリチウムの供給不安と、従来の採掘方法が持つ環境問題を同時に解決する可能性を秘めています。

Element3はどんな企業か

 Element3(エレメント・スリー)は、アメリカのリチウムサプライチェーンにおける革新を目指す、クリティカルマテリアル抽出(重要鉱物抽出)のスタートアップ企業です。

 その事業の中核は、石油・ガス採掘の副産物である廃水(かん水)から、バッテリーグレードのリチウムを抽出することです。

企業の主な特徴と目標

項目詳細
設立年・拠点2021年設立。テキサス州フォートワースに拠点を置く。
CEOHood Whitson(フード・ウィトソン)氏が創業者兼CEO。
事業内容油田廃水からの直接リチウム抽出 (DLE)。従来は廃棄物と見なされていた産出水から、リチウムやその他の重要鉱物を回収し、戦略的な国内資源へと転換することを目指しています。
技術的強み米国エネルギー省オークリッジ国立研究所 (ORNL) で開発された7つのリチウム回収技術のライセンスを受けています。既存の石油・ガスインフラを活用することで、迅速で、環境負荷が低く、資本効率の良い生産を目指しています。
資金調達シードラウンドを経て、2025年9月にはシリーズAラウンドの資金調達を完了。この資金で、米国の主要な石油生産地であるパーミアン盆地のインフラに最初の商業抽出プラントを導入する計画です。
目標アメリカのリチウム独立」の実現をミッションとして掲げています。他のリチウムプロジェクトがまだ計画段階にある中、Element3は2025年末までに最初の商業出荷を開始し、米国で商業化を達成する初の新規リチウム抽出企業となることを目指しています。

 Element3は、石油・ガスの既存インフラと廃棄物(廃水)という「非在来型資源」を利用することで、従来の採掘プロジェクトが抱える許認可、環境問題、長期間の開発サイクルといったボトルネックを回避し、米国のエネルギー転換を支えるリチウム供給を迅速に確保しようとしている企業です。

Element3は、テキサス州のスタートアップで、石油・ガス採掘の廃水(かん水)からリチウムを抽出する革新企業です。既存の油田インフラを活用し、環境負荷を抑えつつ、米国のリチウムサプライチェーン独立を目指しています。

どうやってリチウムを回収するのか

 Element3がリチウムを回収する主な方法は、「直接リチウム抽出(Direct Lithium Extraction:DLE)」と呼ばれる技術を用いて、油田の廃水(かん水)からリチウムを選択的に分離・回収することです。

 DLEは、リチウムが溶け込んでいる水溶液から、効率的かつ環境に配慮した方法でリチウムを取り出すための技術群の総称です。


 Element3のシステムは、既存の石油・ガスインフラと連携し、以下のプロセスでリチウムを抽出します。

1. 原料の採取・利用

  • 原料: 石油やガスを採掘する際に、地下深くから一緒に汲み上げられる「産出水(油田廃水)」を利用します。この廃水には、地層との接触によりリチウムイオンが豊富に含まれています。
  • 既存インフラの活用: 新たに掘削するのではなく、既存の油井やパイプラインを利用してこの廃水を回収します。

2. 廃水の処理(前処理)

  • 汲み上げられた廃水は、まずフィルターなどを通して不純物が除去されます。これは、DLEプロセスにおいてリチウム以外のマグネシウム、カルシウム、ホウ素などの不要な金属イオンの影響を最小限に抑えるために重要です。

3. リチウムの抽出(DLE)

  • 前処理された水溶液を、Element3独自のDLE設備に通します。DLEには、主に吸着法イオン交換法などの技術が用いられます。
    • 原理: リチウムイオンだけを非常に高い選択性で吸着または捕捉する特殊な材料(吸着剤やイオン交換樹脂)を使用します。
    • これにより、大量の廃水からリチウムのみが分離され、他の成分は水溶液中に残ります。Element3は、米国オークリッジ国立研究所 (ORNL) が開発したリチウム回収技術のライセンスも活用しており、この高い選択性と効率性が技術的な鍵となります。

4. 精製・濃縮

  • 吸着剤などからリチウムを分離・回収した後、濃縮工程再精製工程を経て、最終的にバッテリー製造に使える高純度の「炭酸リチウム」などの形で製品化されます。

DLE技術の優位性

 Element3が採用するDLE技術は、従来のリチウム採掘方法(特に広大な塩湖で水を蒸発させる方法)と比較して、以下の点で優れています。

  • 回収時間の短縮: 従来の蒸発法が数か月〜数年かかるのに対し、DLEは数日〜数週間でリチウムを回収できます。
  • 環境負荷の低減: 広大な土地(蒸発池)が不要で、貴重な淡水を消費しません。
  • 高回収率: 抽出技術にもよりますが、高い回収率(90%程度)が期待できます。

Element3は、石油採掘の廃水(かん水)を使い、直接リチウム抽出(DLE)技術を適用します。特殊な吸着剤や樹脂でリチウムイオンを選択的に分離・回収し、バッテリー原料を製造します。

なぜこれまでは回収が難しかったのか

 油田廃水(かん水)からのリチウム回収がこれまで難しかった主な理由は、技術的な課題経済的な優先順位にありました。

1. 技術的な課題:不純物の多さと濃度の低さ

 油田廃水は、通常の塩湖かん水と比べてリチウムの回収を非常に困難にする要因を抱えています。

  • 競合するイオンの存在(不純物濃度が高い): 廃水には、リチウム以外にもマグネシウムカルシウムホウ素など、リチウムと化学的性質が似ている他の金属イオンが大量に含まれています。
    • 従来の抽出技術では、これらの不純物からリチウムだけを選択的に、かつ高効率で分離することが非常に困難でした。抽出されたリチウムの純度を上げるための複雑な前処理や精製プロセスが必要になり、コストと時間がかかっていました。
  • リチウム濃度が低い: 油田廃水中のリチウム濃度は、商業的なリチウム鉱床や一部の優良な塩湖に比べて低いケースが多く、従来の技術では経済的に見合う量を回収することが難しかったです。

2. 経済的な優先順位と技術の未熟さ

  • DLE技術の未熟さ: Element3が採用する直接リチウム抽出 (DLE)技術自体が比較的新しく、特に「油田廃水」という非在来型資源での商業的な実績や成功例が乏しかったため、大規模な投資や導入に踏み切るのが困難でした。
  • 主要な供給源の優位性: これまで、世界のリチウム供給は主にオーストラリアの鉱石採掘と南米の巨大な塩湖(蒸発法)という確立されたサプライチェーンによって担われてきました。新しい、かつ複雑な技術を必要とする油田廃水からの回収は、採算性の面で後回しにされてきました。

 Element3のようなスタートアップは、特定の吸着剤や分離膜を用いた革新的なDLE技術を開発・適用することで、これらの技術的ハードルを乗り越え、油田廃水を採算の合う資源へと転換しようとしています。

リチウム以外のマグネシウムやカルシウム等の不純物が多く、従来の技術ではリチウムだけを選択的に分離・抽出するのが困難だったため、経済的に採算が合わず利用されていませんでした。

リチウムイオンだけを選択的に吸着、捕捉する特殊な材料とは何か

 リチウムイオンだけを非常に高い選択性で吸着または捕捉する特殊な材料は、主に直接リチウム抽出(DLE)技術で使用される「リチウム選択吸着剤」「イオン交換樹脂」です。

 これらの材料は、リチウムと化学的性質が似ており、廃水中に大量に存在するマグネシウムカルシウムなどのイオンを避け、リチウムイオンのみをピンポイントで捉えるように設計されています。


主な特殊材料の例と原理

 Element3のような企業が採用するDLE技術の核となる材料には、いくつかの種類があります。

1. リチウム選択吸着剤(Adsorbents)

 これは特定の化合物で構成され、リチウムイオンを物理的または化学的に結合させることで捕捉します。

  • リチウムアルミニウム層状複水酸化物塩化物吸着剤(LDH):
    • 特徴: リチウムアルミニウム層状複水酸化物(Lithium Aluminum Layered Double Hydroxide)をベースとした吸着剤が知られています。これは、リチウムイオンを構造中に取り込むことで選択的に分離します。
    • 利点: 吸着・脱着(溶離)の際に、強酸などの薬品を必要としない純水での溶離が可能な技術もあり、環境負荷が小さいと期待されています。

2. イオン交換体(Ion Exchangers)

 水溶液中のリチウムイオンと、材料内部の別のイオン(通常は水素イオンやナトリウムイオンなど)を入れ替えることでリチウムを捕捉します。

  • 特定のマンガン酸化物やシリカゲルをベースとしたイオン交換体:
    • 特徴: 特殊な構造や化学的性質を利用して、リチウムイオンのサイズや電荷の特性を認識し、他のイオンよりも優先的に結合させます。
    • 技術: セレクティブ(選択的)イオン交換樹脂や、シリカゲルマンガン酸化物などにリチウム選択性を持たせた材料が開発されています。

 これらの特殊材料は、リチウム以外の夾雑物が多く含まれる油田廃水から、純度の高いリチウムを効率よく抽出するための技術的な鍵となっています。

DLE(直接リチウム抽出)で使用されるリチウム選択吸着剤イオン交換樹脂です。特にリチウムアルミニウム層状複水酸化物(LDH)などが、マグネシウム等を避けリチウムを効率よく捉えます。

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