この記事で分かること
- インダクター用磁性封止材とは:電源回路などのインダクターのコイルを包み込む成形材料です。磁性粉を配合し、インダクタンスの向上と磁気シールドの役割を果たし、外部の衝撃や環境からインダクターを保護し信頼性を高めます。
- 曲げ強度を向上させた方法:量子化学計算に基づく反応解析を活用しました。これにより、樹脂と磁性粉の接合に最適なカップリング剤(添加剤)を選定し、界面の接合力を大幅に強化することで曲げ強度を向上させました。
レゾナックの曲げ強度1.4倍のインダクター用磁性封止材
レゾナックが開発した、曲げ強度が従来品と比較して1.4倍(4割)に向上したインダクター用磁性封止材は、スマートフォンやxEV(電動車)などの機器に搭載されるインダクターの信頼性向上に貢献する材料です。
https://www.resonac.com/jp/news/2025/10/15/3639.html
この開発は、インダクターの機能低下を引き起こす衝撃や湿度への耐性を高めることを目的としています。
インダクター用磁性封止材とは何か
インダクター用磁性封止材とは、電源回路などに使われるインダクター(コイル部品)のコイルを、衝撃や環境から保護し、かつ磁気特性を付与するために封止・成形するための材料です。主に樹脂(バインダー)と磁性粉(金属合金粉末など)を配合した成形材料で構成されます。
役割と重要性
1. 物理的保護と信頼性向上
- インダクターのコイルや内部構造を完全に包み込み、外部からの物理的な衝撃、熱、湿度といった環境ストレスから保護します。
- これにより、インダクターの機能低下や故障を防ぎ、スマートフォンや車載機器などの機器全体の信頼性向上に貢献します。
2. 磁気特性の付与
- 封止材に配合されている磁性粉が、インダクターの磁気コアとしての役割を果たします。
- これにより、インダクターのインダクタンス(電流の変化に抵抗する能力)を向上させるとともに、高い電流を流しても磁気飽和しにくい特性を持たせることができます。
- この材料によって、インダクター部品の高インダクタンスと高耐電圧性が実現します。
3. 磁気シールド
- 磁性封止材がコイルを覆うことで、内部で発生する磁束が外部に漏れるのを抑えます(磁気シールド)。
- これにより、隣接する他の電子部品への電磁干渉(EMI)を低減し、高密度に実装された回路基板上の設計を容易にします。
4. 成形プロセス
低圧成形により、コイルの巻き崩れや変形、内部のクラックを予防し、インダクターを高強度な一体構造にすることができます。
巻き線インダクターの場合、この磁性封止材を用いてコイルの周りに低圧で成形(モールド)されます。

電源回路などのインダクターのコイルを包み込む成形材料です。磁性粉を配合し、インダクタンスの向上と磁気シールドの役割を果たし、外部の衝撃や環境からインダクターを保護し信頼性を高めます。
曲げ強度とは何か
曲げ強度(まげきょうど、Flexural Strength)とは、材料が曲げの力(曲げ荷重)に耐えられる最大の応力を示す値です。
これは、材料が永久に変形したり、ひび割れたり、破壊したりする直前の限界の強さを表します。
詳しい説明と測定方法
1. 定義
- 曲げ強度は、部材に曲げの力が加わった際に、材料の内部に生じる最大の抵抗力(応力)です。
- 一般的に、材料の引張強度や圧縮強度とは異なる値を示します。特に脆性材料(セラミックス、コンクリートなど)やプラスチックの強度を評価する重要な指標として用いられます。
- 単位は、応力の単位である MPa(メガパスカル)や N/mm²で表されます。
2. 曲げ試験の仕組み
曲げ強度は、主に曲げ試験(Flexure Test)によって測定されます。最も一般的な方法は以下の通りです。
- 試験片の設置: 試験片(棒状や板状の材料)を2点または4点の支持棒の上に水平に置きます。
- 荷重の印加: 試験片の中央(3点曲げ試験の場合)または2点の中央(4点曲げ試験の場合)に、上から徐々に荷重を加えていきます。
- 応力の発生: 荷重によって試験片は曲げられ、内部で以下のような応力が発生します。
- 荷重側(上側・凹面): 圧縮応力
- 反対側(下側・凸面): 引張応力
- 測定: 試験片にひび割れや破壊が生じた瞬間の最大荷重から、規定の計算式を用いて曲げ強度(最大曲げ応力)を算出します。
3. 曲げ強度の意味
レゾナックの磁性封止材の例では、この強度が向上したことで、インダクターが機器に組み込まれた後も、外部からの衝撃やストレスで破損するリスクが低下し、信頼性が向上します。
「曲げ強度が大きい」ことは、その材料がねじれや曲げ変形に対して強く、破壊されにくい(靭性が高い)ことを示します。
多くの構造部品や電子部品は、使用中に曲げやねじりの力にさらされるため、設計において曲げ強度の値は非常に重要になります。

曲げ強度とは、材料が曲げの力(荷重)に耐えられる最大の応力を示す値です。曲げ試験で、材料がひび割れたり折れたりする直前の抵抗力を測り、構造部品の信頼性や破壊しにくさ(靭性)を評価する指標です。
どのように曲げ強度を高めたのか
レゾナックがインダクター用磁性封止材の曲げ強度を従来比1.4倍に高めた方法は、主に量子化学計算を用いた最適な添加剤(カップリング剤)の選定です。
これは、材料の主要な構成要素である樹脂と磁性粉の「接合界面の強度」を劇的に向上させるためのアプローチです。
曲げ強度を高めた具体的な方法
1. 課題への着目
インダクター用磁性封止材の信頼性課題の一つは、樹脂(コイルを包むバインダー)と磁性粉(磁気特性を担うコア材料)の界面での接合強度が低いことでした。この界面が弱いため、外部からの応力(曲げ荷重)で材料が破壊し、インダクターの機能が低下する問題がありました。
2. 核心技術:最適なカップリング剤の選定
レゾナックは、この課題を解決するためにカップリング剤(添加剤)に着目しました。カップリング剤は、異なる素材である樹脂と磁性粉の間に強力な化学結合を形成させ、密着性を高める役割を果たします。
3. 独自の技術:量子化学計算に基づく反応解析
- 従来の課題: カップリング剤には非常に多くの種類があり、全てを実験で評価するには時間もコストも膨大にかかります。
- レゾナックの手法: 独自技術である最先端の量子化学計算に基づく高度な反応解析を活用しました。
- この解析により、磁性封止材中で「樹脂と磁性粉がどのように接合しているか」というメカニズムを分子レベルで解明しました。
- その結果に基づき、磁性粉のコーティングと樹脂の接合の両方に対して、最も効果を発揮する最適なカップリング剤を探索・選定しました。
4. 結果
この最適化されたカップリング剤を添加した結果、樹脂と磁性粉の界面の接合力が飛躍的に向上し、曲げ強度を従来品の1.4倍(4割)に向上させることに成功しました。これにより、外部応力に対する耐性が高まり、製品の信頼性が大幅に改善されます。
この手法により、従来よりも開発期間を約3分の1に短縮し、効率的な材料開発を実現しました。

レゾナックは、量子化学計算に基づく反応解析を活用しました。これにより、樹脂と磁性粉の接合に最適なカップリング剤(添加剤)を選定し、界面の接合力を大幅に強化することで曲げ強度を向上させました。

コメント