この記事で分かること
利用されている成分:乳酸を原料としたポリ乳酸などが使用されています。
生分解可能な理由:分解されやすいエステル結合を持っていることや分解できる微生物が自然界に存在していることによって、生分解が可能になっています。
従来の成分が分解できない理由:強い炭素–炭素結合を持っており、水と親和性が低く、微生物が働きにくいことなどから分解がとても難しくなっています。
海洋生分解性ストロー
帝人フロンティア株式会社は、環境配慮型製品の一環として「海洋生分解性ストロー」を開発しています。
https://www.nikkan.co.jp/articles/view/00746747?gnr_footer=0081354
このストローは、特に海洋汚染問題に対応するために設計されており、海水中でも微生物の働きによって最終的に二酸化炭素と水に分解される特性を持っています。
使用されている主な素材は、帝人フロンティア独自のポリ乳酸(PLA)系樹脂や、海洋生分解性ポリエステルです。これらの材料は、通常の使用環境では耐久性を保ちつつ、廃棄後は海洋環境下で自然分解が進むように設計されています。
ポリ乳酸系樹脂はなぜ生分解出来るのか
ポリ乳酸(PLA)系樹脂が生分解できる理由は、その化学構造と分解メカニズムにあります。
ポリ乳酸は、乳酸(例えばトウモロコシやサトウキビなどのバイオマスから得られる成分)を原料にして作られるポリエステルの一種です。ポリエステルとは、分子鎖の中にエステル結合(–COO–)を持つ高分子のことです。
このエステル結合は、自然界に存在する微生物(菌や細菌)や酵素によって比較的分解されやすい特徴があります。生分解の流れは、主に次のようになります。
- 加水分解
まず、水分や熱の影響でポリ乳酸のエステル結合が切れ、分子鎖が短くなり、オリゴマーやモノマー(小さい分子)に分かれます。 - 微生物分解
次に、細菌やカビなどの微生物がこれらの小さな分子(乳酸など)を取り込み、代謝によって二酸化炭素(CO₂)と水(H₂O)へと分解します。
特に、温度と湿度が高い環境ではこの分解が速く進みます
ポリ乳酸自体は通常の海水中では分解にやや時間がかかるため、帝人フロンティアのように改良を加えることで、海洋環境でもより速やかに生分解する特別なPLAや共重合体が開発されています。

分解されやすいエステル結合を持っていることや分解できる微生物が自然界に存在していることによって、生分解が可能になっています。
エステルはなぜ結合が切れやすいのか
エステル結合(–COO–)が切れやすい理由は、化学的に比較的不安定な構造を持っているためです。特に、「水」に対して弱い性質があり、加水分解という反応を受けやすいのが特徴です。
- エステル結合は電気的に偏っている
エステル結合は、炭素(C)が酸素(O)とダブルボンド(二重結合)している「カルボニル基(C=O)」を含みます。このカルボニル基は、電子を強く引き寄せる性質(電子求引性)があります。
つまり、炭素原子が電子的に弱くなっていて攻撃されやすい状態になっているのです。 - 水(H₂O)は攻撃者になる
水分子は、酸素が持つ「孤立電子対」により、弱くなったカルボニル炭素を攻撃できます。これによって、エステル結合が切れて、元のカルボン酸とアルコールに分かれる反応(加水分解)が起こります。 - 触媒(酸や塩基)でさらに加速する
自然界には、酸性・塩基性の条件や酵素(エステラーゼなど)が存在します。これらがあると、加水分解はさらに速く進みます。たとえば、酸性の環境では、プロトン(H⁺)がカルボニル酸素に付加して、炭素がもっと攻撃されやすくなります。

エステル結合は、電子的に弱い部分を持っており、水分子や酵素による攻撃を受けやすい構造になっているため、切れやすい性質を持っています。
普通のストローにはどんなプラスチックが使われているのか
一般的なストローには、主に以下のようなプラスチック素材が使われています。
- ポリプロピレン(PP)
→ 最もよく使われている素材です。
特徴:軽くて丈夫、耐熱性があり、比較的安価です。
→ 例えば、コンビニのドリンク用ストローやファストフード店のストローなどに多く使われています。 - ポリエチレン(PE)
→ 特に低密度ポリエチレン(LDPE)が使われることがあります。
特徴:柔らかくてしなやか。耐薬品性にも優れています。
→ ミルクパック用の細いストローなどに使われることが多いです。 - ポリスチレン(PS)
→ あまり一般的ではないですが、一部の硬いストローや、デザイン重視のものに使われることもあります。
特徴:透明性が高く、硬くて割れやすい性質があります。

通常のストローは、ポリプロピレン(PP)を中心として、石油由来のプラスチックが使用されています。これらのプラスチックは、自然環境下ではほとんど分解せず、海洋プラスチック問題の原因にもなっています。
PPやPEはなぜ分解しにくいのか
ポリプロピレン(PP)やポリエチレン(PE)が生分解しにくい理由には以下のようなものがあります。
耐久性が高く、劣化しにくい
- PPやPEは、耐水性、耐薬品性、耐候性に優れています。
- 日光(紫外線)や酸素、熱などによってもなかなか分解が進まず、自然環境下では数百年かかるとも言われています。
化学構造がとても単純で安定している
- PPもPEも、基本的には炭素(C)と水素(H)だけでできた長い炭素鎖(炭化水素鎖)です。
- この炭素–炭素結合(C–C結合)や炭素–水素結合(C–H結合)は非常に強固で、普通の自然界にある酵素や微生物では切断が難しいのです。
極性がない(親水性が低い)
- PPやPEは、分子が非極性(電荷の偏りがない)です。
- これにより、水とほとんどなじまず、微生物や酵素が表面に付着しにくくなります。つまり、微生物が分解を始める「足がかり」すら作りにくいのです。

PPやPEは強い炭素–炭素結合を持っており、水と親和性が低く、微生物が働きにくいことなどから分解がとても難しくなっています。
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