この記事で分かること
- 機械的強度とは:材料や構造物が、外部からの力(引張、圧縮、曲げ、衝撃など)を受けても、破壊や変形を起こさずに耐えうる能力のことです。設計における信頼性と寿命を確保するために重要な特性です。
- 各材料の機械的強度:シリコンとガラスは高剛性で脆く、応力集中で破壊しやすいです。有機材は低剛性で柔軟ですが、CTEが高く、熱による反りや変形が課題となります。
- 機械的強度を決める要因:剛性は主に原子間の結合の強さ(共有結合やイオン結合が強い)で決まり、脆性は、力を加えても原子のズレ(転位)による塑性変形が起きにくい性質で、主に結合の方向性と欠陥の有無に依存します。
2.5次元実装での機械的強度
チップの微細化による性能向上の限界が見え始めていることから、半導体製造において前工程から後工程へと性能向上開発の主戦場が移り始めています。
複数のチップを効率的に組み合わせて性能を引き出す「後工程」の重要性が増しています。
前回は寸法安定性に関する記事でしたが、今回は2.5次元実装の基板に必要な物性である機械的強度に関する記事となります。
2.5次元実装での機械的強度とは
2.5次元(2.5D)実装における機械的強度とは、主にシリコンインターポーザやそれに接続された半導体チップ(ダイ)、そしてそれらが載せられるパッケージ基板といった構造全体が、製造プロセスや使用環境下で受ける物理的なストレスに耐えうる能力を指します。
2.5D実装の構造と課題
2.5D実装は、複数の半導体チップを「インターポーザ」と呼ばれる中継基板の上に高密度に並べ、マイクロバンプで接続する技術です。この複雑な多層構造が、機械的強度に関するいくつかの重要な課題を生じさせます。
- インターポーザの薄型化と脆さ:
- インターポーザは配線長を短くするため薄く作られることが多く、特にシリコン製の場合、曲げや衝撃に対して弱いという性質があります。
- 熱膨張率のミスマッチ:
- インターポーザ(シリコン)と、その下のパッケージ基板(有機材料など)では、熱膨張率(CTE)が大きく異なります。
- このCTEミスマッチにより、温度変化(製造時の熱処理や実際の動作)の際に、材料間に熱応力が発生し、接合部の破壊やクラック(ひび割れ)の原因となります。
- 接続部の信頼性:
- チップとインターポーザ、インターポーザとパッケージ基板をつなぐマイクロバンプやTSV(貫通シリコンビア)などの微細な接続部は、応力集中を受けやすく、疲労破壊や接触不良のリスクがあります。
具体的な機械的強度の評価項目
2.5D実装の機械的強度は、以下のような観点から評価・確保されます。
- 耐熱衝撃性・熱サイクル信頼性:
- 温度を急激に変化させる試験や、高温・低温を繰り返す試験(サーマルサイクル試験)を行い、熱応力による接合部の劣化や破壊への耐性を確認します。これが最も重要な評価項目の一つです。
- 耐落下衝撃性:
- 製品が落下した際の衝撃に耐え、内部の接続が外れたり、チップやインターポーザにクラックが入ったりしないことを確認します。
- 耐反り(Warpage):
- 製造プロセス(特にリフローはんだ付け)や実装後に発生するパッケージの反りが、接続部に過度なストレスを与え、信頼性を損なわないかを評価します。
- 疲労強度:
- 動作中の振動や熱サイクルの繰り返しによる疲労破壊(特にマイクロバンプの接合部)に対する寿命を評価します。
2.5D実装の機械的強度は、熱膨張率の違いに起因する熱応力への耐性と、それに伴う接合部の長期的な信頼性が中心的な課題となります。

機械的強度とは、材料や構造物が、外部からの力(引張、圧縮、曲げ、衝撃など)を受けても、破壊や変形を起こさずに耐えうる能力のことです。設計における信頼性と寿命を確保するために重要な特性です。
シリコン、ガラス、有機材の機械的強度は
半導体実装で用いられる主要な材料である、シリコン、ガラス、有機材の機械的強度について、一般的な傾向をまとめます。
| 材料 | 代表的な材料 | 強度の一般的な傾向 | 主な課題 |
| シリコン | 単結晶シリコン | 非常に高い(硬く、ヤング率が高い) | 脆い(クラックが発生しやすい)、高い熱膨張率 |
| ガラス | ホウケイ酸ガラス、石英ガラス | 高い(シリコンより低いが、有機材よりはるかに高い) | 脆い(傷や応力集中で破壊)、低い熱膨張率 |
| 有機材 | エポキシ樹脂、ポリイミド | 低い(柔らかい、柔軟性がある) | 低いヤング率、高い熱膨張率、吸湿性 |
1. シリコン(Si)
シリコンは、現代の半導体チップの基板として使用される単結晶材料です。
- 機械的強度:
- 硬さ(剛性)が非常に高いです。この剛性は、ヤング率(または縦弾性係数)が非常に高いことによって示されます。
- しかし、延性(ねばり)がなく、力が集中すると脆く破壊します(ぜい性破壊)。
- 実装上の課題:
- 脆性:特に薄いインターポーザやウェーハでは、曲げや衝撃に弱く、クラック(ひび割れ)が発生しやすいです。
- 熱膨張率(CTE):有機パッケージ基板と比べるとCTEが低いため、温度変化による熱応力が、接合部(バンプなど)に集中しやすい問題があります。
2. ガラス
インターポーザやパッケージ基板材料としても注目されているのがガラスです。
- 機械的強度:
- シリコンほどではありませんが、高い剛性を持ちます。
- シリコンと同様に脆性材料であり、表面のわずかな傷が破壊の起点となります。
- 実装上の課題:
- 脆性:シリコンと同様に、加工や取り扱い時に割れやすい性質があります。
- 熱膨張率(CTE):シリコンのCTEに近いため、シリコンインターポーザよりもシリコンチップとの熱応力ミスマッチが少ないという大きな利点があります。
3. 有機材
半導体パッケージの基板(PCB)や封止材(モールド材)などに広く使われる樹脂(プラスチック)材料です。
- 機械的強度:
- シリコンやガラスと比べて剛性が非常に低いです(ヤング率が低い)。これは柔軟性があるとも言えます。
- 引張強度や曲げ強度は低いものの、衝撃を吸収しやすいという利点があります。
- 実装上の課題:
- 低い剛性:熱や湿気によって変形(反りやそり)が発生しやすく、これがチップやバンプの接続信頼性に影響を与えます。
- 高い熱膨張率(CTE):シリコンやガラスよりもCTEがはるかに高いため、温度変化による熱応力が最も大きな課題となります。
これらの材料の特性は、2.5次元実装や3次元実装といった先端パッケージング技術において、信頼性や歩留まりを左右する重要な要素となります。

シリコンとガラスは高剛性で脆く、応力集中で破壊しやすいです。有機材は低剛性で柔軟ですが、CTEが高く、熱による反りや変形が課題となります。
脆性や剛性は物質の何で決まるのか
物質の脆性(ぜいせい)と剛性(ごうせい)は、主にその物質を構成する原子間の結合の強さと、その原子がどのように規則正しく配列されているか(結晶構造や分子構造)によって決まります。
剛性を決める要因:原子間の結合力
剛性(硬さや変形のしにくさ)は、外部から力を加えた際に、原子や分子の配置がどれだけ元に戻ろうとするか、つまり原子間結合の強さに深く関係します。
- 原子間結合の強さ(一次結合):
- 物質を構成する原子同士をつなぎとめている結合の強さが、剛性を決定する最も根本的な要因です。
- 剛性の指標であるヤング率は、原子間の結合がどれだけ伸び縮みに強いかを直接的に示します。
- 共有結合(例:シリコン、ダイヤモンド)やイオン結合(例:セラミックス)は、金属結合や分子間力(例:有機材)に比べて結合が非常に強いため、これらの材料は非常に高い剛性を持ちます。
- 原子配列(結晶構造):
- 剛性は、原子がどの結合角で、どのくらい密に並んでいるかという結晶構造にも依存しますが、結合の強さが最も支配的です。
脆性を決める要因:転位の動きと欠陥
脆性(もろさ)は、力を加えたときに塑性変形(永久的な変形、ねばり)を起こさずに破壊してしまう性質を指します。これは、材料内部で転位(てんい)と呼ばれる原子配列のズレが、どれだけ動きやすいかによって決まります。
- 転位の動きやすさ(塑性変形能力):
- 延性材料(金属など)は、力を受けると原子が滑るようにズレ(転位が動く)て、形を変えながら破壊に抵抗します(粘り強い)。
- 脆性材料(セラミックス、ガラスなど)は、転位の動きが原子結合によって強く制限されているか、構造的に転位が存在しないため、変形できず、力が集中すると一気に結合が断ち切られて破壊します。
- 結晶構造と結合の種類:
- 共有結合やイオン結合を持つ材料は、結合の方向性が強く、原子が大きくズレる(塑性変形)ことを許容しにくいため、脆性を示します。
- 金属結合を持つ材料は、電子が自由で原子が滑りやすいため、延性を示します(例外的に水素脆化などで脆くなる場合もあります)。
- 欠陥の存在:
- 材料中の微細な傷、気泡、不純物などの欠陥は、力の集中点(応力集中)となり、脆性破壊の起点となります。これらの欠陥の数や大きさが、マクロな脆さに大きく影響します。

剛性は主に原子間の結合の強さ(共有結合やイオン結合が強い)で決まり、ヤング率として示されます。脆性は、力を加えても原子のズレ(転位)による塑性変形が起きにくい性質で、主に結合の方向性と欠陥の有無に依存します。

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