東洋紡、大塚化学の分離膜デバイス 分離膜とは何か?どのように分離を行っているのか?

この記事で分かること

  • 分離膜とは:特定の物質だけを選択的に透過させ、他の物質を阻止することで、混合物から目的の物質を分離・精製するための膜状の材料のことです。
  • どのように分離を行っているのか:選別フィルターのような性質をもつ半透膜の働き、拡散と圧力差によるろ過でおきる老廃物の移動によるものです。

東洋紡、大塚化学の分離膜デバイス

 東洋紡は大塚化学と医薬品製造プロセス領域におけるアライアンス契約を締結した、結果として新たな分離膜デバイスを発表しています。

 https://www.gomutimes.co.jp/?p=203989

 医薬品メーカーや研究機関等に向けてサンプル提供を開始しています。

分離膜とは何か

 分離膜(Separation Membrane)とは、特定の物質だけを選択的に透過させ、他の物質を阻止することで、混合物から目的の物質を分離・精製するための薄い膜状の材料のことです。

 フィルターのように、物理的な孔の大きさで物質をふるい分けるだけでなく、膜と物質との間の相互作用(溶解度、拡散速度、電荷など)を利用して分離を行うこともあります。

分離膜の仕組み

分離膜による分離は、主に以下のいずれかの駆動力によって行われます。

  • 圧力差(Pressure Difference): 最も一般的な駆動力です。膜の両側に圧力をかけることで、小さい分子や溶媒(水など)が膜を透過し、大きな分子や粒子が膜に保持されます。
  • 濃度差(Concentration Difference): 膜の両側に濃度差がある場合、高濃度側から低濃度側へ物質が移動します。透析などがこの原理を利用します。
  • 電位差(Electric Potential Difference): イオン交換膜などに用いられます。膜に電圧をかけることで、特定の電荷を持ったイオンのみを選択的に透過させます。

分離膜の種類

 分離する物質のサイズや性質、分離メカニズムによって、様々な種類の分離膜があります。主なものは以下の通りです。

  1. 精密ろ過膜(Microfiltration Membrane: MF膜):
    • 孔径: 0.01 µm~数 µm
    • 分離対象: 懸濁物質、細菌、微粒子、コロイドなど、比較的大きな粒子。
    • 用途: 水処理(濁度除去)、食品の清澄化、精密ろ過、細胞分離など。
  2. 限外ろ過膜(Ultrafiltration Membrane: UF膜):
    • 孔径: 0.001 µm~0.1 µm(分子量数百~数百ダルトン相当)
    • 分離対象: ウイルス、タンパク質、多糖類などの高分子物質、コロイド粒子。
    • 用途: バイオ医薬品の精製・濃縮、牛乳の濃縮、排水処理、電着塗料の回収など。
  3. ナノろ過膜(Nanofiltration Membrane: NF膜):
    • 孔径: 数ナノメートル(2 nm程度、分子量数百ダルトン相当)
    • 分離対象: 二価イオン、低分子有機物、色素など。一価イオンは透過させやすいが、RO膜よりは透過させる。
    • 用途: 飲料水の硬度成分除去、工業用水の軟水化、廃水処理、医薬品の中間体精製など。
  4. 逆浸透膜(Reverse Osmosis Membrane: RO膜):
    • 孔径: 0.1~数ナノメートル(水分子に近いサイズ)
    • 分離対象: 水分子のみを透過させ、ほとんどのイオン(塩類)、低分子有機物を阻止。
    • 用途: 海水淡水化、超純水製造、排水の再利用、医薬品用水製造など。
  5. ガス分離膜(Gas Separation Membrane):
    • 分離対象: 混合ガスから特定のガス成分(酸素、窒素、二酸化炭素など)を選択的に分離。
    • 原理: ガス分子の大きさや膜への溶解度、膜中の拡散速度の差を利用。
    • 用途: 空気からの窒素・酸素富化、二酸化炭素回収、水素分離など。
  6. イオン交換膜(Ion Exchange Membrane: IE膜):
    • 分離対象: 特定の電荷を持ったイオン。
    • 原理: 膜に固定されたイオン交換基が、溶液中の特定イオンと選択的に結合・交換し、膜を透過させる。電位差を駆動力とすることが多い(電気透析)。
    • 用途: 食塩製造(塩水濃縮)、排水中の重金属除去、燃料電池など。

分離膜の素材と形状

  • 素材: ポリマー(有機膜:ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、酢酸セルロース、ポリアミドなど)、セラミックス(無機膜:アルミナ、ジルコニアなど)、金属など。
  • 形状:
    • 平膜(Flat Sheet Membrane): シート状の膜。
    • 中空糸膜(Hollow Fiber Membrane): 細いチューブ状の膜。単位体積あたりの膜面積を大きく取れるため、高効率な処理が可能。
    • スパイラル型(Spiral-Wound Membrane): 平膜を巻き寿司のように巻いた構造。

分離膜の応用分野

分離膜は、その優れた分離・精製能力から、様々な産業分野で活用されています。

  • 水処理: 上水、下水、工業用水の処理、海水淡水化、超純水製造。
  • 医療・ライフサイエンス: 人工腎臓(血液透析)、人工肺、バイオ医薬品の精製、診断薬、再生医療。
  • 食品・飲料: 果汁や乳製品の濃縮・精製、酒類の清澄化、醤油のろ過。
  • 化学・環境: 排水中の有害物質除去、排ガスからのCO2分離、有機溶剤の回収、石油精製。
  • エネルギー: 燃料電池、水素製造。

 分離膜は、省エネルギーで環境負荷の少ない分離技術として、今後も幅広い分野での応用拡大が期待されています。

分離膜は、特定の物質だけを選択的に透過させ、他の物質を阻止することで、混合物から目的の物質を分離・精製するための膜状の材料のことです。

透析ではどのような分離膜が使われるのか

 透析、特に血液透析において使われる分離膜は、一般的に「透析膜」または「ダイアライザー」と呼ばれます。

 これは、腎臓の機能が低下した患者さんの血液から、老廃物(尿素、クレアチニン、尿酸など)、過剰な水分、電解質などを除去し、体液のバランスを整えるための重要な部分です。

 透析膜は、主に以下の2つの原理で血液を浄化します。

  • 拡散 (Diffusion): 血液中の高濃度な老廃物が、膜を介して透析液(低濃度)側へ移動する現象。
  • 限外ろ過 (Ultrafiltration): 膜を挟んだ血液側と透析液側の圧力差によって、水分やそれに溶け込んだ物質が強制的に膜を透過する現象。これにより、体内の過剰な水分を除去します。

 透析膜は、患者さんの生命維持に直結する重要な医療材料であり、各メーカーはより高い安全性、効率性、生体適合性を持つ膜の開発に日々取り組んでいます。

透析膜の素材

 透析膜の素材は、生体適合性、物質透過性、強度などが考慮されて開発されてきました。主に以下の2つのタイプに大別されます。

  1. セルロース系膜
    • 再生セルロース(例:キュプロファン、クプロアファン): 初期から使われている素材で、比較的安価ですが、補体活性化(免疫反応の一つ)が起こりやすいという欠点がありました。
    • 置換セルロース(例:セルローストリアセテートなど): セルロースを化学修飾することで、生体適合性を向上させた膜です。補体活性化を抑え、溶質除去能も改善されています。東洋紡などが製造しているセルローストリアセテート膜は、このタイプです。
  2. 合成高分子膜
    • ポリスルホン (PS)
    • ポリエーテルスルホン (PES)
    • ポリメチルメタクリレート (PMMA)
    • エチレンビニルアルコール (EVAL)
    • ポリアクリロニトリル (PAN) これらの合成高分子膜は、セルロース系膜に比べて生体適合性が高く、様々な特性を持つ膜を設計できる利点があります。特に、アルブミンなどの有用なタンパク質の漏出を抑えつつ、より大きな分子量の老廃物(β2​-ミクログロブリンなど)を除去できる「ハイパフォーマンス膜」や「高効率膜」として広く使用されています。

透析膜の形状

ほとんどの透析膜は、効率的な物質交換を実現するために「中空糸膜」の形状をとっています。

  • 中空糸膜の構造: 数千から数万本のごく細いストロー状の繊維(中空糸)が束ねられ、ケース(ダイアライザーケース)に収められています。
  • 血液の流れ: 患者さんの血液は、中空糸の内側を流れます。
  • 透析液の流れ: 透析液は、中空糸の外側(ケースの中)を流れます。
  • 物質交換: 中空糸の壁が透析膜となり、血液と透析液の間で老廃物や水分、電解質の交換が行われます。

透析膜の性能分類

透析膜は、その性能によっても分類されます。

  • 低流量膜(Low-flux膜): 主に尿素やクレアチニンなどの小分子老廃物の除去に優れています。従来の一般的な膜。
  • 高流量膜(High-flux膜): 小分子老廃物に加えて、β2​-ミクログロブリンなどの比較的分子量の大きい老廃物(中分子量物質)の除去能力が高い膜です。透水性(水分透過性)も高いため、限外ろ過による除水効率も優れています。現在はこちらが主流になりつつあります。

東洋紡と透析膜

 東洋紡は、長年にわたり人工腎臓用の中空糸膜の開発・製造を行っており、特にセルローストリアセテート(CTA)膜のパイオニアとして知られています。

 CTA膜は、再生セルロース膜に比べて生体適合性が高く、補体活性化が少ないという特徴があります。また、目詰まりしにくく、安定した性能を発揮するため、多くの医療機関で採用されています。

透析膜は血液から、老廃物(尿素、クレアチニン、尿酸など)、過剰な水分、電解質などを除去し、体液のバランスを整えています。

なぜ老廃物を除去出来るのか


 透析で老廃物が除去できるのは、主に半透膜物質の移動原理を利用しているからです。

 腎臓の機能が悪くなったときに、人工的にその働きを代替するのが透析ですが、その核心にあるのが「膜」の存在です。

1. 半透膜(透析膜)の役割

 透析に使われる膜は「半透膜」と呼ばれます。これは、特定の物質(主に水や小さな分子)は通すけれど、別の特定の物質(赤血球やタンパク質、ある液中の有用物質)は通さないという、まるで選別フィルターのような性質を持っています。

 この膜には、非常に小さな無数の孔(あな)が開いています。この孔のサイズが、物質を「通す・通さない」の基準になります。

2. 物質の移動原理

 老廃物を除去する主な原理は以下の2つです。

(1) 拡散(Diffusion)

これは、濃度差を利用した原理です。

  • 老廃物の流れ: 患者さんの血液中には、尿素やクレアチニンといった老廃物が溜まっていて、その濃度は非常に高いです。一方、透析装置から送り込まれる透析液は、これらの老廃物が含まれていないか、ごく微量しか含まれていないため、濃度が低い状態です。
  • 膜を介した移動: 濃度が高い方から低い方へ物質が移動する性質(拡散)があるため、血液中の老廃物は半透膜の孔を通って透析液側へと移動していきます。
  • 最終的な平衡: この移動は、両側の濃度が等しくなるまで続きますが、透析液は常に新しいものと入れ替わるため、効率的に老廃物が除去され続けます。

 まるで、香水が部屋全体に広がるように、高濃度の老廃物が低濃度の透析液側に広がっていくイメージです。

 ただし、血液中の必要な成分(赤血球やタンパク質など)は老廃物よりも分子サイズが大きいため、半透膜の孔を通り抜けることができず、血液中に留まります。

(2) 限外ろ過(Ultrafiltration)

 これは、圧力差を利用した原理で、主に体内の過剰な水分を除去するために使われます。

  • 圧力の調整: 透析装置は、半透膜を挟んで血液側と透析液側の間に意図的に圧力差を作り出します。通常、血液側を透析液側よりも高い圧力に設定します。
  • 水分の押し出し: 圧力の高い方から低い方へ、水が押し出されるように移動します。この際、水に溶け込んでいる老廃物の一部も一緒に除去されます。
  • 体液バランスの調整: これにより、腎臓が機能しないために体内に溜まってしまう過剰な水分を安全かつ効率的に除去し、むくみを解消したり、血圧を管理したりすることができます。

 この2つの原理が組み合わさることで、透析は体内の老廃物と過剰な水分を効率的に取り除き、患者さんの生命を維持する重要な役割を果たしています。

 透析膜の性能は日々進化しており、より多くの種類の老廃物を除去し、生体への負担を減らすための研究開発が続けられています。

透析で老廃物が除去できるのは、選別フィルターのような性質をもつ半透膜の働き、拡散と圧力差によるろ過でおきる老廃物の移動によるものです。

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