この記事で分かること
- MEMSマイクロフォンとは:MEMS(微小電気機械システム)技術で製造された超小型マイクロフォンです。半導体技術を用いてシリコン上に音響センサー(振動膜)と信号処理回路(ASIC)を集積し、高い耐久性と低コストを実現します。
- 静電容量が変化する仕組み:音圧により振動膜が動き、固定されたバックプレートとの距離 d が変化します。静電容量C = (ε×S)/d の関係にあるため、d の変化に応じて静電容量 Cが変化し、これを電気信号に変換します。
- 直接接合が必要な理由:微細な振動膜を湿気や汚染から完全に保護(気密封止)し、熱歪みなく高精度な電極間ギャップを維持するため、高性能化と高信頼性に不可欠だからです。
MEMSマイクロフォン
チップの微細化による性能向上の限界が見え始めていることから、半導体製造において前工程から後工程へと性能向上開発の主戦場が移り始めています。複数のチップを効率的に組み合わせて性能を引き出す「後工程」の重要性が増しています。
前回は圧力センサーに関する記事でしたが、今回はMEMSデバイスのMEMSマイクロフォンに関する記事となります。
MEMSマイクロフォンとは何か
MEMSマイクロフォン(メムスマイクロフォン)は、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems:微小電気機械システム)技術を用いて製造された超小型のマイクロフォンです。
これは、半導体の微細加工技術を応用して、音響センサー(MEMSチップ)と信号処理用の集積回路(ASIC)を一つの小さなパッケージに組み込んだ電気音響トランスデューサ(音を電気信号に変換する装置)です。
仕組み (動作原理)
MEMSマイクロフォンの大半は静電容量型の原理で動作します。
- 音波の検出: 音波がマイクロフォンに入ると、シリコン基板上に形成された薄い振動膜(ダイアフラム/メンブレン)が音圧に応じて振動します。
- 容量の変化: この振動膜は、固定されたバックプレート(背面電極)との間でコンデンサを形成しており、振動膜の動きによってこの間の静電容量が変化します。
- 電気信号への変換: パッケージに内蔵されたASIC(特定用途向け集積回路)が、この静電容量の変化を測定し、音の大きさに応じた電気信号(アナログまたはデジタル)に変換します。
主な特徴とメリット
MEMSマイクロフォンは、従来のエレクトレットコンデンサマイクロフォン(ECM)に比べて多くの利点があり、急速に普及しています。
- 小型・軽量: 数ミリメートル程度の非常に小さなサイズと軽量性を実現しています。
- 高信頼性・高耐久性: シリコンを主な材料とするため、耐熱性、耐衝撃性、耐振動性に優れ、リフロー実装(基板への自動はんだ付け)が可能です。
- 低コスト: 半導体製造プロセス(半導体素子の微細加工技術)で大量生産できるため、コスト効率が高いです。
- 高性能: 高いSN比(信号雑音比)や、感度や位相のバラつきが少ない感度整合性に優れています。
- 低消費電力: バッテリー駆動のモバイル機器に適しています。
主な用途
これらの特徴から、MEMSマイクロフォンは小型化・多機能化が進む様々な電子機器に不可欠な部品となっています。
- スマートフォン・タブレット: 携帯電話での通話、動画撮影、音声アシスタントなど。
- ワイヤレスイヤホン・ヘッドホン: ノイズキャンセリング機能、外音取り込み機能、ハンズフリー通話など。
- ウェアラブルデバイス: スマートウォッチ、補聴器など。
- IoTデバイス・スマートスピーカー: 音声ユーザーインターフェース、遠隔での音声認識など。
- 車載アプリケーション: ハンズフリー通話、eCall(緊急通報システム)、ノイズキャンセリングなど。

MEMSマイクロフォンは、MEMS(微小電気機械システム)技術で製造された超小型マイクロフォンです。半導体技術を用いてシリコン上に音響センサー(振動膜)と信号処理回路(ASIC)を集積し、高い耐久性と低コストを実現します。スマホやイヤホンなどに広く使われています。
静電容量が変化する仕組みは
静電容量型のMEMSマイクロフォンや一般的なコンデンサー(キャパシター)の静電容量が変化する仕組みは、主に電極間の距離の変化に基づいています。
静電容量 C は、平行平板コンデンサの場合、以下の式で表されます。
C = (ε×S)/d
ここで、
- C:静電容量 (Capacitance)
- ε:電極間の物質の誘電率(通常は空気や真空)
- S:電極が向かい合っている面積
- d:電極間の距離
静電容量が変化する仕組み
MEMSマイクロフォン(静電容量型)の場合、音を感知するために電極間の距離 d が変化する原理を利用しています。
1. 基本構造
- 電極1:振動膜(ダイアフラム)
- 音圧を受けて振動する、動く電極です。
- 電極2:バックプレート(固定極)
- 固定された電極です。
- 電極間:空気などの誘電体が充填されています。
2. 音圧による変化
- 音波の到達: 外部から音波(音圧)が振動膜に当たります。
- 振動膜の動き: 振動膜は音圧の強弱に応じて振動(たわみ)ます。
- 距離の変化: この振動により、振動膜とバックプレート間の距離 d が変化します。
- 音圧(正圧)が高い時 → 振動膜がバックプレートに近づく → d が減少
- 音圧(負圧)が低い時 → 振動膜がバックプレートから遠ざかる → d が増加
- 静電容量の変化: 上述の公式 C =ε S / d に従って、距離 dが変化することで静電容量 C が変化します。
- d が減少 → C が増加
- d が増加 → C が減少
3. 電気信号への変換
この静電容量 C の変化を、内蔵されたASIC(集積回路)が電圧の変化として読み取り、音の大きさ(音圧)に応じた電気信号に変換します。
その他の変化要因
静電容量型センサー全体では、以下の要因でも静電容量が変化します。
- 面積 S の変化: センサーの電極の向かい合う面積が変化する。(例:ジョイスティックや回転センサー)
- 誘電率 εの変化: 電極間の物質(誘電体)が変わる。(例:液体レベルセンサー、タッチパネルでの指の検出)
MEMSマイクロフォンでは、主に距離 d の変化を利用して音を検出しています。

MEMSマイクロフォンでは、音圧により振動膜が動き、固定されたバックプレートとの距離 d が変化します。静電容量C = (ε×S)/d の関係にあるため、d の変化に応じて静電容量 Cが変化し、これを電気信号に変換します。
静電容量の変化を電気信号に変換する方法は
静電容量型MEMSマイクロフォンにおいて、音圧によって生じた静電容量(C)の変化を電気信号(電圧)に変換する方法は、内蔵されているASIC(特定用途向け集積回路)によって行われます。
主な変換方式としては、チャージアンプ(電荷増幅器)方式や発振回路方式などがありますが、コンデンサーマイクロフォンでは静電容量の変化を電圧の変化として検出する手法が一般的です。
静電容量の変化を電圧に変換する仕組み
静電容量型マイクロフォンでは、コンデンサ(静電容量 C)に一定の直流バイアス電圧を印加し、そこに発生する電荷の変化を利用します。
1. バイアス電圧の印加
まず、振動膜(可動電極)とバックプレート(固定電極)からなるコンデンサに、ASICから一定の直流バイアス電圧 (VB) が印加されます。
これにより、コンデンサには一定の電荷 (Q) が蓄えられます。
Q = C × VB
2. 音圧による電荷・電圧の変化
音波が到来し、コンデンサの静電容量 C が C +ΔC に変化したとき、回路がどのように設計されているかによって、電荷または電圧が変化します。
A. 定電圧駆動(主流の方式)
MEMSマイクロフォンでは、バイアス電圧 VB を一定に保つように設計されることが多いです。
- バイアス電圧 VB を一定に保つ。
- 静電容量 C がΔCだけ変化すると、蓄えられる電荷 Qが ΔQ だけ変化します。 ΔQ = ΔC×VB
- この電荷の変化 (ΔQ ) を、ASIC内のチャージアンプ(電荷増幅器)などの回路で受け取り、信号電圧の変化 (ΔV) に変換して取り出します。
B. 定電荷駆動
理論上、電荷 Q を一定に保つように設計することも可能です。
- 電荷 Q を一定に保つ。
- 静電容量 C が変化すると、コンデンサの端子間電圧 V が変化します。V = Q / C
- 静電容量 C が減少すると電圧 V が上昇し、 C が増加すると電圧 V が下降します。この電圧の変化 (ΔV) が音の電気信号となります。
3. 信号の調整と出力
ASICは、非常に小さな静電容量の変化によって生じた微小な電圧信号を、そのままではノイズに埋もれてしまうため、以下の処理を行います。
- 低ノイズ増幅: 信号を増幅して、ノイズに対する耐性を高めます。
- バッファリング: 信号を安定させ、次の回路へ適切に伝送できるようにします。
- アナログ/デジタル変換:
- アナログ出力型:増幅・バッファリングされた電圧信号をそのまま出力します。
- デジタル出力型:A/Dコンバータでアナログ信号をデジタル信号に変換(例:PDM形式)してから出力します。
このように、MEMSマイクロフォンは、音による距離の変化 → 静電容量の変化を、ASICの回路によって電荷または電圧の変化として効率的に電気信号に変換し、出力しています。

MEMSマイクロフォンでは、音圧による静電容量の変化を、内蔵のASICで検出します。コンデンサに一定の直流バイアス電圧を印加し、静電容量の変化によって生じる電荷の変化を、チャージアンプなどで増幅し、電圧信号として取り出します。
ウエハの直接接合が必要な理由は何か
MEMSマイクロフォンにおいてウェハの直接接合(ダイレクトボンディング)が必要とされる主な理由は、高性能化、信頼性の確保、そして製造コストの効率化という3点に集約されます。
最も重要でMEMS特有の理由は、センシティブな微細構造の保護(パッケージング)です。
1. 微細構造の気密封止(ハーメチックシール)と保護
MEMSマイクロフォンの中核である振動膜やバックプレートといった静電容量の変化を検出する微細な機械構造は、非常にデリケートで環境の変化に敏感です。
- 汚染からの保護: 製造中に発生する微細な粒子や、使用環境の湿気、塵、化学物質などの汚染物質が、マイクロフォンの微小な可動部や電極に入り込むと、性能が劣化したり、動作不良を起こしたりする原因となります。
- 高信頼性の確保: 直接接合(または陽極接合など、高い気密性を持つウェハ接合技術)は、このセンシティブな構造をウェハレベルで完全に気密封止(ハーメチックシール)するために不可欠です。これにより、長期間にわたる高い信頼性を保証できます。
- ウェハレベルパッケージング (WLP): チップ個別に封止するのではなく、ウェハ全体を封止してから個々のチップに分割することで、製造工程の効率化と小型化を実現します。
2. 熱歪み・熱応力の回避と高精度なギャップ維持
MEMSマイクロフォンは、音圧を正確に電気信号に変換するために、振動膜とバックプレート間の微小なギャップ(距離 d)を極めて高い精度で均一に維持する必要があります。
- 熱応力の排除: 従来の接合方法(例:半田、接着剤)のように高温で接合を行うと、シリコン(MEMSチップ)とガラスやASICチップなど、熱膨張率が異なる材料を貼り合わせる際に、冷却時に大きな熱歪みや熱応力が発生します。
- この歪みは、マイクロフォンの感度や周波数特性を決める重要なギャップ d を変化させてしまい、製品の性能低下やバラつき(歩留まりの低下)を引き起こします。
- 常温接合の利点: 直接接合の一種である常温接合などを利用することで、熱を加えることなく室温で母材並みの強度で接合でき、熱歪みの影響を完全に排除し、高精度なデバイス製造を可能にします。
3. 小型化と製造効率の向上
ウェハ直接接合は、ウェハレベルパッケージング(WLP)の実現を可能にします。
- 集積化と小型化: MEMSチップ(センサー部)とASICチップ(信号処理回路)を非常に近接した状態で、あるいは積層して接合することで、従来のパッケージング方法よりもフットプリント(占有面積)と高さが大幅に削減され、最終製品の小型化・薄型化に貢献します。
- 低コスト大量生産: チップ個別にパッケージングするのではなく、ウェハの状態で一括して封止・接合できるため、生産性が向上し、コスト効率の高い大量生産が可能になります。

ウエハの直接接合は、微細な振動膜を湿気や汚染から完全に保護(気密封止)し、熱歪みなく高精度な電極間ギャップを維持するため、高性能化と高信頼性に不可欠だからです。

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