この記事で分かること
- 強力な磁場が必要な理由:核融合反応に必要な1億度以上の超高温プラズマを容器の壁から隔離し、高密度で安定的に閉じ込めるために不可欠です。
- 磁場を発生させる方法:主に超伝導コイルに大電流を流すことで発生させます。電気抵抗がゼロになる超伝導現象を利用し、巨大なコイルに強力な電流を長時間流し続けることで、強大な磁場を作り出しています。
- 超高温の実現方法:プラズマに電流を流すオーム加熱で初期加熱し、その後、高周波加熱や、高速の中性粒子を打ち込む中性粒子ビーム入射加熱を組み合わせて1億度以上に高めます。
核融合発電の磁場と超高温の実現方法
米国の核融合スタートアップ企業であるコモンウェルス・フュージョン・システムズ(CFS)は、2030年代後半に日本で核融合炉の商業運転を開始することを検討しています。
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2025-09-03/T1ZXRVGPL3WO00
これは、日本政府がフュージョンエネルギー発電の「早期実現と産業化」を掲げていることと、日本での核融合研究の蓄積を背景にしたものです。
前回の記事では、核融合発電の概略の解説でしたが、今回の記事は、強烈な磁場が必要な理由とその方法やプラズマに必要な超高温を実現する方法を知ることができます。
なぜ強烈な磁場が必要なのか
強烈な磁場が必要なのは、超高温のプラズマを容器の壁に触れさせずに、高密度で安定的に閉じ込めるためです。
1. プラズマを宙に浮かせる
核融合反応を起こすには、燃料である重水素や三重水素を1億度以上の超高温に加熱してプラズマ状態にする必要があります。これほど高温の物質は、どんな物質でできた容器でも一瞬で溶かしてしまいます。そこで、磁場によってプラズマを宙に浮かせることで、容器の壁に触れさせないようにします。
プラズマは電気を帯びた粒子(イオンと電子)で構成されているため、磁場の中では磁力線に沿って螺旋状に運動する性質があります。この性質を利用して、磁場の”かご”を作り、プラズマを閉じ込めます。
2. 閉じ込めの性能を高める
核融合の出力は、プラズマの温度、密度、そして閉じ込めの時間に大きく左右されます。強い磁場は、プラズマ中の粒子をより強力に磁力線に縛り付け、その運動を抑制します。これにより、プラズマが外部に逃げ出すのを防ぎ、高い密度を長時間維持できるようになります。
簡単に言えば、磁場が強いほどプラズマの閉じ込め性能が向上し、核融合反応が効率よく起こるようになるのです。これが、トカマク型炉などで超伝導コイルを使って強力な磁場を生成する理由です。

強烈な磁場は、核融合反応に必要な1億度以上の超高温プラズマを容器の壁から隔離し、高密度で安定的に閉じ込めるために不可欠です。磁力線がプラズマ中の荷電粒子を強力に縛り付け、効率的に核融合を起こさせます。
どのようにして磁場を発生させるのか
核融合炉で強烈な磁場を発生させるには、主に超伝導コイルを用います。これは、非常に低い温度(絶対零度近く)に冷却すると、電気抵抗がゼロになる「超伝導」という現象を利用したものです。
超伝導コイルの役割
電気抵抗がないため、超伝導コイルに一度電流を流すと、エネルギー損失がほとんどなく、強力な電流を長時間流し続けることができます。これにより、巨大で安定した磁場を発生させることが可能になります。
磁場を発生させるコイルの種類
核融合炉の主流であるトカマク型では、プラズマを安定してドーナツ状に閉じ込めるために、複数の種類のコイルが組み合わされています。
- トロイダル磁場(TF)コイル: プラズマの周りをドーナツ状に囲むように配置され、プラズマをドーナツ状に保つための主要な磁場を生成します。
- ポロイダル磁場(PF)コイル: ドーナツの上下に配置され、プラズマを内側に押し込み、形を制御する磁場を生成します。
- 中心ソレノイド(CS)コイル: ドーナツの中心部にあり、プラズマ自体に電流を誘導し、閉じ込めに必要な磁場を生成します。
これらのコイルに大電流を流すことで、プラズマを理想的な形状と位置に保ち、核融合反応を効率的に行える環境を作り出しています。

核融合炉の磁場は、主に超伝導コイルに大電流を流すことで発生させます。電気抵抗がゼロになる超伝導現象を利用し、巨大なコイルに強力な電流を長時間流し続けることで、プラズマを閉じ込める強大な磁場を作り出しています。
超電導コイルの超低温はどのように実現するのか
超伝導コイルを超低温に冷却するには、主に液体ヘリウムや、極低温冷凍機を用います。これは、超伝導材料の多くが絶対零度(-273℃)に近い温度でしか超伝導状態にならないためです。
液体ヘリウムによる冷却
最も一般的な冷却方法の一つが、液体ヘリウム(LHe)を直接用いる方法です。ヘリウムは、どの物質よりも沸点が低く、-269℃で液体になります。超伝導コイルをこの液体ヘリウムに浸すことで、コイル全体を均一に超伝導状態にまで冷却します。
極低温冷凍機による冷却
もう一つの方法は、液体ヘリウムを使わずに、冷凍機だけで超伝導コイルを冷却する「冷凍機直冷方式」です。この方式は、液体ヘリウムの供給が不要になり、運用が簡素化されるという利点があります。冷凍機がコイルから熱を直接奪い、ヘリウムガスを循環させて冷却します。
どちらの方式も、コイル全体を真空断熱容器(クライオスタット)の中に収めて行われます。この容器は、魔法瓶のように多層構造になっており、外部からの熱の侵入を徹底的に防ぐことで、超低温状態を安定して維持します。

超伝導コイルは、液体ヘリウム(-269℃)に浸したり、極低温冷凍機と組み合わせて冷却することで、電気抵抗がゼロになる超伝導状態を実現します。コイルは、外部からの熱侵入を防ぐ魔法瓶のような真空断熱容器に収納され、超低温を維持します。
超高温はどうやって実現するのか
核融合に必要な1億度以上の超高温を実現するためには、オーム加熱、高周波加熱、中性粒子ビーム入射加熱という3つの加熱方法を組み合わせて使います。
1. オーム加熱
これは、最初の段階でプラズマを加熱する方法です。変圧器の原理を応用し、プラズマ自体を抵抗体として、電流を流すことで発熱させます。身近な例では、電気ストーブやヒーターと同じ原理です。しかし、プラズマの温度が上がると電気抵抗が下がるため、この方法だけでは1億度には届きません。
2. 高周波加熱
電子レンジの原理に似ています。特定の周波数を持つ強力な電磁波(マイクロ波)をプラズマに当てることで、プラズマを構成する電子やイオンと電磁波のエネルギーが共鳴し、プラズマの粒子が効率的に加熱されます。この方法によって、プラズマをさらに高温にすることができます。
3. 中性粒子ビーム入射加熱
これが最も強力な加熱方法です。まず、水素の粒子を高速に加速させ、その後、電荷を持たない中性粒子にします。これを核融合炉内のプラズマに打ち込むと、中性粒子はプラズマ中の粒子と衝突してエネルギーを渡し、プラズマを急激に加熱します。あたかも、超高速の”熱い弾丸”を撃ち込んでプラズマを温めるようなイメージです。
これらの複数の加熱方法を段階的に用いることで、核融合反応に必要な1億度以上の超高温プラズマが作り出されるのです。

核融合の超高温は、主に3つの方法で実現します。まず、プラズマに電流を流すオーム加熱で初期加熱し、その後、電子レンジに似た原理の高周波加熱や、高速の中性粒子を打ち込む中性粒子ビーム入射加熱を組み合わせて1億度以上に高めます。
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