この記事で分かること
- ガスコージェネレーションシステムとは:ガスを燃料に電気と熱(温水・蒸気)を同時に作り、排熱も有効利用する高効率な省エネシステムです。電力安定供給(BCP)やCO2削減に貢献し、多様な施設で導入されています。
- 水素を混ぜるメリット:燃焼時のCO2排出量を大幅に削減できる点です。既存設備を活用しつつ、脱炭素化へ段階的に移行でき、将来のエネルギー多様化にも貢献します。
- 排熱の利用方法:冷暖房(吸収式冷凍機を含む)、給湯、工場のプロセス熱、温室栽培の加温など多岐にわたって利用されます。これにより、総合エネルギー効率を高め、省エネ・CO2削減に貢献します。
MHIETの都市ガスと水素の混焼技術開発
三菱重工エンジン&ターボチャージャ(MHIET)は、高効率なガスコージェネレーションシステムを提供しており、省エネルギー、CO2排出量削減、災害時の電力供給(BCP対応)に貢献しています。
近年は、都市ガスと水素の混焼技術開発にも注力しており、450kW級のシステムでは水素混焼率15%(体積比)まで対応可能な製品を販売開始しています。
https://www.mhi.com/jp/news/25070402.html
同社は今後も水素利用の拡大や分散型電源の普及を推進し、低・脱炭素社会の実現と社会全体のレジリエンス向上に貢献していく方針です。
ガスコージェネレーションシステムとは何か
ガスコージェネレーションシステム(Gas Cogeneration System: Gas CGS)とは、「コージェネレーションシステム」の一種で、ガスを燃料として、電気と熱(温水や蒸気)を同時に作り出して利用するシステムのことです。
「コージェネレーション」は「熱電併給」とも呼ばれ、「一つのエネルギー源から複数の種類のエネルギーを同時に取り出す」 という意味を持ちます。
仕組み
- 発電: 都市ガスなどのガス燃料を使い、ガスエンジン、ガスタービン、または燃料電池によって発電します。
- 排熱回収・利用: 発電時に発生する高温の排熱は、従来の発電システムでは捨てられていましたが、コージェネレーションシステムではこの排熱を回収し、温水や蒸気として利用します。
- 温水: 給湯や空調(冷暖房)に利用されます。
- 蒸気: 工場での生産プロセスや冷暖房などに利用されます。
このように、電気と熱を効率的に利用することで、燃料が持つエネルギーを最大限に活用します。
種類
ガスコージェネレーションシステムには、主に以下の3種類があります。
- ガスエンジン方式: 発電効率が高く、安定した出力が得られます。排熱から温水や蒸気を効率的に回収できます。比較的小規模なものから大規模なものまで幅広く利用されます。
- ガスタービン方式: 小型・軽量でありながら大出力を取り出せます。排熱回収効率が高く、多くの蒸気を必要とする施設に適しています。
- 燃料電池方式(例:エネファーム): 都市ガスから取り出した水素と空気中の酸素を電気化学反応させて電気を作ります。ガスエンジンやガスタービンよりも高い発電効率が実現でき、発電時にほとんど騒音が発生しないため、家庭用(エネファームなど)としても普及が進んでいます。
メリット
ガスコージェネレーションシステムの導入には、以下のような多くのメリットがあります。
- 高いエネルギー効率(省エネ): 従来、発電所で電気を作り、熱は別途ボイラーなどで作る場合、それぞれの過程でエネルギーロスが発生します。しかし、コージェネレーションシステムでは電気と熱を同時に作り、排熱も有効活用するため、燃料が持つエネルギーの約75~80%程度を有効利用できます(従来の発電のみの効率は約40%程度)。これにより、大幅な省エネルギー化が図れます。
- CO2排出量の削減: エネルギー利用効率が高まることで、同じエネルギー量を得るのに必要な燃料が減り、それに伴いCO2排出量も削減されます。また、クリーンな都市ガスを燃料とすることで、環境負荷が低いという利点もあります。
- 電力の安定供給(BCP対策): 電力を使用する場所で発電するため、送電ロスが少なく、電力供給の安定性が向上します。また、停電時にも自立運転が可能で、都市ガスが供給されている限り、重要な設備に電力を供給し続けることができるため、事業継続計画(BCP)の観点からも非常に有効です。
- 電力料金の削減: 需要家で発電することで、電力会社からの買電量を減らすことができ、電気料金の削減につながります。特に、電力需要のピーク時に発電量を増やすことで、ピークカット効果も期待できます。
- 省スペース: 近年では、システム全体のパッケージがコンパクト化され、設置スペースの制約がある場所でも導入しやすくなっています。
デメリット
一方で、デメリットも存在します。
- 初期投資が高い: システムの導入には、発電機本体だけでなく、熱回収装置や関連設備の設置費用など、高額な初期投資が必要です。
- メンテナンス費用がかかる: 安定稼働のためには定期的な点検やメンテナンスが必要であり、その費用が発生します。
- 燃料価格の変動リスク: ガスを燃料とするため、ガスの市場価格の変動が運用コストに影響を与える可能性があります。
- 熱需要の有無: 熱を有効活用できる施設でなければ、コージェネレーションシステムのメリットを最大限に活かすことができません。工場、病院、商業施設、ホテルなど、電気と熱の両方を多く消費する施設が導入に適しています。
- 関連法規: 設置には消防法など、各種法規への対応が必要となる場合があります。
これらのメリット・デメリットを考慮し、施設のエネルギー需要や運用状況に合わせて、最適なシステムの選定と導入が重要となります。

ガスコージェネレーションシステムは、ガスを燃料に電気と熱(温水・蒸気)を同時に作り、排熱も有効利用する高効率な省エネシステムです。電力安定供給(BCP)やCO2削減に貢献し、多様な施設で導入されています。
水素を混ぜることの利点は
ガスコージェネレーションシステムにおいて、燃料に水素を混ぜる「水素混焼」には、主に以下の利点があります。
CO2排出量の大幅な削減
- 水素は燃焼しても二酸化炭素(CO2)を排出しないクリーンな燃料です。都市ガスに水素を混ぜて燃焼させることで、燃料中の炭素成分が減り、結果としてCO2排出量を大幅に削減できます。これは、地球温暖化対策として非常に重要なメリットです。
- 将来的に水素の混焼率を上げていくことで、さらなるCO2排出量削減、最終的には水素専焼によるCO2フリーな発電を目指すことが可能です。
既存設備の活用によるスムーズな移行
- 水素混焼技術は、既存のガスコージェネレーションシステム(ガスエンジンやガスタービン)をベースに改良することで導入が可能です。これにより、大規模な設備投資をせずに、段階的に脱炭素化を進めることができます。
- 「水素レディ」と呼ばれる、将来の水素混焼への改修を容易にするパッケージも提供されており、初期導入時は都市ガス専焼で運用し、将来的に水素供給インフラが整った際に水素混焼へ移行するといった柔軟な対応が可能です。
エネルギーの多様化と安定供給への貢献
- 水素は製造方法が多様であり、再生可能エネルギー由来の「グリーン水素」や、CO2を回収・貯留しながら製造する「ブルー水素」など、様々な方法で供給源を確保できる可能性があります。
- 燃料の多様化は、エネルギーセキュリティの向上に寄与し、特定の燃料に依存するリスクを低減します。
高い調整能力とBCP対応
- 水素混焼システムは、都市ガス専焼時と同様に、負荷変動に応じた高い調整力を持ちます。
- 停電時にも都市ガスを用いてスムーズに運転を開始できる機能を持つ製品もあり、BCP(事業継続計画)対応能力を維持できます。
課題と今後の展望
一方で、水素混焼には以下のような技術的課題も存在します。
- 燃焼特性の違い: 水素は都市ガスに比べて着火性が高く、燃焼速度が速いといった特性があります。このため、異常燃焼の抑制や、燃焼時のNOx(窒素酸化物)発生の抑制など、高度な燃焼制御技術が求められます。
- 供給インフラの整備: 大量の水素を安定的に供給するためのインフラ(製造、輸送、貯蔵)の整備が不可欠です。
しかし、これらの課題を克服するための技術開発が精力的に進められています。将来的には、ガスコージェネレーションシステムにおける水素利用の割合が増加し、より環境負荷の低いエネルギー供給システムとして、脱炭素社会の実現に大きく貢献することが期待されています。

水素混焼の最大のメリットは、燃焼時のCO2排出量を大幅に削減できる点です。既存設備を活用しつつ、脱炭素化へ段階的に移行でき、将来のエネルギー多様化にも貢献します。
排熱はどのように利用されるのか
ガスコージェネレーションシステムで発生する排熱は、その温度レベルや形態(高温排ガス、温水、蒸気など)に応じて、非常に多様な形で利用されます。これがコージェネレーションシステム最大の特長であり、省エネ効果を生み出すカギとなります。
主な利用方法は以下の通りです。
- 冷暖房・空調
- 冷房: 排熱を熱源として利用する「吸収式冷凍機(吸収式冷温水機)」を稼働させ、冷水を作り出して冷房に利用します。これにより、電気式の冷凍機を動かす電力を削減できます。
- 暖房: 排熱で得られた温水や蒸気を、直接暖房用の熱源として利用します。
- 給湯
- オフィスビル、ホテル、病院、商業施設、集合住宅などで、給湯用の温水として利用されます。
- 産業プロセス熱
- 工場やプラントにおいて、生産ラインに必要な蒸気や温水として利用されます。例えば、食品工場での殺菌、化学工場での反応熱、染色工場での乾燥など、幅広い用途で活用されます。
- 温水プール・温室栽培・養殖
- 温水プールや温泉施設での加温。
- 農業分野では、温室やハウス栽培の加温に利用され、作物の生育環境を最適に保ちます。
- 養殖業では、水温管理に利用されることがあります。
- 地域冷暖房
- 大規模なコージェネレーションシステムでは、複数の建物や地域全体に電気と熱(温水・蒸気・冷水)を供給する「地域冷暖房システム」の熱源として利用されます。
- その他
- 排熱を利用して乾燥機を動かす、特定のプロセスに必要な熱源とするなど、施設の特性に応じた様々な利用方法があります。
排熱利用の具体的なイメージ
- ガスエンジン方式: エンジンからの排ガス熱とジャケット冷却水熱(エンジン本体の冷却水)の両方を回収します。排ガスからは高温の蒸気や温水、ジャケット水からは比較的温度の低い温水が得られます。これらを組み合わせて冷暖房や給湯、産業用熱源に利用します。
- ガスタービン方式: 高温の排ガスを排熱ボイラーに通し、高温・高圧の蒸気を大量に生成できます。これは主に大規模な産業用途や地域冷暖房に適しています。
このように、ガスコージェネレーションシステムは、発電時に発生する「排熱」を「有効なエネルギー」として徹底的に利用することで、総合エネルギー効率を飛躍的に向上させ、省エネ、CO2削減、コスト削減といった多大なメリットを生み出します。

ガスコージェネレーションシステムの排熱は、冷暖房(吸収式冷凍機を含む)、給湯、工場のプロセス熱、温室栽培の加温など多岐にわたって利用されます。これにより、総合エネルギー効率を高め、省エネ・CO2削減に貢献します。
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