この記事で分かること
- 撤退の理由:中国政府が2023年に「サイバーセキュリティ上のリスク」を理由に重要インフラでのマイクロン製品の調達を禁止し、サーバー向け事業の回復が見込めなくなったためです。
- マイクロン製品を禁止した理由:中国は、マイクロン製品が「深刻なサイバーセキュリティ上の問題」を有し、「重要情報インフラのサプライチェーンに重大なリスク」をもたらすとし、国家安全保障上の理由から調達を禁止しました。
- 中国の調達先の変化:主に韓国のSamsungやSK HynixからDRAMを調達します。同時に、国内メーカー(CXMTなど)による国産化を加速させ、技術自給率を高める予定です。
マイクロンの中国のデータセンター向けサーバー用半導体事業撤退
米半導体大手マイクロン・テクノロジーが、中国のデータセンター向けサーバー用半導体(メモリ)事業から撤退する方針であると報じられています。
https://jp.reuters.com/economy/industry/Q3PU5HX7ZJIONBGXPFWUKRB6CU-2025-10-17/
この撤退の主な背景には、2023年5月に中国政府(国家インターネット情報弁公室)が重要情報インフラ運営者に対し、マイクロンの製品の調達を停止するよう求めた決定があります。
撤退の理由は何か
米マイクロンが中国のサーバー向け半導体事業から撤退する最大の理由は、2023年に中国政府が同社製品に対して発動した事実上の調達禁止措置によるものです。
この措置の結果、中国のデータセンター向け市場での事業回復が見込めなくなったため、戦略的な撤退を決定しました。
撤退の主な理由
- 中国政府による「サイバーセキュリティ審査不合格」と調達禁止措置
- 2023年5月、中国の国家インターネット情報弁公室(CAC)は、マイクロンの製品がサイバーセキュリティ審査を通過できず、「中国の重要情報インフラのサプライチェーンに重大なセキュリティリスクをもたらす」と発表しました。
- これにより、中国の通信、金融、交通などの重要インフラを運営する企業は、マイクロンの製品の調達を停止するよう求められ、同社の主要な市場アクセスが事実上遮断されました。
- 米中間の技術・地政学的対立
- この中国政府の措置は、米国が中国の半導体産業の発展を抑制するために講じた輸出規制(特にAI・ハイテク分野)に対する報復であると広く見なされています。
- 地政学的な緊張の高まりにより、マイクロンは中国のデータセンター市場で事業を継続することが困難になり、回復の望みがないと判断しました。
- 市場の収益性の喪失
- 中国市場は、マイクロンにとって前会計年度の総収益の約12%を占める重要な市場でした。
- 禁止措置により、世界第2位の規模を持つ中国のデータセンター市場の成長(AI投資による急速な拡大)から締め出され、この分野での収益源が大きく失われたため、撤退の判断に至りました。
- 撤退は、ビジネス上の理由(収益機会の喪失)と地政学的な理由(中国政府による規制と米中対立)が組み合わさった結果です。

中国政府が2023年に「サイバーセキュリティ上のリスク」を理由に重要インフラでのマイクロン製品の調達を禁止し、サーバー向け事業の回復が見込めなくなったためです。米中対立の影響が直撃しました。
中国はサーバーチップをどこから調達する予定なのか
マイクロンが撤退した後、中国のデータセンター向けサーバーチップ(DRAMメモリ)の主要な調達先となるのは、主に以下の企業です。
1. 韓国の主要メモリメーカー
サーバー向けDRAM市場で圧倒的なシェアを持つ韓国のメーカーが、マイクロンの空白を埋める最大の供給源となります。
- Samsung Electronics (サムスン電子)
- SK Hynix (SKハイニックス)
これらの企業は、マイクロンに対する中国政府の禁止措置後、すでに中国市場でのシェアを拡大していると報じられています。
2. 中国国内のメーカー(国産化の推進)
中国政府は半導体の自給自足を強く推進しており、サーバーメモリについても国産化を加速させる見込みです。
- ChangXin Memory Technologies (長鑫存儲技術, CXMT): 中国国内で最も先進的なDRAMメーカーであり、国産サーバー用DRAMの開発と生産を担う中心的な存在です。
3. 台湾などのメーカー
その他のアジア地域のメーカーも、中国市場での供給に関与する可能性があります。
- Nanya Technology (南亜科技) (台湾)
マイクロン撤退は、米中間の技術対立が深まる中、中国が国産化を加速させるとともに、地政学的リスクの低い韓国メーカーへの依存度を高める結果につながっています。

マイクロン撤退後、中国は主に韓国のSamsungやSK HynixからDRAMを調達します。同時に、国内メーカー(CXMTなど)による国産化を加速させ、技術自給率を高める予定です。
データセンター向けサーバーチップの有力メーカーのシェアは
データセンター向けサーバーチップの市場シェアは、特にDRAM(ダイナミック・ランダム・アクセス・メモリ)において、少数の大手企業による寡占状態が続いています。サーバー用DRAMは、主に以下のトップ3社が市場の大部分を占めています。
順位 | メーカー名 | 国 | サーバーDRAMを含むDRAM全体のシェア(参考) |
1位 | Samsung Electronics | 韓国 | 40%台前半 |
2位 | SK Hynix | 韓国 | 30%台前半 |
3位 | Micron Technology | 米国 | 20%台前半 |
ポイント
- 「Big 3」による寡占: サーバー用DRAMは、技術的な難易度が高く、品質と信頼性が極めて重要であるため、韓国の2社と米国の1社(Micron)が市場を支配しています。
- Micronの役割: マイクロンは長らくこのトップグループの一角を占めていましたが、今回の中国市場からの撤退は、中国国内における同社のシェアをライバルである韓国勢や、中国国内メーカー(CXMT)に譲り渡すことになります。
- HBM(高帯域幅メモリ)市場: 最近では、AIサーバーの需要急増により、高性能なHBM(サーバーDRAMの一種)の市場が急拡大しています。このHBM分野でも、SK HynixとSamsung Electronicsが特に高いシェアを持ち、激しい競争を繰り広げています。

サーバーDRAMは韓国のSamsung(1位)、SK Hynix(2位)、米国のMicron(3位)の3社による寡占で、市場の9割以上を占めます。特にAI向けHBMでは韓国勢が有力です。
中国のマイクロン以外のアメリカ半導体製造企業への対応は
マイクロンに対する調達禁止措置は特定の製品を狙った直接的な報復措置でしたが、中国は他のアメリカ半導体製造企業に対しても、国内での規制調査や、将来的な調達停止を示唆する動きを見せています。
主要な対応は、アメリカ側によるAIチップなどの輸出規制強化への「対抗」と「国産化の加速」を軸としています。
1. NVIDIA、IntelなどAIチップメーカーへの対応
高性能なAIチップ(GPUなど)の分野で優位性を持つNVIDIAやIntelに対しては、米国の輸出規制をきっかけに、中国国内での締め付けを強める動きが報じられています。
- 独占禁止法違反の調査・示唆: NVIDIAが中国国内で独占禁止法に違反している疑いがあるとして、中国当局が調査を開始または示唆する動きが見られました。
- AIチップの国内調達禁止(報道): NVIDIAの高性能AIチップ(H20など)について、中国政府が国内企業に対し調達を全面的に禁止する意向を示したと報じられました。これは、中国が国産AIチップで代替可能と判断したことを示唆しており、国産化への強い意志の表れです。
- 規制ルールの厳格化: 米国がNVIDIAやIntelに対して、中国への輸出が可能なAIチップの性能基準を厳しくする新たな規制を導入した結果、中国政府もそれに対応する形で国内規制を調整し、国産製品への移行を促しています。
2. 対抗措置の動きと国産化の推進
マイクロン製品の禁止措置は、米国の輸出規制に対する最初の明確な報復でしたが、中国はより広範な対抗措置も導入しています。
- 重要鉱物資源の輸出管理強化: 中国は半導体製造に不可欠なガリウムやゲルマニウムなどの重要鉱物資源について、輸出管理を強化する報復措置を実施しました。これは、アメリカや同盟国の半導体サプライチェーンに圧力をかける狙いがあります。
- 「信頼できないエンティティリスト」の活用: 米国が中国企業をエンティティ・リスト(禁輸リスト)に追加するのに対抗し、中国も「信頼できないエンティティリスト」を設け、中国企業に対し「差別的措置」をとる外国企業を制裁対象とする可能性を示唆しています。
- 国産代替への移行: マイクロン、NVIDIAといった主要な米国企業の製品が調達困難になることで、中国はChangXin Memory Technologies (CXMT)など、国内メーカーによるメモリやAIチップの開発・生産を加速させています。

、中国の対応は、「米国の規制に対抗し、米国企業の市場アクセスを制限する」とともに、「国内の技術自立とサプライチェーンの強化を加速させる」という二つの戦略に基づいています。
コメント