この記事で分かること
- PSMCの特徴:世界で唯一、ロジックとメモリの両方を製造可能な体制が強みです。28nm以上の成熟プロセスに注力し、車載用や電源管理ICを供給しています。近年はAI向け特殊技術への転換を進めています。
- マイクロンが買収する理由:DRAMの需要増加に応えるため、新工場を建てるより、既存のクリーンルームを備えたPSMCの工場を取得する方が早く増産できるためです
- DRAM需要増加の理由:AI専用メモリ(HBM)に生産能力が奪われ、汎用品の供給が激減していることが主因です。一方で、AI PCやスマホの普及により端末1台あたりの必要メモリ量が増大しており、「供給減と需要増」のダブルパンチで需給が逼迫しています。
マイクロンによるPSMCの工場買収
マイクロンは、台湾の受託製造大手である力積電(PSMC)から、苗栗県銅鑼(どうら)にある「P5工場」を取得することで合意しました。
https://www.bloomberg.com/jp/news/articles/2026-01-19/T930SSKK3NYB00?srnd=jp-technology
今回の買収は、AIブームに伴う世界的なメモリ需要(特にHBMやDRAM)の急増に対応するための「時間を買う」戦略と見られています。
PSMCはどんな企業か
PSMC(力積電:りきしょうでん)は、台湾を拠点とする世界第10位前後の規模を持つ半導体受託製造(ファウンドリ)企業です。
最大手のTSMCのような最先端(数ナノメートル)の競争よりも、家電や自動車、AIの補助的な役割を担う「成熟プロセス」や「メモリ」に強みを持っているのが大きな特徴です。
PSMCの4つの大きな特徴
- 「ロジック」と「メモリ」の両方を製造できる唯一の企業通常、半導体メーカーは演算を行う「ロジック(計算)」か、記憶を行う「メモリ」のどちらかに特化しますが、PSMCはその両方の製造ラインをファウンドリ(受託)として提供できる極めて珍しい企業です。
- 成熟プロセスのスペシャリスト28nm(ナノメートル)以上の比較的世代の古い(=成熟した)技術を用いて、安価で高品質な半導体を大量生産するビジネスモデルを得意としています。これらは電源管理IC(PMIC)や、車載半導体、ディスプレイ駆動用ICなどに欠かせません。
- 「オープン・ファウンドリ」戦略顧客企業のニーズに合わせて、製造ラインの一部を貸し出したり、共同開発したりする柔軟なサービスを展開しています。
- SBIとの日本工場計画を白紙化した過去日本でも一時期有名になったのは、SBIホールディングスと共同で宮城県に半導体工場を建設する計画があったためです。しかし、2024年に業績不振や戦略の見直しを理由にPSMC側がこの提携を解消し、計画は白紙(SBI側が新たなパートナーを探す形)となりました。
基本データ
| 項目 | 内容 |
| 正式名称 | 力晶積成電子製造(Powerchip Semiconductor Manufacturing Corp.) |
| 設立 | 1994年(前身の力晶半導体を含む) |
| 本社 | 台湾 新竹市 |
| 主な製品 | DRAM、フラッシュメモリ、ロジックIC、パワー半導体(MOSFET/IGBT) |
| 主な顧客 | 世界中のファブレス企業(設計専門企業) |
直近の動き:なぜマイクロンに工場を売ったのか?
2026年1月に発表されたマイクロンへの工場売却(苗栗県・銅鑼P5工場)には、PSMCの戦略転換が背景にあります。
- 財務体質の強化: 高額で工場を売却し、現金を確保する。
- 高付加価値への集中: 汎用的な生産ラインを減らす代わりに、AIサーバー向けなどの利益率が高い特殊な半導体や、次世代の3D積層技術などに投資を集中させる狙いです。
いわば、「量(工場の多さ)」から「質(先端・特殊技術)」へとシフトしようとしている最中と言えます。

台湾の半導体受託製造(ファウンドリ)大手。世界で唯一、ロジックとメモリの両方を製造可能な体制が強みです。28nm以上の成熟プロセスに注力し、車載用や電源管理ICを供給。近年はAI向け特殊技術への転換を進めています。
マイクロンが買収する理由は何か
マイクロンがPSMCの工場を買収する最大の理由は、「AIブームによるメモリ不足に対応するため、時間を金で買う」という戦略です。この買収には、主に以下の4つの狙いがあります。
1. 「時間」の節約(スピード重視)
半導体工場をゼロから建設(グリーンフィールド投資)する場合、稼働までに3〜5年はかかります。
しかし、すでにクリーンルームなどの設備が整っている既存の「箱(P5工場)」を買収することで、圧倒的に早く増産体制を整えることができます。2027年後半には、すでにDRAMの本格生産を開始する計画です。
2. AI向け高付加価値メモリ(HBM)への注力
現在、生成AIの影響で「HBM(高帯域幅メモリ)」という特殊なメモリが世界的に不足しています。
- 新工場: 汎用的なDRAMの生産を分担。
- 既存の最先端工場: そこで空いたリソースを、より利益率の高いHBMの増産に振り向ける。この「玉突き」のような生産体制の最適化が狙いです。
3. 地理的な相乗効果(シナジー)
買収したP5工場は、マイクロンの台湾における主力拠点である「台中工場」に非常に近い場所にあります。
- 物流コストの削減
- エンジニアやスタッフの柔軟な配置
- 管理体制の統合といった、近接しているからこそ得られる運営の効率化を期待しています。
4. コスト効率の良さ
マイクロンは米国(ニューヨーク州など)で1,000億ドル規模の巨大な工場建設を進めていますが、これには莫大な時間と資金がかかります。一方で、今回の買収額は18億ドルで、「比較的少額で、即戦力の拠点が手に入る」という、極めて効率の良い投資であると判断されました。
「AI市場の爆発的な需要を逃さないために、新築するのを待たず、近場の既存工場を買い取って、一気に勝負をかける」という攻めの姿勢が、今回の買収の理由です。

AI向けメモリ需要の急増に応えるため、「時間を買う」ことが最大の理由です。新工場を建てるより、既存のクリーンルームを備えたPSMCの工場を取得する方が早く増産でき、2027年後半からの稼働を見込めます。
汎用DRAMの需要が増えている理由は何か
汎用DRAM(DDR4やDDR5など、一般的なPCやスマホに使われるメモリ)の需要が増えている、というよりも正確には「供給が足りなくなり、相対的に希少価値が急騰している」という状況にあります。
1. AI向けメモリ(HBM)による「生産ラインの占拠」
これが最大の理由です。現在、AIサーバーに不可欠な超高性能メモリ「HBM」の需要が爆発しています。
- 生産効率の悪さ: HBMは通常のDRAMの約3倍のウエハ面積を消費します。
- 供給の玉突き: 各メーカーが利益率の高いHBMの生産を優先した結果、これまで作っていた汎用DRAMの生産枠が削られ、世界的に品薄になっています。
2. 「AI PC」や「AIスマホ」の普及
2026年には、デバイス上でAIを動かす「AI PC」がノートPC出荷の約55%を占めると予測されています。
- メモリ容量の倍増: AIをスムーズに動かすには、従来のPC(8GB〜16GB)よりも多くのメモリ(32GB以上)が必要です。
- これにより、一台あたりのメモリ搭載量が増え、汎用DRAMの総需要を押し上げています。
3. データセンター側の「標準メモリ」需要
AI学習にはHBMが必要ですが、それを支えるサーバー本体の動作や、一般的なクラウドサービス、ストレージの制御には依然として大量のDDR5(最新の汎用DRAM)が必要です。AIインフラ全体の拡大が、結果として汎用モデルの需要も引き連れている状態です。

AI専用メモリ(HBM)に生産能力が奪われ、汎用品の供給が激減していることが主因です。一方で、AI PCやスマホの普及により端末1台あたりの必要メモリ量が増大しており、「供給減と需要増」のダブルパンチで需給が逼迫しています。

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