太陽工業の防カビ輸送バッグ なぜカビを防止できるのか?どんな物質が使用されるのか?

この記事で分かること

  • カビの防止法:カビの細胞膜や細胞壁を破壊したり、増殖に必要な酵素の働きを阻害したりすることで、カビの生育を妨げます。
  • 使用される物質:安全性が確認された金属イオン系(銀イオンなど)や有機系の薬剤が用いられます。

太陽工業の防カビ輸送バッグ

 太陽工業は、食品向けの防カビ輸送バッグとして「防カビEVAタイコン」を開発し、2025年6月から本格的に販売・レンタルを開始しています。

 https://www.nikkan.co.jp/articles/view/00753771

 同社は長年培ってきたフレキシブルコンテナバッグの技術と、今回の防カビ技術を組み合わせることで、食品物流の安全性と効率性、そして環境負荷低減に貢献することを目指しています。

どのようにカビを防いでいるのか

 太陽工業の「防カビEVAタイコン」がカビを防ぐ主な方法は、EVA(エチレン酢酸ビニル)素材に防カビ剤を練り込んでいる点にあります。

 一般的なフレキシブルコンテナバッグはポリプロピレン(PP)製が多く、食材の残渣が付着しやすい構造のため、カビが発生しやすいという課題がありました。

 「防カビEVAタイコン」では、以下の仕組みでカビの発生を抑制します。

  • 防カビ剤の練り込み: バッグの素材であるEVA樹脂を製造する段階で、カビの増殖を抑制する効果を持つ特殊な防カビ剤を均一に混ぜ込んでいます。これにより、バッグ全体に防カビ性能が行き渡り、表面だけでなく素材内部からもカビの発生を防ぎます。
  • 効果の持続性: 防カビ剤が素材に練り込まれているため、洗浄を繰り返してもその効果が失われにくいのが大きな特徴です。太陽工業のテストでは、10年分の洗浄に相当する700分以上の洗浄後も防カビ効果が維持されることが確認されています。これは、表面にコーティングするタイプとは異なり、長期的な効果が期待できることを意味します。
  • 食品衛生法に適合した安全性: 食品に直接触れる可能性があるため、使用されている防カビ剤やEVA素材は、食品用器具・容器包装のポジティブリスト制度に適合しており、食品の安全性を損なわないように配慮されています。

 この技術により、輸送中や保管中の食品にカビが発生するリスクを大幅に低減し、食品の品質保持と食品ロスの削減に貢献しています。

太陽工業の防カビEVAタイコンは、EVA素材に防カビ剤を練り込むことでカビを防ぎます。これにより、バッグ全体に防カビ性能が持続的に発揮され、洗浄を繰り返しても効果が衰えにくいのが特徴です。食品に安全な添加剤を使用し、輸送中の食品品質を衛生的に保ちます。

防カビ剤にはどんな物質が用いられるのか

 太陽工業の防カビEVAタイコンで使用されている具体的な防カビ剤の物質名は公表されていませんが、一般的に食品関連製品や食品包装材に使用される防カビ剤には、以下のようなものが挙げられます。

食品添加物として指定されている防カビ剤

  • オルトフェニルフェノール(OPP): 柑橘類などに使用されます。
  • チアベンダゾール(TBZ): 柑橘類やバナナなどに使用されます。
  • イマザリル: 柑橘類(みかんを除く)やバナナなどに使用されます。
  • フルジオキソニル: 杏、おうとう、柑橘類、キウイ、西洋なし、もも、りんごなど幅広い果物に使用されます。

 これらの防カビ剤は、食品衛生法に基づき、使用できる食品の種類や残存量に厳格な基準が設けられています。

食品包装材に練り込まれる防カビ剤

 太陽工業のケースのように、包装材自体に防カビ性能を持たせる場合、金属イオン系有機系の防カビ剤が練り込まれることがあります。これらは、SIAA(抗菌製品技術協議会)のような団体が定める「防カビポジティブリスト」に登録されている安全性が確認された物質が使用されます。

  • 金属イオン系: 銀イオンや銅イオンなどが代表的です。広範囲の微生物に効果があり、熱安定性が高いという特徴があります。
  • 有機系: 特定のカビに特化した効果を持つものや、比較的少量で効果を発揮するものがあります。

食品包装材に使用される防カビ剤は、安全性が確認された金属イオン系(銀イオンなど)や有機系の薬剤が用いられます。これらは食品衛生法のポジティブリストに適合し、人体に無害な範囲でカビの増殖を抑制します。

防カビ剤はどのようにカビを防ぐのか

 防カビ剤がカビを防ぐ主なメカニズムは、カビの生育に必要な機能を阻害することです。具体的には、以下のような作用機序が挙げられます。

細胞膜・細胞壁の破壊

  • 防カビ剤がカビの細胞膜や細胞壁を傷つけたり、穴を開けたりすることで、細胞内の成分(タンパク質、核酸、塩類など)が漏れ出したり、外部からの栄養吸収ができなくなったりします。これにより、カビの生命活動が維持できなくなり、死滅または増殖が抑制されます。

酵素の活性阻害

  • カビの細胞内には、増殖や代謝に必要な様々な酵素が存在します。防カビ剤がこれらの酵素と結合したり、その構造を変性させたりすることで、酵素の働きを妨げます。特に、カビの呼吸に関わる酵素や、細胞分裂に必要な酵素を阻害することで、カビの生育を抑えます。

核酸・タンパク質合成の阻害

  • カビが増殖するためには、DNAやRNAなどの核酸を複製し、新たなタンパク質を合成する必要があります。防カビ剤がこれらの合成プロセスを阻害することで、カビは新しい細胞を作ることができなくなり、増殖が停止します。

呼吸阻害

  • カビは好気性微生物であり、呼吸によってエネルギーを得ています。防カビ剤がカビの呼吸経路を阻害することで、エネルギー供給を絶ち、その活動を停止させます。

 太陽工業の防カビEVAタイコンのように、防カビ剤が素材に練り込まれている場合、防カビ剤が徐々に表面に放出され、カビが付着しても、その防カビ成分がカビの細胞内に入り込み、カビの増殖を抑制すると考えられます。これにより、目に見えるカビの発生を防ぎ、製品の品質を維持します。

防カビ剤は、カビの細胞膜や細胞壁を破壊したり、増殖に必要な酵素の働きを阻害したりすることで、カビの生育を妨げます。これにより、カビは栄養吸収や増殖ができなくなり、死滅するか、その成長が抑制されます。

これまでフィルムに防カビ剤を練り込んだ製品がなかった理由は

 これまでフィルムに防カビ剤を練り込んだ製品が少なかった、あるいは特定の用途(特に食品関連)で普及しなかった主な理由としては、いくつかの技術的・実用的な課題が考えられます。

  1. 防カビ剤の選定と配合の難しさ:
    • 均一な分散: フィルム素材に防カビ剤を均一に練り込むのは技術的に難しい場合があります。分散が不均一だと、防カビ効果にムラが生じます。
    • 素材との相性: 練り込む防カビ剤が、フィルム素材の物性(強度、柔軟性、透明度など)に悪影響を与えないようにする必要があります。また、加工工程での高温に耐えられる防カビ剤であることも重要です。
    • 持続性の確保: 練り込んだ防カビ剤が、時間とともに劣化したり、外部に過剰に溶出したりせず、効果が持続するように設計するのは困難です。
  2. 食品安全性と規制の厳しさ:
    • 溶出の問題: 練り込まれた防カビ剤が食品に移行する可能性があり、その安全性確保が最も重要です。食品に接触するフィルムの場合、防カビ剤の種類や量、溶出量が食品衛生法などの厳しい規制(ポジティブリスト制度など)に適合している必要があります。この基準を満たす防カビ剤を選定し、その溶出量を管理する技術が求められます。
    • 消費者の懸念: たとえ法的に問題がなくても、「防カビ剤が練り込まれている」という情報自体が、一部の消費者にネガティブな印象を与え、購入をためらわせる可能性がありました。
  3. コストと生産性の問題:
    • 特殊な防カビ剤の使用や、練り込み技術の開発・導入にはコストがかかります。既存の安価なフィルムに比べて大幅に高価になる場合、市場での競争力が低下します。
    • 生産工程において、防カビ剤の練り込みが生産速度を低下させたり、設備に特殊な対策を必要としたりする場合、量産が難しくなることもあります。
  4. 必要性の認識と代替手段:
    • これまで、多くの用途では、カビ対策として、乾燥剤の使用、冷温輸送・保管、殺菌処理など、他の方法が主に行われてきました。フィルム自体に防カビ性能を持たせることの必要性が、特に経済的な観点から十分に認識されていなかった可能性もあります。

 太陽工業の「防カビEVAタイコン」は、これらの課題を克服し、特に「繰り返し洗浄して使用するランニングタイプのフレキシブルコンテナバッグ」という特定の用途において、高い持続性と安全性を両立させることに成功した点が画期的と言えます。従来のフレキシブルコンテナバッグはカビが発生しやすく、洗浄による劣化の問題もあったため、練り込み技術のメリットが大きかったと考えられます。

フィルムへの防カビ剤練り込みは、食品安全性と規制の厳しさ、均一な分散や素材物性への影響、そしてコストと生産性の課題から普及が難しかった。特に食品用途では、溶出や消費者の懸念が障壁でした。

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