この記事で分かること
・なぜ、株価は上昇したのか:同社が開発中の高血圧治療薬「ロルンドロスタット」の臨床試験が良好な結果となったため
・ロルンドロスタットはこれまでの治療薬とどう違うのか:、従来の血圧降下薬とは異なり、アルドステロン合成を直接抑制するという新しい作用機序を持っています
・どんな点が期待されているのか:従来の薬で十分な効果が得られなかった患者に希望をもたらす可能性や副作用の少なさに期待が集まっています。
ネラリス・セラピューティクスの株価が急上昇
ネラリス・セラピューティクス(Mineralys Therapeutics, Inc.)の株価が急上昇しています。これは、同社が開発中の高血圧治療薬「ロルンドロスタット」の2つの臨床試験が主要評価項目を達成したとの発表を受けたものです。
具体的には、第3相試験「ローンチHTN試験」では、50mgの投与で収縮期血圧が16.9mmHg低下し、プラセボ調整後の低下は9.1mmHgでした。
第2相試験「アドバンスHTN試験」では、50mg投与群で治療終了12週目に24時間ABPMによる評価で7.9mmHgのプラセボ調整による減少を達成しました。
今後新たな高血圧治療薬として、大きなシェアを獲得する可能性から、株価上昇が起きています。
高血圧について
高血圧(Hypertension) は、血圧が慢性的に正常範囲を超えて高い状態を指します。 血圧は、心臓が血液を全身に送り出す際に血管の壁にかかる圧力のことです。
長期間にわたる高血圧は、心臓、血管、腎臓、脳などにダメージを与え、心筋梗塞や脳卒中のリスクを高めます。
1. 高血圧の基準
日本高血圧学会や国際基準(WHO・AHA)では、 収縮期血圧(上の血圧) と 拡張期血圧(下の血圧) の数値によって分類されます。
分類 | 収縮期血圧(mmHg) | 拡張期血圧(mmHg) |
---|---|---|
正常 | 120未満 | 80未満 |
正常高値 | 120~129 | 80未満 |
高値血圧 | 130~139 | 80~89 |
高血圧(I度) | 140~159 | 90~99 |
高血圧(II度) | 160~179 | 100~109 |
高血圧(III度) | 180以上 | 110以上 |
危険な高血圧(緊急治療が必要) | 180以上 | 120以上 |
2. 高血圧の種類
高血圧は 「本態性高血圧」 と 「二次性高血圧」 の2つに分類されます。
① 本態性高血圧(90%が該当)
- 原因が明確でないが、遺伝や生活習慣が関与 する慢性的な高血圧。
- 主な要因
- 遺伝的要因
- 塩分の過剰摂取
- 肥満・運動不足
- ストレス
- アルコール・喫煙
- 加齢(血管の弾力性低下)
② 二次性高血圧(約10%が該当)
- 特定の病気や薬剤が原因 で発生する高血圧。
- 主な原因
- 腎性高血圧(腎臓の病気)
- 内分泌性高血圧(ホルモン異常)
- 原発性アルドステロン症(アルドステロン過剰 → 血圧上昇)
- クッシング症候群(コルチゾール過剰)
- 甲状腺機能亢進症・低下症
- 睡眠時無呼吸症候群(SAS)(酸素不足による血圧上昇)
- 薬剤性高血圧(NSAIDs、ステロイド、ピルなど)
二次性高血圧は 原因の治療によって改善する可能性があるため、適切な診断と治療が重要です。

高血圧は心臓が血液を全身に送り出す際に血管の壁にかかる圧力=血圧が高い状態のことで、放置すると脳卒中や心筋梗塞のリスクが高まります。
ロルンダロスタッタと今までの薬は何が違うのか
ロルンドロスタット(lorundrostat)は、アルドステロン合成酵素阻害剤(ASI)に分類される新しいタイプの高血圧治療薬です。これまでの主な高血圧治療薬とは作用機序が異なります。
1. 従来の高血圧治療薬との違い
分類 | 代表的な薬剤 | 作用機序 |
---|---|---|
ACE阻害薬 | エナラプリル、リシノプリル | アンジオテンシン変換酵素(ACE)を阻害し、血管収縮を抑える |
ARB(アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬) | ロサルタン、バルサルタン | アンジオテンシンⅡの受容体をブロックし、血管を拡張 |
利尿薬 | ヒドロクロロチアジド、スピロノラクトン | 余分な水分を排出して血圧を下げる |
カルシウム拮抗薬 | アムロジピン、ニフェジピン | 血管の平滑筋を弛緩させ、血圧を下げる |
β遮断薬 | メトプロロール、ビソプロロール | 心拍数を下げて血圧を低下させる |
ロルンドロスタット(ASI) | ロルンドロスタット | アルドステロン合成を直接阻害し、血圧を下げる |
2. ロルンドロスタットの特徴
ロルンドロスタットはアルドステロンの合成自体を阻害するため、ホルモン系の副作用が少ないと期待されています。
アルドステロンの過剰産生を抑える
アルドステロンは体内のナトリウムとカリウムのバランスを調整し、血圧上昇に関与します。
ロルンドロスタットはアルドステロン合成酵素(CYP11B2)を直接阻害することで、その分泌を抑えます。
これにより、ナトリウムの排泄が促進され、血圧が低下します。
特にアルドステロン過剰型の高血圧(原発性アルドステロン症)に有効
高血圧患者の中には、アルドステロンが過剰に分泌されるタイプ(約10〜20%)が存在します。
従来の治療薬では十分に効果が出ない場合がありましたが、ロルンドロスタットはこうしたアルドステロン依存型の高血圧に特に有効と考えられています。
従来のアルドステロン阻害薬(スピロノラクトン)との違い
スピロノラクトン(抗アルドステロン薬)は、腎臓のアルドステロン受容体をブロックすることで作用します。
しかし、スピロノラクトンには女性化乳房や性機能低下などのホルモン系の副作用がありました。 ロルンドロスタットはアルドステロンの合成自体を阻害するため、ホルモン系の副作用が少ないと期待されています。

ロルンドロスタットは、従来の血圧降下薬とは異なり、アルドステロン合成を直接抑制するという新しい作用機序を持っています。従来の薬で十分な効果が得られなかった患者に希望をもたらす可能性や副作用の少なさに期待が集まっています。
アルドステロンとは何か
アルドステロン(Aldosterone)は、副腎皮質(腎臓の上にある副腎の外側の部分)から分泌されるミネラルコルチコイド(鉱質コルチコイド)というホルモンの一種です。体内の水分や電解質(ナトリウムやカリウム)のバランスを調整し、血圧をコントロールする役割を持っています。
1. アルドステロンの働き
アルドステロンは、主に腎臓の遠位尿細管や集合管に作用し、以下のような調節を行います。
- ナトリウム(Na⁺)の再吸収を促進
- ナトリウムが血液中に戻ることで、体内の水分量が増え、血圧が上昇します。
- カリウム(K⁺)の排出を促進
- カリウムが尿中に排泄されることで、血中カリウム濃度を調整します。
- 水の再吸収を促進
- ナトリウムが再吸収されることで、水も一緒に血液に戻るため、血液量が増えて血圧が上がります。
このように、アルドステロンは血圧維持や体液バランスに不可欠なホルモンです。
2. アルドステロンの分泌調節
アルドステロンの分泌は、主に以下の3つの因子によって調節されます。
ACTH(脳下垂体から分泌)もアルドステロン分泌に関与しますが、その影響は比較的弱いです。
レニン-アンジオテンシン-アルドステロン系(RAAS)
腎臓が血流の低下を感知すると、レニンという酵素を分泌します。
レニンがアンジオテンシノーゲンをアンジオテンシンⅠに変え、さらにアンジオテンシンⅡに変換されると、副腎皮質に働きかけてアルドステロン分泌を促します。
これにより、ナトリウムと水の再吸収が増え、血圧が上昇します。
血中カリウム濃度の上昇
カリウム濃度が高いと、アルドステロンの分泌が増えてカリウム排泄が促進されます。
副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)
ACTH(脳下垂体から分泌)もアルドステロン分泌に関与しますが、その影響は比較的弱いです。
3.アルドステロンと高血圧治療
アルドステロンは、特に「レジスタント高血圧(薬が効きにくい高血圧)」の原因の一つと考えられています。
そのため、アルドステロン合成阻害薬(=ロルンドロスタット)が開発されています。
なぜアルドステロンを抑えると血圧が下がるのか?
- ナトリウムの再吸収が減る → 体液量が減少 → 血圧低下
- カリウムの排出が減る → 血管が適切に拡張しやすくなる → 血圧低下
特に原発性アルドステロン症の患者では、従来の降圧薬(ACE阻害薬やARB)が効きにくいため、アルドステロンを直接抑える治療が重要視されています。

アルドステロンは、副腎皮質から分泌されるホルモンの一種で、体内の水分や電解質のバランスを調整し、血圧をコントロールする役割を持っています。アルドステロンは、「レジスタント高血圧(薬が効きにくい高血圧)」の原因の一つとなっており、分泌を抑えることで血圧を下げることが可能になります。
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