この記事で分かること
- 無電柱化が必要な理由:無電柱化は、災害時の電柱倒壊による被害を防ぎ、安全な避難・緊急車両の通行を確保します。また、歩行空間を広げ安全性を高めるとともに、景観を向上させ都市の魅力を高めるため、非常に重要です。
- 無電柱化の進行度:日本の無電柱化は、欧米主要都市に比べ大幅に遅れており、全国平均で約1.5%と低水準です。東京23区でも約8%に留まります。
- 特に無電柱化が必要な場所:緊急輸送道路の無電柱化は特に重要とされています。日本でも35%と無電柱化が着実に進められているものの、その重要性からすれば、さらなる加速が求められる状況と言えます。
国土交通省による無電柱化推進
国土交通省は、「無電柱化」の加速に向けて新たな目標を設ける方針です。これは、現行の無電柱化推進計画(2021年度~2025年度)に続く、次期推進計画(2026年度~2030年度の5年間)に盛り込まれる予定です。
https://news.yahoo.co.jp/articles/df722a022d5ec9f5f5e924816235be31d1783c78
これらの新たな目標により、防災・減災、安全・快適な交通の確保、良好な景観形成といった無電柱化のメリットをより一層推進し、諸外国と比較しても遅れの見られる無電柱化を進めるつもりです。
無電柱化が必要な理由は何か
無電柱化が必要とされる理由は多岐にわたり、主に以下の4つの側面が挙げられます。
防災・減災対策の強化
- 災害時の電柱倒壊による被害防止: 地震や台風などの自然災害が発生した際、電柱が倒壊すると道路を塞ぎ、緊急車両の通行を妨げたり、避難経路を寸断したりする可能性があります。無電柱化により、これらのリスクを大幅に軽減できます。
- 電線火災の防止: 老朽化した電線や倒壊した電柱からの出火リスクを低減できます。
- ライフラインの安定供給: 電線が地下に埋設されることで、災害による断線リスクが減少し、電力や通信などのライフラインがより安定的に供給されます。
安全で快適な歩行空間の確保
- 歩行者の安全確保: 電柱は、歩道が狭い場所では歩行の妨げとなり、視覚障がい者や高齢者、ベビーカー利用者などにとって危険を伴う場合があります。無電柱化により、歩道が広がり、より安全でスムーズな通行が可能になります。
- バリアフリーの推進: 段差や障害物がなくなり、車椅子利用者なども含め、誰もが移動しやすい環境が整備されます。
- 圧迫感の解消: 電柱や電線がなくなることで、空が広がり、開放感のある快適な歩行空間が生まれます。
良好な景観形成と観光振興
- 都市景観の向上: 電柱や無数の電線がなくなることで、歴史的建造物や自然景観が際立ち、より美しい街並みが形成されます。これは、観光客の誘致にも繋がり、地域経済の活性化に貢献します。
- 観光資源の魅力向上: 伝統的な街並みや自然豊かな観光地において、無電柱化は景観を損なう要因を取り除き、その地域の魅力を最大限に引き出すことができます。
- 広告媒体としての活用: 電柱がなくなることで、壁面や道路自体をより効果的な広告媒体として活用できる可能性も生まれます。
都市機能の強化と資産価値の向上
- 土地の有効活用: 電柱や電線がなくなることで、土地の上空や地下空間をより有効に活用できるようになります。
- 都市のレジリエンス向上: 災害に強く、持続可能な都市づくりに貢献します。
- 不動産価値の向上: 良好な景観や安全性が確保された地域は、不動産価値の向上に繋がる可能性があります。
これらの理由から、無電柱化は単なる美観の問題に留まらず、私たちの生活の質、安全、そして都市の将来にとって非常に重要なインフラ整備として認識されています。

無電柱化は、災害時の電柱倒壊による被害を防ぎ、安全な避難・緊急車両の通行を確保します。また、歩行空間を広げ安全性を高めるとともに、景観を向上させ都市の魅力を高めるため、非常に重要です。
無電柱化はどれくらい進んでいるのか
日本の無電柱化は、欧米やアジアの主要都市と比較して大幅に遅れているのが現状です。
現在の日本の無電柱化の状況
- 全国平均: 無電柱化率は非常に低く、全国の道路全体で約1.5%程度とされています。
- 都市部でも低い: 東京都23区で約8%、大阪市で約6%と、大都市でも諸外国に比べると進捗が遅れています。
- 直轄国道は比較的進む: 全国約4万kmの直轄国道のうち、約1万kmが無電柱化されており、無電柱化率は約22%に達しています。これは、都道府県や市区町村管理の道路と比較すると進んでいる状況です。
- 市区町村道は特に遅れ: 市区町村道の無電柱化率は約0.5%と、最も低い水準にあります。
- 新設電柱の増加: 国内には約3,600万本の電柱があるとされ、毎年約7万本ずつ増加しているという課題もあります(以前の情報なので変動している可能性あり)。ただし、近年は新設電柱の抑制に向けた取り組みも進められています。
海外の状況との比較
- 欧米・アジア主要都市: ロンドンやパリなどのヨーロッパの主要都市、香港やシンガポールなどのアジアの主要都市では、無電柱化が概ね完了しているか、非常に高い水準にあります。中には無電柱化率が100%に近い都市もあります。
無電柱化が進まない主な要因
- 高コスト: 無電柱化には莫大な費用がかかることが大きな障壁となっています。
- 長期間の工事: 地下への埋設工事は時間がかかり、交通規制など住民生活への影響も大きいです。
- 既存の地下埋設物との調整: 上水道、下水道、ガス管など、既存の地下埋設物が多数存在するため、電線を埋設するためのスペース確保や調整が難しいケースが多いです。
- 地上機器の設置場所確保: 地下化しても、変圧器などの地上機器を設置するスペースが必要となり、特に狭い歩道などでは課題となります。
今後の取り組み:
国土交通省は、「無電柱化の推進に関する法律」に基づき、無電柱化を加速するための計画を策定し、様々な取り組みを進めています。
- 次期無電柱化推進計画(2026年度~2030年度): 緊急輸送道路の優先整備、新設電柱の抑制、コスト縮減と事業のスピードアップ、地方公共団体との連携強化などを新たな目標としています。
- 低コスト手法の導入: 管路の浅層埋設、小型ボックス活用など、工事費用や期間を削減する技術や手法の開発・導入を推進しています。
- 地方公共団体との連携強化: 各自治体による無電柱化推進計画の策定を促し、地域ごとの実情に応じた取り組みを支援しています。
このように、日本の無電柱化は諸外国に比べて遅れているものの、国を挙げてその推進が図られています。

日本の無電柱化は、欧米主要都市に比べ大幅に遅れており、全国平均で約1.5%と低水準です。東京23区でも約8%に留まります。一方で、直轄国道では約22%と比較的進んでいますが、コストや期間、地下の既設物との調整が課題となっています。
緊急輸送道路の整備状況はどれくらいか
緊急輸送道路の無電柱化は、災害時の機能確保という観点から特に重要視され、国を挙げて整備が進められています。しかし、全体の整備状況としては、まだ多くの課題を抱えています。
緊急輸送道路の無電柱化の現状
- 着手率の目標と現状:
- 国土交通省は、電柱倒壊のリスクがある市街地等の緊急輸送道路について、令和7年度末までに無電柱化着手率を52%にすることを目標としています(令和2年度末時点では38%)。
- 最新の情報では、令和5年度末時点での無電柱化着手率は45%となっており、目標達成に向けて進捗していることが伺えます。
- しかし、2024年度末時点での工事完了区間は35%に留まるとの報道もあり、着手と完了にはまだ差があります。
- 総延長と未整備区間:
- 全国の緊急輸送道路の総延長は約9.5万kmとされています。
- このうち、災害時に電柱倒壊のリスクが高い市街地の約2万1826kmを中心に無電柱化が推進されています。
- 緊急輸送道路全体で見ると、まだ約61%、市街地でも約65%の区間で電柱が立地しており、工事中の区間は市街地においても4%に過ぎません。
- 新設電柱の抑制:
- 緊急輸送道路においては、新設電柱の占用制限措置が約99%の区間で適用されており、新たな電柱の設置が抑制されています。
- 自治体ごとの状況:
- 例えば、横浜市では、市管理道路の第1次緊急輸送路の無電柱化率が約33%(平成30年3月現在)となっています。特定の環状ネットワーク路線では約68%に達しているなど、自治体によって進捗状況に差があります。
- 中央区(東京都)では、緊急道路障害物除去路線の無電柱化率が令和6年3月末現在で約63.4%と比較的進んでいます。
今後の見通し
国土交通省は、2026年度から始まる次期無電柱化推進計画において、緊急輸送道路の優先整備を新たな目標に掲げています。特に、災害時に電柱倒壊リスクが高い市街地等の区間を重点的に取り組み、2030年度までの完了を目指す方針です。
このように、緊急輸送道路の無電柱化は着実に進められているものの、その重要性からすれば、さらなる加速が求められる状況と言えます。

緊急輸送道路の無電柱化は、災害対策として重要視され、着実に進んでいます。市街地の電柱倒壊リスクのある区間の着手率は約45%(令和5年度末時点)ですが、工事完了は35%(2024年度末時点)に留まります。2030年度までの完了を目指し、今後さらに加速される見込みです。
海外の無電柱化が進んでいる理由は何か
海外、特に欧米の主要都市で無電柱化が進んでいる理由は、主に以下の点が挙げられます。
歴史的背景と初期からの地中化
- 欧米では、電力が普及し始めた19世紀後半から20世紀初頭にかけて、電線を地中に埋設する方式が採用されました。これは、電柱を設置するスペースの制約や、感電防止の必要性などから、当初から地中化が選択されたためです。
- 例えばロンドンでは、ガス灯との競争条件を同一にするため、電気事業者に地中化を法的に義務付けた経緯もあります。
- 一方、日本では電線の被覆技術が先に進んだため、安価で設置が容易な架空線方式が普及しました。
法整備と強い推進体制
- 海外では、国や地方自治体が明確な法的規制やルールを制定し、電線事業者と一体となって無電柱化を推進してきました。
- 無電柱化が「当たり前」という認識が社会全体に浸透しており、景観向上や防災への意識が高いことも要因です。
コスト削減と技術開発への注力
- 海外でも無電柱化は高コストですが、各国でコスト削減のための技術開発が進められています。
- 掘削・埋め戻しの迅速化、電線埋設の機械化、既存ストック(側溝など)の活用、埋設物件の損傷回避技術など、効率的な工事手法が導入されています。
- 無電柱化による長期的なコストメリット(事故減少、メンテナンス費用削減など)を評価し、投資として捉える考え方も一般的です。
都市計画・景観意識の高さ
- 欧米の多くの都市では、建築に関する厳格な規範があり、街全体のデザインや美観が重視されています。電柱や電線は景観を損ねるものとして認識され、都市計画の初期段階から地中化が組み込まれてきました。
- 災害時の被害軽減だけでなく、都市の魅力向上や観光振興の観点からも、無電柱化が積極的に推進されています。
災害への意識と投資的観点
- 特に米国などでは、過去の災害被害を考慮し、無電柱化を災害対策への「投資」と捉える考え方が強いです。被害額を算出することで、無電柱化がトータルで経済的に有益であると判断されるケースもあります。
これらの要因が複合的に作用し、海外では無電柱化が早期から進展し、現在もその普及率が高い状態を維持しています。

海外では、電線の普及初期から地中化を進めた歴史的経緯に加え、景観重視の都市計画、国や自治体による強力な法的規制や推進体制、コスト削減技術の開発などが総合的に作用し、無電柱化が高度に進んでいます。
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