この記事で分かること
- パワー半導体モジュールとは:電力の変換や制御を行うための複数の半導体素子(チップ)を、放熱基板と配線を備えた一つのパッケージにまとめたものです。
- 小型化が必要な理由:設置スペースの削減と効率向上、製造コストや輸送コストの削減にも繋がります。
- 低温化が必要な理由:多様な環境での安定動作を実現するために必要です。特に、寒冷地での使用が想定されるヒートポンプ式暖房などでは、低温動作対応が不可欠となります。
三菱電機のパワー半導体モジュールの小型化や低温対応
三菱電機はパワー半導体モジュールを製造しており、パワー半導体モジュールの小型化や低温対応に力を入れています。
https://www.nikkan.co.jp/articles/view/00760477
三菱電機は、これらの製品を通じて、機器の高性能化、小型・軽量化、そしてカーボンニュートラル社会の実現に貢献することを目指しています。
パワー半導体モジュールとは何か
パワー半導体モジュールとは、電力の変換や制御を行うための複数のパワー半導体素子(チップ)を一つのパッケージにまとめた製品です。個別の半導体素子(ディスクリート半導体)を組み合わせて回路を構成するよりも、小型化、高効率化、高信頼性を実現できます。
構成要素と機能
パワー半導体モジュールは、主に以下の要素で構成されています。
- パワー半導体チップ: 電力変換の主役となる半導体素子で、IGBT(絶縁ゲートバイポーラトランジスタ)やMOSFET(金属酸化膜半導体電界効果トランジスタ)、ダイオードなどが組み込まれています。
- 放熱基板: チップが動作する際に発生する熱を効率的に外部へ逃がすための基板です。
- 配線・端子: チップ間の接続や、外部機器との接続を行います。
- 樹脂封止材: 内部のチップや配線を保護します。
これらの部品が一体化されることで、高電圧や大電流を効率よく制御する役割を果たします。
用途
パワー半導体モジュールは、高い電力変換効率と安定性が求められる様々な分野で利用されています。
- 家電製品: エアコン、冷蔵庫、IHクッキングヒーターなどのインバーター制御
- 産業機器: 産業用モーター駆動、ロボット、UPS(無停電電源装置)
- 自動車: 電気自動車(EV)やハイブリッド車(HEV)のモーター制御インバーター、充電器
- 鉄道: 鉄道車両の駆動システムや空調・照明用電源
- 再生可能エネルギー: 太陽光発電や風力発電の電力変換装置
これらの機器において、電力の無駄を減らし、省エネルギー化と性能向上に大きく貢献しています。

パワー半導体モジュールとは、電力の変換や制御を行うための複数の半導体素子(チップ)を、放熱基板と配線を備えた一つのパッケージにまとめたものです。これにより、インバーターなどの回路を小型化し、高効率・高信頼性を実現します。
小型・低温対応が必要な理由は
小型化と低温動作対応は、様々な電子機器が直面する課題を解決するために必要不可欠です。主な理由は以下の通りです。
設置スペースとコストの削減
インバーターや電源装置は、機器の心臓部を担う重要な部品です。しかし、これらの部品が大きすぎると、機器全体のサイズが大きくなり、設置場所が限られたり、製造コストが増加します。
パワー半導体モジュールを小型化することで、機器のサイズダウンが可能になり、設置スペースの制約をクリアし、より効率的な設計とコスト削減を実現します。
多様な環境への対応
近年の電化製品や産業機器は、寒冷地など厳しい環境下でも安定して動作することが求められています。これまでのパワー半導体は低温下での性能が不安定になる課題がありました。低温対応(−40℃など)によって、ヒートポンプ暖房や冷蔵・冷凍機器など、寒い場所でも確実に動作する必要のある機器への適用が広がります。
省エネルギー化と高効率化
小型化は単にサイズの問題だけではありません。最新の半導体素材(SiCなど)や新しい構造の採用により、電力変換時の電力損失を大幅に低減できます。
これにより、機器の発熱が抑えられ、冷却機構が簡素化されるため、さらに小型化が進み、結果として機器全体の省エネルギー化と効率向上に繋がります。
こ れらの要素は、電動モビリティ(EV)、再生可能エネルギーシステム、高性能家電など、ますます重要性が高まる分野において、機器の性能と信頼性を向上させるために不可欠な技術となっています。

設置スペースの削減と効率向上、そして多様な環境での安定動作を実現するためです。機器の小型化は、製造コストや輸送コストの削減にも繋がり、特に寒冷地での使用が想定されるヒートポンプ式暖房などでは、低温動作対応が不可欠となります。
どうやって小型化したのか
パワー半導体モジュールの小型化は、主にRC-IGBTや新しい素子構造の採用、そしてパッケージ技術の進化によって実現されています。
1. RC-IGBTの採用
RC-IGBT(Reverse Conducting IGBT)とは、IGBTと還流ダイオードを一つのチップ上に集積した新しいタイプの半導体素子です。
- 素子数の削減: 通常、インバーター回路には、IGBTとダイオードがそれぞれ独立して必要です。RC-IGBTはこれらを一体化することで、必要なチップの数を減らし、モジュール全体のサイズを大幅に縮小します。
- 配線の簡略化: チップ間の配線が減るため、モジュール内部の設計が簡素化され、より高密度な実装が可能になります。これにより、モジュールの底面積を大幅に減らすことができます。
2. パッケージ技術の進化
モジュールを構成するパッケージそのものの技術も進化しています。
- 高放熱絶縁シート: 熱伝導率の高い絶縁シート材を採用することで、素子の発熱を効率的に外部へ逃がすことができます。これにより、小型化しても素子の温度上昇を抑制し、従来と同等の定格電流を流すことが可能になります。
- 高密度実装: 内部のチップや配線をより密に配置する技術により、パッケージ自体のサイズを小さくします。
3. 新しい半導体材料
SiC(炭化ケイ素)やGaN(窒化ガリウム)といった新しい半導体材料の採用も、将来的な小型化に貢献します。
- 低損失化: これらの新材料は、シリコンよりも電力損失が少ないため、発熱が抑えられます。
- 冷却機構の簡素化: 発熱が少ないと、大きな冷却ファンやヒートシンクが不要になり、最終的に製品全体の小型化と軽量化に繋がります。

小型化は、IGBTとダイオードを一つのチップに集積する「RC-IGBT」の採用が大きな要因です。これにより、部品点数が減り、基板実装面積を大幅に縮小。また、高放熱の絶縁シートや高密度実装技術により、小型でも高出力を可能にしました。
低温対応の方法は
パワー半導体モジュールの低温対応は、主にモジュール内部の材料と構造の最適化によって実現されます。特に、熱膨張率の違いによる応力への対策が重要です。
低温での課題
パワー半導体モジュールは、複数の異なる素材(半導体チップ、銅、セラミックス、はんだなど)で構成されています。これらの素材は、それぞれ熱によって膨張・収縮する度合い(熱膨張率)が異なります。
通常、モジュールは動作中に発熱し、温度が上昇しますが、低温環境下ではモジュール全体が大きく冷やされるため、各材料が収縮します。この時、熱膨張率の差によって材料間に大きな応力が生じ、はんだ接合部にクラック(ひび割れ)が発生したり、絶縁基板が破損したりするリスクが高まります。
低温対応の技術
低温環境下でもモジュールの信頼性を保つために、以下の技術が用いられています。
- 接合技術の改善: 従来のはんだに代わり、低温での応力に強い新しい接合材料や技術が開発されています。これにより、チップと基板、基板とケースなどの接合部の信頼性を高め、はんだ剥がれやクラックを防ぎます。
- 応力緩和構造: 異なる材料の間に応力を吸収する層を設けることで、熱膨張率の差による応力を緩和します。例えば、セラミックス基板と銅回路の間にアルミニウムの応力緩和層を設ける技術があります。
- 新しい材料の採用: 低温環境下でも安定した特性を持つ新しい絶縁基板材料やパッケージ材料が開発・採用されています。これにより、モジュール全体の物理的安定性が向上します。
これらの技術によって、モジュールは−40℃といった過酷な低温環境下でも、安定した性能と高い信頼性を維持することが可能になります。

低温対応は、異なる素材の熱膨張率の差による応力(ひずみ)を緩和するために行われます。具体的には、応力に強い新しい接合材料や構造の採用により、はんだ接合部のひび割れや絶縁基板の破損を防ぎ、−40℃のような低温環境でも高い信頼性を実現します。
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