この記事で分かること
- 黒字リストラとは:企業が好調な経営状況(黒字)であるにもかかわらず、人員削減を行うことです。将来の事業環境の変化に備えたり、高コストな中高年層を減らして組織の若返りを図ったりすることが主な目的です。
- 三菱電機好調の要因:工場の自動化を担うFAシステムや、省エネ需要を取り込む空調・冷熱システムが好調です。また、防衛力強化を背景とした防衛・宇宙システムや、インフラ関連の海外向けUPSも業績を牽引しています。
- 今後の展望:自動車機器事業や液晶テレビ事業から撤退・見直しを進めます。一方で、FAシステム(ファクトリーオートメーション)、空調・冷熱システム、ビルシステムといった社会課題の解決に貢献する分野に経営資源を集中させる計画です。
三菱電機の黒字リストラ
三菱電機は、事業構造の変革や人員構成の若返りを図るため、「ネクストステージ支援制度特別措置」として、退職金に特別加算金を上乗せする時限制度を実施すると発表しました。
https://jp.reuters.com/business/XMYI6TG2I5JXRNI4IZUDKQJJOQ-2025-09-08/
この制度は、2026年3月期に過去最高益を予想する中での「黒字リストラ」として注目されています。
黒字リストラとは何か
「黒字リストラ」とは、その名の通り、企業が黒字経営であるにもかかわらず、人員削減を行うことを指します。
通常、リストラ(人員整理)は、業績悪化や赤字に陥った企業が経営を立て直すために行うものですが、黒字リストラは目的が異なります。
黒字リストラの主な理由
- 将来の事業環境の変化に備えるため
- AIやDX(デジタルトランスフォーメーション)の進展、事業構造の転換、市場の変化などを先読みし、赤字に転落する前に組織を再構築しようとします。
- 古い事業や不採算部門の人員を削減し、成長分野に経営資源を集中させることで、将来にわたる競争力を高める狙いがあります。
- 人件費構造の改革と組織の若返り
- 日本の多くの企業では年功序列型の賃金体系が残っており、中高年層の人件費が高くなりがちです。
- 高コストな中高年層を削減し、浮いた人件費を若手や優秀な人材の確保、または新たな事業への投資に回すことで、組織全体の活性化を図ります。
- 生産性の向上
- 業務の自動化や効率化によって生じた余剰人員を削減することで、企業全体の生産性を向上させます。
- 「働かないおじさん」と揶揄されるような、パフォーマンスの低い社員を対象にすることもあります。
黒字リストラの特徴
- 赤字経営のリストラとは異なり、企業にまだ体力がある段階で行われるため、「希望退職者の募集」という形式が一般的です。
- 通常よりも退職金を上乗せするなど、従業員にとって有利な条件を提示することが多いです。
- これは、従業員との合意の上で退職してもらうことで、法的なトラブルのリスクを軽減する目的もあります。
黒字リストラは、単なるコスト削減ではなく、企業の未来に向けた「先行投資」という側面が強い経営戦略と言えます。三菱電機の事例も、事業構造の変革や人員構成の若返りを目的としたものであり、この「黒字リストラ」にあたると考えられます。

黒字リストラとは、企業が好調な経営状況(黒字)であるにもかかわらず、人員削減を行うことです。将来の事業環境の変化に備えたり、高コストな中高年層を減らして組織の若返りを図ったりすることが主な目的です。
三菱電機はどのような事業が好調なのか
三菱電機で現在好調な事業は、主にFAシステム(ファクトリーオートメーション)、空調・冷熱システム、そしてインフラ関連事業です。
FAシステム事業
FA(ファクトリーオートメーション)システム事業は、工場の自動化や生産性向上に貢献する機器やソリューションを提供しており、高い成長を遂げています。特に、AI関連の半導体設備投資や、中国のスマートフォン・工作機械関連の需要が好調です。
空調・冷熱システム事業
空調・冷熱システム事業も好調です。省エネ性能の高いルームエアコン「霧ヶ峰」をはじめ、ヒートポンプ式給湯器など、脱炭素社会に向けた需要が高まっています。特に北米や国内市場で大きく売り上げを伸ばしています。
その他の好調な事業
上記以外にも、以下のようなインフラ関連事業が堅調に推移しています。
- 防衛・宇宙システム事業: 防衛力整備計画の進展を背景に、防衛システムや宇宙システムの大型案件が増加しており、受注高と売上高が大幅に増加しています。
- インフラ部門全般: 海外のデータセンター向けUPS(無停電電源装置)事業や、国内外の交通システム、国内の公共事業が好調です。

三菱電機は、工場の自動化を担うFAシステムや、省エネ需要を取り込む空調・冷熱システムが好調です。また、防衛力強化を背景とした防衛・宇宙システムや、インフラ関連の海外向けUPSも業績を牽引しています。
三菱電機が黒字リストラを行う理由は
三菱電機が黒字リストラを行う主な理由は、事業構造の変革と人員構成の若返りです。将来の競争力強化に向けた先行的な経営判断であり、単なるコスト削減が目的ではありません。
事業構造の変革
三菱電機は、不採算事業や成長が見込みにくい事業から撤退・売却し、成長が見込まれる分野へ経営資源を集中させる事業ポートフォリオの見直しを進めています。今回のリストラは、この改革の一環として、リソースを効率的に再配分することを目的としています。
特に、自動車の電動化など事業環境が大きく変化する中、顧客ニーズに迅速に対応できる組織体制を構築する必要があると判断しています。
人員構成の若返り
日本の多くの企業と同様に、三菱電機も中高年層の比率が高い人員構成の課題を抱えています。今回の希望退職制度は、特に53歳以上の社員や再雇用者を対象とすることで、高コストになりがちなベテラン層の人員を削減し、組織の年齢構成を適正化する狙いがあります。
これにより、若手社員の採用や育成、新たな事業への投資に資金を振り向け、組織全体の活性化を図る方針です。

三菱電機が黒字リストラを行うのは、事業構造の変革と人員構成の若返りが主な理由です。競争力を高めるため、成長分野に経営資源を集中させるとともに、高コストな中高年層を減らして組織を活性化する狙いがあります。
どのような事業から撤退し、どの事業に集中する予定か
三菱電機は、不採算事業や成長が見込みにくい事業から撤退・見直しを進め、FAシステム(ファクトリーオートメーション)、空調・冷熱システム、ビルシステムといった成長分野に経営資源を集中させる方針です。
撤退・見直しを進める事業
主に、以下の事業で撤退や見直しが検討されています。
- 自動車機器事業: EV(電気自動車)への移行など、市場環境が急激に変化する中で、エンジン車関連部品など成長が見込めない領域からの撤退を検討しています。一方で、自動運転に関わるSDV(ソフトウェア定義型車両)などの成長領域は強化する方針です。
- 液晶テレビ事業: すでに家庭用液晶テレビの生産を縮小・終了しており、事業からの撤退を進めています。
- その他低収益事業: 2025年度中に、約8000億円規模の低収益事業について、撤退や売却を検討するとしています。
経営資源を集中させる事業
一方、三菱電機が「重点成長事業」と位置づけ、経営資源を集中させるのは以下の分野です。
- FAシステム事業: 工場の自動化や生産性向上に貢献するFA機器(PLC、インバータ、ロボットなど)やソリューション事業を強化します。
- 空調・冷熱システム事業: 世界的な脱炭素の流れの中で、ヒートポンプ式給湯器や空調システムなど、省エネルギーに貢献する製品・ソリューションをグローバルに展開します。
- ビルシステム事業: エレベーターやエスカレーターに加え、ビル全体のエネルギーマネジメントやセキュリティなど、DXを活用した統合ソリューション事業を強化します。
これらの事業は、社会課題の解決に貢献し、グローバル市場での競争力があると判断されています。三菱電機は、これらの事業を成長させることで、企業の収益性向上と持続的な成長を目指しています。

三菱電機は、成長が見込めない自動車機器事業や液晶テレビ事業から撤退・見直しを進めます。一方で、FAシステム(ファクトリーオートメーション)、空調・冷熱システム、ビルシステムといった社会課題の解決に貢献する分野に経営資源を集中させる計画です。
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