この記事で分かること
- EUVペリクルとは:最先端の半導体製造で使われるフォトマスク用の防塵カバーです。極端紫外線(EUV)を通す数十ナノメートルの極薄膜で、回路の原版(マスク)をゴミから保護し、回路欠陥を防ぎます。
- カーボンナノチューブが使用される理由:「究極の透過率」と「超耐熱性」の両立にあります。網目状の構造により、光を遮らず95%以上の高い透過率を実現。さらに、2nm世代以降の高出力なEUV光(1kW超)による1,000℃以上の熱にも耐えられるため、次世代の微細化に不可欠な素材とされています。
- 三井化学の現状:三井化学は単なる素材メーカーではなく、「EUV露光を成立させるための唯一無二のパートナー(ASMLのライセンシー)」という特権的な地位にいます。同社のCNTペリクルがデファクトスタンダード(事実上の標準)になるかが業界の注目点です。
三井化学の次世代EUVペリクル
三井化学は、最先端の半導体製造、特にEUV(極端紫外線)露光技術において、世界的に極めて重要な役割を担っています。
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC173KQ0X11C25A2000000/
同社の強みは、露光プロセスで使われるフォトマスクを保護する防塵カバー「ペリクル」にあり、2027年に最先端の極端紫外線(EUV)露光装置向け次世代品を投入する予定です。
どんな半導体製造材料を投入するのか
三井化学は、最先端の半導体製造(EUV露光プロセス)において、以下の主要な材料を投入・展開する計画です。
- EUVペリクル(次世代製品):
- CNT(カーボンナノチューブ)ペリクル: 次世代の高出力EUV露光機(高NA EUV)に対応するため、CNTを用いたペリクルの製品化を進めています。これは従来のシリコンベースの材料よりも耐熱性や透過率に優れているのが特徴です。
- シリコンベース・ペリクル: 現在、世界で唯一の商用サプライヤーとして、ASML社の露光機向けに供給を継続・拡大しています。
- バックグラインドテープ(イクロステープ):
- 半導体ウェハの薄層化・パッケージング工程で使用される保護テープで、高いシェアを持っています。
- 三井化学東セロによる展開:
- 子会社の三井化学東セロを通じて、半導体製造工程用テープや高機能包装材料の供給体制を強化しています。
EUVペリクルとは何か
EUVペリクルとは、一言でいえば「最先端の半導体露光工程でフォトマスクを異物から守る、究極の防塵カバー」です。
1. 役割:歩留まり(良品率)の守護神
半導体の回路を描く「フォトマスク(原版)」に、目に見えないほど小さなゴミが一つでも付着すると、その後の全てのチップに欠陥が転写されてしまいます。
ペリクルは、マスクの数ミリ上に張られた極薄の膜です。
- ゴミをブロック: 降ってくる微粒子を膜の上でキャッチします。
- ピンボケ効果: ゴミはレンズの焦点(マスク面)から離れた膜の上にあるため、ウェハ上には影として写らず、回路に悪影響を与えません。
2. なぜ「EUV用」は特別なのか?
従来の露光(DUVなど)と違い、EUV(極端紫外線)は「ほとんどの物質に吸収されてしまう」という非常に扱いにくい性質を持っています。
- 極限の薄さ: EUV光を通すため、膜厚はわずか数十ナノメートル(髪の毛の太さの数千分の一)しかありません。
- 過酷な環境: EUV露光は真空中で行われ、さらに強い光エネルギーで膜の温度は600℃〜1000℃にまで達します。この熱と真空に耐え、かつ光を透す素材が必要です。
- 透過率の戦い: 光が吸収されると生産性が落ちるため、三井化学などが開発する「透過率90%以上」という性能が極めて重要になります。
3. 三井化学の立ち位置
三井化学は、世界で唯一、EUV露光装置メーカーのASML社からライセンスを受けて商用生産を行っています。
現在、主流の「シリコンベース」に加えて、より熱に強く透過率が高い「CNT(カーボンナノチューブ)製」の次世代ペリクルを投入しようとしている、世界でもトップクラスのプレイヤーです。

EUVペリクルは、最先端の半導体製造で使われるフォトマスク用の防塵カバーです。極端紫外線(EUV)を通す数十ナノメートルの極薄膜で、回路の原版(マスク)をゴミから保護し、回路欠陥を防ぐことで製造の歩留まり(良品率)を劇的に向上させます。
カーボンナノチューブが使用される理由は何か
EUVペリクルにカーボンナノチューブ(CNT)が使用される最大の理由は、「次世代の超高出力な光に耐えつつ、光をほとんど遮らない」という、従来のシリコン素材では不可能だった二つの条件を同時に満たせるからです。具体的には、以下の3つの圧倒的な優位性があります。
1. 究極の「光透過率」:95%以上の世界
EUV(極端紫外線)はあらゆる物質に吸収されやすいため、膜が少しでも厚いと光が弱まり、生産効率(スループット)が落ちてしまいます。
- CNTの構造: 網目状のスカスカな構造をしているため、光を遮る面積が極限まで小さく、95%〜98%という驚異的な透過率を実現できます(現行のシリコン系は約80〜90%)。
- メリット: 光が強く届くため、短時間で多くのチップを製造できるようになります。
2. 驚異の「耐熱性」:1,000℃を超える過酷な環境
最先端の露光装置は、生産性を上げるために光の出力(ワット数)をどんどん上げています。
- 熱に強い: シリコン系は高出力の光を浴びると熱で歪んだり破損したりする限界がありますが、CNTは真空中で1,500℃近くまで耐えるほどの熱安定性を持っています。
- High-NA対応: 2nmプロセス以降で導入される「High-NA EUV」という次世代装置の強烈な光に耐えられる唯一の候補とされています。
3. 「物理的強度」と「軽さ」
ペリクルは、装置内で高速移動する際の振動や空気圧の変化に耐えなければなりません。
- 最強の素材: CNTはダイヤモンド以上の強度を持つと言われるほど頑丈でありながら、非常に軽いため、自重によるたわみが少なく、高速な動作にも耐えることができます。
VMTの利点
| 特性 | シリコンベース(現行) | CNT(次世代) |
| 透過率 | 普通(80%台) | 最高(95%超) |
| 耐熱限界 | 600W程度まで | 1,000W以上でも安定 |
| 主な用途 | 5nm / 3nm 量産 | 2nm / High-NA 次世代 |
三井化学はこのCNTペリクルの量産化で世界をリードしており、2025年〜2026年にかけての本格導入が期待されています。
この「CNTペリクル」が実用化されることで、iPhoneなどの最新スマホ向けチップがさらに高性能・省電力になる道が開けます。

カーボンナノチューブ(CNT)が使用される理由は、「究極の透過率」と「超耐熱性」の両立にあります。網目状の構造により、光を遮らず95%以上の高い透過率を実現。さらに、2nm世代以降の高出力なEUV光(1kW超)による1,000℃以上の熱にも耐えられるため、次世代の微細化に不可欠な素材とされています。
カーボンナノチューブが熱に強い理由は
カーボンナノチューブ(CNT)が熱に強い理由は、主に「原子同士の強固な結びつき」と「熱を逃がすスピードの速さ」にあります。
最先端の半導体露光装置(EUV)内では、光のエネルギーによってペリクルが1,000℃を超える高温にさらされますが、CNTは以下の仕組みでその過酷な環境に耐えています。
1. 結合が極めて強い(SP2結合)
CNTは炭素原子が六角形の網目状に並んだ構造をしていますが、この原子同士の結合(sp2結合)は、ダイヤモンドよりも強いと言われるほど強固です。
- 熱分解しにくい: この強い結合を断ち切るには膨大なエネルギーが必要なため、真空中で2,000℃〜3,000℃という超高温になっても構造が壊れず、溶けたり蒸発したりしません。
2. 熱伝導率が「銀」や「銅」よりも高い
CNTは、熱を伝える能力(熱伝導率)が極めて高い素材です。
- 熱を逃がす: 一箇所に熱が集中しても、瞬時に膜全体へ、そして周囲のフレームへと熱を逃がします。
- 仕組み: 炭素原子の非常に軽い振動(フォノン)が、遮られることなく超高速で伝わるため、効率的に冷却されます。
3. 圧倒的な「放射冷却」能力
真空中の露光装置内では「空気」がないため、風で冷やすことができません。熱を逃がすには、自ら赤外線を出して冷える「放射冷却」が重要です。
- 黒体放射: 炭素ベースのCNTは熱放射効率(放射率)が高く、熱を光として外部へ放出する能力に長けているため、温度上昇を自己抑制できます。
なぜEUV露光に最適なのか?
| 理由 | メリット |
| 強い結合 | 1,000℃超でも変形・破損しない |
| 高熱伝導 | 熱を溜め込まずに素早く逃がす |
| 高放射率 | 真空中で自ら熱を放出して冷える |
三井化学がこのCNTを採用するのは、2nm世代以降の「より強い光」に耐え、かつ「光を遮らない(薄くてスカスカ)」という、矛盾する条件を満たせる唯一の素材だからです。

カーボンナノチューブ(CNT)が熱に強い理由は、炭素同士の極めて強固な結合(sp2結合)にあります。この結合はダイヤモンドに匹敵する強さで、1,000℃を超える高温でも構造が壊れません。また、熱伝導率が銅の10倍以上と高く、受けた熱を瞬時に逃がせるため、局所的な加熱や変形を防げるのが大きな強みです。

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