長瀬産業のアジア地域における半導体用高純度化学品事業 どのような化学品を製造するのか?アジアに力を入れる理由は何か?

この記事で分かること

  • 製造する化学品:買収したSACHEM社の技術を活用し、主に半導体製造用のテトラメチルアンモニウムヒドロキシド(TMAH)を製造しています。
  • TMHAとは:半導体やディスプレイの現像液の主成分であり、スマートフォンやPCなどの電子機器普及による半導体需要の拡大で需要が増加しています。
  • アジアに力を入れる理由:アジアが半導体製造の中心地であり、世界的な電子機器需要やAI・5Gの技術発展に伴い、半導体の生産が急増しているためです。

長瀬産業のアジア地域における半導体用高純度化学品事業

 長瀬産業は、米国の化学メーカーであるSACHEM社から、アジア地域における半導体用高純度化学品事業を取得することで、高純度化学品事業の拡大を進めています。

 https://www.nikkan.co.jp/articles/view/00760512

 この買収は、同社の「中期経営計画ACE 2.0」における、半導体分野でのメーカー機能強化を具体化するものです。長瀬産業は単なる化学品商社から、半導体分野のソリューションプロバイダーへと進化していくことを目指しています。

どんな高純度化学品を製造するのか

 長瀬産業は、SACHEM社の買収によって、主に半導体製造プロセスで使用される高純度化学品を製造しています。具体的には以下の品目です。


高純度化学品の主な品目

  • テトラメチルアンモニウムヒドロキシド(TMAH): これは、半導体やフラットパネルディスプレイの製造工程で使用される現像液の主成分です。長瀬産業は、このTMAHの製造だけでなく、使用済みの現像液を回収し、再生・再利用する事業も行っています。これは、環境負荷の低減にも貢献する重要な事業です。
  • その他の高純度ケミカル: SACHEM社は、TMAH以外にも様々な高純度ケミカルを開発・製造しており、長瀬産業のポートフォリオに追加されました。これらの化学品は、半導体製造の前工程で使われることが多く、半導体材料メーカーとしての長瀬産業の事業領域を広げるものです。

 これらの高純度化学品は、半導体製品の歩留まりや性能に直接影響するため、非常に高い純度と厳格な品質管理が求められます。長瀬産業は、SACHEM社の技術を取り込むことで、これらの製品の製造・開発能力を強化し、次世代半導体向けの新素材開発にも取り組んでいます。

長瀬産業は、買収したSACHEM社の技術を活用し、主に半導体製造用のテトラメチルアンモニウムヒドロキシド(TMAH)を製造しています。TMAHは、半導体やディスプレイの現像液の主成分で、使用済み現像液の回収・再生事業も行っています。これらの高純度化学品で半導体製造に貢献します。

TMAHとは何か

 テトラメチルアンモニウムヒドロキシド(TMAH)は、有機の強アルカリ物質です。無色または白色の結晶性固体ですが、通常は水溶液として扱われます。


主な用途と特徴

  • 半導体やディスプレイの現像液: TMAHは、半導体の製造工程におけるフォトリソグラフィーで、ポジ型フォトレジストを溶解させる現像液の主成分として広く使われています。これは、TMAHが現像プロセスで重要な役割を果たすためです。
  • 高い純度: 半導体製造プロセスでは、微量な金属不純物でも製品の品質に悪影響を及ぼすため、極めて高い純度が求められます。TMAHは、その純度を維持したまま製造・供給されることが不可欠です。
  • 毒性と安全性: TMAHは毒物劇物取締法で毒物に指定されており、皮膚に触れるだけでも重篤な症状を引き起こす可能性があります。そのため、取り扱いには厳重な管理と安全対策が必要です。

 長瀬産業が拡大している事業は、この高純度なTMAHの製造・供給であり、さらに使用済みの現像液を回収・再生するプロセスも含まれています。

TMAHの需要増加の理由は

 テトラメチルアンモニウムヒドロキシド(TMAH)の需要が増加している主な理由は、半導体産業の急速な成長です。


需要増加の背景

 TMAHは、半導体やディスプレイ製造の鍵となる現像液の主成分であり、その需要は以下の要因によって大きく牽引されています。

  • デジタル機器の普及: スマートフォン、PC、タブレットなど、電子機器の生産が世界的に拡大しており、これらに不可欠な半導体チップの需要が飛躍的に伸びています。
  • 半導体技術の高度化: AI、IoT、5G、データセンターなどの分野で、より高性能で集積度の高い半導体が求められています。これに伴い、微細な回路を正確に形成するためのTMAHの需要が高まっています。
  • 新興市場での製造拡大: 特にアジア太平洋地域(中国、韓国、台湾など)では、半導体製造施設の投資が活発で、これがTMAHの消費量を押し上げています。
  • 再生可能エネルギー分野での利用: TMAHは、太陽光発電用の太陽電池セルの製造にも使用されており、再生可能エネルギーへの移行が需要をさらに後押ししています。

 これらの要因が複合的に作用し、高純度TMAHの市場は今後も拡大が予測されています。

スマートフォンやPCなどの電子機器普及による半導体需要の拡大が最大の理由です。特に、AIや5Gの技術発展で高性能半導体の製造が活発化しており、微細な回路形成に不可欠なTMAHの需要が増加しています。

TMAHによる現像の仕組みは

 テトラメチルアンモニウムヒドロキシド(TMAH)による現像は、主に半導体製造におけるフォトリソグラフィーというプロセスの一部です。このプロセスは、ウェーハ上に回路パターンを形成するために、感光性を持つ材料(フォトレジスト)を利用します。TMAHは、その中でも特にポジ型フォトレジストの現像液として機能します。

ポジ型フォトレジストの現像プロセス

  1. フォトレジストの塗布: まず、半導体ウェーハの上に液体のフォトレジストを均一に薄く塗布します。
  2. 露光: 次に、フォトマスクと呼ばれる原版を通して、紫外線などの光をウェーハに照射します。ポジ型レジストの場合、光が当たった部分だけが化学的に変化し、TMAHなどの現像液に溶けやすくなります。光が当たらなかった部分は変化しません。
  3. 現像: 光を当てたウェーハをTMAH水溶液に浸します。すると、光が当たって化学変化を起こした部分のフォトレジストがTMAHの強アルカリ性によって溶解・除去されます。光が当たらなかった部分のレジストは溶けずに残り、フォトマスクのパターンがウェーハ上に形成されます。

 このプロセスにより、ウェーハ上に微細な回路パターンが形成され、その後のエッチングなどの工程を経て、半導体チップが完成します。

 TMAHは、高い純度と安定したアルカリ性を持つため、微細な半導体回路の現像に不可欠な材料となっています。

テトラメチルアンモニウムヒドロキシド(TMAH)は、半導体製造で使われるポジ型フォトレジスト現像液です。紫外線が当たって化学変化したフォトレジスト部分を、TMAHの強アルカリ性で選択的に溶解・除去し、回路パターンを正確に形成する仕組みです。

アジア地域における半導体用高純度化学品事業に力を入れる理由は

 長瀬産業がアジア地域で半導体用高純度化学品事業に注力する理由は、アジアが世界の半導体サプライチェーンの中心地であり、今後も市場の拡大が見込まれるからです。特に、以下の3つの点が重要です。


1. アジアにおける生産拠点の集中

 アジアは、半導体製造の前工程(ウェハー製造)と後工程(組み立て・検査)の両方で世界の中心となっています。特に、台湾、韓国、中国といった地域には世界を代表する半導体ファウンドリ(受託製造メーカー)が集積しており、これらの企業は高純度化学品の主要な顧客です。

 また、近年ではマレーシアやベトナムなどの東南アジア諸国も、政府の支援策や地政学的な要因から、新たな製造拠点として台頭しています。長瀬産業は、これらの顧客に直接製品を供給することで、市場での存在感を高めようとしています。


2. 需要の継続的な増加

 AI、5G通信、IoT、データセンター、電気自動車(EV)といった次世代技術の発展は、高性能な半導体の需要を飛躍的に増加させています。

 これらの技術開発はアジア諸国が主導しており、それに伴い半導体製造に不可欠な高純度化学品への需要も継続的に増加しています。長瀬産業は、この成長市場に深く関与することで、収益機会を最大化することを目指しています。


3. サプライチェーンの再編とメーカー機能の強化

 近年の米中対立など地政学的なリスクの高まりにより、世界の半導体サプライチェーンは再編の動きが加速しています。

 この状況下で、各社は供給安定性の確保に注力しています。長瀬産業は、商社機能だけでなく、自社で製造・研究開発を行うメーカー機能を強化することで、顧客に安定供給と技術的ソリューションを同時に提供し、他社との差別化を図っています。

 SACHEM社のアジア事業買収は、この戦略を具体的に進めるための重要な一歩と言えます。

アジアが半導体製造の中心地であり、世界的な電子機器需要やAI・5Gの技術発展に伴い、半導体の生産が急増しているためです。これにより、製造に不可欠な高純度化学品の需要が継続的に拡大しており、この市場での事業を強化するためです。

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