この記事で分かること
- 地下への水供給による水素製造とは:地下に水を流して地層中の岩石と反応させることで水素を得る方法です。
- 利点:二酸化炭素の排出がない、持続的で低コストな水素源であり、他の資源との併用が可能などの利点があります。
- 課題:反応制御の難しさや水素の回収・分離の困難さなどの技術的課題だけでなく、コストや環境汚染や制度、法規制の不十分さなども課題となっています。
地下への水供給による水素製造へのNEDOの支援
新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が2025年度中に産業技術総合研究所などに地下に水を流して地層中の岩石と反応させ、人工的に水素を製造する手法開発への支援を始めることがニュースになっています。
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOSG15CMS0V10C25A4000000/
地層中で水素を発生させる化学反応を利用して、水素を効率よく回収できれば国産のエネルギー資源になると期待される。
地下への水供給による水素を製造する手法の利点は
地下に水を流して地層中の岩石(たとえば蛇紋岩など)と反応させて人工的に水素を生成する手法は、「天然水素(ナチュラル水素)」あるいは「地殻水素製造」として注目されています。この手法の主な利点は以下の通りです。
1. 二酸化炭素を排出しないクリーンな水素製造
- 岩石中の鉄やケイ素などと水が反応して水素が発生する天然の化学反応(例:蛇紋岩の水和)を利用するため、化石燃料を使わず、CO₂排出が原理的にゼロ。
2. 持続的な水素供給源になり得る
- 地下の岩石反応は地球内部で自然に進行するプロセスであり、適切な条件を維持できれば、長期間にわたる水素生成が期待できる。
3. 地熱エネルギーや他の地下資源との複合利用が可能
- 地熱発電と組み合わせることで、熱エネルギーや圧力も活用できる可能性があり、地域分散型の再生可能エネルギーとの統合が期待される。
4. 地下を利用するため、地上設備が少なくて済む
- 水素製造プロセスが地下で進行するため、大規模な地上施設を必要とせず、景観や土地利用への影響が比較的小さい。
5. 低コスト化の可能性
- 技術が確立すれば、従来の電気分解や化石燃料改質よりも安価に水素を得られる可能性があると期待されています(自然反応を利用するため)。

二酸化炭素の排出がない、持続的で低コストな水素源であり、他の資源との併用が可能などの利点があります。
課題はなにか
地下の岩石と水を反応させて水素を製造する手法には多くの利点がありますが、同時に以下のように技術的・経済的・環境的な課題も存在します。
1. 反応制御の難しさ
- 地下の地質条件(温度、圧力、岩石の種類)によって反応速度や水素生成量が大きく異なります。
- 蛇紋岩化反応(例:オリビン + 水 → 蛇紋石 + 水素)には数年〜数十年かかることもあり、水素生成速度が非常に遅い可能性があります。
2. 水素の回収・分離が困難
- 地下で発生した水素は周囲の岩石や地下水に溶解してしまうことが多く、回収効率が低い。
- 地下からの水素抽出技術(ガスリフト、真空抽出など)が未成熟。
3. 経済性の確立が不十分
- 反応促進や水素回収のための掘削・設備コストが高く、現時点では商業ベースでの採算性が不透明。
- 再現性のある大量生産が難しいため、スケールアップが困難。
4. 地質リスクと環境影響
- 地下への注水は地層を不安定にし、誘発地震や地下水汚染のリスクがある。
- 反応で生じる副産物(熱、化学物質)の影響評価が十分に行われていない。
5. 技術の未成熟と知見不足
- 世界的にも研究開発段階であり、信頼できるデータが少ない。
- 実証実験の件数も限られており、地理的条件に大きく依存する。
6. 制度・法規制の整備不足
- 地下資源開発に関する法律(鉱業法、水資源法など)との整合性が不十分。
- 水素が「鉱物資源」か「エネルギー資源」かによって扱いが変わり、制度的なグレーゾーンがある。

反応制御の難しさや水素の回収・分離の困難さなどの技術的課題だけでなく、コストや環境汚染や制度、法規制の不十分さなども課題となっています。
nedoとは何か
NEDO(ネド)は、日本の「新エネルギー・産業技術総合開発機構(New Energy and Industrial Technology Development Organization)」の略称です。経済産業省の所管のもとで活動する国立研究開発法人であり、日本の産業技術やエネルギー技術の研究開発を支援する中核的な機関です。
NEDOの概要
項目 | 内容 |
---|---|
正式名称 | 国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構 |
設立 | 1980年(旧:新エネルギー開発機構) |
所管 | 経済産業省 |
所在地 | 神奈川県川崎市 |
主な役割
- 研究開発の助成・委託
- 民間企業、大学、公的研究機関と連携し、最先端の技術開発を推進。
- 例:水素エネルギー、再生可能エネルギー、AI・ロボティクス、カーボンリサイクルなど。
- 実証プロジェクトの推進
- 国内外での技術の社会実装に向けた実証実験や設備導入の支援。
- 技術戦略の立案と政策支援
- 日本の産業競争力強化やエネルギー安全保障を目的に、中長期的な技術戦略を立案・提案。
- 国際連携
- 海外の研究機関や企業との共同開発、ODA(政府開発援助)事業なども支援。
対象分野の例
- 水素・燃料電池
- 蓄電池(リチウムイオンなど)
- 再生可能エネルギー(太陽光・風力・地熱など)
- カーボンニュートラル技術
- 次世代モビリティ・電動化
- AI・IoT・ロボット
NEDOは、技術的リスクが高いが将来性のある技術への資金支援や知見提供を通じて、企業の挑戦を後押ししています。企業や研究者がNEDOの公募に採択されると、研究費の支援だけでなく、プロジェクト管理や技術アドバイスも受けられます。

NEDOとは新エネルギー・産業技術総合開発機構の略で、日本の産業技術やエネルギー技術の研究開発を支援する中核的な機関です。
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