この記事で分かること
- 実質GDPとは:物価変動の影響を取り除き、国内で生産されたモノやサービスの「実質的な生産量」の合計額を表したい指標です。景気の成長率など、経済の実態を把握するために重視されます。
- マイナス成長の理由:米国関税の影響で自動車輸出が不振となったことと、法改正前の駆け込み需要による住宅投資の急減が主因です。この二つの反動減が経済成長を大きく下押ししました。
- 設備投資の状況:省力化・DX投資が堅調な企業収益を背景に設備投資が増加しました。今後は、構造的な人手不足や半導体投資により底堅く推移しますが、外需の不透明感は懸念材料です。
実質GDPのマイナス成長
2025年7-9月期の実質GDP(国内総生産)の速報値は、年率換算で1.8%のマイナス成長となりました。これは、6四半期(1年半)ぶりのマイナス成長です。
https://news.yahoo.co.jp/articles/85108b6ec326c73b7ece0c8f1753d74cc1c3e6e8
今回の減少幅は、民間予測(年率2.5%減など)と比べて小さかったものの、経済の減速を示す結果となりました。このGDPを受けて、政府は物価高騰対策などを盛り込んだ経済対策の準備を進めています。
実質GDP(国内総生産)とは何か
実質GDP(Real Gross Domestic Product)とは、物価変動の影響を取り除いて計算されたGDP(国内総生産)のことです。
GDPは、ある国で一定期間内に新しく生産されたモノやサービスの「付加価値」の合計額を示します。この付加価値を、その時の市場価格で計算したものが「名目GDP」です。
一方、「実質GDP」は、特定の年(基準年)の価格を基準として計算することで、物価の上昇や下落(インフレやデフレ)による金額の変化を除き、純粋に「生産量」がどれだけ増えたか(あるいは減ったか)を測る指標です。
名目GDPと実質GDPの違い
| 指標 | 意味 | 計算の基準 | 主な用途 |
| 名目GDP | その時の価格で評価した付加価値の合計。 | その年の市場価格 | 経済の規模を示す。 |
| 実質GDP | 物価変動の影響を取り除いて評価した付加価値の合計。 | 基準年の価格 | 経済の成長率や景気動向を判断する。 |
名目GDPと実質GDPの違いの例
- ある年、パンの生産量が変わらないのに、物価が2倍になってパンの値段が2倍になったとします。
- この場合、名目GDPは単純に2倍になりますが、生産量は増えていないので経済が成長したとは言えません。
- これに対し、実質GDPは物価上昇分を調整するため、数値は変わらず、経済の実態を正確に示します。
景気が実際にどれだけ良くなったか、経済がどれだけ成長したかを見る(経済成長率を計算する)際には、物価の影響を除いた実質GDPが重視されます。

物価変動の影響を取り除き、国内で生産されたモノやサービスの「実質的な生産量」の合計額を表します。景気の成長率など、経済の実態を把握するために重視されます。
6四半期(1年半)ぶりのマイナス成長となった理由は何か
6四半期(1年半)ぶりのマイナス成長となった主な理由は、輸出(外需)の不振と住宅投資の急減(内需)という二つの要因によるものです。これらはいずれも、以下に示すように前の四半期に発生した特殊要因の「反動減」が大きく影響しています。
1. 輸出の不振(外需のマイナス寄与)
- 米国関税の影響の本格化:
- 米国による自動車への追加関税(トランプ関税)が4月に発動されましたが、その影響が7月以降に本格化し、米国向け自動車の輸出が大幅に減少しました。
- 関税導入前の「駆け込み需要」で前期に輸出が増加していたため、その反動減も重なりました。
- 訪日外国人消費(インバウンド)の減少:
- サービス輸出に分類される訪日観光客による消費(インバウンド需要)も減少しました。
- これは、特定地域からの渡航自粛要請や、災害報道などによる影響が出たためです。
2. 住宅投資の急減
- 法改正前の駆け込み需要の反動:
- 2025年4月に改正建築物省エネ法・建築基準法が施行され、省エネ基準の適合義務化などが厳格化されました。
- これを見越した駆け込み着工が3月に急増し、その着工分が前期(4-6月期)のGDP統計上の住宅投資を押し上げました。
- その結果、7-9月期は、その反動減が一気に顕在化し、住宅投資が大きくマイナスとなりました。
その他の項目の動向
- 個人消費(前期比微増): GDPの過半を占める個人消費はかろうじてプラスを維持しましたが、物価高騰の影響や節約志向から伸びは大きく鈍化しました。
- 設備投資(前期比増): 企業収益は底堅いものの、増加幅は一服しました。
このように、今回のマイナス成長は、主に特殊な要因による反動と、米国関税という外的要因が重なった結果と言えます。

米国関税の影響で自動車輸出が不振となったことと、法改正前の駆け込み需要による住宅投資の急減が主因です。この二つの反動減が経済成長を大きく下押ししました。
今後の見通しはどうか
今回のマイナス成長は、主に住宅投資の反動減や輸出の特殊要因が重なった結果であるため、多くのエコノミストは、景気がこのまま腰折れすることはないと見ています。しかし、景気回復の勢いは鈍く、先行きには複数の懸念材料が存在しています。
1. 景気の基調:緩やかなプラス成長への回帰を予想
- 反動減の解消: 住宅投資の急減や、前期の駆け込み輸出の反動などの一時的な下押し要因が解消されるため、2025年10-12月期は小幅ながらプラス成長に戻ると予測されています。
- 内需の底堅さ:
- 個人消費は、物価高騰の影響が残るものの、賃上げや政府の経済対策(給付金支給など)の効果で徐々に持ち直すと見られています。
- 設備投資は、省力化や情報化へのニーズが依然として強く、底堅く推移すると期待されています。
2. 懸念材料:外需(輸出)と政策対応
- 米国関税の影響の長期化:
- 自動車への関税引き上げの影響は今後も残り、輸出の足を引っ張る主要因となる可能性があります。特に、米国経済が予想より早く減速した場合、輸出の失速リスクは高まります。
- 個人消費の力強さ:
- 物価高が続き、実質賃金が十分に回復しない場合、個人消費の伸びが想定より鈍化し、景気回復の勢いを弱める可能性があります。
- 政府の経済対策:
- GDPのマイナス成長を受け、政府は経済対策の検討を加速させると見られています。その規模や内容が、今後の景気回復を左右する重要な要素となります。
3. 年間見通し
多くのシンクタンクは、2025年度の実質GDP成長率を+0.7%〜+1.0%程度と、潜在成長率(1%前後)に近い水準を見込んでおり、景気は緩やかな回復基調を維持すると予測しています。

一時的な反動要因が解消され、緩やかなプラス成長へ回帰する見通しです。しかし、米国関税による輸出の不振が続く懸念や、物価高騰による個人消費の伸び悩みが景気回復の勢いを鈍化させる可能性があります。
設備投資の増加理由と今後の見通しはどうか
企業による設備投資は、2025年7-9月期の実質GDPでは前期比1.0%増と、マイナス成長となった経済全体を支える形となりました。
設備投資が増加した理由
企業の設備投資が増加している主な理由は、以下の通りです。
- 人手不足への対応(省力化・合理化投資)
- 日本経済全体で人手不足が深刻化しているため、企業は生産性を高めることが急務となっています。
- このため、IoT、AI、ロボットなどのデジタル技術を活用した省力化・自動化のための投資が、業種を問わず積極的に進められています。
- 特に、労働集約型産業が多い非製造業でも、合理化・省力化は不可欠とされており、この種の投資が増えています。
- 企業業績の底堅さ
- 全体の景気は足踏みしていますが、企業収益は比較的堅調に推移しており、投資を行うための原資(資金)が確保できていることが背景にあります。
- 情報化・デジタル化への対応
- 企業の競争力を維持・強化するため、クラウドサービスの導入やDX(デジタルトランスフォーメーション)に関連するIT投資が続いています。
今後の見通し
設備投資は、今後も景気回復を支える重要な柱として、底堅く推移すると見込まれていますが、先行きには不透明感も残ります。
1. 堅調に推移する要因
- 構造的な人手不足: 日本の少子高齢化は不可逆的な問題であり、今後も人手不足を解消するための省力化投資のニーズは非常に高い水準で続くと予想されます。
- 半導体関連の投資: AIサーバー向けの需要増や、国内での半導体工場建設など、ハイテク分野での大規模投資が引き続き設備投資全体を押し上げると予測されています。
- 政府の支援: 中小企業省力化投資補助金など、政府による生産性向上に向けた投資支援策も、企業の投資意欲を下支えします。
2. 懸念材料
- 先行きの不透明感: 米国関税政策の影響や、世界経済の減速懸念など、外需の不透明感が高まると、企業が投資計画を一時的に見送る可能性があります。
- 投資コストの上昇: 原材料費や建設コストの高騰、金利の動向などが、設備投資の実行を妨げる要因となる可能性もあります。
総合的に見ると、一時的な景気の波に左右されつつも、構造的な課題解決(人手不足、DX)に向けた投資が中心となり、設備投資は引き続き増加傾向で推移すると予測されています。

人手不足に対応する省力化・DX投資が堅調な企業収益を背景に増加しました。今後は、構造的な人手不足や半導体投資により底堅く推移しますが、外需の不透明感は懸念材料です。

コメント