日本電気硝子の超薄板ガラス 曲げ性に優れる理由は?薄さと平滑性の両立方法は?

この記事で分かること

  • 曲げ性に優れる理由:「薄さ」「均一性」「表面品質」「化学強化」「材料設計」の5つの技術が相まって、優れた曲げ特性を持っています。
  • 薄さと平滑性の両立方法:フュージョンドロー法による高精度引き伸ばし、「平滑性」は空気や装置との接触を避けた製法+材料設計によって、薄さと平滑性を両立しています。

日本電気硝子の超薄板ガラス

 日本電気硝子(NEG)の超薄板ガラス「Dinorex UTG®」が、米モトローラ・モビリティの折り畳みスマートフォン「モトローラレイザー60シリーズ」に採用されことがニュースになっています。

 https://news.yahoo.co.jp/articles/d4ecd538ab00101d2764bebf41b0d78cc416932a

 厚さ数十マイクロメートル(マイクロは100万分の1)で20万回の折り曲げ試験に耐えられる信頼性の高さが評価されたとしています。

Dinorex UTGとは何か

 Dinorex UTGは日本電気硝子がフォルダブルディスプレイ向けに開発した化学強化専用の超薄板ガラスです。その特長として、以下が挙げられます。

  • 高い表面平滑性と均一な板厚により、優れた曲げ特性を実現
  • ガラス特有の高級感とクリアな透明度を提供
  • 樹脂製カバーガラスに比べて、傷つきにくく、変色しにくい

日本電気硝子とはどんな会社か

 日本電気硝子は、特殊ガラスを専門に製造・開発している日本の大手ガラスメーカーです。

基本情報

  • 設立:1949年
  • 本社所在地:滋賀県大津市
  • 上場:東京証券取引所 プライム市場(証券コード:5214)
  • 主な事業:特殊ガラスの製造・販売
  • 従業員数:約5,000人(連結)

事業分野

NEGは、「特殊ガラス」に特化しており、以下の分野で世界的に高いシェアを持っています:

  1. 電子デバイス用ガラス:
    • 液晶ディスプレイ(LCD)用ガラス基板
    • 有機ELディスプレイ用ガラス
    • フォルダブルスマホ向け超薄板ガラス(Dinorex UTG®)
  2. 光通信・半導体関連:
    • 光ファイバー用ガラス部品
    • フォトマスク基板
  3. 医療・産業用:
    • 医薬品容器用ガラス(バイアル、アンプルなど)
    • ランプ・照明用ガラス
    • 高耐熱ガラス(理化学・産業用)
  4. 車載・建築用途:
    • 車載ディスプレイガラス
    • ヘッドアップディスプレイ(HUD)用ガラス
    • 建材用ガラス(防火・断熱)

強みと特長

  • 技術力:ガラスの成分設計から製造プロセス(例:フュージョンドロー法)まで一貫して開発できる体制を持つ。
  • グローバル展開:アジア、北米、ヨーロッパなどに製造・販売拠点を展開。
  • ニッチ市場での世界的シェア:テレビ用・医療用・車載用など特定分野では世界トップクラス。

近年の動向

  • 折りたたみスマホの急成長に伴い、「Dinorex UTG®」が注目を集め、モトローラのrazrシリーズに採用。
  • 次世代ディスプレイ(マイクロLED、OLED)向けガラスにも注力。
  • カーボンニュートラル対応として、ガラス製造工程の脱炭素化にも取り組み中。

日本電気硝子は、一般的な「窓ガラス」ではなく、高機能で用途が限定された「特殊ガラス」の分野で世界をリードする企業です。ディスプレイ、医療、車載など、今後も成長が期待される分野に深く関わっています。

曲げ特性に優れる理由は何か

日本電気硝子の超薄板ガラス「Dinorex UTG®」が曲げ特性に優れる理由は、主に以下の技術的要素に基づきます。

1. 極限まで薄く均一な板厚
  •  厚さは数十マイクロメートル(μm)という非常に薄いレベルに制御されています。
  •  薄いほど、素材は屈曲に対する柔軟性が増し、折り曲げ時の応力が分散されやすくなります。
2. 高い表面平滑性
  •  表面が非常に滑らかで、微細な欠陥が少ないため、曲げ時に局所的な応力集中が起こりにくい。
  •  これにより、ガラスが破損するリスクが低減します。
3. 化学強化処理(イオン交換)
  •  ナトリウムイオンをカリウムイオンに置き換えることで、表面に強い圧縮応力層を形成。この圧縮応力により、割れに対する耐性が飛躍的に向上し、折り曲げ時でも亀裂の進展を防ぎます。
4. ガラス組成の最適設計
  •  特定のガラス材料組成(例:アルミノシリケート系など)により、可撓性(しなやかさ)と強度のバランスを実現。フレキシブル用途向けに最適化されており、破断しにくくなっています。

「薄さ」「均一性」「表面品質」「化学強化」「材料設計」の5つの技術が相まって、優れた曲げ特性を持っています。

なぜ、カリウムイオンに置き換えるのか

 カリウムイオンへの置き換え(化学強化)とは、ガラス表面に「圧縮応力層」を形成するための処理であり、ガラスの割れにくさ(機械的強度)や曲げ特性を大きく向上させる技術です。以下で詳しく説明します。

■ 仕組み

 イオン交換による化学強化

  • 1. 素材のガラス( 通常はナトリウムイオン Na⁺ を含む)を、カリウムイオン(K⁺)の溶融塩に浸す→ 例:KNO₃ 溶融浴に数時間〜十数時間処理
  • 2. Na⁺よりも大きなK⁺が、ガラス表面近くのNa⁺と入れ替わる(イオン交換)
  • 3. K⁺はNa⁺より直径が約30%大きいため、ガラス表面の構造を内側から圧縮する力が生まれる

■ 効果 

 圧縮応力層の形成カリウムイオンが「押し広げようとする力」を発生させることで、ガラス表面に圧縮応力が発生。ガラスが外部からの力で引っ張られても、この圧縮応力がクラックの進展を抑えるため、割れにくくなる。

カリウムイオンへの置き換えによって、表面の圧縮応力により亀裂が起きにくくなる、微細なクラックの進展を抑え、柔軟性が向上 耐衝撃性、表面が硬くなるなどの利点があります。

薄さと平滑性を両立できる理由は

 日本電気硝子の「Dinorex UTG®」のような超薄板ガラスが、極めて薄く、かつ高い平滑性を実現できる理由は、製造プロセスと材料技術の両面にあります。

1. 製造方法:フュージョンドロー法(Fusion Draw Process)

この方法が「薄さ」と「平滑性」を両立する鍵です。

● 仕組み

 ガラス原料を溶かし、2つの面から中央に流し込み、垂直に引き下ろして板状に成形する。ガラスは空気に触れずに“自然に融合”しながら下に伸ばされるため、両面とも極めて平滑になります。

●特長
項目内容
極薄化数十μm(例:30μm〜)まで制御可能
高平滑性研磨なしで原子レベルの滑らかさを実現
クリーン性空気やロールに触れないため異物混入が少ない

2. 材料制御と溶融技術の高度化 

 ガラスの粘性・表面張力・成分分布などを精密にコントロールすることで、安定して極薄を引き出せる。

日本電気硝子は長年のテレビ用・ディスプレイ用ガラス開発で、この制御技術を高めてきました。

 3. 無研磨仕上げ(ポリッシュレス)

  • 通常のガラスは研磨で平滑性を出しますが、「Dinorex UTG®」は製造段階で既に高平滑性を持つため、追加加工が不要。
  • これによりコスト・傷リスク・表面ダメージを最小化。

4. 極薄でも破損しにくいガラス設計

  • 高純度で均一な組成と微細構造により、ガラスが薄くてもひずみ・ゆがみが少なく、均質に引き延ばせる。
  • 曲げ応力が集中しにくい=高信頼性につながります。

フュージョンドロー法による高精度引き伸ばし、「平滑性」は空気や装置との接触を避けた製法+材料設計によって、薄さと平滑性を両立しています。

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