この記事で分かること
- 撮像方法:ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡とハッブル望遠鏡の組み合わせることで撮像を行いました。
- ラグランジュ点とは:重力と遠心力が釣り合って地球と一緒に回りつづけることが可能な点です。宇宙空間でありながら、安定可能なため、エネルギー消費を少なくして、観測などが可能です。
- 赤方偏移とは:赤方偏移は天体から出た光が、地球に届くまでに波長が伸びて赤っぽく見える現象で、その度合いから宇宙の年齢や膨張速度の産出、太陽系外惑星の検出などに利用されます。
海王星のオーロラ
米航空宇宙局(NASA)のジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡が、海王星のオーロラを撮像することに成功したことがニュースになっています。
海王星にもオーロラがあることが分かっていましたが、海王星のオーロラは淡く、可視光ではなく、紫外線であるなどの理由から観測、撮像が難しかったのですが、今回、ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡とハッブル望遠鏡の組み合わせによって、観察、撮像することに成功しています。
ジェームズウェッブ望遠鏡とは何か
ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)とは?
- 正式名称:James Webb Space Telescope
- 打ち上げ:2021年12月25日(アリアン5ロケットで打ち上げ)
- 運用開始:2022年ごろから本格的な観測スタート
- 位置:地球から約150万km離れたラグランジュ点(L2)に配置されている
- 目的:宇宙の最初の星や銀河の誕生、太陽系外惑星(エクソプラネット)の大気の成分解析、星と惑星の形成過程の研究など
特徴
- 巨大な鏡:直径6.5メートルの主鏡(18枚の六角形ミラーでできている)。ハッブル宇宙望遠鏡(2.4m)より圧倒的に大きくなっています。
- 観測波長:主に赤外線
→ 宇宙の遠い・古い天体(つまりビッグバンに近い時代の光)は赤方偏移で赤外線になっているので、赤外線が見えるJWSTは最適です。 - 高性能冷却:ミラーや観測機器を-233℃以下に冷却して、余計な赤外線ノイズを抑えています。
- 巨大なサンシールド:テニスコートサイズの5層の「サンシールド」で太陽光・地球光・月光を防ぎ、冷却をサポートしています。
主な成果(2024年現在)
- 最も古い銀河を発見
→ ビッグバンからたった数億年後にできた銀河を撮影できました。 - 太陽系外惑星の大気観測
→ 水蒸気、二酸化炭素、メタンなどの検出に成功。生命探査に大きな一歩となっています。 - 星形成領域の超詳細な画像取得
→ たとえば「カリーナ星雲」や「オリオン大星雲」などで、これまで見えなかった星の誕生現場を超高精細に捉えています。 - 黒穴まわりの動きを観測
→ 銀河中心の超巨大ブラックホールの周辺ガスの流れを赤外線で解析しました。

ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡は直径6.5メートルの主鏡などからなる巨大な望遠鏡であり、赤外線を観測することができることもあり、宇宙の遠い・古い天体を観測するために適しています。
ラグランジュ点とは何か
ラグランジュ点とは、重力と遠心力が釣り合って、宇宙にモノを置いても安定して動き続ける特別なポイントのことです。
たとえば「地球と太陽」のペアには5つのラグランジュ点(L1〜L5)があります。
5つのラグランジュ点の特徴
- L1:
地球と太陽を結ぶ直線上で、地球より太陽に近い場所です。
→ 太陽をずっと観測するのに便利(例:SOHO探査機) - L2:
地球と太陽を結ぶ直線上で、地球の外側(太陽から見て地球の裏側)。
→ ジェームズ・ウェッブ望遠鏡(JWST)はここにあります。 - L3:
太陽を挟んで地球のちょうど反対側。
→ SFでは「反地球」なんて設定に使われるけど、現実にはちょっと不安定です。 - L4・L5:
地球と太陽を結ぶ線を底辺とする正三角形の頂点にある2か所。
→ すごく安定していて、ちりや小惑星(トロヤ群)がたまってたりする。
なんで「止まれる」のか
普通なら、宇宙にモノを置いたら動いてしまいますが、
- 太陽の重力
- 地球の重力
- そして、モノ自身の公転による遠心力
がちょうどバランスするから、「そこにいるだけで地球と一緒に回ることが可能」です。つまり、地球に相対的に止まったままのように見えます。
ラグランジュ点の活用例
- L1:太陽観測(太陽嵐をいち早く検知できる)
- L2:深宇宙観測(宇宙望遠鏡の拠点に最適)
- L4・L5:小惑星やダストの探査
ちょっと面白い話

ラグランジュ点とは、重力と遠心力が釣り合って地球と一緒に回りつづけることが可能な点です。宇宙空間でありながら、安定可能なため、エネルギー消費を少なくして、観測などが可能です。
赤方偏移とはなにか
赤方偏移は簡単に言うと、天体から出た光が、地球に届くまでに波長が伸びて「赤っぽく」見える現象のことです。
光には波(波長)があって、波長が長くなると「赤い色」、短くなると「青い色」に見えます。そのため、波長が伸びる=赤にずれるから「赤方偏移」と呼ばれています。
なぜ波長が伸びるのか
主に以下の3つの理由で波長が伸びています。
- 宇宙の膨張による赤方偏移(コスモロジカル・レッドシフト)
→ 宇宙自体がどんどん膨らんでいるので、天体から出た光も一緒に伸びてしまう。
→ 遠くの銀河ほど強く赤方偏移している(=昔の光を見てることになる)。 - 運動による赤方偏移(ドップラー効果)
→ 天体が私たちから遠ざかっていると、光が引き伸ばされて赤方偏移する。
(逆に近づいてくると青方偏移) - 重力による赤方偏移(重力レッドシフト)
→ 強い重力場(たとえばブラックホールの近く)では、脱出する光がエネルギーを失って波長が伸び、赤方偏移する。
どんなふうに使われているのか
- 宇宙の年齢を測る
→ 遠くの銀河の赤方偏移の度合いから、ビッグバンからどれくらい経ったか推測できる。 - 宇宙の膨張速度(ハッブル定数)を測る
→ 銀河の距離と赤方偏移をセットで測ると、宇宙の膨張の速さがわかる。 - 太陽系外惑星の検出
→ 恒星の光のわずかな赤方・青方偏移から、周りを回る惑星の存在を間接的に見つける。
要するに
赤方偏移は、宇宙の「広がり」や「時間の流れ」を測るための宇宙のタイムマシンみたいなものなんだ!

赤方偏移は天体から出た光が、地球に届くまでに波長が伸びて赤っぽく見える現象で、その度合いから宇宙の年齢や膨張速度の産出、太陽系外惑星の検出などに利用されます。
大気の成分はどうやって解析するのか
基本的には、星の光が惑星の大気を通るとき、その大気の「成分ごと」に光が吸収されるという現象を利用して、大気の成分を調べています。
具体的な方法
1. トランジット法(通過観測)
- 惑星が恒星の前を通過するとき、星の光の一部が惑星の大気を通過する。
- このとき、大気中の特定の分子(例えば水蒸気、二酸化炭素、メタンなど)が、特定の波長の光を吸収します。
- これを観測して、どの波長がどれだけ弱くなっているかを見ると、大気の成分がわかります
これを「透過スペクトル(transmission spectrum)」と呼びます。
2. エミッション・スペクトル
- 惑星が恒星の後ろに隠れる前後で、惑星自身の赤外線放射を観測する方法です。
- 特に赤外線で、大気の温度や成分を推測できます。
- これで「昼夜の温度差」や「熱の分布」まで分かることもあります。
3. 反射光スペクトル
- 恒星の光を反射した惑星の光を直接観測して、そこから大気成分を読み取る方法。
- ただしこれは、非常に難しい方法です。(惑星は暗くて小さいから、星の光に埋もれてしまう)
どんな成分を検出するのか
- 水蒸気(H₂O)
- 二酸化炭素(CO₂)
- メタン(CH₄)
- 酸素(O₂)
- オゾン(O₃)
- ナトリウム(Na)やカリウム(K) などの金属成分
などが、特徴的な吸収ライン(吸収する波長)を持っています。
どうやって波長の違いを測るの?
分光器(スペクトログラフ)を利用して測定を行います。分光器は、入ってきた光を「プリズム」みたいに波長ごとに分けて、どの波長が強いか弱いかを超細かく測れる装置です。
ジェームズ・ウェッブ望遠鏡(JWST)には、赤外線用の高性能な分光器(NIRSpec、MIRIなど)が搭載されています。
まとめ
かなり小さな違いを超高感度で測らないといけないので、ハイレベルな技術が必要。
星の光+惑星の大気+分光器=大気成分がわかる!
特定の分子は特定の波長の光を吸収するから、それを「指紋」のように探す。

特定の分子は特定の波長の光を吸収するため、それを探すことで、大気成分を測定しています。
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