ラムリサーチの新規成膜装置 成膜装置とは何か?新装置の特徴は何か?

この記事で分かること

  • 成膜装置とは:シリコンウェーハなどの基板表面に、絶縁膜や配線膜など、電子回路を構成する原子レベルで極めて薄い膜(薄膜)を堆積させるための装置です。半導体製造の最も重要な工程の一つを担います。
  • 新装置の特徴:AIチップ向けの高反りウェーハ対応が最大の特徴です。独自のクランプ技術で3D ICの反りを処理しつつ、最大60µmの超厚膜絶縁膜を高品質・ボイドフリーで堆積できます。また、生産性も68%向上しています。
  • 処理条件で応力を改善できる理由:処理条件が、膜の原子構造や緻密性(ボイドの有無)を左右するからです。これにより、膜内部の歪み(固有応力)が変化し調整できます。

ラムリサーチの新規成膜装置

ラムリサーチは、先端半導体パッケージ向けに成膜装置を製品化しました。

 https://news.mynavi.jp/techplus/article/20251024-3580328/

この新しい成膜装置は、特に3次元積層(3D IC)にともなうウエハーのゆがみや反りに対応できるように設計されている点が特徴で、集積回路の高性能化・小型化に不可欠な先端パッケージング技術の需要増大に対応するための製品です。

成膜工程についての記事はこちら

成膜装置とはになにか

 成膜装置とは、シリコンウェーハなどの基板表面に、原子レベルで非常に薄い膜(薄膜)を形成(堆積)させるための装置の総称です。

 この薄膜は、半導体製造プロセスにおいて、回路を構成するための配線膜、素子同士を電気的に隔てる絶縁膜、トランジスタの機能を左右する半導体膜など、さまざまな機能を持たせるために極めて重要な役割を果たします。


成膜装置の必要性と役割

 大規模集積回路(LSI)などの半導体デバイスは、シリコンウェーハ上にこれらの多種多様な薄膜を何層にも精密に積み重ねることで、複雑な電子回路が構成されています。

  • 役割の例:
    • 電気的な絶縁: 酸化膜(SiO2など)を形成し、配線や素子間のショートを防ぎます。
    • 電気の伝導: 金属膜(銅やアルミニウムなど)を形成し、電子を流す配線として機能させます。
    • 半導体の機能: ポリシリコン膜などを形成し、トランジスタのスイッチング機能の基礎となる部分を作ります。

 これらの膜は、その厚みや均一性が半導体の性能や品質(歩留まり)に直結するため、原子レベルの精度で制御できる専用の装置が必要です。


代表的な成膜方法(装置の種類)

 成膜装置は、薄膜を形成する原理によっていくつかの種類に分類され、目的とする膜の種類や性質に応じて使い分けられます。

成膜方法原理特徴・用途
CVD (化学気相成長)原料ガスを導入し、プラズマなどのエネルギーで化学反応を起こさせ、生成物を基板上に堆積させる。3次元的な凹凸(トレンチなど)にも比較的均一に成膜しやすい。絶縁膜、半導体膜、一部の金属膜などに広く使われる。
PVD (物理気相成長)固体材料(ターゲット)を物理的に気化・昇華させ、その粒子を基板上に付着・堆積させる。
 ・スパッタリングアルゴンなどのイオンをターゲットに衝突させて原子を叩き出し、基板に付着させる。金属膜(配線)の形成などに適している。
 ・真空蒸着真空中で材料を加熱・気化させ、蒸気を冷却して堆積させる。
ALD (原子層堆積)2種類以上の原料ガスを交互に供給し、原子1層ずつを化学吸着と反応で精密に積み重ねていく。原子レベルで厚みや均一性を制御でき、非常に緻密な膜が必要な最先端プロセスで注目されている。
熱酸化法高温の炉内でウェーハに酸素ガスや水蒸気を送り込み、ウェーハ自身の表面を化学反応で酸化させて絶縁膜を形成する。高品質な絶縁膜が得られる。

成膜装置は、シリコンウェーハなどの基板表面に、絶縁膜配線膜など、電子回路を構成する原子レベルで極めて薄い膜(薄膜)を堆積させるための装置です。半導体製造の最も重要な工程の一つを担います。

3次元積層に必要な成膜装置の技術はなにか

 3次元積層(3D IC)に必要とされる成膜装置の主要な技術と、それに関連する課題は多岐にわたります。

 ラムリサーチが製品化した装置(VECTOR TEOS 3D)が解決を目指しているように、特に重要なのは以下の2点です。


1. 原子レベルの精密な成膜技術

 3D ICでは、複数のチップを縦に積み重ね、それらをTSV(Through-Silicon Via:シリコン貫通電極)などの微細な配線で接続します。この構造は非常に微細で深いため、膜を隅々まで均一に、かつ欠陥なく形成する必要があります。

  • ALD (Atomic Layer Deposition: 原子層堆積)
    • 特徴: 原料ガスを交互に供給し、原子1層ずつ化学反応で精密に積み重ねていく技術です。
    • 重要性: 高いアスペクト比(深くて細い穴や溝)を持つTSVの内壁など、凹凸の激しい部分に対しても、極めて均一(ステップカバレッジが良好)緻密な(ピンホールのない)膜を形成するのに不可欠です。
  • 高性能CVD (Chemical Vapor Deposition: 化学気相成長):
    • 特徴: ALDほどではないものの、熱やプラズマを利用して化学反応で膜を形成します。
    • 重要性: 絶縁膜やバルク充填膜など、大面積に均一かつ高速で成膜したい場合に利用されますが、3D構造に対応するためには、従来のCVDよりも高い膜厚制御性均一性が求められます。

2. 膜応力(反り)の制御技術

 チップを積み重ねたり、微細な配線層を何層も形成したりする際、異なる素材(シリコン、金属、絶縁膜など)の熱膨張率の違いや、成膜時に生じる膜の内部応力によって、ウェーハ全体にゆがみや反りが発生します。

  • 応力制御成膜技術 :
    • 重要性: ラムリサーチの新装置が特に対処している最大の課題がこれです。ウェーハが反ると、その後の露光(パターニング)工程でピントが合わなくなったり、微小な亀裂(クラック)が発生したりして、製品の歩留まりが大きく低下します。
    • 成膜装置は、プロセスガスや温度、プラズマといった条件を精密に制御することで、引張応力(Tensile Stress)圧縮応力(Compressive Stress)の大きさを意図的に調整し、ウェーハ全体の反りを最小限に抑える技術が必要です。

 これらの技術により、3D ICの複雑で微細な構造に対応しつつ、製造時の歩留まりを確保することが可能になります。

3次元積層には、原子層堆積(ALD)などによる高アスペクト比構造への均一な成膜技術と、膜応力を精密に制御し、ウェーハの反りを防ぐ技術が不可欠です。

なぜ処理条件で応力を調整できるのか

 成膜プロセスにおいて、処理条件(温度、圧力、ガス流量、プラズマパワーなど)を調整することで膜の応力を制御できるのは、応力の大部分が薄膜が成長する過程(固有応力)成膜後の冷却過程(熱応力)で決まるからです。

 特に、原子や分子がどのように基板表面に付着し、膜を形成していくかのミクロな構造緻密性を、処理条件が直接コントロールしています。


1. 固有応力(成長応力)の制御メカニズム

 固有応力は、成膜プロセスそのものによって薄膜内部に生じる応力です。これは処理条件によって大きく左右されます。

制御要因応力への影響メカニズム
プラズマパワー / イオン衝撃圧縮応力を増大させる傾向。プラズマ中の高エネルギーイオンが成長中の膜表面に衝突(イオンボンバードメント)し、原子を押し込むため、膜の内部に圧縮性の歪みが生まれます。
成膜温度引張応力圧縮応力のバランスに影響。成長中の原子の表面移動度が変化します。一般に低温では原子の移動が不十分で、膜内にボイド(空隙)が生じやすくなり、これが引張応力の原因となります。
ガス流量 / 圧力膜の緻密性に影響。ガス圧が高いと、原子の衝突回数が増え、膜の緻密性が変わることで応力が変化します。また、原料ガス比率を変えることで、膜の組成(例:SiN)が変わり、組成変化による内部応力が発生します。

調整の例 (プラズマCVD)

 プラズマCVD装置では、RF電源の周波数基板バイアス電圧を調整し、イオンのエネルギーを細かく制御することで、膜内部の圧縮応力と引張応力のバランスをリニア(線形的)に調整することが可能です。


2. 熱応力の調整

 熱応力は、成膜後の冷却時に、薄膜と基板の熱膨張係数の差によって生じる応力です。成膜温度自体を変えることや成膜後のアニール(熱処理)を加えることで残留応力を緩和させたりして、最終的な熱応力を調整します。

 ただし、3D ICのように熱に弱い構造が増えている場合、成膜温度を下げることが求められるため、固有応力の制御がより重要になります。

膜の応力は、成膜時の温度プラズマ/イオン衝撃といった処理条件が、膜の原子構造や緻密性(ボイドの有無)を左右するからです。これにより、膜内部の歪み(固有応力)が変化し調整できます。

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