この記事で分かること
- 国内供給に切り替える理由:オランダ政府が安全保障を理由に経営権を親会社(中国企業)から剥奪したことによる激しい対立があります。本社側が中国工場への供給を止めたため、同法人は自社グループを含む国内企業(Wingsky Semi等)から代替供給網を確保し、生産ラインの停止とEV向け等の顧客離れを防ぐ必要がありました。
- 性能差:基本的な性能は中国勢も世界水準に達していますが、過酷な環境で長期間使用する「車載用」としての信頼性や実績には依然として差があります。また、欧州本社が品質保証を拒否している点も大きなリスク(差)となっています。
Nexperiaの中国国内でのシリコンウエハー供給
オランダに本拠を置く半導体大手Nexperiaは親会社(欧州側)からの供給停止を受け、2026年までの生産分をカバーするシリコンウエハーを中国国内企業から確保したと報道されています。
https://jp.reuters.com/markets/global-markets/23FNU33J35KZFBAA2MFQSOYKCM-2025-12-19/
この国内調達への切り替えにより、中国法人は欧州本社からの制約を受けずに生産を継続できる体制を整えたことになります。しかし、特許権やブランド名の使用を巡る法廷闘争が続いており、2026年に向けて企業自体が完全に分離・解体されるかどうかが焦点となっています。
中国国内企業から確保に切り替えた理由は何か
Nexperia中国法人が、シリコンウエハーの調達先を中国国内企業へ切り替えた理由は、一言で言えば「欧州本社(オランダ)からの原料供給が完全に遮断され、存続の危機に陥ったから」です。
この背景には、単なるビジネス上のトラブルを超えた、国家間の対立と経営権を巡る泥沼の争いがあります。主な理由は以下の3点に集約されます。
1. オランダ政府による「事実上の接収」と供給停止
2025年9月、オランダ政府は経済安全保障上の懸念(技術流出の恐れ)を理由に、Nexperiaの経営権を中国の親会社(ウィングテック)から事実上剥奪し、公的管理下に置きました。
これに伴い、オランダの本社側は2025年10月下旬、中国の主力工場(東莞工場)へのシリコンウエハー供給を一方的に停止しました。原料が入らなければ生産が止まるため、中国法人は自力で調達先を見つける必要に迫られました。
2. 深刻な「在庫切れ」による顧客離れの防止
Nexperiaの製品(IGBTやダイオードなど)は、中国のEV(電気自動車)メーカーにとって不可欠な部品です。
- 供給不安の現実化: 実際にホンダなどの中国合弁工場が、Nexperia製チップの不足を理由に生産停止を余儀なくされる事態が発生しました。
- 信頼回復: 中国法人は「欧州には頼れない」と判断し、2026年までの生産分を国内で確保することで、顧客である自動車メーカーに対して「供給の継続性」を証明しようとしたのです。
3. 親会社ウィングテックによる「垂直統合」の加速
Nexperiaの親会社であるウィングテック(文康鍵)は、欧州からの切り離しに対抗するため、自社ぐ親会社であるウィングテック(文康鍵)は、欧州からの切り離しに対抗するため、自社ぐ
- Wingsky Semi(鼎泰匠芯)の活用: ウィングテックが上海に建設した最新鋭の12インチ工場(Wingsky Semi)からウエハーを供給することで、外部(特に欧州)の干渉を受けない「100%中国完結型」のサプライチェーンへ移行することを選択しました。
まとめ:背景にある「二重の断絶」
| 側面 | 内容 |
| 経営の断絶 | オランダ側が中国系CEOを解任し、中国法人が「本社からの独立」を宣言。 |
| 物理的断絶 | 欧州からのウエハー輸出が止まり、物理的に材料が届かなくなった。 |
この切り替えは、グローバル企業だったNexperiaが、「欧州・世界市場向け」と「中国国内市場向け」の2つの別個の会社に分裂したことを象徴する出来事と言えます。

オランダのNexperia中国法人が国内調達に切り替えた主な理由は、オランダ本社からのウエハー供給が完全に遮断されたためです。
従来はどこからウエハを確保していたのか
従来、Nexperia中国法人は、主に欧州にある自社グループの工場からウエハーの供給を受けていました。具体的には、以下の拠点が中心的な供給元でした。
1. 欧州の主要工場(前工程)
Nexperiaは、回路を形成する「前工程」を主に欧州で行い、それを中国へ送って組み立て・検査を行う「分業体制」をとっていました。
- ドイツ(ハンブルク工場): 主力の200mmウエハー製造拠点。
- イギリス(マンチェスター工場): パワー半導体(MOSFETなど)の製造拠点。
2. 外部の主要サプライヤー
また、ウエハーの材料そのもの(シリコンウエハー)については、以下のグローバル大手企業から調達していました。
- 信越化学工業(日本)
- SUMCO(日本)
- GlobalWafers(台湾)
- Siltronic(ドイツ)
構造の変化
これまでは「欧州でウエハーを製造 → 中国(東莞工場など)で製品として完成させる」という流れでしたが、今回の騒動により欧州からの供給(矢印)が物理的・政治的に遮断されたため、中国国内で完結するサプライチェーンへの急転換を余儀なくされました。
現在は、この欧州からの供給分を、中国国内のWingsky Semi(鼎泰匠芯)や積塔半導体(GAT)といった企業に置き換えることで、2026年以降の生産を維持しようとしています。

従来は、ドイツ(ハンブルク)やイギリス(マンチェスター)にある自社グループの欧州工場で回路を形成したウエハーを主に調達していました。これらを中国の工場へ送り、最終製品に組み立てる分業体制をとっていました。
切り替え先の国内メーカーはどこか
Nexperia中国法人が、2026年までの供給確保先として切り替えた国内メーカーは主に以下の3社です。
- Wingsky Semi(鼎泰匠芯): 親会社ウィングテック傘下で、12インチの車載グレードIGBTウエハーを供給。
- Shanghai GAT Semiconductor(積塔半導体): 大手ファウンドリ。8インチのIGBTウエハーを供給。
- United Nova Technology(芯聯集成): SMIC関連企業。8インチのIGBTウエハーを供給。
これら国内勢への切り替えにより、欧州本社からの供給停止を補い、EV向けなどの生産継続を図っています。
ウエハの品質に差はあるのか
「技術スペック上は同等だが、車載向けとしての信頼性や実績に差(懸念)がある」というのが実情です。具体的には、以下の3つのポイントで品質の捉え方が異なります。
1. 製造技術の習熟度
- 欧州製(従来): 数十年の蓄積があり、微細な欠陥が許されない車載グレードで高い「歩留まり(良品率)」と安定性を誇ります。
- 中国製(切り替え先): パワー半導体(IGBT等)に必要な「レガシープロセス(28nm以上)」では、中国勢も既に世界水準の技術を持っています。しかし、大量生産時の品質のバラツキを抑える習熟度では、まだ欧州勢に分があるという見方が一般的です。
2. 「車載グレード」の認証と実績
- 半導体には「動くこと」以上に「過酷な環境(高温・振動)で10年以上壊れないこと」が求められます。
- 欧州製は長年の採用実績(トラックレコード)がありますが、中国国内メーカーのウエハーは、これから実際の車両に搭載されて真価を問われる段階です。この「長期的な信頼性の証明」が最大の差と言えます。
3. 本社(オランダ)側の主張
- 興味深い点として、オランダのNexperia本社は「中国法人が勝手に調達したウエハーは、我々の品質基準を満たしていると保証できない」と公式に警告しています。
- つまり、「性能は同じでも、Nexperiaブランドとしての品質保証プロセスから外れている」というブランド上の差異が生まれています。

基本的な性能は中国勢も世界水準に達していますが、過酷な環境で長期間使用する「車載用」としての信頼性や実績には依然として差があります。また、欧州本社が品質保証を拒否している点も大きなリスク(差)となっています。

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