この記事で分かること
- これまでの株価上昇理由:企業の好業績、東証によるPBR改革、海外投資家の大規模な資金流入が主因です。円安も追い風となり、デフレ脱却期待の中で日本株の「割安感」が世界的に見直されました。
- 下落理由:米国の早期利下げ期待後退によるハイテク株の調整や、国内の財政不安による金利上昇懸念、そして高値圏での利益確定売りが重なり、リスク回避の動きが加速したためです。
- 金利上昇でハイテク株の下落が大きい理由:金利上昇は、将来の利益を現在価値に割り引く割引率を高めます。成長期待が高く遠い将来の利益に依存するハイテク株(高PER)は、この割引率上昇により価値が大きく目減りするためです。
日経平均の下落
11月18日の日本市場で日経平均株価は大幅に続落し、下落率は3%を超えました。
https://jp.reuters.com/markets/japan/BVFIFBUWTRM45LCWL73AQU6R3A-2025-11-18/
具体的には、終値は前日比で1620円93銭安の4万8702円98銭となり、3日続落で5万円の大台を大きく割り込みました。下落率は3.22%です。
ここまで株価が上昇してきた理由は何か
11月18日の大幅な下落以前、日経平均株価は歴史的な高値圏で推移しており、4万円台を維持する強い動きを見せていました。この力強い上昇を支えてきた主な要因は、以下の通りです。
日本株を押し上げてきた主要因
| 要因 | 詳細 |
| 1. 企業の収益力改善とガバナンス改革 | 過去最高益の更新: 多くの日本企業が円安やコスト構造改革を背景に、過去最高の純利益を更新する見通しを発表しました。 |
| PBR(株価純資産倍率)1倍割れ是正の動き: 東京証券取引所が上場企業に資本効率の改善を求め、自社株買いや増配といった株主還元を積極化する企業が増えたことが、投資家の注目を集めました。 | |
| 2. 構造的なデフレ脱却への期待 | インフレと賃上げ: 日本が長年のデフレから脱却し、緩やかなインフレと継続的な賃金上昇のサイクルに入るとの期待が、企業の収益拡大と日本経済全体の成長への見方を変えました。 |
| 3. 世界的な資金の流入(海外投資家による買い) | *ウォーレン・バフェット氏の投資: 著名投資家による日本株(特に商社株など)への継続的な投資が、日本株の割安感と将来性を世界にアピールする形となりました。 |
| 「日本株の見直し」: 海外投資家が、地政学リスクの低いこと、経済再開、そして上記のガバナンス改革を評価し、日本株を**「割安な投資先」**として大規模に買い越しました。 | |
| 4. 金融緩和の維持 | 日銀の政策: 米国や欧州の中央銀行が利上げを進める中で、日本銀行が大規模な金融緩和策を続けてきたため、金利が低く保たれ、相対的に株式への資金が流れやすい環境が続きました。 |
まとめ
これまでの上昇は、単なる投機的な動きではなく、企業の体質改善と日本経済の構造変化への期待、そしてそれに注目した海外からの大規模な資金流入という、複数の構造的な要因に支えられていたと言えます。
11月18日の下落は、こうした上昇基調に対する短期的な過熱感の調整や、主に米国の金利動向を嫌気した売りが出たものと見られています。

企業の好業績、東証によるPBR改革、海外投資家の大規模な資金流入が主因です。円安も追い風となり、デフレ脱却期待の中で日本株の「割安感」が世界的に見直されました。
今回の下落の要因は何か
11月18日の日本市場で株価が大幅に下落した主な要因は、海外市場、特に米国株の動向に連動した売りと、国内要因に対する懸念が重なったことにあります。
1. 米国の利下げ観測の後退とハイテク株の調整
- 利下げ期待の修正: 前日の米国市場で、米連邦準備制度理事会(FRB)高官による利下げに慎重な発言があったことなどから、市場の早期利下げ期待が後退しました。
- これにより、金利が長期的に高止まりする懸念が広がり、米国株(特にハイテク株)が下落。その流れが東京市場にも波及しました。
- AI関連株の警戒感: 根強い人工知能(AI)バブルへの警戒感や、主要なAI関連銘柄(NVIDIAなど)の決算発表を控えた手じまい売りが重荷となり、東京エレクトロンやレーザーテックといった日本の半導体関連株も大幅に売られました。
2. 国内の政治・財政に対する懸念
- 金利の上昇: 過度な財政出動に対する懸念などから、国内の長期金利が上昇傾向にあり、これが市場で嫌気されました。金利の上昇は企業の資金調達コスト増につながるため、株価の重しとなります。
- 高市政権への不安: 高市政権の中国に対する強硬な姿勢(日中関係の警戒感)や、財政政策の方向性に対する不安感が、一部でリスク回避の動きを促したと報じられています。
3. 短期的な過熱感の調整
- 急上昇の反動: 日経平均株価は直近で歴史的な高値圏まで急上昇していたため、上記のようなネガティブな材料が出たことで、利益確定売りや持ち高調整の動きが一気に加速しました。
これらの要因が複合的に作用し、市場全体でリスク回避の動き(リスクオフ) が強まり、全面安の展開となりました。

今回の下落の要因は、米国の早期利下げ期待後退によるハイテク株の調整や、国内の財政不安による金利上昇懸念、そして高値圏での利益確定売りが重なり、リスク回避の動きが加速したためです。
金利上昇の影響がハイテク株で大きい理由は何か
金利上昇の影響がハイテク株(グロース株、成長株)で特に大きくなるのは、主に企業価値の評価方法と高PER(株価収益率)という二つの理由によります。
1. 将来の利益の価値が大きく目減りする(DCF法の割引率)
ハイテク企業や成長株は、その価値の多くが「遠い将来に得られるであろう高い利益成長」に依存して評価されています。
- 企業価値の算出(DCF法): 企業の理論的な株価は、将来得られるキャッシュフロー(利益)を現在の価値に「割り引いて」 合計することで求められます。この割引計算に使うのが割引率で、金利(長期金利など)の影響を大きく受けます。
- 金利上昇 → 割引率の上昇: 金利が上昇すると、将来の利益を割り引く際の割引率も上昇します。
- 遠い将来の利益ほど影響大: 割引率が高くなると、現在の価値に換算した際の将来の利益の価値は大きく目減りします。成長株はバリュー株(割安株)に比べて、より遠い将来の利益が評価の大部分を占めるため、割引率上昇の影響を最も大きく受けやすいのです。
2. 相対的な投資魅力の低下(高PER株)
ハイテク株は一般的に、将来の成長期待が高いために、現在の利益に対して株価が高い、つまりPER(株価収益率)が高い水準で取引されています。
- PERが高い → 益回りが低い: PERの逆数である益回り(利益 ÷ 株価)は、株への投資利回りを示します。ハイテク株は高PERのため、益回りが低くなります。
- 金利との比較: 金融市場で国債などの金利(安全資産の利回り)が上昇すると、益回りの低いハイテク株は、リスクを取ってまで投資する相対的な魅力が低下します。投資家は、より安全で利回りが高くなった債券や、金利上昇に強いバリュー株へと資金を移しやすくなります。
金利が上昇する局面では、ハイテク株が特に大きな売り圧力を受けやすい傾向があるのです。

金利上昇は、将来の利益を現在価値に割り引く割引率を高めます。成長期待が高く遠い将来の利益に依存するハイテク株(高PER)は、この割引率上昇により価値が大きく目減りするためです。
今後の日本株価の見通しはどうか
11月18日の大幅下落を経た後の日本株価の今後の見通しについて、多くの市場関係者は、短期的な調整の可能性を認めつつも、中期的には引き続き良好という見方を維持している傾向にあります。
中期的な株価見通しのポイント
主要な証券会社や運用会社は、今回の急落は「ポジション主導の調整」であり、日本株の根本的なファンダメンタルズ(基礎的条件)は変わっていないと見ています。
1. 継続的な上昇を支える強気材料
- 企業業績の堅調さ: 多くの日本企業が円安やコスト改革を背景に、引き続き過去最高益の更新を見込んでいます。トップダウンの業績見通し(EPS予想)も上方修正されています。
- 東証のガバナンス改革: 東京証券取引所によるPBR(株価純資産倍率)1倍割れ是正の要請を受け、自社株買いや増配といった株主還元が活発化しており、株式需給の引き締まりが期待されます。
- 海外資金の再流入期待: 日本株の割安感(PBRなど)が世界的に見直されている流れは継続しており、調整局面で再び海外からの資金が流入する可能性があります。
- 新NISAの拡大: 個人の資産形成を後押しする新NISAの拡充は、国内の株式市場への資金流入を長期的に支える材料と見られています。
2. 短期的な下押しリスクと警戒材料
- 米国の金利動向: 米国の早期利下げ期待が後退し、長期金利が高止まりする懸念は引き続き、ハイテク株を中心に日本株の上値を抑える要因となり得ます。
- 政局と財政懸念: 高市政権の財政政策に対する期待がある一方で、過度な財政出動による金利の上昇や、それに伴う財政の不透明感は、短期的な市場の不安材料となります。
- AI関連株の調整: 急激に上昇したAI・半導体関連株は、米国の動向次第で今後も調整を繰り返す可能性があります。
市場関係者の具体的な予想(例)
一部の証券会社では、2025年末や2026年末に向けて、日経平均株価の予想水準を上方修正しており、5万円台半ばから6万円を視野に入れる見方もあります。
| 予想時期 | 予想水準(例) | 根拠 |
| 2025年末 | 49,000円 ~ 53,000円 | 企業業績の堅調さ、ガバナンス改革の継続 |
| 2026年末 | 55,000円 ~ 60,000円 | 米国景気の軟着陸期待、日銀の緩やかな利上げ継続 |
まとめ
今回の急落は「押し目買いの機会」と捉える見方もありますが、当面は米国の金利や為替(円安の進行度)の動きに神経質な展開が続く可能性が高いです。しかし、企業の収益力と構造改革という日本株の強い土台が変わらない限り、中長期的には上昇基調を維持するというのが、現在の主流な見通しです。

中長期では、企業業績の堅調さや東証の改革継続が評価され、良好な見通しが主流です。ただし、短期的には米金利動向や国内の財政懸念による調整が続く可能性があります。

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