ニコンの金属3Dプリンター分野での共同研究 金属3Dプリンターとは何か?どのような金属が利用できるのか?

この記事で分かること

・金属3Dプリンターとは:金属材料を用いて金属を積層造形する装置で、これまでの金属の切削による加工とは異なる特徴を持っています。

・どのような用途が検討されているか:複雑な形状の部品を一体成形できる、軽量化・材料の無駄削減などの特長から航空宇宙、医療、自動車などの部品への適用が検討されています。

・どのような金属が利用できるのか:多くの金属が利用できるが、特に航空宇宙や医療分野では、チタンやコバルトクロムが、電子・電気用途では銅が注目されています。

ニコンの金属3Dプリンター分野での共同研究

 ​ニコンは4日、金属3D(3次元)プリンターを用いた航空宇宙部品の補修技術の共同研究でカナダ企業などと連携すると発表しました。

 https://www.jp.nikon.com/company/news/2025/0404_01.html

 この共同研究を通じて、アディティブマニュファクチャリングの進化を加速させ、実際の製造現場で直面する課題を解決しながら補修性能、品質、安全性に関する新たなソリューションを確立してと発表してます。

金属3Dプリンターとは何か

 金属3Dプリンターは、金属材料を用いて三次元のオブジェクトを積層造形する装置です。従来の切削加工とは異なり、材料を削り取るのではなく、必要な部分に金属を積み上げることで部品を作製します。


金属3Dプリンターの主な方式

  1. 粉末床溶融結合法(PBF: Powder Bed Fusion)
    • 方式: レーザーや電子ビームで金属粉末を局所的に溶かし、層ごとに積み上げる。
    • 例: 選択的レーザー溶融(SLM)、電子ビーム溶融(EBM)
    • 用途: 航空宇宙、医療(インプラント)、自動車部品
  2. 指向性エネルギー堆積法(DED: Directed Energy Deposition)
    • 方式: 金属粉末やワイヤーをノズルから供給し、レーザーやプラズマで溶融しながら造形。
    • 用途: 大型部品の修理や肉盛り補修(タービンブレード、航空機部品)
  3. 結合剤噴射法(Binder Jetting)
    • 方式: 金属粉末に結合剤を噴射し、焼結して固める。
    • 用途: 試作品や中量生産向け(コストが比較的低い)
  4. WAAM(Wire Arc Additive Manufacturing)
    • 方式: 溶接技術を応用し、ワイヤー状の金属を溶融しながら積層する。
    • 用途: 大型構造物(船舶・航空機部品、宇宙開発)

金属3Dプリンターのメリット

複雑な形状の部品を一体成形できる
軽量化・材料の無駄削減(トポロジー最適化によるデザインが可能)
短期間で試作・生産可能(リードタイムの短縮)
補修・メンテナンス用途にも適用可能(部品の延命が可能)


課題・デメリット

設備コストが高い(機器価格+後処理設備のコスト)
造形時間が長い(特に精密造形の場合)
後処理が必要な場合が多い(焼結、熱処理、機械加工)
材料制約がある(特定の金属に限られる)


活用分野

  • 航空宇宙: 軽量で高強度な部品の製造(タービンブレード、エンジン部品)
  • 自動車: 軽量化・カスタム部品(エンジンパーツ、EV用部品)
  • 医療: 人工関節、インプラント、歯科用部品
  • エネルギー: タービンブレード、配管部品(発電所向け)
  • 宇宙: ロケットエンジン部品、燃料タンク(WAAM技術など)

金属3Dプリンターは、金属材料を用いて金属を積層造形する装置で、これまでの金属の切削による加工とは異なる特徴を持っています。

どんな金属で利用出来るのか

 金属3Dプリンターで使用できる材料は、プリンターの造形方式によって異なりますが、主に以下のような金属が利用可能です。


1. チタン(Ti)

特徴: 軽量・高強度・耐食性・生体適合性
用途: 航空宇宙(ジェットエンジン部品)、医療(インプラント)、自動車


2. アルミニウム(Al)

特徴: 軽量・耐食性・熱伝導性が高い
用途: 航空宇宙(軽量構造体)、自動車(EVバッテリーケース)、電子機器


3. ステンレス鋼(SUS, Stainless Steel)

特徴: 高強度・耐食性・加工性が良い
用途: 医療(手術器具)、食品機械、工業部品


4. コバルトクロム合金(CoCr)

特徴: 高耐摩耗性・耐熱性・生体適合性
用途: 医療(人工関節、歯科用クラウン)、航空宇宙(耐熱部品)


5. ニッケル合金(Inconel、Hastelloy)

特徴: 耐熱性・耐酸化性・耐食性に優れる
用途: 航空宇宙(ジェットエンジン、ロケットノズル)、化学プラント


6. 工具鋼(H13, D2など)

特徴: 高硬度・耐摩耗性・耐熱性
用途: 金型、治具、工具部品


7. 銅(Cu)・銅合金

特徴: 高熱伝導性・高電気伝導性
用途: 放熱部品(ヒートシンク)、電気部品(バスバー)、ロケット推進ノズル


8. 貴金属(金・銀・プラチナ)

特徴: 耐食性・導電性・美観
用途: 宝飾品、医療電極、電子部品

様々な金属で利用できますが、特に航空宇宙や医療分野では、チタンやコバルトクロムが、電子・電気用途ではが注目されています。

利用できる金属とできない金属な違いはなにか

 金属3Dプリンターで利用できる金属利用が難しい金属の違いは、主に以下の要因によります。


1. 熱物性(融点・熱伝導性)

利用できる金属

適度な融点(約600~3000℃)を持つ金属

  • 例: チタン(約1668℃)、ステンレス鋼(1400~1500℃)、インコネル(1390~1425℃)
    熱伝導率が適度な金属
  • 例: チタン(熱伝導率が低いため、熱が局所にとどまり造形しやすい)
利用が難しい金属

極端に高融点の金属(加工が困難、設備が限定される)

  • 例: タングステン(3422℃)、モリブデン(2623℃)
    熱伝導率が高すぎる金属(熱が拡散しすぎて溶融が難しい)
  • 例: 純銅(385W/m·K)、銀(429W/m·K)

2. 酸化しやすさ

利用できる金属

安定した酸化膜を形成する金属(適切なガス制御で処理可能)

  • 例: アルミニウム(酸化膜を作るが処理可能)、チタン(酸化膜を作るが問題なし)
利用が難しい金属

極端に酸化しやすい金属(加工時に特殊な環境が必要)

  • 例: マグネシウム(燃えやすい)、リチウム(反応性が高い)

3. 粉末化やワイヤー化のしやすさ

利用できる金属

粉末化しやすい、またはワイヤー化しやすい金属

  • 例: ステンレス鋼、ニッケル合金、コバルトクロム
利用が難しい金属

粉末化が困難な金属(脆すぎたり、形状制御が難しい)

  • 例: 亜鉛(脆くて粉末化しにくい)、鉛(低融点すぎて粉末状態で問題が発生)

4. 造形中のひずみや割れ

利用できる金属

熱膨張が適度で、ひずみが少ない金属

  • 例: ステンレス鋼(比較的ひずみが少ない)、チタン(適度な収縮率)
利用が難しい金属

熱膨張率が高く、割れやすい金属(造形中に割れや変形が発生)

  • 例: 超硬合金(タングステンカーバイド:割れやすい)

5. 経済性と加工性

利用できる金属

コストが適切で、実用的に使える金属

  • 例: ステンレス鋼、アルミニウム(汎用性が高い)
利用が難しい金属

高価すぎて実用性が低い金属

  • 例: イリジウム(非常に高価)、ロジウム(希少すぎる)

利用が難しい金属は、ングステン(超高融点)、マグネシウム(酸化しやすい)、銀・銅(熱伝導性が高すぎる)、超硬合金(割れやすい)が挙げられます。

コメント

タイトルとURLをコピーしました