この記事で分かること
- 速く成長できる理由:成長が速く、幹がまっすぐで、病気に強いなど、優れた遺伝的特性を持つ品種を人工的に交配・選抜して作られた「エリートツリー」を利用しているためです。
- 成長の速い遺伝子の特徴:成長を促す遺伝子が効率的に働くように選抜された結果、光合成能力が高まり、細胞分裂が活発化するためです。
- 苗木の育成期間が短い理由:専用の容器で育てるコンテナ苗という技術により、温度や水分などを厳密に管理できることや根張りが良くなる工夫で短い期間で育成が可能です。
日本製紙の速く成長する木の増産
日本製紙は従来のスギやヒノキよりも速く成長する木を増産しています。
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC057640V00C25A9000000/
「エリートツリー(特定母樹)」と呼ばれる品種の苗木生産を本格化しており、この取り組みは、森林事業のコスト削減や、地球温暖化対策への貢献を目指すものです。
なぜ、速く成長するのか
日本製紙が増産している成長の速いスギやヒノキは、「エリートツリー」または「特定母樹」と呼ばれ、その成長の速さは、優れた遺伝的特性を持つ個体を選抜し、人工的に交配やクローン技術を用いて改良されたことによります。これは、自然界に存在する優秀な個体の特徴を最大限に引き出すための育種技術です。
成長が速い理由
- 優秀な個体の選抜: 多くのスギやヒノキの中から、もともと成長が速い、幹がまっすぐである、病気に強いといった優れた特性を持つ「精英樹(せいえいじゅ)」を選び出します。これらの木は、いわば「木のサラブレッド」です。
- 人工的な育種: 選抜された精英樹同士を人工的に交配させることで、優れた特性を次世代に確実に引き継ぎます。また、クローン技術も利用して、親木と同じ優れた形質を持つ苗木を大量に生産します。
- 早期の成長促進: 日本製紙独自の苗木生産技術により、従来の2〜3年かかる苗木の育成期間を半年〜1年に短縮。根張りが良い苗を育てることで、植え付け後の初期成長をさらに加速させます。
これらの技術により、エリートツリーは従来の品種と比較して約1.5倍の速さで成長するため、伐採までの期間が短縮され、林業の効率化や木材の安定供給につながります。

この木は、成長が速く、幹がまっすぐで、病気に強いなど、優れた遺伝的特性を持つ品種を人工的に交配・選抜して作られた「エリートツリー」だからです。また、独自の苗木生産技術により、植え付け後の初期成長を早めています。
どのような遺伝子の働きで成長が速くなるのか
この成長の速さは、成長を制御する遺伝子が、より効率的に働くように選抜された結果です。具体的には、元々ある成長関連遺伝子の働きを最大限に引き出すように改良されており、遺伝子組み換えとは異なります。
成長を促す遺伝子の働き
- 光合成効率の向上: 葉での光合成に関わる遺伝子がより活発に働くことで、光エネルギーをより効率よく糖などの養分に変えます。これにより、木の成長に必要なエネルギー供給量が増加します。
- 細胞分裂の活発化: 茎や根の先端にある成長点での細胞分裂を促す遺伝子が効率的に働くことで、細胞数が増え、幹や枝がより速く伸び、太くなります。
- 栄養吸収能力の強化: 土壌中の水分や養分を吸収する根の成長を促進する遺伝子が優れているため、より多くの栄養を取り込むことができます。
これらの遺伝的特性は、元々自然界に存在する多様性の中から、最も優れた個体(精英樹)を選び出し、人工的に交配を繰り返すことで、次の世代へ「良いとこ取り」で受け継がれています。その結果、成長速度が約1.5倍に向上した「エリートツリー」が生まれるのです。

成長を促す遺伝子が効率的に働くように選抜された結果、光合成能力が高まり、細胞分裂が活発化するためです。これは、優れた特性を持つ個体を交配することで実現されます。
苗木の育成期間を半年〜1年に短縮できる理由は
苗木の育成期間を半年〜1年に短縮できる主な理由は、コンテナ苗(ポット苗)とよばれる新しい育苗技術を採用しているためです。この技術は、従来の育苗方法と比べて、苗の生育環境をより厳密に管理できるのが特徴です。
従来の育苗方法(裸苗)では、苗畑で種子をまいてから植え付けできる大きさになるまで2〜3年かかっていました。しかし、コンテナ苗は、専用の容器(ポット)内で種まきから育苗までを行います。
- 生育環境の最適化: ハウスなどの管理された環境下で、温度、光、水、肥料などを適切に管理します。これにより、苗が安定して成長し、育成期間が大幅に短縮されます。
- 効率的な養分供給: 独自のブレンド培土と肥料を使用することで、苗が必要とする養分を効率的に供給します。
- 根張りの良さ: ポットの底や側面に特殊な工夫が施されており、根が健全に成長し、根巻き(ポットの形に沿って根が回ること)を防ぎます。根張りが良い苗は、植え付け後の活着率が高く、初期の成長も速くなります。
これらの技術によって、苗木の生産計画が立てやすくなり、森林経営の効率化にもつながります。

専用の容器で育てるコンテナ苗という技術により、温度や水分などを厳密に管理できます。また、根張りが良くなる工夫で、植え付け後の活着率と初期成長も高まるため、育成期間を大幅に短縮できます。
少花粉を実現できる理由は
少花粉スギが実現できるのは、花粉の量を少なくする遺伝的特性を持つ個体を人工的に選抜・交配する育種技術によるものです。この技術は、花粉症対策として国や研究機関が長年かけて開発してきました。
育種技術による少花粉化
- 無花粉スギの発見: まず、突然変異で花粉をほとんど作らない「無花粉スギ」の個体が、自然界で発見されました。この個体は、花粉をつくる雄花が形成されない遺伝子を持っていることが分かっています。
- 人工交配: この無花粉スギと、成長が速いなどの優れた特性を持つ「精英樹」を人工的に交配します。この交配によって、成長の速さと花粉の少なさという両方の特性を兼ね備えた新しい品種を作り出します。
- クローン増殖: 交配によって生まれた優秀な個体を、挿し木などで増やすことで、親木と同じ特性を持つ苗木を大量に生産します。こうして作られた品種は、一般的なスギに比べて花粉の量が半分以下に抑えられています。
この技術は、特定の遺伝子を操作するゲノム編集とは異なり、自然界に存在する優れた遺伝的特性を組み合わせて、時間をかけて品種改良を行うものです。そのため、安全性が高く、花粉症対策と林業の活性化を両立できる有効な手段として注目されています。

花粉をほとんど作らない「無花粉スギ」の遺伝的特性と、成長が速いスギの特性を人工的に交配させることで、両方の利点を併せ持つ品種を開発しているためです。この育種技術により、花粉量を大幅に減らすことができます。
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