この記事で分かること
- 水素対応コージェネレーションシステムとは:発電時に発生する排熱を蒸気や温水として再利用する高効率な熱電併給システムに、水素燃焼機能を備えた設備です。水素は燃焼してもCO2を出さないため、天然ガスとの混焼や専焼により大幅な脱炭素化を実現します。
- なぜ日清オイリオが導入するのか:食用油の精製には膨大な「熱(蒸気)」が必要なため、発電と熱利用を同時に行う本システムが最も効率的だからです。将来の水素インフラ整備を見据えた設備を先行導入し、2030年のCO2削減目標達成を目指します。
日清オイリオグループの水素対応コージェネレーションシステム
日清オイリオは、国内最大の製油拠点である横浜磯子事業場において、低炭素化およびカーボンニュートラル実現に向けたエネルギー転換を推進しています。その中核をなすのが、水素混焼が可能なガスタービン・コージェネレーションシステムの導入です。

天然ガスと水素を併用し、工場に必要な電力と蒸気を効率的に供給することで、製造工程のCO2排出削減を推進します。
水素対応コージェネレーションシステムとは何か
水素対応コージェネレーションシステム(熱電併給システム)とは、天然ガスなどの燃料で発電を行い、その際に発生する排熱を蒸気や温水として有効利用する仕組みに、「水素」を燃料として燃焼させる機能を加えた設備のことです。
1. 「電気」と「熱」を同時に作る
従来の発電所では、発電時に出る膨大な熱の多くが廃棄されています。コージェネレーションは工場の敷地内などで発電し、その排熱を工場の製造プロセス(加熱、洗浄など)に再利用するため、エネルギー利用効率が非常に高い(総合効率80%以上)のが特徴です。
通常の発電では捨てられる「排熱」を、工場の蒸気などとして再利用できることに加え、使う場所で直接発電することで送電ロスも防ぎ、投入した水素エネルギーの8割以上を有効活用できるため、極めて高い効率を実現します。
2. 水素を活用するメリット
- CO2排出の削減: 水素は燃焼してもCO2を排出しないため、従来の都市ガス(メタン)に水素を混ぜて燃焼させる「水素混焼」や、水素100%の「水素専焼」を行うことで、カーボンニュートラルに大きく貢献します。
- 既存設備の高度化: ガスタービンやガスエンジンの燃焼器を水素対応に改良することで、既存のエネルギー供給インフラを活かしつつ脱炭素化を進められます。
3. 技術的な課題と対策
水素は天然ガスに比べて「燃焼速度が速い」「火炎温度が高い」という特性があります。
- 逆火(バックファイア)防止: 燃料ノズルへ火が逆流しないよう、噴射方法を工夫しています。
- NOx(窒素酸化物)抑制: 高温燃焼によって発生しやすいNOxを抑えるため、水噴霧や特殊なバーナー技術が採用されています。

水素対応コージェネは、発電と排熱利用を同時に行う高効率システムです。燃料に水素を混焼・専焼させることで、工場や地域の大幅なCO2削減を可能にし、次世代の分散型クリーンエネルギー源として期待されています。
なぜ日清オイリオグループが導入するのか
日清オイリオグループが横浜磯子事業場に水素対応コージェネレーションシステムを導入した背景には、「食用油製造特有の課題」と「グループ全体の脱炭素戦略」という2つの大きな理由があります。
1. 食用油製造における「熱」の重要性
食用油の精製工程では、原料から油を抽出したり、不純物を取り除いたりするために、膨大な量の「蒸気(熱)」を必要とします。
- 電気だけでは足りない: 脱炭素化というと「電気の再エネ化」が注目されがちですが、製油工場では「熱」の比率が非常に高く、単に電気を変えるだけでは大幅な削減が困難です。
- 効率的な解決策: コージェネレーション(熱電併給)は、電気を作りながら同時にその熱を蒸気として利用できるため、製油工場のエネルギー構造に最も適した効率的なシステムです。
2. 2030年度目標と「水素」への布石
グループの環境目標として、2030年度までにCO2排出量を50%削減(2016年度比)することを掲げています。
- 「水素対応」である理由: 現在の都市ガス専焼だけでは、将来的に50%削減や2050年のカーボンニュートラルを達成するのは困難です。
- HYDROGEN READY: 将来的に水素供給インフラが整った際、すぐに水素へと燃料を切り替えられるよう、今から「水素混焼(まずは30%程度を目標)」に対応した設備を導入し、「将来の脱炭素化の足場」を固める狙いがあります。
3. グループ拠点間での「電力シェア」
横浜磯子事業場は、同社グループの中で最大の生産拠点です。ここで高効率に発電した電気を、自社で使うだけでなく、名古屋工場や堺工場など他の拠点へも送電(自己託送)しています。
- 全体最適の追求: 熱需要が非常に大きい横浜で大規模に発電し、余ったクリーンな電気を全国の拠点でシェアすることで、グループ全体のエネルギー効率を最大化しています。

製油工程で不可欠な「大量の熱」を効率的に確保しつつ、2030年の$CO_2$排出50%削減目標を達成するためです。将来の水素活用を見据えた設備を導入し、発電した電力を他拠点へも融通することで、グループ全体の脱炭素化を加速させます。
水素はどのように供給するのか
日清オイリオグループの横浜磯子事業場における水素供給については、現在の「都市ガス利用」から、将来的な「パイプライン供給」を見据えた段階的な計画となっています。
1. 現状:都市ガスからの水素抽出(中長期的な視点)
現在は主に都市ガス(天然ガス)を主燃料として運用されています。都市ガスの主成分であるメタン(CH4)には水素が含まれており、既存のインフラを活用しながら、まずはガス専焼、あるいは低比率での水素混焼からスタートしています。
2. 将来:臨海部インフラによるパイプライン供給
横浜磯子事業場が位置する根岸湾臨海地区は、横浜市が推進する「カーボンニュートラルポート(CNP)」の形成に向けた重点エリアです。
- 大規模受入拠点: 臨海部には海外から輸送されてくる液化水素などの受入端末(ターミナル)の整備が検討されています。
- 水素パイプライン: 地域の他企業(ENEOSや東京ガスなど)と連携し、臨海部の各工場を繋ぐ水素供給パイプライン網の構築が進められています。日清オイリオはこのインフラが整った段階で、直接水素を大量受給し、混焼率を大幅に引き上げる計画です。
3. 水素供給の形態(想定されるパターン)
将来的には、以下のような供給形態の組み合わせが想定されています。
| 供給形態 | 内容 |
| パイプライン供給 | 地域インフラから直接配管で受給(最も安定的かつ大量) |
| オンサイト改質 | 工場内で都市ガスから水素を取り出す設備を設置 |
| 液化水素トレーラー | タンクローリーなどで液化水素を運び、基地内で気化させて使用 |

現在は既存の都市ガスインフラを活用していますが、将来的には横浜臨海部で進められている水素供給パイプライン網との接続を想定しています。地域の水素受入拠点から直接供給を受けることで、安定的な大量利用を目指します。
他の水素対応コージェネレーションシステム導入例は
日清オイリオグループ以外にも、製造業を中心に水素対応コージェネレーションシステムの導入や実証実験が急速に広がっています。主な事例を「商用稼働」「実証・開発」「特殊なケース」に分けて紹介します。
1. 商用・本格導入の事例
- 大塚化学(徳島工場)
- 概要: 2024年に竣工。再生可能エネルギー由来の電力で水を電気分解して水素を生成し、それを工場の水素燃料ボイラーやコージェネ設備で利用するシステムを構築しました。自社で水素を「作る・貯める・使う」一連の流れを運用しています。
- パナソニック(滋賀県・草津拠点)
- 概要: 「H2 KIBOU FIELD」として知られる実証施設ですが、実際に工場の電力を賄うレベルで稼働しています。純水素型燃料電池を多数連携させ、太陽光発電と組み合わせることで、天候に左右されない「RE100(再生可能エネルギー100%)」化を実現しています。
2. 大手メーカーによる実証・製品化の動き
- 川崎重工業(神戸ポートアイランド)
- 概要: 世界で初めて水素100%(専焼)によるガスタービンコージェネレーションで、地域の病院や公共施設に電気と熱を供給する実証に成功しました。日清オイリオで採用されている技術のベースとも言える先駆的な例です。
- 三菱重工エンジン&ターボチャージャ(相模原工場)
- 概要: 2024年に500kWクラスの水素専焼エンジン発電セットの実証設備を完成させました。トラックで運び込まれた水素を燃料に、安定した発電と排熱回収を行う試験を続けています。
- ヤンマー・大阪ガス(実証試験)
- 概要: 既存の400kWガスコージェネをほぼ改造せず、水素を30%混焼させて運転する試験に成功しました。これにより、既存設備を活かしたまま脱炭素化へ移行できる道筋を示しています。
3. 特殊な展示・イベント事例
- 2025年 大阪・関西万博
- 概要: 会場のエネルギー供給として、最新の水素対応ガスコージェネが導入されました。ここでは「e-メタン(合成メタン)」などの次世代燃料も活用され、未来の都市エネルギーモデルとして展示・運用されています。

大塚化学が自社製水素を活用するシステムを導入したほか、パナソニックが純水素型燃料電池で工場を稼働させるなど、商用化が進んでいます。川崎重工や三菱重工による専焼技術の実証も進み、既存設備の水素転換が加速しています。

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