この記事で分かること
- 競合の目的:生成AIサーバー向け半導体基板に不可欠なスペシャルガラスクロスの供給逼迫に対応するためです。日東紡がガラスヤーン製造に集中し、南亜塑膠工業が織布工程を担うことで、生産能力の効率的な拡大を図ります。
- スペシャルガラスクロスとは:AIサーバーや高速通信機器の基板に使われる、特殊な組成のガラス繊維を織った布です。低誘電率や低熱膨張性に優れ、信号の高速伝送と基板の高密度化を支える高性能な電子材料です。
- スペシャルガラスクロスの製造方法:スペシャルガラスクロスの製造は、まず特殊な組成のガラスからガラスヤーン(糸)を作り、それを織機で縦横に織り上げて布状(織布)にします。最後に熱処理などで表面を加工し、基板樹脂との密着性を高めます。
日東紡と南亜塑膠工業の協業
日東紡は、台湾の材料メーカーである南亜塑膠工業とスペシャルガラスクロスの織布(しょくふ)製造に関して協業することを決定しました。
https://www.nikkei.com/nkd/disclosure/tdnr/20251127509923/
スペシャルガラスを織ったガラスクロスは、半導体パッケージ基板やプリント配線板の核となるプリプレグの主原料として使われています。
スペシャルガラスクロスとは何か
スペシャルガラスクロスは、主にAIサーバーや高速通信機器に用いられるプリント配線基板(PCB)の製造に使用される、高性能なガラス繊維を織った布状の素材です。
これは、通常のガラスクロスよりも、特定の電気的・機械的特性を極限まで高めた特殊な組成のガラス繊維(スペシャルガラス)を用いて製造されます。
スペシャルガラスクロスの特徴と役割
スペシャルガラスクロスは、現代の高性能な電子機器、特にAI半導体や高速大容量通信を支える上で不可欠な「骨格」の役割を果たします。
1. 主要な役割(PCBの骨格)
ガラスクロスは、エポキシ樹脂やポリイミド樹脂といった樹脂を含浸させてプリプレグというシート状の材料に加工されます。このプリプレグを何層も積み重ねて熱で固めることで、プリント配線基板が作られます。
- 絶縁性: ガラスは電気を通さないため、多層基板内の複雑な電気回路が互いに干渉するのを防ぎ、信号のショートや混線を防止します。
- 機械的強度: 基板に高い強度と剛性を与え、製造工程や使用時の衝撃、曲げに強くします。
2. スペシャルガラス(特殊組成)による高機能化
通常のガラスクロスと区別されるスペシャルガラスクロスは、以下の特性を際立たせるために、ガラスの組成が独自に開発されています。
| 特性 | スペシャルガラスの種類 (例: 日東紡) | 役割と重要性 |
| 低誘電率・低誘電正接 | NEガラス、NERガラス | 5G/6GやAIの高速処理において、信号の遅延や損失(エネルギーのロス)を最小限に抑えます。高速通信の実現に不可欠です。 |
| 低熱膨張性 | Tガラス | AI半導体や高機能CPUなどの高密度パッケージ基板に使用されます。半導体が発する熱による基板の膨張を抑え、回路のズレを防ぎ、信頼性を確保します。 |
3. 用途
主に以下の分野で、高性能な基板材料として使用されています。
- AIサーバー・データセンター
- 5G/6G通信インフラ(基地局、ルーターなど)
- 高性能CPU・GPUなどの半導体パッケージ基板
- スマートフォン、タブレットPCなどの高機能デジタル端末
スペシャルガラスクロスは、AI時代における情報通信の高速化・大容量化を、基板の土台から支える最先端の電子材料と言えます。

スペシャルガラスクロスは、AIサーバーや高速通信機器の基板に使われる、特殊な組成のガラス繊維を織った布です。低誘電率や低熱膨張性に優れ、信号の高速伝送と基板の高密度化を支える高性能な電子材料です。
協業する理由は
日東紡が台湾の南亜塑膠工業と協業する主な理由は、以下に示すように、生成AI(人工知能)関連需要の急拡大に対応し、スペシャルガラス素材の供給体制を大幅に強化するためです。
1. AI需要への対応と供給能力の拡充
- 市場の急拡大: 生成AIの発展により、高性能なAIサーバーやデータセンター向け半導体の需要が世界的に急増しています。
- 素材のボトルネック解消: 日東紡が製造・販売する低誘電スペシャルガラス(NEガラス、NERガラスなど)や低熱膨張スペシャルガラス(Tガラス)は、これらの高性能半導体パッケージ基板に不可欠な素材であり、日東紡は高いシェアを持っています。
- 供給逼迫: AI需要の急増に対し、日東紡が自社で一貫生産する能力だけでは供給が追いつかない状況が続いています。
- 狙い: 南亜塑膠工業と協業し、織布工程(ガラスヤーンを布に織る工程)を外部委託することで、日東紡は素材となるガラスヤーン(ガラス繊維の糸)の製造に集中でき、全体の生産能力を効率的かつ迅速に拡大します。
2. 生産体制の効率化と最適化
- 役割分担の明確化: 日東紡は、独自の技術を要するガラスヤーンの製造に特化し、南亜塑膠工業は汎用性の高い織布工程を担当します。
- リソースの有効活用: これにより、日東紡は限られたリソースを最も付加価値の高いヤーン製造に振り分けることができ、生産体制の効率化を図れます。
- リスク分散: 特定の工程を外部と協業することで、サプライチェーン全体としての柔軟性と安定性が向上します。
この協業は、AI時代の基盤技術である高性能ガラス素材の安定供給を確保するための、戦略的な生産能力強化策と言えます。

協業は、生成AIサーバー向け半導体基板に不可欠なスペシャルガラス素材の供給逼迫に対応するためです。日東紡がガラスヤーン製造に集中し、南亜塑膠工業が織布工程を担うことで、生産能力の効率的な拡大を図ります。
ガラスクロスの織布とは何か
「織布(しょくふ)」とは、ガラスクロスを製造する工程の名称で、具体的にはガラス繊維の糸(ガラスヤーン)を縦横に組み合わせて布状に織り上げる作業のことです。
これは、一般的な綿や絹などの繊維製品の「織物」を作るのと同じ原理ですが、ガラスという特殊な素材を扱うため、高度な技術と専用の織機(しょっき)が必要です。
ガラスクロスは、以下の材料と工程を経て作られます。
1. 材料
- ガラスヤーン(糸): 日東紡が製造するスペシャルガラス(Tガラス、NEガラスなど)を細く引き伸ばし、何本も束ねて作られた糸。これが織布の原料となります。
2. 工程
- 整経(せいけい): 織機のタテ糸(経糸:たていと)に必要な本数、密度、長さに揃えてビームと呼ばれる大きなドラムに巻き取る準備作業。
- 製織(せいしょく)/ 織布:
- 織機にセットされたタテ糸の間を、ヨコ糸(緯糸:よこいと)が繰り返し通されます。
- タテ糸とヨコ糸を交互(平織)や斜め(綾織)、飛び飛び(朱子織)に交差させていくことで、布状の構造(ガラスクロス)を作り上げます。
- 後加工(仕上げ):
- 織り上がった「生クロス」に付着している、製織時の作業性を高めるための糊(サイジング剤)などを熱処理(ヒートクリーニング)で除去します。
- その後、最終的に樹脂(エポキシ樹脂など)との結合性を高めるためのシランカップリング剤などで表面処理(フィニッシング)を行います。
協業における「織布」の役割
日東紡と南亜塑膠工業の協業において、日東紡がガラスヤーンの製造を担い、南亜塑膠工業がこの織布(織り上げる作業)を担うことで、生産能力の増強と効率化が図られます。

ガラスクロスの織布とは、ガラスヤーン(ガラス繊維の糸)を織機で縦横に組み合わせて布状(クロス)にする工程です。この工程を経て、AI基板などに使われる絶縁性と機械的強度を持つシートの骨格が作られます。

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