この記事で分かること
- NORフラッシュメモリとは:データの読み出しが高速で信頼性が高いメモリです。最大の特徴は、格納されたプログラムを直接実行できる点です。主にPCやAIサーバー、家電の起動用コード(ファームウェア)保存に不可欠な役割を担います。
- まぜAIサーバー向けの需要が増加するのか:AIサーバーは、GPUや高速通信チップなど大量のコンポーネントを個別制御するため、1台あたりのNOR搭載数が従来の数倍に激増しています。
- なぜ供給危機になっているのか:メーカーがより儲かるHBM等の生産を優先しNORの供給を絞っているため、深刻な不足に陥っています。
NORフラッシュメモリにも深刻な供給危機
AIブームはDRAMやNANDフラッシュといった主力メモリだけでなく、NOR(ノア)フラッシュメモリにも深刻な供給危機の波を及ぼしています。
https://eetimes.itmedia.co.jp/ee/articles/2602/17/news058.html
かつては「地味な低容量メモリ」と見なされていたNORフラッシュが、AIインフラのボトルネックになりつつあります。
NORフラッシュメモリとは何か
NOR(ノア)フラッシュメモリは、データを保存するための半導体メモリの一種です。
私たちが普段「フラッシュメモリ」と呼ぶものには、大きく分けてNOR型とNAND型の2種類がありますが、その役割は全く異なります。NOR型はプログラムをその場ですぐに実行するための、信頼性の高いメモリです。
1. NOR型とNAND型の違い
もっとも普及している「NAND型(USBメモリやSSDなど)」と比較すると、その特徴が際立ちます。
| 特徴 | NOR型フラッシュ | NAND型フラッシュ |
| 主な用途 | プログラムの実行(BIOS、ファームウェア) | データの大量保存(写真、動画、書類) |
| 読み出し速度 | 非常に速い | 低速〜中速 |
| 書き込み速度 | 遅い | 速い |
| 容量 | 小容量(数MB〜数GB) | 大容量(数百GB〜数TB) |
| 信頼性 | 極めて高い(エラーが少ない) | 比較的低い(エラー訂正が必要) |
| 回路構成 | 並列接続(アドレス指定が容易) | 直列接続(高密度化に適す) |
2. なぜ「NOR」と呼ばれるのか
内部の回路構成が、論理回路の「NOR(否定論理和)」ゲートに似ていることからそう呼ばれます。
- ランダムアクセスが可能: メモリ上のどのデータにも直接アクセスできるため、CPUがデータを読み出してそのままプログラムを実行(Execute In Place)できます。
- 信頼性の塊: データが壊れにくいため、システムの起動に関わる最も重要なコードを格納するのに適しています。
3. 身近な活用例
身の回りにある電子機器の「脳」を叩き起こす役割を担っています。
- PC・サーバー: BIOS(電源を入れた直後に動くプログラム)の格納。
- スマートフォン: 通信制御用チップのファームウェア。
- 自動車: エンジン制御やブレーキシステム、メーターパネルの表示プログラム。
- 家電: 炊飯器や洗濯機の制御プログラム。
4. 2026年、なぜ再注目されているのか
今、このNORフラッシュが「AI特需」で不足しているのは、AIサーバーが巨大な「精密機械の集合体」だからです。
膨大な数のGPUや高速通信チップの一つひとつに、確実に、かつ瞬時に起動するための「カンペ(ファームウェア)」が必要であり、その保管場所としてNORフラッシュ以外の選択肢がほぼ存在しないため、需要が爆発しています。

NORフラッシュは、データの読み出しが高速で信頼性が高いメモリです。最大の特徴は、格納されたプログラムを直接実行できる点です。主にPCやAIサーバー、家電の起動用コード(ファームウェア)保存に不可欠な役割を担います。
なぜNORフラッシュメモリが不足するのか
2026年現在、NORフラッシュメモリが深刻な供給不足に陥っている理由は、主に「AIサーバーでの爆発的な需要増」と「メーカー側の生産能力の偏り」という2つの大きな要因が重なっているためです。
1. AIサーバー1台あたりの「搭載数」が激増
従来のサーバーでは、システムの起動コード(ファームウェア)を保存するために数個のNORフラッシュが使われる程度でした。しかし、最新のAIインフラでは状況が一変しています。
- 複雑なシステムの制御: NVIDIAのGB200などの最新プラットフォームでは、GPU、高速ネットワーク(NIC)、電源管理ユニットなど、あらゆるコンポーネントに個別のNORフラッシュが必要になります。
- 搭載数の変化: 以前は1ラックあたり3〜5個程度だったものが、最新のAIサーバーラックでは30個以上搭載されるようになっています。
- 市場価値の急騰: 1システムあたりのNORフラッシュの調達金額は、かつての数十ドルから、現在は600〜900ドルに達すると試算されています。
2. 大手メーカーによる「生産ラインの奪い合い」
NORフラッシュを作れる工場(ファブ)のキャパシティが、他の「より儲かるメモリ」に奪われています。
- HBM(高帯域幅メモリ)への注力: SamsungやMicron、SK Hynixなどの主要メモリメーカーは、AI学習に不可欠で利益率が極めて高いHBMや最新DRAMの生産を最優先しています。
- 設備の転用: 限られたクリーンルームのスペースや製造装置がHBM向けに割かれるため、相対的に利益率の低いNORフラッシュの生産ラインが削減、あるいは維持に留まっています。
- 3D化の遅れ: 次世代の「3D NOR」への移行も、メーカーがNANDフラッシュの増産を優先しているため、当初の計画より約2年遅れている状況です。
3. 非AI分野(車載・産業)との需要衝突
AI以外の分野でも、NORフラッシュの必要性が高まっており、在庫の奪い合いが起きています。
- 電気自動車(EV)と自動運転: 車の電子制御ユニット(ECU)やADAS(運転支援システム)の高度化により、信頼性の高いNORの需要が伸び続けています。
- 「AI優先」のしわ寄せ: メーカーは、大量発注を行う大手クラウド事業者(ハイパースケーラー)への供給を優先するため、自動車メーカーや家電メーカー、中小の産業機器メーカーへの割り当てが削られ、納期が1年以上に及ぶケースも出ています。
まとめ:供給不足の構造
| 項目 | 以前の状態 | 2026年現在の状況 |
| 主な用途 | PCのBIOS、家電の制御 | AIサーバーの基幹制御、EV、IoT |
| 搭載密度 | 少数(1台に1〜3個) | 大量(1ラックに30個以上) |
| 供給優先度 | 標準的な電子部品 | HBMやDRAMの影で生産枠が激減 |

AIサーバーは、GPUや高速通信チップなど大量のコンポーネントを個別制御するため、1台あたりのNOR搭載数が従来の数倍に激増しています。一方で、メーカーがより儲かるHBM等の生産を優先しNORの供給を絞っているため、深刻な不足に陥っています。
NORフラッシュメモリの有力企業とその状況はどうか
NORフラッシュ市場は台湾と中国の企業を中心とした「トップ3」による寡占状態にあり、各社がAI特需による利益を享受しつつも、深刻な供給不足への対応に追われています。
1. 市場を支配する「3強」と主要プレイヤー
NORフラッシュ市場は上位3社で世界シェアの約90%近くを占めるほど集中しています。
| 企業名 | 拠点 | 状況とAI戦略 |
| Winbond(華邦電子) | 台湾 | 世界シェア1位。 40nmプロセスへの移行で生産性を高め、AIサーバーや車載向けの高密度製品に注力。2026年初頭より強気の値上げを実施中。 |
| Macronix(旺宏電子) | 台湾 | シェア2位。 NVIDIAなど主要AIチップメーカーの認定サプライヤー。3D NORの開発を進めており、2026年後半からの量産で供給不足解消を狙う。 |
| GigaDevice(兆易創新) | 中国 | シェア3位。 中国国内のEVおよびAIインフラ需要を独占。低消費電力SPI NORに強く、急成長を遂げている。 |
| Infineon(インフィニオン) | 独/米 | 旧Cypressを買収。産業・車載向けの高信頼性製品(SEMPERシリーズ)に特化し、安全性重視のAIエッジデバイスで強い。 |
| Micron(マイクロン) | 米国 | HBMやDRAMにリソースを集中させているが、産業用NORの供給も継続。ただし、AIサーバー需要により生産枠の確保が難航中。 |
2. 2026年現在の各社の動向
各有力企業は、かつてないほどの好況と供給責任の板挟みになっています。
- 価格の高騰と増産投資: 2026年第1四半期、主要3社はAIサーバー向けの需要爆発を受け、価格を10〜20%引き上げました。同時に、最先端の28nmプロセスや3D構造への投資を加速させています。
- 「3D NOR」への期待: 従来の平面構造(2D)では大容量化に限界があるため、Macronixなどが開発する3D NORが注目されています。これが本格普及すれば、現在の供給危機を脱する鍵になると期待されています。
- AI向け高機能化: 単なる保存だけでなく、ハッキングを防ぐセキュリティ機能(Root of Trust)を統合した「セキュアNOR」の出荷が、AIサーバーや自動運転向けに急増しています。
3. 供給危機の背景にある企業の苦悩
大手メモリメーカー(Samsung, Micron等)が、より利益率の高いHBM(高帯域幅メモリ)の生産に工場を転用しているため、NORフラッシュ専門メーカー(Winbond等)に注文が殺到しています。
これにより、「注文しても1年待ち」という極端なリードタイムが、2026年を通してIT業界の大きなリスクとなっています。

台湾のウィンボンド(Winbond)、マクロニクス(Macronix)、中国ギガデバイス(GigaDevice)が3強です。AIサーバー需要で各社好業績ですが、増産が追いつかず強気の値上げと受注制限が続く「超売り手市場」の状況です。

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