ノリタケとLGイノテックのパワー半導体用の接合材開発 パワー半導体用の接合材とは何か?銀ペーストが使用される理由は何か?

この記事で分かること

  • パワー半導体用の接合材とは:、チップと基板などを電気的・熱的・機械的に繋ぐ重要な材料です。大電流・高温に耐えるため、高耐熱性、高熱伝導性、高電気伝導性が求められます。
  • 銀ペーストが使用される理由:銀ペーストは、微細な銀粒子を含むペースト状材料です。加熱により銀粒子が結合(焼結)し、非常に高い熱伝導性、電気伝導性、耐熱性を持つ接合層を形成します。パワー半導体の高機能化と、はんだに代わる鉛フリー化に不可欠な材料となっています。
  • 常温で保存できる理由:粒子分散技術と粒子設計技術を組み合わせることで、銀粒子の凝集や有機溶剤の劣化を抑制しました。これにより、常温でもペーストの安定性を保ち、長期保管を実現しています。

ノリタケとLGイノテックのパワー半導体用の接合材開発

 ノリタケは、LG化学と共同で、自動車向けパワー半導体用の接合材を開発したことを発表しました。この接合材は、特に銀ペーストであり、長期常温保管が可能であることが大きな特長です。

 https://www.noritake.co.jp/news/detail/650/

 これまでの銀ペーストは、ナノ粒子を使用することで接合温度の低温化が試みられていましたが、安定した品質を保つためには冷凍保管(-10℃以下)が必要であり、使用期限も約3カ月と短いという課題がありました。

 今回の共同開発により、ノリタケの粒子分散技術とLG化学の粒子設計技術を組み合わせることで、常温(25℃以下)で6カ月の長期保管が可能となり、以下のメリットが期待されます。

パワー半導体の接合材とは何か

 パワー半導体用の「接合材」とは、パワー半導体チップとそれを搭載する基板、あるいは他の部品(冷却器など)とを電気的・熱的・機械的に接続するための材料を指します。半導体デバイスは、複数の層や部品が組み合わさってできており、これらの部品を確実に固定し、電気信号や熱を効率的に伝えるために接合材が不可欠です。

パワー半導体の接合材で必要となる性能

 特にパワー半導体は、大電流を扱い、高温になることが多いため、接合材には以下のような高い性能が要求されます。

  • 高耐熱性: 動作時に高温になるため、高温下でも安定した性能を保ち、劣化しないことが重要です。従来の半導体で使われるはんだは、耐熱性が低いため、より高い耐熱性を持つ材料が求められます。
  • 高熱伝導性: 半導体チップで発生する熱を効率的に外部へ放熱するために、熱を伝えやすい材料が必要です。熱がこもると、半導体の性能低下や故障の原因となります。
  • 高電気伝導性: 大電流を流すため、電気抵抗が低いことが重要です。
  • 高い信頼性: 自動車などの厳しい環境下で使用されるため、振動や温度変化、電流のON/OFF繰り返し(パワーサイクル)に対する耐久性が求められます。
  • 高強度・高密着性: チップと基板などをしっかりと固定し、剥がれたり破損したりしないような機械的な強度と密着性が求められます。
  • 鉛フリー化: 環境規制の観点から、従来の鉛含有はんだに代わる、鉛を含まない材料が求められています。

主な接合材の種類と特徴

 現在、パワー半導体向けに開発が進められている主な接合材には、以下のようなものがあります。

  1. はんだ(高鉛はんだ、鉛フリーはんだ):
    • 古くから半導体の接合に用いられてきましたが、鉛フリー化の動きや、パワー半導体の高耐熱性要求から、代替材料への移行が進んでいます。
    • 鉛フリーはんだ(Sn-Ag-Cuなど)も利用されますが、耐熱性が十分でない場合があります。
  2. 銀焼結ペースト(銀ペースト、銀シンター材):
    • 微細な銀粒子をペースト状にしたもので、これを加熱・加圧(または無加圧)することで粒子同士が結合(焼結)し、強固な接合層を形成します。
    • 銀の融点(約962℃)よりも低い温度で接合が可能で、高い熱伝導性、電気伝導性、高耐熱性(300℃以上)を持つため、次世代パワー半導体の主要な接合材として注目されています。
    • ノリタケとLG化学が開発した銀ペーストもこの一種で、特に「長期常温保管」という優れた特性を持っています。
  3. 銅焼結ペースト(銅ペースト、銅シンター材):
    • 銀焼結ペーストと同様に、微細な銅粒子を焼結させて接合層を形成します。
    • 銀よりもコストが安く、硬く熱膨張係数が小さいため、特に信頼性(パワーサイクル耐性)の向上に寄与すると期待されています。
    • ただし、銀に比べて焼結が大気中では難しい(酸化しやすい)という課題があり、不活性ガス雰囲気での焼結が必要になる場合があります。
  4. TLP接合(Transient Liquid Phase Bonding、液相拡散接合)
    • 異なる金属(例:Sn-Ag系、Sn-Cu系など)を積層することで、接合時に一時的に液相を形成し、その後、金属間化合物を形成して固化することで、接合温度以上の高い耐熱性を得る技術です。

 これらの接合材は、それぞれ異なる特性を持ち、パワー半導体の種類、用途、求められる性能によって使い分けられたり、新しい材料や技術が日々開発されています。

パワー半導体の接合材は、チップと基板などを電気的・熱的・機械的に繋ぐ重要な材料です。大電流・高温に耐えるため、高耐熱性、高熱伝導性、高電気伝導性が求められ、銀焼結ペーストなどが注目されています。これにより、半導体の性能向上と信頼性確保が可能になります。

なぜ銀ペーストが接合材に使用されるのか

銀ペーストとは

 銀ペーストとは、微細な銀の粒子(フィラー)を、バインダーとなる有機溶剤や樹脂の中に分散させた、ペースト状の材料です。乾燥・加熱することで、銀粒子同士が結合(焼結)し、強固で電気的・熱的に優れた接合層を形成します。導電性を持つことから「導電性接着剤」とも呼ばれます。

接合材に使われる理由

 銀ペーストがパワー半導体などの接合材に広く使われる主な理由は以下の通りです。

  1. 高耐熱性:
    • 従来の半導体接合に用いられてきたはんだ(特に高鉛はんだや一部の鉛フリーはんだ)は、パワー半導体の動作温度(約200~300℃)になると融けてしまったり、劣化が進んだりする課題がありました。
    • 銀ペーストは、銀の融点(約962℃)よりも低い温度(一般的に200~300℃程度)で焼結して接合層を形成しますが、一度焼結すると、その後の使用時には銀の融点に近い非常に高い耐熱性(300℃以上)を発揮します。これにより、パワー半導体の高温動作に耐えられます。
  2. 高熱伝導性:
    • 銀は、金属の中でも非常に優れた熱伝導性を持つ材料です。銀ペーストで接合することで、パワー半導体チップで発生した熱を効率的に外部(ヒートシンクなど)へ逃がすことができ、半導体の性能低下や故障を防ぎます。特に大電流を扱うパワー半導体では、発熱量が大きいため、放熱性の高さは極めて重要です。
  3. 高電気伝導性:
    • 銀は熱伝導性だけでなく、電気伝導性も非常に高い金属です。銀ペーストで接合することで、チップと基板間での電気信号のロスを最小限に抑え、効率的な電力供給を可能にします。
  4. 鉛フリー化への対応:
    • 環境規制(RoHS指令など)により、電子部品における鉛の使用が制限されています。従来の鉛含有はんだの代替として、銀ペーストは鉛を含まないため、環境負荷の低減に貢献します。
  5. 優れた信頼性:
    • パワー半導体は、自動車など過酷な環境下で使用されることが多く、温度サイクルやパワーサイクルといった繰り返しの負荷に耐える必要があります。銀焼結接合は、これらのストレスに対する耐性が高く、長期間にわたる信頼性を確保できます。

 これらの特性から、銀ペーストは、特に電気自動車(EV)や産業機器などで使用される高出力・高耐熱性なパワー半導体の接合材として、不可欠な材料となっています。

銀ペーストは、微細な銀粒子を含むペースト状材料です。加熱により銀粒子が結合(焼結)し、非常に高い熱伝導性、電気伝導性、耐熱性を持つ接合層を形成します。パワー半導体の高機能化と、はんだに代わる鉛フリー化に不可欠な材料です。

銀ペーストはなぜ冷温保存が必要なのか


 銀ペーストが冷蔵保存を必要とする主な理由は、ペーストの安定性を保ち、性能の劣化を防ぐためです。具体的には以下の点が挙げられます。

  • 銀粒子の凝集(アグロメレーション)の抑制: 銀ペースト内の微細な銀粒子は、時間が経つと互いに引き合い、凝集してしまう傾向があります。粒子が凝集すると、ペーストの粘度が変化したり、焼結時の均一性が失われたりして、最終的な接合性能に悪影響を及ぼす可能性があります。低温環境では、粒子の動きが遅くなり、凝集反応を抑制できます。
  • 有機溶剤やバインダーの揮発抑制: ペーストに含まれる有機溶剤やバインダーは、室温環境下では徐々に揮発してしまいます。これにより、ペーストが乾燥し、粘度が上昇したり、硬化したりして、塗布性や焼結後の特性が損なわれることがあります。冷蔵保存は、これらの成分の揮発速度を大幅に低下させます。
  • 化学反応の抑制: ペースト中の成分間や、空気中の水分・酸素との化学反応が進むことで、ペーストがゲル化したり、望ましくない副生成物ができたりすることがあります。温度が低いほど化学反応の速度は遅くなるため、冷蔵保存はこれらの劣化反応を抑制し、ペーストの品質を長期間維持するのに役立ちます。

ノリタケとLG化学が開発した銀ペーストが常温での長期保管を可能にしたのは、まさにこれらの課題を、粒子分散技術や粒子設計技術の進化によって克服したため、非常に画期的な成果と言えるでしょう。

銀ペーストは、銀粒子の凝集、有機溶剤の揮発、化学反応による劣化を防ぎ、品質を安定させるため冷蔵保存が必要です。低温に保つことで、これらの変化を抑制し、長期間にわたる性能維持が可能となります。

常温保存可能な理由は何か


 ノリタケとLG化学が開発した銀ペーストが常温保存を可能にした最大の理由は、両社の粒子分散技術と粒子設計技術の融合によるものです。

今回、両社がこれらの課題を克服するために行った技術革新は、具体的には以下の点が考えられます。

  • 最適な粒子表面処理: 銀粒子の表面に特殊な処理を施すことで、粒子同士が凝集する力を弱め、互いに反発するように設計したと考えられます。これにより、常温下でも粒子が均一に分散した状態を保てます。
  • 高安定性バインダーの開発: 温度変化や時間の経過に対して安定性の高い有機溶剤や樹脂を開発し、ペースト全体の劣化を抑制した可能性があります。揮発しにくい、あるいは分解しにくい新しい化学構造を持つバインダーを用いることで、長期間の品質保持を実現しています。
  • 精密な粒子サイズ・形状制御: 銀粒子のサイズや形状を最適化することで、ペーストの安定性を高めつつ、焼結性を損なわない設計にしたと考えられます。

 これらの技術により、温度が比較的高い常温環境下でも、ペースト内の銀粒子が安定して分散し、有機成分も劣化しにくくなったため、冷蔵保存なしで長期間(6カ月)の品質保持が可能となりました。これは、運送や保管コストの削減、廃棄ロスの低減に大きく貢献する画期的な進歩と言えます。

ノリタケとLG化学は、粒子分散技術と粒子設計技術を組み合わせることで、銀粒子の凝集や有機溶剤の劣化を抑制しました。これにより、常温でもペーストの安定性を保ち、長期保管を実現しています。

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