この記事で分かること
- ファインバブルとは:直径100μm未満の微細な気泡の総称です。特に1μm未満のものはウルトラファインバブルと呼ばれ、水中で長期間消えずに残り、汚れの吸着や洗浄、物質の分解など、従来の泡にはない特性を活かして幅広く応用されています。
- PFASを除去できる理由:PFASは界面活性剤に似た性質を持ち、水中で発生させた微細なファインバブルの疎水性の表面に吸着されます。このPFASを濃縮した気泡を水から分離・回収することで、高い除去率が実現します。
- ファインバブルの生成方法:水に気体を高圧で溶かし急激に減圧して析出させる加圧溶解式や、気体と水を高速で流し衝突・せん断する旋回流式、多孔質セラミックスの微細孔から気体を押し出す方式などで生成されます。
ノリタケのファインバブルによるPFAS除去
ノリタケはファインバブル(微細気泡)を用いて、液体中のPFAS(ピーファス:有機フッ素化合物)を99%以上除去できる装置を開発したと発表しています。
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOFD186AX0Y5A111C2000000/
ノリタケのこの技術は、環境問題として注目されるPFAS汚染への対策として期待されています。
ファインバブルとは何か
ファインバブル(Fine Bubble: FB)とは、通常の泡よりもはるかに小さい微細な気泡の総称です。この用語と気泡のサイズは、国際標準化機構(ISO)で定義されています。
定義と種類
ファインバブルは、その直径によって以下の2種類に分類されます。
| 種類 | 定義される気泡の直径 | 特徴 | 水の状態 | 旧名称 |
| マイクロバブル (MB) | 1~100μm | ゆっくりと水中で浮上し、やがて収縮・消滅する。 | 大量に含まれると水が白濁して見える。 | なし |
| ウルトラファインバブル (UFB) | 1μm未満 | 浮力が非常に小さいため、水中でほとんど浮上せず、長期間(数週間~数カ月)安定して残存する。 | 肉眼では見えず、水は透明のまま。 | ナノバブル |
特徴と応用分野
ファインバブルは、単に小さいだけでなく、通常の泡(ミリバブル)とは異なる特異な性質を持っています。
1. 主な特徴
- 長期安定性(UFB): ウルトラファインバブルは水中に長期間留まり続けます。
- 表面吸着性: マイナスに帯電していることが多く、水中のプラスに帯電した汚れや有機物、金属イオンなどに吸着する性質を持ちます。
- キャビテーション効果(MB): マイクロバブルが水中で収縮・消滅する際に、周囲に高エネルギー(局所的な高温・高圧)を発生させ、洗浄や物質の分解を助けます。
2. 応用分野
これらの特性から、ファインバブルは幅広い産業で活用されています。
- 美容・洗浄:
- シャワーヘッドや浴槽で、毛穴よりも小さいUFBが汚れを吸着・除去し、マイクロバブルが温浴効果を高めます。
- 洗濯機で洗剤成分を繊維の奥まで運び、洗浄効果を高めます。
- 環境・水処理:
- PFAS除去のような、水中の有害物質や汚染物質を吸着・分離したり、オゾンガスをUFBとして溶解させて高い殺菌効果や有機物分解能力を発揮したりします。
- 湖沼や河川の浄化、工場排水処理。
- 農業・水産業:
- 酸素などの気体を効率よく水に供給し、植物や養殖魚の成長促進、鮮度保持などに利用されています。
ファインバブルは環境、医療、製造業、日用品など、多岐にわたる分野で注目されている日本発の技術です。

ファインバブルは、直径100μm未満の微細な気泡の総称です。特に1μm未満のものはウルトラファインバブルと呼ばれ、水中で長期間消えずに残り、汚れの吸着や洗浄、物質の分解など、従来の泡にはない特性を活かして幅広く応用されています。
なぜPFASを除去出来るのか
ノリタケの装置におけるファインバブル(微細気泡)によるPFAS(有機フッ素化合物)除去は、主にPFASが持つ物質表面への吸着特性と、ファインバブルの高い表面積を利用した物理的な分離に基づいています。
PFASを「分解」するのではなく、「水から分離・回収」するのが主な仕組みです。
PFAS除去のメカニズム
ファインバブルによるPFAS除去は、以下の2つの主要な原理によって達成されます。
1. ファインバブルへのPFASの「吸着」
- PFASの特性: PFOSやPFOAなどのPFASは、一つの分子内に水になじみにくい疎水性の部分と、水になじみやすい親水性の部分を併せ持つ「界面活性剤」に似た特性を持っています。
- 吸着の発生: 水中で発生したファインバブル(特にマイクロバブルやウルトラファインバブル)の表面は、水と気体の境界面です。PFASは、この気泡の疎水性の表面に、その疎水性の部分を向けて付着(吸着)しようとする性質があります。
2. 気泡による「分離・浮上」
- 高い表面積: ファインバブルは一つ一つが非常に小さい分、同じ体積でも通常の泡と比べて圧倒的に大きな総表面積を持ちます。これにより、水中のPFASを効率よく大量に吸着できます。
- 分離・回収: 吸着によってPFASが濃縮されたファインバブルを、水処理技術(浮上分離)を用いて水面に浮上させます。
- ノリタケの技術: ノリタケは、このファインバブルに吸着されたPFASを、自社の多孔質セラミックフィルターなどで効率的に水から分離・回収する技術を組み合わせて、高除去率を実現しています。
従来のPFAS除去方法との違い
従来のPFAS除去方法の多くは活性炭やイオン交換樹脂といった「吸着材」にPFASを付着させる方法です。
ファインバブル方式は、これらの吸着材を使う代わりに、気泡自体を吸着媒体として利用し、分離後は気泡とPFASをまとめて回収できる点が革新的です。
ノリタケの技術は、この分離回収したPFASを熱分解する工程でCO2排出量を大幅に削減できる点も大きなメリットとしています。

PFASは界面活性剤に似た性質を持ち、水中で発生させた微細なファインバブルの疎水性の表面に吸着されます。このPFASを濃縮した気泡を水から分離・回収することで、高い除去率が実現します。
どのようにファインバブルを発生させるのか
ファインバブル(微細気泡)を発生させる原理はいくつかありますが、主な方法は、水と気体に強い物理的な力を加えることで、気泡を強制的に細かくしたり、水に溶け込んでいる気体を析出させたりするものです。
ノリタケの装置のように多孔質セラミックスを利用する場合も、これらの原理の組み合わせが応用されています。
1. 加圧溶解式(減圧析出式)
- 原理: 液体(水)に高い圧力をかけ、強制的に大量の気体(空気など)を溶け込ませて過飽和状態にします。その後、急激に圧力を解放(減圧)すると、液体に溶けきれなくなった気体が、微細な気泡として一斉に析出(あわとなって出てくる)します。
- 特徴: ウルトラファインバブル(UFB)を生成するのによく用いられます。
2. せん断・旋回流式(高速せん断式)
- 原理: 液体と気体を一緒に高速で流し、ノズルや特殊な構造(突起物、旋回流路)に衝突させたり、高速で回転させたりすることで、大きな気泡を引き伸ばしたり、切断したりして細かく砕きます。
- 特徴: 比較的シンプルで、マイクロバブル(MB)からウルトラファインバブルまで幅広く生成できます。
3. 微細孔式(多孔質分散式)
- 原理: 多孔質セラミックスや微細な穴が開いた膜などのフィルターに、気体や水を通して微細な気泡を分散させます。気体と液体の界面張力を利用して、小さな穴から押し出すことで微細な気泡を生成します。
- ノリタケの技術: ノリタケのPFAS除去装置では、この多孔質セラミックス技術を応用して、微細気泡を効率的に発生・制御していると考えられます。
4. キャビテーション式
- 原理: 水路を急激に収縮・拡大させるなどして、液体の流速を変化させ、局所的に圧力を下げます。圧力が下がることで、水に溶けていた気体が析出し、微細な泡(キャビテーション気泡)となります。
- 特徴: 外部からガスを供給しなくても、水中に溶けているガスから気泡を生成できます。家庭用シャワーヘッドなどでも利用されています。
ノリタケのPFAS除去装置は、これらの技術を組み合わせて、水中のPFASを吸着・分離しやすい、安定したファインバブルを生成していると考えられます。

ファインバブルは、水に気体を高圧で溶かし急激に減圧して析出させる加圧溶解式や、気体と水を高速で流し衝突・せん断する旋回流式、多孔質セラミックスの微細孔から気体を押し出す方式などで生成されます。

コメント