この記事で分かること
- 半導体向け研磨パッドとは:半導体ウエハーを原子レベルで平坦化(研磨)するための特殊なパッドです。CMP(化学機械研磨)工程で使用され、研磨剤とともにウエハー表面の凹凸を取り除くために使用されます。
- 長寿命化出来た理由:研磨剤をパッド内部に組み込んだ「半固定砥粒研磨」技術で長寿命化を実現。従来の研磨剤を流す方式と異なり、パッド自体が研磨剤の役割を果たすため、消耗を抑え、寿命を15倍以上に延ばしました。
- SiCでの量産が先に始まった理由:SiCが非常に硬く、従来の研磨方法では効率が悪かったためです。LHAパッド®はSiCの研磨を劇的に効率化する解決策として、市場の強いニーズに応え、先に導入が進みました。
ノリタケの半導体向け研磨パッド
ノリタケが開発した半導体向け研磨パッド「LHAパッド®」は、従来の研磨方法の課題を解決し、寿命を大幅に延長することに成功した新製品です。
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2022年に愛知環境賞を受賞し、最近ではGaN(窒化ガリウム)ウエハー向けに寿命を15倍以上に伸ばした製品も発表しています。
半導体向け研磨パッドとは何か
半導体向け研磨パッドとは、半導体製造工程において、ウエハー表面を鏡面のように超精密に平坦化(研磨)するために使用される特殊なパッドです。これは「CMP(Chemical Mechanical Polishing/Planarization:化学機械研磨/平坦化)」と呼ばれる重要な工程で用いられます。
研磨パッドの役割と特徴
研磨パッドの主な役割は、研磨機にセットされ、研磨剤(スラリー)と組み合わせてウエハーを研磨することです。以下の特徴があります。
- 材質: 通常、ポリウレタンや不織布などの特殊な樹脂でできており、研磨目的に応じて硬度や密度、表面の溝の形状などが調整されます。
- 研磨の仕組み: 研磨パッドがウエハー表面にわずかな凹凸を作り、そこにスラリー(研磨剤の入った液体)を保持することで、化学的作用と機械的作用の両方を使って効率的に研磨します。
- 重要性: 半導体チップは複数の層を積み重ねて作られるため、各層を形成する前に表面を原子レベルで平らにする必要があります。この平坦化が不十分だと、配線が途切れたり、電気的なショートが起きたりして、チップの性能や歩留まりに悪影響を与えます。研磨パッドは、このプロセスにおいて不可欠な材料です。
CMP工程
CMP工程は、半導体製造においてウエハーの表面を平坦化するための技術であり、以下の2つの作用を組み合わせます。
- 化学的作用 (Chemical): スラリーに含まれる化学物質がウエハー表面と反応し、研磨しやすい柔らかい層を形成します。
- 機械的作用 (Mechanical): 研磨パッドとスラリーの砥粒が、この柔らかい層を物理的に削り取ることで、表面を平らにします。
この化学と機械の相乗効果により、ウエハーに傷をつけることなく、極めて高い精度で平坦化を実現します。

半導体向け研磨パッドは、半導体ウエハーを原子レベルで平坦化(研磨)するための特殊なパッドです。CMP(化学機械研磨)工程で使用され、研磨剤とともにウエハー表面の凹凸を取り除き、高精度の半導体製造を可能にする重要な材料です。
LHAパッドの特徴は何か
ノリタケが開発した半導体向け研磨パッド「LHAパッド®」は、従来の研磨方法の課題を解決し、寿命を大幅に延長することに成功した新製品です。2022年に愛知環境賞を受賞し、最近ではGaN(窒化ガリウム)ウエハー向けに寿命を15倍以上に伸ばした製品も発表しています。
LHAパッド®の技術的特徴
LHAパッド®は、ノリタケ独自の「半固定砥粒研磨」という新しいコンセプトに基づいて開発されました。 従来の研磨パッドは「遊離砥粒研磨」と呼ばれる方式が主流で、研磨パッドの上にスラリー(研磨剤の入った液体)を流してウエハーを研磨します。しかし、この方式では、研磨剤やパッドの消費量が多く、産業廃棄物の課題がありました。
一方、LHAパッド®は、研磨剤である砥粒をパッドの内部に組み込んだ「砥粒内包型」の構造をしています。この特殊な構造により、以下の優位性があります。
- 研磨パッドの長寿命化: 研磨剤がパッド内で摩耗を抑えるように機能するため、従来のパッドに比べて寿命が3倍から15倍以上に大幅に延長されました。これにより、交換頻度が減り、コスト削減に繋がります。
- 研磨速度の向上: 強酸性でも使用できる耐酸性の高い特殊な樹脂を使用しているため、研磨速度を最大で30倍に高速化し、加工時間の短縮を実現しました。
- 産業廃棄物の削減: 研磨剤スラリーを使用しないため、産業廃棄物の大幅な削減が可能です。これは環境負荷の低減に大きく貢献します。
- 高品質な研磨面: 砥粒がパッド内で転がるように作用する構造により、高い研磨レートを維持しながらも、スクラッチ(傷)のない高品位な研磨面が得られます。
応用の広がり
当初、LHAパッド®は、SiC(シリコンカーバイド)パワー半導体向けの研磨工具として量産が始まりました。そして、この技術はSiCだけでなく、ガラスやGaN(窒化ガリウム)など、様々な硬質材料の研磨にも応用が進められています。
特にGaNは、5G/6G通信やEV(電気自動車)などの分野で次世代半導体として注目されており、GaNウエハー向けのLHAパッド®の進化は、これらの産業の生産性向上に大きく貢献することが期待されています。
どのように長寿命化したのか
長寿命化は、ノリタケが開発した「LHAパッド®」の独自の「半固定砥粒研磨」技術によって実現されました。
従来の研磨方法では、研磨剤(砥粒)を混ぜた液体「スラリー」をパッドに供給し、ウエハーを研磨します。この方法では、スラリーが絶えず消費されるうえ、パッドの摩耗も速いため、頻繁な交換が必要でした。
一方、LHAパッド®は、研磨剤である砥粒をパッドの内部にあらかじめ組み込んでいます。この構造により、砥粒がパッド内で転がるように作用し、常に新しい砥粒が研磨面に供給され続けます。これにより、パッドと砥粒が効率的に作用し、消耗が抑えられ、パッド自体の寿命が大幅に延長されました。結果として、従来のパッドに比べて最大で15倍以上の長寿命化を実現しています。

LHAパッドは、砥粒をパッド内部に保持する「半固定砥粒研磨」技術で、従来のパッドより寿命を15倍以上に延ばしました。スラリー不要で産業廃棄物を削減し、高品位な研磨面を高速で実現する点が特徴です。
なぜ、SiCでの量産が先に始まったのか
SiC(炭化ケイ素)での量産が先に始まったのは、SiCがGaN(窒化ガリウム)よりもパワー半導体市場での需要が先行し、製造技術の確立がより切望されていたからです。
1. SiCの需要と技術的課題
SiCは、主にEV(電気自動車)や再生可能エネルギー分野のインバータなど、高電圧・大電流を扱う用途のパワー半導体として市場が拡大しました。
しかし、SiCは非常に硬く、脆いという特性があり、従来のシリコンウエハーよりも研磨が格段に難しく、量産に際して研磨工程の効率化が大きな課題でした。このため、ノリタケのLHAパッド®のような革新的な研磨技術が強く求められたのです。
2. GaNとの用途の違い
一方、GaNは、SiCとは異なる用途で需要が拡大しました。GaNは高周波・高速スイッチングに優れており、主にスマートフォンやデータセンター、5G通信基地局などの高周波通信分野で使われています。これらの用途でも研磨は重要ですが、SiCが直面していたパワー半導体市場での量産化の圧力や、材料の物性からくる研磨の難易度(SiCの方がより硬い)の課題が、GaNでは相対的に少なかったと見られます。
このように、SiCの市場が技術的課題を抱えながらも先行して拡大したため、それを解決するための研磨技術の開発と量産化が優先的に進められました。

この研磨パッドがSiCで先に量産が始まったのは、SiCが非常に硬く、従来の研磨方法では効率が悪かったためです。LHAパッド®はSiCの研磨を劇的に効率化する解決策として、市場の強いニーズに応え、先に導入が進みました。
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