この記事で分かること
- 糖液とは:グルコースやキシロースなどの糖類が水に溶けた液体のことで、発酵原料、甘味料、バイママス由来の工業原料などに使用されています。
- バイオエタノールとは:植物などのバイオマス(生物資源)から製造されるエタノール(C₂H₅OH)のことです。環境負荷が低い燃料として注目されています。
王子HD糖液、バイオエタノールの実証生産
王子ホールディングス(王子HD)は、鳥取県米子市の製紙米子工場内において、木質由来の糖液およびバイオエタノールの実証生産を開始しました。
https://www.asahi.com/articles/AST5P3RL0T5PPUUB00BM.html
2025年5月21日には、日本最大級のパイロットプラントの竣工式が行われました。
糖液とは何か
「糖液(とうえき)」とは、糖類(主にグルコースやキシロースなど)が水に溶けた液体のことです。
原料によって種類や用途が異なりますが、基本的には以下のような特徴があります。
■ 糖液の基本的な特徴構成成分
グルコース(ブドウ糖)、キシロース、アラビノースなどの単糖類外観:透明または褐色がかった粘性の液体
製造方法:植物バイオマス(例:トウモロコシ、サトウキビ、木材など)を加水分解して得られます
■ 糖液の用途
1. 発酵原料:微生物によってエタノール、乳酸、バイオプラスチックの原料などに変換されます。
2. 食品産業:甘味料や水あめの原料として使われる場合もあります(※木質系由来ではなく、食用作物が原料)。
3. 化学工業原料:バイオマス由来の化学品(例:バイオPEやPHAなど)への原料として注目されています。
■ 王子HDのケースでの糖液
王子HDでは、非可食の木材から糖液を製造しています。これは「リグノセルロース系糖液」とも呼ばれ、石油代替として化学品や燃料の原料に使われます。

糖液とは、グルコースやキシロースなどの糖類が水に溶けた液体のことで、発酵原料、甘味料、バイママス由来の工業原料などに使用されています。
エタノールの用途は何か
エタノール(C₂H₅OH)は、以下のように、多様な分野で使われる非常に重要な化学物質です。
■ 1. 燃料分野
- バイオエタノール(再生可能燃料):→ ガソリンと混合して
- ガソホール(E10, E85など) として使用→ 二酸化炭素排出削減に貢献
- SAF(Sustainable Aviation Fuel)原料:→ エタノールからジェット燃料へ転換(ATJ技術)
■ 2. 溶剤・工業用途溶媒としての使用
- 香料、塗料、インク、洗浄剤などの溶剤化学品原料:
- エチレン、アセトアルデヒド、酢酸などの中間体に合成可能消毒・殺菌剤:
- 医療用アルコール、手指消毒液(70~80%濃度が一般的)
■ 3. 飲料用アルコール酒類
- ビール、ワイン、ウイスキー、日本酒など
- 発酵由来のエタノール
■ 4. 医薬・化粧品分野
- 医薬品の抽出・溶媒香水・化粧品のベース成分→ 揮発性や抗菌性を利用
■ 5. 研究・分析用途
- 実験用溶媒・洗浄剤:→ 実験器具の洗浄、試料の前処理など-

エタノールは燃料、溶剤、飲料や医療品など幅広い分野で利用されています。
バイオエタノールとは何か
バイオエタノールとは、植物などのバイオマス(生物資源)から製造されるエタノール(C₂H₅OH)のことです。
石油ではなく再生可能資源を原料とするため、カーボンニュートラルで環境負荷が低い燃料として注目されています。
■ バイオエタノールの特徴
特徴 | 内容 |
---|---|
原料 | トウモロコシ、サトウキビ、木材、稲わらなど(食用・非食用両方) |
製造方法 | 発酵(酵母などが糖をエタノールに変換) |
主な用途 | 自動車燃料(ガソホール)、航空燃料(SAF)、化学原料 |
環境特性 | 再生可能、CO₂排出削減に貢献、脱炭素社会の一助 |
■ 製造プロセス
- 1. 原料バイオマスの処理:トウモロコシ:デンプンを糖化木材:セルロースを糖化(リグノセルロース系)
- 2. 糖液の発酵:酵母が糖をエタノールに変換C6H12O6 → 2C2H5OH + 2CO23. 蒸留・脱水:発酵液からエタノールを分離・濃縮
■ バイオエタノールの分類(世代別)
世代 | 原料 | 特徴 |
---|---|---|
第1世代 | 食用作物(トウモロコシ、サトウキビ) | 食料と競合する点が課題 |
第2世代 | 非可食バイオマス(木材、稲わらなど) | 食料と競合せず、持続可能性が高い |
第3世代 | 微細藻類など | 研究段階、将来的な可能性あり |
■ 利点と課題
● 利点
- 再生可能エネルギー資源
- CO₂排出の抑制(カーボンニュートラル)
- 石油依存の低減
● 課題
- 製造コストの高さ(特に第2世代)
- 土地利用、食料問題とのバランス、
- インフラ整備の必要性(混合燃料対応車両・設備)

バイオエタノールは植物などのバイオマス(生物資源)から製造されるエタノール(C₂H₅OH)のことです。環境負荷が低い燃料として注目されています。
なぜ製造コストが高いのか
バイオエタノール(特に第2世代:木質系バイオマス由来)の製造コストが高い理由は、以下のような技術的・経済的課題によるものです。
■ 1. 前処理コストが高い
木質バイオマス(リグノセルロース)は非常に構造が強固(セルロースがリグニンに守られている)分解するには高温・高圧の化学処理や酵素分解が必要→設備費・エネルギー費が大きい
■ 2. 酵素コスト
セルロース分解に使う酵素(セルラーゼなど)は高価活性が低かったり、原料の違いによって効率が変わるため、大量に使用する必要がある
■ 3. 糖化・発酵の効率が低い
木質バイオマスでは多糖類が完全に分解されにくいヘミセルロースから得られるキシロース(C5糖)は、一般的な酵母では発酵されにくい→ 特別な微生物を使うとコスト増に
■ 4. 不純物の処理
木質原料の処理では、リグニンや有機酸、フェノール類など発酵を阻害する副生成物が出る→ 精製・除去に追加コストが発生
■ 5. スケールの問題
現在、多くのプラントが実証段階または小規模で稼働→ 大量生産によるスケールメリットがまだ得られていない
■ 6. 燃料価格との比較
石油由来エタノールやガソリンと比べてコスト競争力が低い、為替や原油価格の影響も受ける
■ 参考コスト概略(1リットルあたりの製造コスト)
- 第1世代エタノール:30~60円
- 第2世代エタノール:80~150円(技術・条件による)

製造コストの低減には、酵素改良、バイオプロセス統合、廃熱の再利用、規模拡大などがカギとなります。
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