この記事で分かること
- 利益低下の原因:世界的な景気減速によるパルプ市況の急激な悪化です。海外事業でパルプ販売価格が大幅に下落したこと、およびニュージーランドでの災害影響が響き、利益が大幅に減少しています。
- パルプとは:紙や衛生用品などの主原料となる、木材やその他の植物から抽出された繊維の集合体です。主にセルロースで構成され、この繊維を水に分散させて絡ませ、乾燥させることで紙が作られます。
- パルプ価格下落要因:世界的な金融引き締めによる景気後退で紙・板紙の需要が低迷し、その結果、供給過剰と流通在庫の積み上がりが生じ、国際的なパルプ販売価格が急落しています。
王子ホールディングスの純利益低下
王子ホールディングスの2025年4〜9月期の純利益は、前年同期と比べて55%減となりました。この大幅な減益の主な原因は、パルプ市況の悪化と、それによる海外事業の減益です。

王子ホールディングスはどんな企業か
王子ホールディングス株式会社は、日本国内で最大手の製紙企業グループ「王子グループ」の持株会社です。
単なる「紙を作る会社」にとどまらず、森林資源を基盤に、生活のあらゆる場面に関わる多様な事業をグローバルに展開しているのが最大の特徴です。
王子ホールディングスの概要と主な事業セグメント
| セグメント名 | 主な事業内容 | 主要製品例 | 特徴・役割 |
| 1. 生活産業資材 | 段ボール原紙・加工、白板紙・紙器、包装用紙、サステナブルパッケージング、ホームケア(家庭紙)、ウェルネスケア(紙おむつ)など | 段ボール、紙器パッケージ、ティシュ、トイレットペーパー、紙おむつ | 最終消費財に近い分野。脱プラスチックの潮流に対応するパッケージ分野を強化。 |
| 2. 機能材 | 特殊紙、感熱紙、粘着紙、フィルムの製造・販売 | ラベル材、感熱ロール紙(レシートなど)、特殊フィルム | 高付加価値製品を扱い、国内外で高いシェアを持つニッチトップ分野。 |
| 3. 資源環境ビジネス | パルプ事業、エネルギー事業、植林・木材加工事業 | パルプ(製紙原料)、電力(バイオマス・水力など)、木材チップ | 事業の根幹となる森林資源の確保・活用と、環境に配慮したエネルギー供給。海外での植林事業も大規模。 |
| 4. 印刷情報メディア | 新聞用紙、印刷・出版・情報用紙の製造・販売 | 新聞用紙、雑誌・カタログ用紙、コピー用紙 | 伝統的な製紙事業の核。デジタル化の進展に伴い、事業構造転換を進めている。 |
企業の主な特徴
- 国内製紙業界のトップ: 売上高ベースで国内首位を誇ります。
- グローバル展開: 売上高の約4割、従業員の半数以上が海外に拠点を置いており、アジアや南米を中心に広範な海外事業を展開しています。
- 「森を育て、森を活かす。」: 植林事業を自社で行い、森林資源の持続可能な利用を事業の根幹としています。
- 多角化: 紙製品だけでなく、段ボール、紙おむつ、感熱紙、エネルギー事業(バイオマス発電など)など、多岐にわたる分野で事業を展開することで、収益源の多様化を図っています。

日本最大の製紙企業グループを束ねる持株会社です。紙、段ボール、パルプの製造販売を核に、家庭紙(ネピア)、機能材、エネルギーなど森林資源を活用した多様な事業をグローバルに展開しています。
パルプとは何か
「パルプ」とは、紙をはじめとする様々な製品の原料となる、植物の繊維を抽出した状態のものです。
1. 定義と主成分
- 定義: 木材やその他の植物(竹、綿、ケナフなど)、または古紙から、繊維質(セルロース)を取り出した状態の原料です。
- 主成分: 主にセルロースという物質で構成されています。このセルロース繊維同士が、水の中で絡み合い、乾燥することで水素結合を生じ、強固なシート(紙)になります。
2. 主な原料
- 木材パルプ: 最も一般的です。
- 針葉樹(繊維が長く、強度のある紙向き)
- 広葉樹(繊維が短く、きめ細かく柔らかい紙向き)
- 古紙パルプ: 使用済みの紙を回収し、インクなどを取り除いて再利用したもの(リサイクルパルプ)。
- 非木材パルプ: 竹やサトウキビの搾りかす(バガス)など、木材以外の植物から作るもの。
3. 製造方法による分類
パルプの製造は、木材を固めている「リグニン」という接着剤のような物質を取り除く工程です。
| 分類 | 製造方法 | 特徴 | 用途例 |
| 化学パルプ | 薬品でリグニンを溶かし、高純度の繊維を取り出す。 | 繊維が丈夫で色が白く、強度が高い。 | 高級印刷用紙、強度が必要な板紙など。 |
| 機械パルプ | 機械的にすりつぶして繊維を取り出す。 | リグニンが残り、安価だが、変色しやすい。 | 新聞用紙など。 |
4. 主な用途
パルプの最大の用途は紙ですが、他にも多くの製品に使われています。
- 製紙: 新聞、雑誌、コピー用紙、トイレットペーパー、ティッシュ、段ボールなど。
- 衛生用品: 紙おむつ(特に吸収体に使われるフラッフパルプ)、生理用品。
- 化学製品: レーヨンなどの化学繊維の原料や、食品添加物など。

パルプは、紙や衛生用品などの主原料となる、木材やその他の植物から抽出された繊維の集合体です。主にセルロースで構成され、この繊維を水に分散させて絡ませ、乾燥させることで紙が作られます。
純利益55%減になった理由は何か
王子ホールディングス(HD)の2025年4〜9月期の純利益が55%減となった最も大きな理由は、以下の2点に集約されます。
1. パルプ市況の急激な悪化(海外事業への影響)
これが最大の減益要因です。
- パルプ価格の下落:
- 世界的な景気減速や需要の調整により、紙の原料となるパルプの国際市況が大幅に悪化し、販売価格が急落しました。
- 海外事業での減益:
- 王子HDは海外でパルプ製造や植林などの「資源・環境ビジネス」を展開しており、市況の悪化がこの海外部門の収益を大きく押し下げました。特にパルプ価格が前年同期に比べて大きく下落した影響が直撃しました。
2. 一時的な災害の影響
- ニュージーランドにあるグループ会社(PanPac Forest Products Ltd.など)が、サイクロン(熱帯低気圧)の被害を受け、操業停止や生産に支障が出たことも、一時的な減益要因となりました。
その他の事業環境
- 国内では、価格修正(値上げ)を実施したものの、物価高に伴う消費者の節約志向や在庫調整の影響で、一部の製品で販売数量が伸び悩んだことも収益に影響しました。
売上高自体は円安効果で微増となったものの、主力の海外事業でパルプ市況の急落という「価格面でのマイナス」が非常に大きく、その他のコスト削減や国内の値上げ効果を打ち消してしまい、純利益の大幅な減少につながりました。

最大の原因は、世界的な景気減速によるパルプ市況の急激な悪化です。海外事業でパルプ販売価格が大幅に下落したこと、およびニュージーランドでの災害影響が響き、利益が大幅に減少しています。
パルプ市況の急激な悪化の要因は何か
王子HDの業績に直撃したパルプ市況の急激な悪化には、主に以下の複合的な要因が挙げられます。パルプ価格は、需要と供給のバランス、景気動向、そして在庫水準に大きく左右されます。
1. 世界的な景気後退と需要の低迷
- 消費財・耐久財需要の鈍化: 世界的なインフレ抑制のための金融引き締め(利上げ)により、経済成長が減速しました。これにより、紙・板紙を使う消費財や耐久財の需要が世界的に落ち込みました。
- 在庫調整: 上記の需要鈍化を見越し、製紙メーカーや流通業者がパルプの在庫水準を引き下げる動きを強めました。これにより、パルプの新規注文が大幅に減少し、価格下落圧力が強まりました。
2. 供給力の増加と需給バランスの悪化
- 新規生産能力の稼働: 世界的にパルプの新規生産設備が稼働を開始したり、既存設備の生産効率が向上したりしたことで、供給能力が一時的に増加しました。
- 需給バランスの崩壊: 需要が落ち込む一方で供給が増えたため、市場が供給過剰となり、パルプ価格が急激に下落しました。
3. コスト要因の落ち着き(価格下落の加速)
- 2022年までは、ロシアのウクライナ侵攻や円安などの影響で原燃料価格(石炭、LNGなど)が高騰し、パルプの生産コストが上昇していました。
- しかし、2023年に入ると一部のコスト上昇圧力が緩和に向かったことで、需給悪化と相まって、パルプ価格の下落が加速する背景となりました。
- 現在も、2023年の急激な価格下落からは一服したものの、依然として厳しい需給環境にあります。
これらの要因が重なり、王子HDが海外で生産・販売するパルプの採算が急速に悪化し、大幅な減益につながりました。

世界的な金融引き締めによる景気後退で紙・板紙の需要が低迷し、その結果、供給過剰と流通在庫の積み上がりが生じ、国際的なパルプ販売価格が急落しています。

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