この記事で分かること
- オーバーフロー・ダウンドロー法とは:、溶けたガラスを樋状の耐火物の両側から溢れさせ(オーバーフロー)、下端で合流させて板状に引き下ろす製法です。
- 平滑性に優れる理由:。製品面が空気以外に触れないため、研磨なしで極めて平滑な表面となります。
オーバーフロー・ダウンドロー法
ガラスの用途は多岐にわたります。主な用途は、建物の窓ガラスや自動車のフロントガラスなどの建築・輸送機器です。また、ビール瓶や食品容器などの包装材、テレビやスマホのディスプレイ基板、光ファイバーなどのエレクトロニクス分野でも不可欠な素材です。
そのためガラス製造市場の規模は非常に大きく、2024年時点で2,350億米ドル(約35兆円)を超えると推定されており、今後も年平均成長率(CAGR)5%以上で着実に拡大すると予測されています。
この成長は主に、世界的な建設・建築分野での需要増加や、包装(リサイクル可能なガラス瓶の需要増)および自動車分野での用途拡大に牽引されています。
前回はフロート法に関する記事でしたが、今回は、オーバーフロー・ダウンドロー法に関する記事となります。
オーバーフロー・ダウンドロー法 とは何か
オーバーフロー・ダウンドロー法別名フュージョン法は、主に高精細ディスプレイ用のガラス基板を製造するために用いられる、極めて高い平滑性を持つ板ガラス成形技術です。
この製法は、フロート法のようにガラスを溶融金属に接触させることなく、両面を空気のみに触れさせて成形する点が最大の特徴です。
製造原理
オーバーフロー・ダウンドロー法は、溶融ガラスを特定の耐火物の上で流動させ、合流させることで板ガラスを成形します。
- オーバーフロー(溢流):
- 溶融炉から取り出されたガラスが、上部が樋(とい)状になった特殊な耐火物(リップタイルまたは成形体と呼ばれる)の上に流れ込みます。
- ガラスは、その耐火物の両側から均一な厚みで溢れ出ます(オーバーフロー)。
- ダウンドロー(下方への引き下げ)と融合(フュージョン):
- 溢れ出たガラスは、耐火物の両側の面に沿って下向きに流れ落ちます。
- V字状になった耐火物の下端(底)で合流し、一枚の板状のガラス(シート)として下方へ連続的に引き下げられます(ダウンドロー)。
平滑性に優れる理由
この製法が特に平滑性に優れているのは、以下の理由からです。
- ガラス製品面が非接触: 完成したガラスの表面となる両面は、耐火物(リップタイル)に一度も接触していません。耐火物に接触していた面は、合流してガラスの中心(内部)となるため、表面に耐火物やスズなどの不純物が付着せず、極めて平滑で欠陥のない表面が得られます。
- 無研磨(ノンポリッシュ): フロート法よりも高い平滑性を実現できるため、研磨の必要がない(無研磨で利用できる)ことが大きな利点です。
主な用途
この技術は、薄く、高い平坦度と表面品質が求められる分野で不可欠です。
- ディスプレイ用基板: 液晶ディスプレイ(LCD)、有機ELディスプレイ(OLED)などのガラス基板。
- 超薄板ガラス: 1 mm 以下、さらには 100μm以下の超薄型ガラスの製造にも適しています。

オーバーフロー・ダウンドロー法は、溶けたガラスを樋状の耐火物の両側から溢れさせ(オーバーフロー)、下端で合流させて板状に引き下ろす製法です。製品面が空気以外に触れないため、研磨なしで極めて平滑なディスプレイ用ガラス基板を製造できます。
薄型にも適している理由は
オーバーフロー・ダウンドロー法が薄型ガラスの製造に適している主な理由は、成形時に重力と粘性抵抗を精密に制御できるためです。
- 下方への連続的な引き下げ (ダウンドロー): 溶融ガラスを下方へ連続的に引っ張ることで、ガラスが薄く引き伸ばされ、厚みを細かく制御できます。この速度と粘度を精密に管理することで、1mm以下、さらには100μm 以下の超薄板ガラスの連続生産が可能です。
- 表面の非接触: 既に述べた通り、製品となるガラスの両面は空気以外に触れないため、フロート法では困難な薄いガラスの表面にも、スズなどの不純物や欠陥が全く生じません。
- 高い表面品質: 薄くても極めて平滑で歪みのない表面が得られるため、研磨の手間や、薄いガラスを研磨する際のリスク(破損や歪み)を回避できます。
これらの特性により、スマートフォンやタブレットなどのディスプレイ基板に必要な、高精度な平坦度と薄さを両立できます。
リップタイル、成形体とは何か
リップタイル(Lip-tile)や成形体とは、オーバーフロー・ダウンドロー法(フュージョン法)で超平滑なガラス基板を製造する際に用いられる、樋(とい)状の特殊な耐火物のことです。
役割と機能
この耐火物は、溶融ガラスを成形するラインの核となる部分であり、以下の重要な役割を果たします。
- 溶融ガラスの誘導と溢流(オーバーフロー):
- 溶融炉から流し込まれたガラスを受け止め、その両側から均一な厚みで溢れさせる(オーバーフロー)ガイドの役割を果たします。
- 両面非接触成形の実現:
- 溢れたガラスはリップタイルの両側面を伝って流れ落ち、下端で合流します。
- 合流して一枚の板となったガラスの表面は、リップタイルに一度も触れていません。リップタイルに接触していた面は、ガラスシートの内部となるため、表面に不純物や欠陥がなく、極めて平滑な面(火造り面)が形成されます。
- 材質:
- 高温の溶融ガラスに耐え、ガラスと反応しないように、ジルコニア(二酸化ジルコニウム)やアルミナなど、高純度で耐熱性・耐食性に優れ、セラミック材料(耐火物)でできています。
このリップタイル(成形体)の存在こそが、オーバーフロー・ダウンドロー法がフロート法よりもさらに高品質な無研磨の超薄板ガラスを製造できる鍵となっています。

リップタイル(成形体)は、オーバーフロー・ダウンドロー法で使う特殊な耐火物です。溶融ガラスを両側から溢れさせて下端で合流させる樋状の部品で、ガラスが空気以外に触れないようにし、極めて平滑な表面を持つ薄板ガラスを製造する鍵となります。
薄型ガラスの使用例は何か
薄型ガラスは、その軽さ、平滑性、そして高い強度が求められる様々な分野で不可欠な素材となっています。
エレクトロニクス・情報機器
- ディスプレイ用基板: 液晶ディスプレイや有機ELディスプレイのガラス基板として使われます。高精細化に伴い、1 mm以下の極めて薄く平坦なガラスが必要です。
- スマートフォン・タブレットのカバーガラス: 特に化学強化された薄型ガラスが使用され、薄型化と同時に高い耐傷性と耐衝撃性を実現しています。
- タッチパネル: 静電容量方式のタッチパネルでは、薄型ガラスがセンサー層を保護し、高い感度と透明度を提供しています。
光学・照明分野
- カメラ・センサー: デジタルカメラのCCDやCMOSセンサーのカバーガラス、および各種光学フィルターとして、光学的特性を損なわない薄さが求められます。
- 照明: 有機EL照明の封止材や基板として、薄さ・軽さ・ガスバリア性が活用されます。
エネルギー分野
- 超薄膜太陽電池: 従来の重いガラス基板の代わりに、フレキシブルな太陽電池の基板やカバーとして、軽量化のために極薄ガラスが検討・利用されています。

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