塗料の顔料 顔料の機能は何か?有機顔料が色鮮やかな理由は?防錆顔料の仕組みは?

この記事で分かること

  • 顔料の機能:色を付けるだけでなく、塗膜の機能性(保護、隠ぺい力、耐久性など)にも大きく寄与しています。
  • 有機顔料が色鮮やかな理由:複雑な有機分子構造によって特定の波長の光を吸収することで、様々な色を発現しています。色を決定する「発色団」と、その発色を強める「助色団」を形成することで、多様な吸収特性を可能にしています。
  • 防錆顔料の仕組み:塗膜自体が酸素や水をブロックしたり、腐食しやすい亜鉛の膜が腐食されることで鉄の腐食を防ぐ犠犠牲防食、不導体膜の形成などによって金属の錆を防いでいます。

塗料の顔料

 日本の主要塗料メーカー3社は、国内外での需要を取り込みつつ、価格戦略やコスト管理、高付加価値製品の提供によって増収増益を達成したと発表しています。

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 日系自動車メーカーの生産台数減少の影響はしばらく続く想定ですが、全体としては底堅く推移すると予測されています。

 前回は塗料全般と樹脂に関する記事でしたが、今回は塗料に含まれる顔料についての記事となります。

顔料にはどんなものが使われるのか

 塗料に使われる顔料は、単に色を付けるだけでなく、塗膜の機能性(保護、隠ぺい力、耐久性など)にも大きく寄与する重要な成分です。顔料は液体に溶けない微細な固体粉末であり、その種類によって特性が大きく異なります。

顔料は大きく以下の3つに分類されます。

  1. 着色顔料: 塗料に色彩を与えることを主な目的とします。
  2. 体質顔料: 塗膜の物理的特性を調整したり、塗料の増量剤として使用されたりします。
  3. 機能性顔料(特殊顔料): 特定の機能(防錆、遮熱、光沢など)を付与することを目的とします。

それぞれの種類について、具体的な顔料とその特徴を説明します。


I. 着色顔料

 着色顔料はさらに「無機顔料」と「有機顔料」に分類されます。

1. 無機顔料 (Inorganic Pigments)

鉱物や金属酸化物などを原料とする顔料で、一般的に耐候性、耐薬品性、隠ぺい力に優れ、変色・退色が少ないのが特徴です。色は有機顔料ほど鮮やかではありませんが、安定性が高いため屋外用途で重宝されます。

  • 白色顔料
    • 酸化チタン (Titanium Dioxide): 最も広く使われる白色顔料で、非常に高い隠ぺい力と白色度を持ちます。塗料だけでなく、プラスチックや紙などにも多用されます。紫外線吸収効果も高く、塗膜の劣化を防ぐ効果もあります。
    • 亜鉛華 (Zinc Oxide): 防カビ性や抗菌性を持つ。
  • 黒色顔料
    • カーボンブラック (Carbon Black): 石油や天然ガスを不完全燃焼させて作られる炭素の微粒子。高い着色力と隠ぺい力を持ち、非常に安定しています。
  • 黄色顔料
    • 黄酸化鉄 (Yellow Iron Oxide): 落ち着いた黄色を出す。耐候性に優れる。
    • チタン黄 (Titanium Yellow): レモンイエロー系の色で、耐候性、耐熱性、耐薬品性に優れる。
  • 赤色顔料
    • 酸化鉄赤 (Red Iron Oxide / 弁柄): 落ち着いた赤褐色を出す。耐候性に優れる。
    • クロムバーミリオン: 鮮やかな朱色を出す。
  • 青色顔料
    • 紺青 (Prussian Blue): 青色顔料。
    • 群青 (Ultramarine Blue): 赤みを帯びた鮮明な青色顔料。
    • コバルトブルー: 高級顔料で、非常に安定した青色。
  • 緑色顔料
    • 酸化クロム緑 (Chromium Oxide Green): 落ち着いた緑色で、耐候性・耐熱性に優れる。

2. 有機顔料 (Organic Pigments)

石油化学製品を原料とする合成顔料で、鮮やかで多様な色彩を表現できるのが特徴です。無機顔料に比べて隠ぺい力は劣り、一部の有機顔料は紫外線による退色・変色しやすい傾向がありますが、近年は耐候性が向上した高性能な有機顔料も開発されています。

  • アゾ系顔料: 黄、橙、赤など幅広い色調があり、鮮やかさが特徴。パーマネントイエロー、パーマネントレッドなど。
  • フタロシアニン系顔料: 非常に鮮やかな青(フタロシアニンブルー)や緑(フタロシアニングリーン)を発色し、耐候性も比較的良好。
  • キナクリドン系顔料: 鮮やかな赤から紫まで幅広い色調を持ち、耐候性にも優れる。
  • ジケトピロロピロール (DPP) 系顔料: 鮮やかな赤色や橙色を発色し、優れた耐候性を持つ。

II. 体質顔料 (Extender Pigments / Fillers)

 それ自身には色や隠ぺい力はほとんどありませんが、塗膜の厚みを増したり、塗料の作業性を改善したり、光沢を調整(つや消し剤)したりする目的で配合されます。一般的に無機鉱物が粉砕されたものです。

  • 炭酸カルシウム (Calcium Carbonate): 最も一般的で安価な体質顔料。塗膜の増量や平滑化、硬度向上に貢献。
  • タルク (Talc): 塗膜の柔軟性や平滑性、耐クラック性を向上させる。
  • シリカ (Silica): ガラスの主成分。透明性や硬度、耐摩耗性を高める。つや消し効果も持つ。
  • バライト粉 (Barium Sulfate): 塗膜の重量感や耐薬品性を高める。
  • クレー (Clay): 塗料の粘度調整や塗膜の強度向上に寄与。

III. 機能性顔料 (Functional Pigments / Special Effect Pigments)

着色や体質顔料の役割とは別に、塗膜に特定の機能や特殊な効果を与える顔料です。

  • 防錆顔料: 金属表面を錆から保護します。
    • リン酸亜鉛 (Zinc Phosphate): 鉛系の顔料が環境規制で使われなくなった現在、最も広く使われる防錆顔料の一つ。
    • 亜鉛末 (Zinc Powder): 亜鉛めっきのような防錆効果を発揮。
    • MIO (Micaceous Iron Oxide / 雲母状酸化鉄): 鱗片状の粒子が塗膜内で重なり合い、水や酸素の浸入を防ぎ、防食効果を高める。
  • 金属光沢顔料: 光沢やメタリック感を与えます。
    • アルミニウム粉: メタリック塗料の光沢や質感を生み出す。
    • 真鍮粉 (Brass Powder): ゴールド調の光沢を与える。
  • パール顔料: 真珠のような独特の光沢(干渉色)を与えます。
    • 雲母チタン (Mica Titanium): 雲母(マイカ)の薄片を酸化チタンでコーティングしたもの。光の干渉によって様々な色調の真珠光沢を出す。
  • 蛍光顔料: 紫外線を吸収して可視光線に変換し、鮮やかな蛍光色を発します。
  • 蓄光顔料: 光を蓄えて暗闇で発光します(夜光塗料)。
  • 遮熱顔料: 近赤外線を高効率で反射し、塗膜表面の温度上昇を抑えます。
    • 特に黒や濃色の塗料に配合され、太陽光の熱吸収を抑制します。

これらの顔料は、塗料の目的や性能要求に応じて単独で、あるいは複数組み合わせて使用されます。

顔料は、単に色を付けるだけでなく、塗膜の機能性(保護、隠ぺい力、耐久性など)にも大きく寄与する重要な成分です。着色の有無や機能性の種類などの異なる多くの顔料が存在します。

有機顔料の色が鮮やかなのはなぜか

 有機顔料が鮮やかな色を持つ理由は、その分子構造光の吸収・反射のメカニズムにあります。


1. 複雑で多様な分子構造

 無機顔料が主に金属原子と非金属原子のシンプルな結合で構成されているのに対し、有機顔料は炭素(C)を主軸とした複雑な環状構造や二重結合(π電子系)を多数含む有機化合物でできています。この分子構造の多様性が、非常に幅広い色調と鮮やかさを生み出す基盤となります。

2. 特定の波長の光を選択的に吸収

 色が「見える」というのは、物体に当たった光(白色光、つまり様々な波長の光の集合)のうち、特定の波長の光が吸収され、吸収されなかった波長の光が反射または透過することで、それが私たちの目に色として認識される現象です。

 有機顔料の分子構造には、発色団(はっしょくざん)と呼ばれる特定の電子配置を持つ部分が含まれています。この発色団の電子が、可視光線の特定のエネルギー(つまり特定の波長)を吸収することで、基底状態から励起状態へとエネルギーが移動します。

  • 共役π(パイ)電子系: 有機顔料の分子内には、単結合と二重結合が交互に並んだ「共役π電子系」が発達しています。この共役系が長くなればなるほど、電子が低いエネルギーで励起されやすくなり、より長い波長(赤、黄など)の光を吸収できるようになります。
  • 助色団(じょしょくざん): さらに、アミノ基(-NH2)や水酸基(-OH)といった「助色団」と呼ばれる官能基が発色団の近くに存在すると、発色団の電子状態が変化し、光の吸収特性がさらに調整されます。これにより、色の濃さや鮮やかさが向上します。

3. 吸収されなかった光が「色」として見える

 例えば、ある有機顔料が青色の光を吸収するとします。すると、その顔料は青色の補色である「黄色の光」を反射するため、私たちの目には黄色に見えます。同様に、緑色の光を吸収すれば赤色に見え、赤色の光を吸収すれば緑色に見えます。

有 機顔料は、この光の吸収スペクトル(どの波長の光をどれだけ吸収するか)を非常にシャープかつ特定の範囲に限定して調整できるため、結果として反射される光の純度が高くなり、より鮮やかで濁りの少ない色として知覚されるのです。

まとめ

鮮やかさの要因は、主に以下の点に集約されます。

  • 複雑な有機分子構造: これが色を決定する「発色団」と、その発色を強める「助色団」を形成し、多様な吸収特性を可能にする。
  • 共役π電子系の発達: 特定の波長の光を効率よく吸収し、幅広い色相を生み出す。
  • 選択的な光の吸収と反射: 無駄な光の吸収が少なく、反射される光の純度が高いため、彩度の高い鮮明な色として認識される。

ただし、一般的に有機顔料は無機顔料に比べて紫外線に対する耐久性が劣り、色あせしやすいという弱点もあります。しかし、近年ではこの耐候性を大幅に改善した高機能な有機顔料も開発されています。

複雑な有機分子構造によって特定の波長の光を吸収することで、様々な色を発現しています。色を決定する「発色団」と、その発色を強める「助色団」を形成することで、多様な吸収特性を可能にしています。

防錆顔料はなぜ、防錆可能なのか


防錆顔料が錆を防ぐメカニズム

 防錆顔料は、塗料の成分として金属表面に塗布されることで、金属の腐食(錆)を抑制する特殊な顔料です。その防錆メカニズムは、主に以下のいずれか、または複数の方法によります。

1. バリア効果(遮断効果)

 これは、防錆顔料だけでなく塗膜全体に共通する最も基本的な防錆メカニズムです。

  • 酸素と水の遮断: 塗膜自体が、錆の発生に不可欠な酸素と水(湿気)が金属表面に到達するのを物理的にブロックします。
  • 緻密な塗膜形成: 防錆顔料は、塗膜内に均一に分散し、塗膜の構造をより緻密にしたり、金属表面への密着性を高めたりすることで、酸素や水分子が浸透しにくい強力なバリアを形成します。特に鱗片状の顔料(例:雲母状酸化鉄 – MIO)は、層状に重なり合って水の浸入経路を遮断する効果が高く、優れた防食性を示します。

2. 電気化学的防錆効果(犠牲防食作用)

 このメカニズムは、主に亜鉛末顔料に見られます。

  • 電位差の利用: 金属が錆びる現象は、水と酸素が存在する場所で起きる電気化学反応です。鉄は、自分よりもイオン化傾向が大きい(電子を放出しやすい)金属と電気的に接触すると、そちらの金属が優先的に腐食(酸化)され、鉄は守られます。
  • 亜鉛の犠牲: 亜鉛は鉄よりもイオン化傾向が大きいため、塗膜中の亜鉛末が鉄の代わりに電子を放出し、自らが酸化(腐食)することで、鉄の腐食を抑制します。これは、船のスクリューや橋脚などで見られる犠牲防食と同じ原理です。亜鉛が錆びて犠牲になる間、鉄は錆びずに保護されます。

3. 不動態化作用(化成皮膜形成作用)

 これは、金属表面に非常に安定した不動態皮膜を形成することで、金属の腐食反応を停止させるメカニズムです。

 主にリン酸亜鉛クロム酸系顔料(現在は環境規制で使用が激減)に見られます。

  • 保護膜の形成: 防錆顔料が水にわずかに溶け出し、その成分が金属表面と反応することで、ごく薄くて緻密な酸化物皮膜(不動態皮膜)が形成されます。この皮膜は、金属イオンが溶液中に溶け出すのを妨げ、腐食反応の進行を抑制します。
  • 自己修復性: 塗膜に傷がつき、金属が露出した場合でも、不動態化作用を持つ顔料がその部分で皮膜を再形成し、防錆効果を持続させることが期待できます。

4. アルカリ性による防錆効果

 一部の防錆顔料や、塗料の成分(例えば水性塗料のpH調整剤)は、塗膜内をアルカリ性に保つことで防錆効果を発揮します。

  • 腐食の抑制: 鉄は酸性の環境下で錆びやすいため、塗膜内をアルカリ性に保つことで、腐食反応の進行を抑制します。

まとめ

 防錆顔料は、これらのメカニズムを単独で、または組み合わせて金属の錆を防ぎます。塗料メーカーは、使用される環境や金属の種類に応じて、最適な防錆顔料を選択し、配合することで、長期間にわたる金属の保護を実現しています。近年は、環境負荷の低い鉛フリークロムフリーの高性能防錆顔料の開発が進められています。

塗膜自体が酸素や水をブロックしたり、腐食しやすい亜鉛の膜が腐食されることで鉄の腐食を防ぐ犠犠牲防食、不導体膜の形成などによって金属の錆を防いでいます。

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