この記事で分かること
- 溶接機とは:アーク放電などの高熱を利用して、主に金属の母材と溶加材を溶かし、一体化させて接合するための機械です。
- 火花が飛ぶ理由:電流の不安定や溶接部の不純物が原因で、溶けた金属が飛び散る現象です。防ぐことで後処理工数が大幅に削減され、溶接品質も向上します。
- 火花を防ぐ方法:フルデジタル制御で電流波形を精密に制御する技術を使います。また、溶接前の母材の清掃、最適条件の設定、スパッタ防止剤の使用も重要です。
パナソニックコネクトの火花の発生を抑えた溶接機
パナソニックコネクト(旧パナソニック)は、火花(スパッタ)の発生を大幅に抑えた溶接機を開発・提供しています。
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUF095YT0Z01C25A2000000/
フルデジタル制御で電流波形を精密に制御する技術によって、大幅に火花を減らしています。
溶接機とは何か
溶接機(ようせつき)とは、主に金属と金属を溶かし、一体化させて接合するために使用される機械のことで
多くの溶接機は、非常に高い熱を発生させることで、接合したい金属(母材)の融点以上に温度を上げ、溶かして融合させます。冷えることによって再び固体となり、強固に一体化します。溶接機の中でも最も一般的で広く利用されているのがアーク溶接機です。
1. アーク放電の利用
- 溶接機は、アーク放電という現象を利用して熱源を作り出します。
- アーク放電とは、電極と母材の間に高い電流を流すことで、空気の絶縁が破壊されて発生する高温(5,000 ℃~20,000 ℃)で強い光を発する放電現象です。
- このアーク放電の熱を利用して金属を瞬時に溶融させます。
2. 接合のメカニズム
- 溶接機本体から出力された電流が、溶接棒(電極)と母材との間にアークを発生させます。
- このアーク熱で、母材と溶接棒(または溶加材)が溶け、溶けた金属のプール(溶融池)ができます。
- 溶融池が冷え固まることで、2つの金属が連続性のある一体となり、接合が完了します。
種類と用途
溶接機は、その熱源や使用する材料(電極、ガス)の違いによって多くの種類があり、用途に応じて使い分けられます。
| 種類 | 特徴と仕組み | 主な用途 |
| 被覆アーク溶接機 | 消耗電極式。被覆材の付いた溶接棒(電極)自体を溶かしながら接合。最もシンプルで、屋外作業にも強い。 | 建設現場、鉄骨、構造物の溶接、修理作業 |
| CO2/MAG溶接機 | 半自動溶接の代表格。ワイヤ(電極)が自動で供給され、炭酸ガス(CO2)や混合ガス(MAG)で溶融金属を大気から保護する。溶接スピードが速い。 | 自動車製造、産業機械、厚板の溶接 |
| TIG溶接機 | 非消耗電極式。タングステン電極を使用し、アルゴンガスなどの不活性ガスで保護しながら、別に用意した溶加棒を溶かして接合する。 | 薄板、ステンレス、アルミなどの非鉄金属、見た目の美しさが要求される精密溶接 |
| レーザー溶接機 | レーザー光を熱源とする。非常に高密度なエネルギー集中が可能で、高精度かつ高速な溶接ができる。 | 自動車部品、医療機器、電子部品など |

溶接機は、アーク放電などの高熱を利用して、主に金属の母材と溶加材を溶かし、一体化させて接合するための機械です。建設や製造業で構造物を強固に繋ぐために不可欠です。
火花が飛ぶ理由と防ぐ利点は何か
溶接機から火花が飛ぶ現象はスパッタ(Spatter)と呼ばれ、溶融した金属の粒が飛び散ることで起こります。
これは、溶接の過程で溶融池(溶けている金属のプール)やアークが不安定になることが主な原因です。
溶接機で火花(スパッタ)が飛ぶ理由
スパッタが発生する主な理由は、溶接時の熱や電流が制御しきれず、溶融した金属が不規則に飛び散るためです。
- 電流・電圧設定の不適正:
- 電流が高すぎる、あるいは電圧が低すぎるなど、溶接条件が不適切な場合、アークが不安定になり、溶融した金属が飛び散りやすくなります。
- 特に半自動溶接機では、ワイヤ送給速度と電流値のバランスが重要です。
- アークの不安定性:
- 溶接棒(電極)と母材の間で発生するアーク(放電)が不安定になると、溶融金属がまとまらず、バラバラに飛散します。
- 母材表面の汚染:
- 溶接部に錆び、油、塗料などの不純物が付着していると、溶接熱でそれらが急激に蒸発・気化し、体積が膨張することで溶融金属を弾き飛ばし、スパッタを発生させます。
- 亜鉛めっき鋼板の場合、亜鉛の沸点が鉄の融点より低いため、亜鉛が気化する際の体積膨張がスパッタの大きな原因となります。
- 溶接技術(トーチ操作):
- 溶接速度が速すぎたり遅すぎたり、トーチの角度が不適切であるなど、オペレーターの技量や操作の不手際も原因となります。
- シールドガスの不足・不純物:
- シールドガス(CO2やアルゴンなど)の流量が不適切だと、大気中の酸素や窒素が溶融池に混入し、アークを乱すことでスパッタが増加します。
火花(スパッタ)を防ぐ利点
スパッタの発生を抑えることは、製品の品質向上と生産性の劇的な改善に直結します。
1. 品質・強度に関わるメリット
| 利点 | 詳細 |
| 溶接品質の向上 | スパッタ飛散による溶接部の強度低下や外観不良を防ぎます。スパッタが減ることで、溶接部に気孔(ブローホール、ピット)などの欠陥が発生するリスクも減少します。 |
| 後工程への悪影響防止 | スパッタが付着したまま塗装をすると、塗膜の密着不良や剥がれの原因となり、防錆効果が低下して腐食しやすくなるのを防ぎます。 |
| 設備の長寿命化 | スパッタが溶接トーチのノズルやコンタクトチップなどの消耗部品に付着して機能を妨げたり、交換頻度が高くなるのを防ぎます。 |
2. 生産性・コストに関わるメリット
| 利点 | 詳細 |
| 後処理工数の大幅削減 | 飛散したスパッタをグラインダーなどで削り取る「スパッタ除去作業」が大幅に削減されます。これにより、作業時間(工数)と人件費が削減され、生産性が向上します。 |
| コスト削減 | スパッタ除去に必要な消耗品(研磨材など)の費用、手直し作業にかかる材料費や人件費が抑えられ、全体的な製造コストの抑制につながります。 |
| 作業環境の改善 | スパッタ飛散が減ることで、作業環境が清潔に保たれ、火災リスクの軽減や作業者の負担軽減にもつながります。 |
パナソニックコネクトのような高性能な溶接機は、このスパッタの発生を抑えるための電流波形をデジタルで高精度に制御する技術を採用することで、これらのメリットを最大限に引き出しています。

火花(スパッタ)は、電流の不安定や溶接部の不純物が原因で、溶けた金属が飛び散る現象です。防ぐことで後処理工数が大幅に削減され、溶接品質も向上します。
どのようにスパッタを防止するのか
溶接時の火花(スパッタ)を防止するためには、溶接条件の適正化、溶接技術の活用、そして周辺の準備という3つのアプローチが重要になります。
パナソニックコネクトのような高性能溶接機は、「技術的な対策」で特に高い効果を発揮します。
1. 溶接機側の技術的な対策(機器の制御)
スパッタを極限まで抑えるためには、アーク(放電)を安定させ、溶融金属の動きを制御することが最も重要です。
- フルデジタル制御の採用:
- 溶接電流の波形をミリ秒単位で高精度に制御します。
- 特に、ワイヤ先端と母材が接触する短絡の直前と直後に電流を急激に下げる「セカンダリスイッチング」などの独自制御を行い、金属粒子の飛散(スパッタ)を発生させる瞬間を抑制します。
- パルス溶接法(ピーク電流とベース電流を交互に制御する)を用いることで、溶滴(溶けた金属の粒)をワイヤ先端から規則正しく、確実に移行させます。
- ワイヤ送給の正逆制御:
- 一部の高性能溶接機(例:パナソニックのMTS制御や安川電機のEAGL工法など)では、ワイヤを微小なレベルで正逆方向に繰り返し送給し、短絡の発生と開放を機械的に制御することでスパッタを大幅に低減します。
- 適切なシールドガスの使用:
- CO2溶接よりも、アルゴン(Ar)と炭酸ガス(CO2)を混合したMAG溶接を用いることで、アークが安定し、溶滴が小さくスムーズに移行(スプレーアーク)しやすくなり、スパッタが抑制されます。
2. 溶接条件と操作の対策(作業環境と技術)
機械制御だけでなく、作業者が適切な手順と技術で行うことも不可欠です。
- 母材表面の清掃:
- 溶接する前に、母材(ワーク)に付着している錆、油、塗料、水分などの不純物を研磨(グラインダー)や溶剤で完全に除去します。不純物が熱で気化・膨張することがスパッタの主要な原因となるためです。
- 特に亜鉛めっき鋼板は、めっき層を剥がしてから溶接することが推奨されます。
- 適切な溶接条件の設定:
- 電流、電圧、ワイヤ送給速度、溶接速度を、母材の種類、厚さ、ワイヤ径に最適化します。高すぎたり低すぎたりする設定はアークを不安定にし、スパッタを増やします。
- トーチ角度と速度の最適化:
- トーチの角度(前進角など)を適切に保ち、溶接を一定かつ適切な速度で行うことで、熱分布を均一にし、スパッタの発生を抑えます。
- スパッタ防止剤の使用:
- 溶接する箇所やトーチのノズルにスパッタ付着防止スプレーや防止剤を事前に塗布します。これにより、万が一スパッタが発生しても、母材やノズルに固着するのを防ぎ、後処理での除去を容易にします。
3. 付着防止のための物理的対策
スパッタの飛散自体を防ぐのではなく、付着や影響を防ぐための対策です。
- 保護カバーや治具の活用:
- スパッタを避けたい部品や、後処理が困難な場所(ネジ穴など)を専用のカバーや治具で覆うことで、付着を物理的に防ぎます。
- スパッタシートの使用:
- 作業周辺や可燃物、床などを耐熱性のあるスパッタシートで覆い、火花が飛び散るのを防ぎます。
どの対策も、スパッタの発生を抑え、作業効率と溶接品質を向上させるために重要です。

スパッタ防止には、フルデジタル制御で電流波形を精密に制御する技術を使います。また、溶接前の母材の清掃、最適条件の設定、スパッタ防止剤の使用も重要です。

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