この記事で分かること
- 地熱発電とは:地球内部の熱(地熱)を利用して発電する施設です。地下の高温の蒸気や熱水を取り出し、その力でタービンを回して電気を作ります。昼夜や天候に左右されない安定した再生可能エネルギーです。
- ドイツで行われる理由:従来の地熱の課題を克服する革新的なクローズドループ技術のノウハウ獲得です。ドイツは安定電源として地熱を重視しており、技術実証の場として最適だからです。
- クローズドループ地熱利用技術とは:地下の熱水・蒸気を使わず、地下に密閉したパイプ内の作動流体を高温岩盤の熱で温め、地上で発電・熱利用する資源リスクの少ない方式です。
ゲーレッツリート地熱事業の一部営業運転
中部電力が出資するドイツのゲーレッツリート地熱事業の一部営業運転が2025年12月5日に開始されたとの発表があります。
https://www.chuden.co.jp/publicity/press/1217162_3273.html
この技術は、環境への負担が少なく、昼夜を問わず安定的に電力を供給できる地熱発電の可能性を広げるものとして注目されています。
地熱発電所とは何か
地熱発電所とは、地球内部の熱エネルギー(地熱)を利用して電気を作る発電所です。
地熱発電の仕組み
地熱発電は、主に火山地帯の地下にある高温の蒸気や熱水(地熱流体)を取り出し、その力でタービンを回して発電します。
- 地熱貯留層(ちねつちょりゅうそう): 地表に降った雨水が地下深くに浸透し、マグマ溜まりの熱で加熱されて高温・高圧の蒸気や熱水となって溜まっている層です。
- 蒸気・熱水の取り出し: この地熱貯留層に向けて生産井(せいさんせい)と呼ばれる井戸を掘り、高温の蒸気と熱水を取り出します。
- 発電: 取り出した地熱流体のうち蒸気を、火力発電と同じようにタービンに吹き付けて回転させ、これに直結した発電機で電気を作ります。
- 還元: 発電に使った後の熱水や、タービンを回し終えた蒸気を冷却してできた温水は、還元井(かんげんせい)を通して再び地中深くに戻されます。これにより、持続的な利用が可能です。
発電方式の種類
地熱発電には、地熱流体の温度によって主に以下の2つの方式があります。
- フラッシュ発電(蒸気発電):
- 高温(200℃以上)の地熱流体に適しており、地下から取り出した蒸気で直接タービンを回す最も一般的な方式です。
- バイナリー発電:
- 中低温(100〜150℃程度)の地熱流体に適しており、水よりも沸点の低い二次媒体(ペンタンなど)を地熱流体の熱で蒸気化させ、その蒸気でタービンを回す方式です。温泉の熱など比較的低温の熱源も利用できます。
地熱発電のメリット・デメリット
| メリット | デメリット・課題 |
| 環境負荷が少ない | 初期投資額が大きい(資源探査、掘削費用など) |
| 純国産のエネルギー | 立地条件の制約(火山帯・地熱資源が豊富な地域に限られる) |
| 発電量が安定している(天候・昼夜に左右されない) | 開発に長期間を要する(資源調査から運転開始まで) |
| 持続可能な再生可能エネルギー(マグマの熱は半永久的) | 温泉資源への影響や景観への配慮が必要 |
| 熱の再利用が可能(農業用ハウス、暖房など) |
日本は世界第3位の豊富な地熱資源を持つ火山国であり、エネルギー自給率向上や脱炭素化の観点から、今後の導入拡大が期待されています。

地熱発電所は、地球内部の熱(地熱)を利用して発電する施設です。地下の高温の蒸気や熱水を取り出し、その力でタービンを回して電気を作ります。昼夜や天候に左右されない安定した再生可能エネルギーです。
なぜ、ドイツで行うのか
中部電力がドイツの地熱発電所に出資し、このプロジェクトを推進する背景には、主に以下の2つの重要な理由があります。
1. ドイツ側のエネルギー事情と「エナジーヴェンデ」
ドイツは、「エナジーヴェンデ(エネルギー転換)」という政策の下、脱原子力を進め、再生可能エネルギーへの移行を強力に推し進めています。
- 不安定な電源の補完: ドイツの再生可能エネルギーの主力は、気候に左右されやすい風力発電と太陽光発電が中心です。地熱発電は、天候や昼夜に関係なく24時間安定して発電できる(ベースロード電源)ため、不安定な主力電源を補完する重要な役割を期待されています。
- 熱供給の確保: 今回のプロジェクトは、発電だけでなく地域熱供給も行うため、ロシアからの天然ガス供給が不安定化した中で、地元の暖房需要などを賄う純国産の熱エネルギー源としても重要です。
2. 中部電力の新技術(Eavor-Loop)獲得と海外展開
中部電力にとってこの事業は、特定の地域に限定されない革新的な地熱技術を学び、将来の事業展開に活かすことが最大の目的です。
- 革新的な技術の採用: このプロジェクトで使われるEavor-Loop技術は、地下に熱水や蒸気がなくても、人工的なループに水を循環させて熱を取り出すクローズドループ方式です。
- 立地条件の緩和: 従来の地熱発電が難しかった平野部など、幅広いエリアで地熱利用が可能になります。
- リスクの低減: 掘削しても熱水が出ないといった、従来の地熱開発につきものだった資源リスクが低いとされています。
- 技術・ノウハウの蓄積: この最先端技術を活用した商業化プロジェクトに参画することで、中部電力は将来的に国内や他の海外地域での地熱発電事業を拡大するための貴重な知見とノウハウを得ることを目指しています。
この事業は「ドイツの安定的なエネルギー需要」と「中部電力の革新技術獲得」という、双方のニーズが合致した結果と言えます。

中部電力の目的は、従来の地熱の課題を克服する革新的なクローズドループ技術のノウハウ獲得です。ドイツは安定電源として地熱を重視しており、技術実証の場として最適だからです。
クローズドループ地熱利用技術とは何か
クローズドループ地熱利用技術(Closed-Loop Geothermal)は、従来の地熱発電とは異なり、地下の熱水や蒸気といった自然の流体資源を必要とせず、地下に設置した密閉されたパイプ内で熱媒体(多くは水)を循環させて熱を取り出す画期的な技術です。
この技術は、開発したカナダの企業名から「Eavor-Loop(エバーループ)」とも呼ばれます。
クローズドループの仕組み
クローズドループ技術は、自動車のラジエーターを巨大にしたようなイメージです。
- ループの構築: 地上から地下深く(数千メートル)の高温岩盤層まで、垂直方向の井戸を2本掘削します。この2本の井戸を、地下深部で複数の水平坑井(網目状のループ)で接続し、密閉された熱交換システムを構築します。
- 流体の循環: この密閉されたパイプ内に水などの作動流体を流し込みます。
- 熱の回収: 地下深部の高温岩盤からの熱が、パイプを通じて伝導により作動流体に伝わって温められます。
- 発電/熱供給: 温められた作動流体は地上に戻され、その熱を利用して発電(バイナリー発電など)や地域熱供給に利用されます。
- 自然な循環(サーモサイフォン): 流体は冷やされると重くなるため、地下に送り込まれた冷たい流体が下向きに、温められた軽い流体が上向きに移動する自然の対流(サーモサイフォン効果)を利用して、ポンプの力をほとんど使わずに循環させることが可能です。
従来の地熱発電との大きな違い
このクローズドループ技術が革新的とされる理由は、従来の「フラッシュ発電」などが抱える課題の多くを解決できる点にあります。
| 特徴 | クローズドループ(Eavor-Loop) | 従来の地熱発電 |
| 必要な資源 | 地下水や蒸気は不要(熱があれば良い) | 地下水や蒸気の貯留層が必要 |
| 立地条件 | 幅広いエリアで開発可能(火山地域に限定されない) | 火山帯や地熱資源が豊富な地域に限定される |
| 環境影響 | 地下水や温泉資源への影響が極めて低い | 地下水の利用や圧力変化が温泉資源に影響を与える懸念がある |
| 資源リスク | 熱源があるため資源リスクが低い | 掘削しても十分な熱水・蒸気が出ない資源リスクがある |
| 地震誘発リスク | 地下への高圧注水を行わないため低い | 地下岩盤を破砕するEGS技術などは誘発地震のリスクが指摘される |
この技術は、地熱発電の適用範囲を大幅に広げ、安定的なベースロード電源として期待されています。

クローズドループ地熱利用技術は、地下の熱水・蒸気を使わず、地下に密閉したパイプ内の作動流体を高温岩盤の熱で温め、地上で発電・熱利用する資源リスクの少ない方式です。

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