アプライドマテリアルズのKOKUSAI株の一部売却 KOKUSAIはどんな企業なのか?売却の理由は何か?

この記事で分かること

  • KOKUSAIとは:ウェーハに薄膜を形成するバッチ式成膜装置に強みを持つ半導体製造装置を開発・製造・販売している日本のメーカーです。
  • 売却の理由:当初の買収計画が中国規制当局の承認不許可で破談したため、少数株主として保有していたKOKUSAI株を、上場後の利益確定と資本効率の最適化のために売却しています。
  • 買収が破談に終わった理由:中国の規制当局から期限までに承認が得られなかったためです。米中対立の激化も背景にあったとされます。

アプライドマテリアルズのKOKUSAI株の一部売却

 KOKUSAIは主要株主で米同業大手のアプライドマテリアルズ(AMAT)がKOKUSAI株の一部を売却したと発表しています。 

米アプライド、KOKUSAI株売却 - 日本経済新聞
半導体製造装置メーカーのKOKUSAI ELECTRICは10日、主要株主で米同業大手のアプライドマテリアルズ(AMAT)がKOKUSAI株の一部を売却したと発表した。8日終値ベースで約500億円に

 アプライド・マテリアルズはKOKUSAI ELECTRICの買収を試みましたが、中国の規制当局の承認が得られず、2021年3月に買収契約が破談になった経緯があります。

 その後、アプライド・マテリアルズはKOKUSAI ELECTRICの株式をプレIPOの形で約15%取得しています。KOKUSAI ELECTRICは2023年10月に東京証券取引所に上場していました。

KOKUSAIはどんな企業か

 KOKUSAI ELECTRIC(コクセイ エレクトリック)は、半導体製造装置を開発・製造・販売している日本のメーカーであり、特に以下の分野で世界的に高い競争力とシェアを持っています。

1. 主な事業領域

 KOKUSAI ELECTRICの事業は、半導体の前工程における以下のプロセスに特化しています。

  • 成膜(せいまく)プロセス装置:
    • 半導体チップのベースとなるシリコンウェーハ上に、回路の素材となるポリシリコン膜や絶縁膜などの薄膜を形成する装置です。
    • 特に、ウェーハを一度に複数枚まとめて処理できるバッチ式成膜装置に強みがあり、この分野で世界トップレベルのシェアを誇ります。
    • 次世代の薄膜形成技術であるALD(原子層堆積)技術にも強みを持っています。
  • トリートメント(膜質改善)プロセス装置:
    • 成膜後に、プラズマや加熱などを用いて膜中の不純物を取り除いたり、粒子を安定化させたりすることで、膜質を改善する装置です。
    • 半導体の微細化に伴い、膜質の維持が重要になる中で、そのニーズが高まっています。

2. 企業の主な特徴

  • 技術的強み: 成膜、特にバッチ式縦型成膜装置トリートメント装置の分野で高い技術力と実績を持ち、世界の半導体デバイスメーカーから高い評価を得ています。
  • グローバル展開: 売上高の約90%が海外という、非常にグローバルな企業です。
  • 沿革: もともとは日立グループの日立国際電気の半導体製造装置事業が前身であり、2018年に現在のKOKUSAI ELECTRICとして独立しました。
  • 上場: 2023年10月に東京証券取引所プライム市場に新規上場しました。

KOKUSAI ELECTRICは、半導体製造装置メーカーです。ウェーハに薄膜を形成するバッチ式成膜装置に強みを持ち、この分野で世界トップレベルのシェアを誇るグローバル企業です。

トリートメント(膜質改善)プロセスとは何か

 トリートメント(膜質改善)プロセスとは、半導体製造工程において、ウェーハ上に成膜(薄い膜を形成)した後に、その膜の品質や特性を向上させるために行う工程であり、半導体デバイスの性能や信頼性を確保するために非常に重要です。トリートメントプロセスの主な目的と用いられる技術は以下の通りです。

1. 主な目的

  • 不純物の除去: 成膜時に取り込まれた、電気的特性に悪影響を与える不純物(残留ガスなど)を除去します。
  • 粒子の安定化: 膜内の原子や分子の結合状態を整え、結晶サイズを揃えるなど、膜の密度と均一性を高めて安定させます。
  • 電気特性の改善: 膜の絶縁性や導電性などの電気的特性を最適化し、デバイスの性能(歩留まり)を向上させます。

2. 主な技術

 膜質の改善には、主に以下の技術が用いられます。

技術概要目的
プラズマ処理活性なプラズマ(イオンやラジカル)を膜表面に照射する。低温で不純物除去や緻密化を行い、膜の電気的特性を改善する。
加熱処理 (アニール)膜に熱を加えて高温で処理する。膜内の原子配列を整え、結晶性を改善したり、不純物を拡散・除去したりする。

 特に、半導体の微細化・多層化が進む現代では、低い温度で成膜を行うニーズが増えています。しかし、低温成膜は膜質が悪化しやすいという問題があります。

 そのため、プラズマを用いたトリートメントプロセスは、低温環境でも膜質を維持・改善するための重要なソリューションとして需要が拡大しています。

半導体の成膜後に、プラズマや加熱を用いて膜中の不純物を除去したり、結晶構造を安定化させたりする工程です。これにより、膜の電気的特性など品質を向上させます。

アプライド・マテリアルズがKOKUSAI株を売却した理由は

 アプライド・マテリアルズがKOKUSAI ELECTRICの株式を売却した主な理由は、当初の買収計画が破談になった後の資本効率の最適化と、上場後の利益確定にあると考えられます。

より具体的に説明すると以下のようになります。

1. 買収計画の破談とその後の保有

 アプライド・マテリアルズは元々、KOKUSAI ELECTRICを完全に買収する計画でしたが、中国の規制当局(独占禁止法関連)の承認が得られなかったため、2021年3月に買収契約を解除しました。

 その後、アプライド・マテリアルズは、破談の前にKOKUSAI ELECTRICの株式の約15%を少数株主として取得していました。

2. 株式売却の背景と理由(推測される目的)

 売却は、KOKUSAI ELECTRICが2023年10月に上場(IPO)した後に行われたものです。

  • 資本の回収と利益確定: KOKUSAI ELECTRICの株価は上場後に大きく上昇しました。アプライド・マテリアルズが保有する株式は、投資として大きな含み益を生んでおり、これを売却することで利益を確定し、自社の手元資金や事業投資に充てることができます。
  • 主要事業への集中: アプライド・マテリアルズは、KOKUSAI ELECTRICの買収失敗後、自社の主要な半導体製造装置事業に経営資源を集中させる方針を明確にしています。少数株主として保有を続けるよりも、売却して得た資金を自社の成長分野への投資や株主還元(自社株買いなど)に回す方が、経営戦略上合理的であると判断したと考えられます。
  • 戦略的関係性の見直し: 買収が成立しなかったことで、KOKUSAI ELECTRICとの戦略的な一体化は不可能になりました。そのため、株式を売却し、資本関係を解消または縮小することは自然な流れと言えます。

 今回の売却は、買収失敗で戦略的な目的を失った投資の出口戦略と、それに伴う利益確定および資本の最適化が主な理由であると考えられます。

当初の買収計画が中国規制当局の承認不許可で破談したため、少数株主として保有していたKOKUSAI株を、上場後の利益確定と資本効率の最適化のために売却しています。

買収に失敗した理由は何か

 アプライド・マテリアルズ(AMAT)によるKOKUSAI ELECTRICの買収が失敗した理由は、中国の規制当局からの承認が得られなかったことです。


買収失敗の背景

 AMATは、KOKUSAI ELECTRICの持つバッチ式成膜装置の技術を自社の製品ポートフォリオに組み込み、半導体製造装置市場での競争力を強化する戦略的な狙いがありました。しかし、この買収計画は最終的に破談となりました。

1. 承認の不確実性と期限切れ

 AMATとKOKUSAI ELECTRICの当時の株主であるKKRは、2019年に買収契約を締結した後、買収完了のために必要な世界各国の競争法(独占禁止法)当局からの承認を得る作業を進めました。

  • 多くの国で承認が得られたにもかかわらず、中国の規制当局(国家市場監督管理総局: SAMR)による審査が長引き、買収の期限までに承認の確約を得ることができませんでした
  • AMATは買収価格を引き上げるなど、契約完了に強い意欲を示しましたが、最終的に期限切れとなり、2021年3月に買収契約を解除しました。

2. 米中対立の影響(推測)

 表向きの理由は競争法上の承認の遅れですが、背景には当時の米中間の技術覇権争いや貿易摩擦の激化があったと広く見られています。

  • KOKUSAI ELECTRICが持つ高度な半導体製造技術が、米国企業の傘下に入ることで、中国国内の半導体産業戦略に不利になると判断された可能性があります。
  • 中国当局が「Yes」とも「No」とも明確にせずに審査を長引かせ、結果的に期限切れとなるのを待つという、政治的な判断が影響したという見方も強いです。

 AMATは契約解除に伴い、当時の株主であったKKRに対して、1億5,400万ドル(当時のレートで約168億円)の契約解除料を支払いました。

アプライド・マテリアルズ(AMAT)によるKOKUSAI買収は、中国の規制当局から期限までに承認が得られなかったためです。米中対立の激化も背景にあったとされます。

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