ポリイミド基材 ポリイミド基材の特徴や用途は?なぜ、熱耐性や絶縁性に優れているのか?

この記事で分かること

  • ポリイミド基材の特徴:耐熱性、電気特性、機械特性に優れた高機能な樹脂フィルムです。
  • ポリイミド基材の用途:優れた特性を生かし、航空宇宙、医療、自動車、エレクトロニクスなど、幅広い分野で重要な役割を果たしています。
  • 熱耐性に優れる理由:安定したイミド結合を主鎖とする強固な分子骨格、非常に高いガラス転移温度、強い分子間力などの分子構造によって優れた耐熱性を持ちます。
  • 絶縁性に優れる理由:自由な電荷キャリアが少ない共有結合性の高い分子構造、大きなエネルギーギャップを持つπ電子系、安定化された分子内の電荷の偏りなどによって高い絶縁特性をもっています。

ポリイミド基材

 プリント基板は電子回路の部品を取り付け、配線するための土台であり、現代の電子機器にはほぼすべて使われています。

 前回の記事では、CEM3について解説しました。今回の記事ではポリイミド基材について解説しています。

ポリイミド基材とは何か

 ポリイミド基材は、プリント基板(PCB)やフレキシブルプリント基板(FPC)のベース材料として広く使用されている高機能な樹脂フィルムです。

 その優れた特性から、航空宇宙、医療、自動車、エレクトロニクスなど、幅広い分野で重要な役割を果たしています。

ポリイミド基材の主な特徴

  • 優れた耐熱性: 非常に高い耐熱性を持ち、高温環境下でも安定した性能を維持できます。連続使用温度は通常150℃以上、種類によっては200℃を超えるものもあります。短時間であればさらに高い温度にも耐えられます。
  • 優れた電気特性: 絶縁性、誘電特性に優れており、高周波領域でも安定した電気的特性を示します。
  • 優れた機械的特性: 高い引張強度、耐屈曲性、耐摩耗性を持ちます。特にFPCにおいては、その柔軟性が重要な特性となります。
  • 優れた耐薬品性: 多くの溶剤や薬品に対して高い耐性を示します。
  • 難燃性: 自己消火性を持ち、燃え広がりにくい性質があります。
  • 薄膜化が可能: 薄いフィルム状に加工できるため、軽量化や小型化に貢献します。
  • 寸法安定性: 温度変化による寸法変化が小さく、精密な配線パターン形成に適しています。

 ポリイミド基材は高性能な材料ですが、一般的に他の汎用基材(FR-4など)に比べて高価です。そのため、用途に必要な特性を十分に考慮し、コストとのバランスを見ながら適切な種類を選択することが重要です。

ポリイミド基材は、耐熱性、電気特性、機械特性に優れた高機能な樹脂フィルムでその優れた特性から、航空宇宙、医療、自動車、エレクトロニクスなど、幅広い分野で重要な役割を果たしています。

ポリイミド基材にはどんな種類があるのか

 ポリイミド基材は、その化学構造や特性、用途に応じて以下のように様々な種類が存在します。

1. 化学構造による分類

  • 熱硬化型ポリイミド: 加熱によって架橋反応を起こし、硬化するタイプのポリイミドです。硬化後は高い耐熱性と機械的強度を示します。
    • 代表例: 一般的な接着剤レスFPC用基材、高温用途向け基材など。
  • 熱可塑性ポリイミド: 加熱によって軟化し、冷却によって再び硬化するタイプのポリイミドです。成形性に優れており、フィルムだけでなく、射出成形などの加工も可能です。
    • 代表例: カプトン (デュポン)、ウペックス (宇部興産) など、フィルム状で広く利用されています。
  • 液晶ポリイミド (LCP: Liquid Crystal Polymer): 液晶性を示すポリイミドです。低誘電率、低吸湿性、高い寸法安定性、優れた高周波特性を持ち、高速伝送が求められる用途に適しています。
    • 代表例: ゼニウム (クラレ) など。

2. 用途による分類

  • フレキシブルプリント基板 (FPC) 用基材:
    • 接着剤付きポリイミドフィルム: ポリイミドフィルムと銅箔の間に接着剤層を持つタイプです。汎用性が高く、様々なFPCに利用されます。
    • 接着剤レスポリイミドフィルム: ポリイミドフィルムと銅箔を直接接合したタイプです。薄型化、軽量化、高周波特性の向上に貢献します。
    • 二層ポリイミドフィルム: 絶縁層と導体層のみで構成されたシンプルな構造です。
    • 三層ポリイミドフィルム: 絶縁層、接着層、導体層で構成されます。
  • カバーレイフィルム: FPCの回路保護や絶縁のために使用されるポリイミドフィルムです。
  • ソルダーレジスト用ポリイミド: プリント基板の配線保護や絶縁、耐熱性を向上させるために使用される液状またはフィルム状のポリイミド材料です。
  • テープ自動ボンディング (TAB) テープ用基材: 半導体チップと基板を接続するためのテープキャリアとして、高い寸法安定性と耐熱性が求められます。

ポリイミドは化学構造と用途によって分類されます。構造では、加熱によって架橋反応を起こし、硬化する熱硬化型ポリイミドや 加熱によって軟化し、冷却によって再び硬化する熱可塑性ポリイミドなどがあります。

用途ではレキシブルプリント基板 (FPC) 用基材ソルダーレジスト用ポリイミドなどが存在します。

なぜ、優れた耐熱性を持つのか

 ポリイミドが優れた耐熱性を持つ主な理由は、その分子構造にあります。具体的には以下の点が挙げられます。

1. 強固な分子骨格

  • ポリイミドの主鎖は、イミド結合 (-CO-N(R)-CO-) という非常に安定した構造で構成されています。このイミド結合は、二重結合と単結合が交互に並んだ共役系の一部であり、電子が非局在化しているため、熱や化学的な攻撃に対して強い抵抗力を持ちます。
  • また、ポリイミドの分子鎖は一般的に剛直であり、熱エネルギーによる分子の振動や回転が起こりにくいため、高温でも構造が維持されやすいです。

2. 高いガラス転移温度 (Tg)

  • ガラス転移温度とは、高分子材料が硬くガラス状の状態から、柔らかくゴム状の状態へと変化する温度のことです。ポリイミドは、他の多くのプラスチックに比べて非常に高いガラス転移温度(通常200℃以上、種類によっては400℃を超えるものも)を持ちます。
  • ガラス転移温度以下では、分子の運動が制限されているため、高温に曝されても材料の 抵抗力が大きく低下しにくくなります。

3. 強い分子間力

  • ポリイミド分子同士の間には、双極子相互作用水素結合などの強い分子間力が働きます。これらの強い分子間力は、分子鎖が互いに引き付け合う力を高め、熱エネルギーによって分子が動き出すのを抑制します。これにより、高温でも材料の形状や特性が維持されます。

4. 架橋構造(熱硬化型の場合)

  • 熱硬化型のポリイミドの場合、加熱によって分子鎖同士が химическиに結合する架橋構造が形成されます。この三次元ネットワーク構造は、分子の動きをさらに拘束し、耐熱性、機械的強度、耐薬品性を向上させます。

安定したイミド結合を主鎖とする強固な分子骨格、非常に高いガラス転移温度、強い分子間力などの分子構造によって優れた耐熱性を持ちます。

絶縁特性に優れる理由

 ポリイミドが優れた絶縁特性を持つ主な理由は、その分子構造と電子状態にあります。具体的には以下の点が挙げられます。

1. 共有結合性の高い分子構造

  • ポリイミドの分子は、炭素 (C)、水素 (H)、窒素 (N)、酸素 (O) 原子が共有結合によって強固に結びついています。共有結合は、電子を原子間で共有することで形成される安定な結合であり、イオン結合や金属結合のように自由に移動できる電荷キャリア(電子やイオン)をほとんど持ちません。

2. π電子系の存在と非局在化

  • イミド結合 (-CO-N(R)-CO-) には、二重結合が含まれており、π電子系を形成しています。このπ電子は分子全体にわたって非局在化していますが、そのエネルギーギャップ(価電子帯と伝導帯のエネルギー差)が大きいため、外部から電場が印加されても電子が容易に伝導帯に励起されず、電流が流れにくい性質を持ちます。

3. 極性基の存在と電荷の偏り

  • イミド結合には、電気陰性度の高い酸素原子と窒素原子が含まれており、分子内に極性基が存在します。これにより、分子全体として電荷の偏りが生じますが、この偏りは分子全体で安定化されており、外部電場によって電荷が移動しにくい状態を作り出しています。

4. イオン性不純物の少なさ

  • 高純度に合成されたポリイミドは、電流の流れを促進する可能性のあるイオン性不純物の含有量が少ないです。これにより、高い絶縁抵抗を維持することができます。

5. 水分の吸収率の低さ(種類による)

  • ポリイミドの種類によっては、吸湿性が比較的低いものがあります。水分はイオン伝導を引き起こし、絶縁性を低下させる要因となりますが、吸湿性の低いポリイミドは、湿度の高い環境下でも絶縁性の低下を抑制できます。ただし、ポリイミドの種類によっては吸湿性が高いものもあるため、注意が必要です。

自由な電荷キャリアが少ない共有結合性の高い分子構造、大きなエネルギーギャップを持つπ電子系、安定化された分子内の電荷の偏りなどによって高い絶縁特性をもっています。

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