この記事で分かること
- 酸化エチレンの製造方法:エチレンと酸素を混合し、銀触媒を充填した反応器内で酸化させる「エチレン直接酸化法」が主流です。得られたガスを吸収・蒸留して精製します。洗剤や不凍液の原料、医療機器の滅菌ガスとして広く利用されます。
- クラリーノの製造方法:ナイロン等の極細繊維を三次元に絡めた不織布に、ポリウレタン樹脂を浸透・凝固させて天然皮革の構造を再現します。表面を樹脂加工することで、本革に近い質感と、軽さ・防水性などの機能性を両立させています。
- 値上げの理由:ナフサ価格の高騰に加え、2026年3月のイラン情勢悪化に伴うエネルギー費増が直撃しています。物流費や設備維持費の上昇も重なり、自助努力でのコスト吸収が困難なため価格転嫁が進んでいます。
酸化エチレン、クラリーノの値上げ
イラン情勢悪化とホルムズ海峡の封鎖リスクにより、原油価格が1バレル100ドルを突破したことによって、多くの化学製品で値上げが行われています。
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC274KV0X20C26A3000000/
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUF272VD0X20C26A3000000/
日本触媒のポリエステル原料の酸化エチレン値上げやクラレのランドセル用人工皮革「クラリーノ」の価格を値上げなども発表されています。
酸化エチレンはどのように製造されるのか
酸化エチレン(EO)の主要な工業的製法は、銀触媒を用いた「エチレンの直接酸素酸化法」です。このプロセスは主に反応、回収、精製の3つの工程で構成されています。
反応工程
多管式反応器の中に銀を担持したアルミナ触媒を充填し、原料のエチレンと酸素を通じます。反応条件は通常、温度200〜300°C、圧力1〜3MPa程度に制御されます。
主反応式は 2C2H4 + O2 → 2C2H4O ですが、同時にエチレンが完全に燃焼して二酸化炭素と水になる副反応も進行します。こ
の副反応は大きな発熱を伴い、銀触媒の活性を損なうため、反応熱を速やかに除去する高度な除熱システムと、選択率を高めるための微量な塩素系助触媒の添加が不可欠です。
回収工程
反応器から出た混合ガスを吸収塔に送り、水と接触させて酸化エチレンを吸収液として回収します。
反応しなかったエチレンや酸素を含むガスは、二酸化炭素を除去した後に再び反応器へと循環され、原料の有効利用が図られます。
精製工程
酸化エチレンを含む水溶液を放散塔で加熱してガス化させ、さらに蒸留塔で水分や軽沸点成分(二酸化炭素やアルデヒドなど)を分離します。
これにより、ポリエステル原料や界面活性剤の原料として使用可能な高純度の酸化エチレンが製品として得られます。全工程において、酸化エチレンの爆発性の高さや有害性を考慮した、厳格な安全管理と気密性の保持が製造装置の根幹を支えています。

銀触媒を充填した反応器にエチレンと酸素を通じ、200〜300°Cで直接酸化させる「直接酸化法」が主流です。生成したガスを水に吸収させた後、蒸留で精製します。副反応の抑制と熱制御、安全管理が製造の要です。
なぜ値上げするのか
今回の値上げの主な理由は、中東情勢の緊迫化に伴う原料コストの急騰と、物流・維持費の増大に集約されます。
1. 原料エチレン価格の急騰
イラン情勢悪化とホルムズ海峡の封鎖リスクにより、原油価格が1バレル100ドルを突破しました。これにより主原料であるエチレンの市況が、1ヶ月で3割以上も上昇したことが最大の要因です。
2. 物流費・労務費・修繕費の上昇
物流の混乱による輸送コストの増加に加え、設備メンテナンスに関わる資材や人件費も上昇しています。これまでの経営努力だけではコスト増分を吸収しきれず、製品の安定供給を維持するために価格転嫁が避けられない状況となりました。
3. 日本国内の供給体制の変化
国内のエチレンプラントの減産や再編が進んでおり、原料調達の不透明感が増していることも背景にあります。

中東情勢の緊迫化に伴う原料エチレン価格の急騰に加え、物流費や設備メンテナンス費用、労務費が上昇しているためです。自助努力によるコスト吸収が困難な状況にあり、製品の安定供給維持のために実施されました。
クラリーノとは何か
クラリーノは、株式会社クラレが1964年に世界で初めて事業化した人工皮革です。天然皮革(繊維が立体的に絡み合ったコラーゲン構造)をモデルに、化学の力でその複雑な組織を再現しています。
構造
極細のナイロン繊維やポリエステル繊維を三次元的に絡み合わせた不織布をベースとし、そこに弾力性のあるポリウレタン樹脂を浸透させて作られます。表面には特殊な樹脂コーティングが施されており、これにより天然皮革に近い質感と、合成繊維ならではの機能性を両立させています。
特長
天然皮革に比べて約30%軽く、雨や汚れに強い点です。型崩れしにくく、特別な手入れが不要なため、活発に動く子供たちが6年間使い続けるランドセルの素材として圧倒的なシェアを誇ります。近年は環境負荷を低減するため、製造工程で有機溶剤を使用しない水系製造法への転換も進められています。

クラレが開発した世界初の人工皮革で、天然皮革の構造をモデルに化学繊維を立体的に絡み合わせた素材です。軽くて丈夫な上、水に強く手入れが簡単なため、日本のランドセルの約7割に採用されています。天然皮革に近い質感と高い耐久性を両立し、靴や鞄など幅広く活用されています。
どのように製造されるのか
クラリーノの製造は、化学工学と繊維技術を組み合わせた精密な工程で行われます。
不織布の作成
まず、極細のナイロンやポリエステル繊維を三次元的に絡み合わせ、天然皮革のコラーゲン繊維層に近い構造を持つ「不織布」を作ります。
多孔質構造の形成
不織布の隙間に弾力性のあるポリウレタン樹脂を充填・凝固させることで、スポンジのような多孔質構造を形成します。これにより、合成素材でありながら天然皮革のようなしなやかさと、優れた通気性・透湿性が備わります。
ポリウレタン加工
最後に表面へ耐摩耗性や防水性を高める特殊なポリウレタン加工を施して完成です。近年は環境負荷を抑えるため、
製造過程で有機溶剤を使用しない「水系製造法」への転換が進んでおり、機能性と持続可能性の両立が図られています。

三次元に絡み合わせたナイロン等の極細繊維に、弾力性のあるポリウレタン樹脂を浸透させ凝固させます。これにより、天然皮革に似た多孔質構造を再現。最後に表面を樹脂加工し、軽さと耐久性を両立した人工皮革となります。
クラリーノへの中東情勢の影響は
2026年2月末から続く中東情勢の緊迫化(米国・イスラエルによるイラン攻撃とそれへの報復)は、クラリーノの主原料である化学製品のコストをダイレクトに押し上げています。
原料価格への直撃
クラリーノの製造にはナイロンやポリエステル繊維、ポリウレタン樹脂が不可欠ですが、これらはすべて石油化学製品(ナフサ)を原料としています。
- ナフサの急騰: ホルムズ海峡の実質的な封鎖により、中東からの原油・ナフサ供給に深刻な制約が生じ、市場価格が跳ね上がっています。
- 副産物の供給不足: 石油精製の副産物である基礎化学品全体が品薄となり、化学メーカー各社が自助努力で吸収できる範囲を超えたコスト増に直面しています。
物流・エネルギーコストの二重苦
- 輸送ルートの混乱: ホルムズ海峡の通航隻数が激減し、海上保険料の急騰や代替ルートへの迂回による物流費の増加が続いています。
- エネルギー費用: 原油・天然ガス価格の高騰は、製造プラントを動かすための光熱費を押し上げ、工場全体の操業コストを悪化させています。
クラレ以外でも、ユニチカなどの大手化学メーカーが同様の理由で樹脂製品の価格改定を一斉に発表しており、化学業界全体で「中東リスク」が価格に転嫁される局面となっています。

イラン情勢悪化に伴う原油価格の高騰が、ナフサを原料とするナイロンやポリウレタン等の製造コストを直撃しています。物流ルートの混乱による輸送費増も重なり、自助努力で吸収できない水準までコストが上昇しました。

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