半導体後工程:製品検査・信頼性試験 どのような検査、試験なのか?すべてのチップを検査するのか?

この記事で分かること

  • 製品検査・信頼性試験とは:製造された半導体チップの良否を判定し、不良品を排除するプロセスです。製品検査で電気的特性や外観を確認し、信頼性試験で高温・高湿などの過酷な条件下での耐久性を評価します。
  • 全てのチップで検査を行うのか:製品の機能と性能を保証するために出荷前の最終検査は全数検査が主流ですが、長期信頼性試験のような破壊を伴う試験や製造工程のモニタリングでは、抜取検査が頻繁に行われます。
  • バーンインとの違い:バーンインは「初期の弱い部分をあらかじめ壊して不良品を取り除く選別作業」であり、信頼性試験は「製品が長期間にわたってどれだけ使えるかを調べる性能評価」と言えます。

製品検査・信頼性試験

 チップの微細化による性能向上の限界が見え始めていることから、半導体製造において前工程から後工程へと性能向上開発の主戦場が移り始めています。

 複数のチップを効率的に組み合わせて性能を引き出す「後工程」の重要性が増しています。

 前回はバーンインに関する記事でしたが、今回は製品検査、信頼性試験に関する記事となります。

半導体後工程の製品検査・信頼性試験とは

半導体後工程における製品検査と信頼性試験は、完成した半導体製品が設計通りに機能し、期待される品質と耐久性を満たしているかを確認するための重要なプロセスです。これらは半導体製造の最終段階であり、不良品を排除し、高品質な製品を市場に送り出すことを目的としています。


製品検査(テスト)

 製品検査は、製造された個々の半導体チップが正常に動作するかを電気的・物理的に確認する工程です。

検査内容
  • 電気的特性検査: 半導体テスターを用いて、電圧、電流、周波数など、設計仕様通りの電気的特性を満たしているかを測定します。これにより、チップの機能や性能の良否を判定します。
  • 外観検査: チップ表面の傷、汚れ、クラック、配線の欠損など、目視や光学機器を用いて物理的な不良がないかを確認します。これにより、製品の耐久性や信頼性に影響を与える可能性のある欠陥を見つけ出します。
  • マーキング検査: 製品に印字された型番やロット番号などのマーキングが正しいか、読み取り可能かをチェックします。

信頼性試験

 信頼性試験は、製品が実際の使用環境で長期間にわたって安定して動作するかを評価する試験です。製品寿命を短時間で評価するため、通常よりも過酷な条件(温度、湿度、電圧など)で製品にストレスをかけます。

試験内容
  • 環境試験:
    • 温度サイクル試験 (TC): 製品を高温と低温で交互にさらすことで、熱膨張と熱収縮による物理的なストレスへの耐性を評価します。
    • 高温高湿試験 (HAST): 高温・高湿の環境下で製品に電圧を印加し、湿気による腐食や劣化への耐性を評価します。
  • 長期寿命試験 (HTOL): 高温環境下で製品を長時間動作させ、製品の寿命を予測します。これにより、製品の動作保証期間を決定する際のデータを得ます。
  • 加速試験: 通常の使用条件下では数年かかる劣化や故障を、過酷な条件で短時間のうちに再現する試験です。これにより、効率的に製品の信頼性を評価できます。

半導体後工程の製品検査・信頼性試験は、製造された半導体チップの良否を判定し、不良品を排除するプロセスです。製品検査で電気的特性や外観を確認し、信頼性試験で高温・高湿などの過酷な条件下での耐久性を評価します。これにより、製品の品質と寿命を保証します。

全てのチップで検査を行うのか

 全てのチップで検査を行うとは限りません。検査の対象となるチップは、その製造プロセスや製品の性質によって以下の2つのパターンがあります。

全数検査(ウェーハプローブ、パッケージテスト)

 ウェーハレベル(ウェーハプローブ)や、個別にパッケージングされた後(パッケージテスト)の全てのチップに対して行われる検査です。

 これにより、製造過程で発生した不良品を確実に排除し、高い品質を保証します。この検査は、特に信頼性が求められる製品(車載用半導体、医療機器用半導体など)や、不具合が重大な結果を招く可能性がある製品で重要です。

抜取検査

 ロットから一部のチップを抜き取って検査を行う方法です。これは、ウェーハプロセスやアセンブリ工程の信頼性評価、または製品の特定のロット全体の品質を統計的に評価するために用いられます。

 抜取検査は、検査コストを抑えつつ、製造プロセスが安定していることを確認する目的で行われます。

全数検査抜取検査のどちらを採用するかは、製品の用途、要求される信頼性レベル、そしてコストのバランスによって決定されます。

 一般的に、製品の機能と性能を保証するために出荷前の最終検査は全数検査が主流ですが、長期信頼性試験のような破壊を伴う試験や製造工程のモニタリングでは、抜取検査が頻繁に行われます。

熱膨張と熱収縮でどのような不良が起きるのか

 熱膨張と熱収縮は、半導体チップを構成する様々な材料の熱膨張係数(CTE)の違いによって、繰り返し応力が発生し、物理的な不良を引き起こします。この繰り返し応力が、以下のような様々な種類の故障につながります。

物理的損傷

  • はんだ接合部の疲労破壊: パッケージと基板を接合しているはんだボールやはんだフィレットが、熱膨張・収縮の繰り返しによってひび割れや亀裂を生じ、最終的には断線に至ります。これは最も一般的な故障モードの一つです。
  • パッケージクラック: 樹脂などで作られたパッケージと内部のチップやリードフレームとのCTEの差により、応力が発生し、パッケージに亀裂が入ることがあります。これにより、外部からの湿気や異物が侵入し、内部回路の腐食やショートを引き起こす可能性があります。
  • ワイヤーボンディングの断線: チップとパッケージのリードを接続する細い金線(ワイヤー)が、応力によって断線したり、接合部から剥がれたりすることがあります。

電気的特性の劣化

  • 配線のボイド・断線: チップ内部の金属配線(銅やアルミニウム)に繰り返し応力が加わることで、微細な空隙(ボイド)が発生し、配線の抵抗値が増加したり、最終的には断線したりします。
  • ショート: パッケージのクラックや内部の剥離により、配線や部品が接触してショートが発生することがあります。

 これらの不良は、半導体製品の寿命を著しく縮めるため、温度サイクル試験などの信頼性試験を通じて、製品の耐久性を評価し、問題がないことを確認する必要があります。

熱膨張・熱収縮は、材料間の熱膨張係数の違いにより応力を生じ、はんだ接合部のひび割れや断線を引き起こします。また、パッケージに亀裂が生じたり、チップ内部の配線が断線したりすることもあり、これらが半導体の故障につながります。

湿気による腐食や劣化ではどのような不良が起きるのか

 湿気による腐食や劣化は、半導体パッケージの内部に水分が浸入することで、様々な不良を引き起こします。特に、高温下ではこの問題が加速されます。

ポップコーン現象

 半導体パッケージは、樹脂などで封止されていますが、この樹脂が湿気を吸収する性質を持っています。

 湿気を吸収した状態で、はんだ付けの際にリフロー炉(高温)に通すと、内部の水分が急激に気化・膨張し、パッケージを内部から破壊してしまいます。この現象が、まるでポップコーンが弾けるように見えることから、「ポップコーン現象」と呼ばれています。

 これにより、パッケージにクラック(ひび割れ)が生じ、内部の回路が損傷したり、剥離が発生して配線が断線したりします。

腐食

 湿気が侵入すると、微量に含まれる不純物(ハロゲンイオンなど)と反応し、電解質となって金属部分の腐食を加速させます。特に、チップ内部のアルミ配線や、パッケージ内のワイヤーボンディング、リードフレームなどが腐食の対象となります。

 この腐食により、配線の抵抗値が増加したり、ショートしたりすることで、半導体の機能が損なわれ、最終的に故障に至ります。

イオンマイグレーション

 高温・高湿の環境下で電圧が印加されると、電極間の金属イオンが湿気を介して移動し、樹枝状の金属結晶が成長することがあります。これを「イオンマイグレーション」と呼びます。この結晶が隣接する電極間を橋渡しすると、**ショート(短絡)**を引き起こし、回路が破壊されます。

 これらの不良は、製品の信頼性を著しく低下させるため、HAST(高加速寿命試験)などの信頼性試験で評価されます。

湿気による腐食や劣化は、パッケージ内の水分が急激に気化・膨張してパッケージを破壊するポップコーン現象や、金属配線が腐食するイオンマイグレーションなどを引き起こします。これにより、半導体の機能が損なわれ、ショートや断線などの不良が発生します。

半導体後工程の製品検査・信頼性試験装置の有力メーカーは

 半導体後工程の製品検査・信頼性試験装置の有力メーカーは、検査内容によって異なります。

製品検査装置(テスター)

  • アドバンテスト: 半導体テスターの分野で世界トップシェアを誇る日本のメーカーです。特に、SoC(System on a Chip)テスターとメモリテスターで高い競争力を持っています。
  • テラダイン(Teradyne): アドバンテストと並ぶ半導体テスターの世界的な大手メーカーです。アメリカに拠点を置き、幅広い種類のテスターを提供しています。

外観検査・計測装置

  • KLA: ウェーハ表面や外観検査装置で世界トップのシェアを持つアメリカのメーカーです。
  • SCREENホールディングス: 半導体洗浄装置で世界的に有名ですが、外観検査装置や計測装置でも高い技術力を持つ日本のメーカーです。
  • 日立ハイテク: エッチング装置などで知られますが、計測・検査装置の分野でも強みを持つ日本のメーカーです。

信頼性試験装置

 信頼性試験装置は、環境試験(温度、湿度など)を行う装置や、製品にストレスをかけるための専用装置など、多岐にわたります。

  • エスペック: 環境試験装置の分野で世界トップクラスのシェアを持つ日本のメーカーです。温度サイクル試験機や恒温恒湿槽などを手掛けています。
  • クオルテック: 信頼性試験の受託サービスも行っており、試験装置の製造にも強みを持っています。

 これらのメーカーは、半導体製造プロセスの最終段階において、高品質な製品を保証するために不可欠な存在です。

バーンインとの違いは何か

 バーンイン(Burn-in)は、広義の信頼性試験の一つですが、その目的実施タイミングに大きな違いがあります。

信頼性試験(Reliability Test)

  • 目的: 製品の寿命や耐久性を評価し、製品の信頼性(長期的な故障率)を予測すること。
  • 特徴:
    • 破壊試験を含むことが多く、全ての製品で行われるわけではありません。ロットから一部を抜き取って試験を行います。
    • 実際の使用条件よりもはるかに過酷な条件(高温・高湿、極端な温度サイクルなど)で、製品がどのようなストレスに耐えられるかを評価します。
    • 試験結果は、製品の保証期間や使用上の注意点を決定するためのデータとして活用されます。

バーンイン(Burn-in)

  • 目的: 初期不良品を事前に検出・除去すること
  • 特徴:
    • 寿命のグラフは「バスタブカーブ」と呼ばれ、初期段階に故障率が高い時期(初期故障期)、その後に故障率が安定する時期(偶発故障期)、そして製品寿命が尽きて故障率が上がる時期(摩耗故障期)の3つの期間に分けられます。
    • バーンインは、この初期故障期に集中して発生する不良品を、市場に出る前に洗い出すことを目的としています。
    • 通常、製品の出荷前に行われ、全数検査として行われることが多いです。
    • 信頼性試験ほど過酷な条件ではなく、製品が通常の使用環境で経験するよりも少し高い程度の温度や電圧を印加して、数時間から数十時間連続稼働させます。

まとめ

項目バーンイン信頼性試験
目的初期不良品の検出・除去製品の寿命・耐久性の評価
実施対象一般的に全数(スクリーニング)一般的に抜き取り(評価)
負荷条件実際の使用条件に近い、やや高め実際の使用条件よりはるかに過酷
結果不良品の選別製品の信頼性データとして活用

 バーンインは「初期の弱い部分をあらかじめ壊して不良品を取り除く選別作業」であり、信頼性試験は「製品が長期間にわたってどれだけ使えるかを調べる性能評価」と言えます。

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