カリフォルニア州の洋上風力発電推進 洋上風力を推進する理由とその方法は何か?

この記事で分かること

  • 洋上風力を推進する方法:深海域に対応する浮体式洋上風力発電を主軸に推進しています。2045年までに25GWの目標を掲げ、連邦政府と連携した海域リース入札を実施。
  • 推進する理由:2045年カーボンフリー電力100%達成という州法上の義務があり、大規模な洋上風力が不可欠です。また、経済成長と雇用創出の手段としても有望視しています。
  • トランプ政権が脱炭素に懐疑的な理由:環境規制は国内の経済成長と雇用の足かせになると考えるためです

カリフォルニア州の洋上風力発電推進

 カリフォルニア州は、独自の野心的な洋上風力発電導入を推進しており、特に浮体式洋上風力発電の開発に力を入れています。

 https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/02443/111000126/

 カリフォルニア州は、トランプ政権が脱炭素政策に懐疑的であっても、気候変動対策と再生可能エネルギー容量の拡大において、洋上風力を重要な柱の一つと位置づけ、積極的に独自路線を追求している状況です。

どのように推進しているのか

 カリフォルニア州が洋上風力発電を推進するための具体的な方法や戦略は、主に以下の4つの柱を中心に展開されています。特に、同州の地理的制約(深海域)から、浮体式洋上風力発電技術の確立と導入に重点が置かれています。

1. 浮体式技術の戦略的導入

 カリフォルニア沖は水深が深いため、海底に固定する従来の着床式ではなく、水面に浮かせる浮体式(Floating Offshore Wind)技術の商業化が不可欠です。

  • コスト削減目標: 米国エネルギー省(DOE)は、浮体式洋上風力発電のコストを2035年までに$45/MWhまで引き下げるという野心的な目標を掲げており、州もこれに連携して技術革新と規模の経済を追求しています。
  • 国際会議の開催: 州内で浮体式洋上風力発電をテーマとする国際会議(Floating Offshore Wind Shot)が開催され、技術開発とサプライチェーン構築に向けた議論を主導しています。

2. 連邦政府と連携した海域リースと目標設定

 開発を具体的に進めるため、連邦政府の海洋エネルギー管理局(BOEM)と協力し、開発海域の指定とリース(賃貸)権の入札を実施しています。

  • リース権入札: 2022年12月に、米国で初となるカリフォルニア沖合の洋上風力リース権入札が実施されました。モロ湾とフンボルト湾沖の5つの海域(合計予定容量4.6GW)のリース権が落札され、具体的なプロジェクトが始動しています。
  • 中長期目標の設定: 2030年までに2〜5GW、2045年までに25GWという明確な導入目標を州エネルギー委員会(CEC)が設定し、業界と電力会社に明確な方向性を示しています。

3. 港湾インフラの開発と強化

 巨大な浮体式タービンを製造・組み立て・輸送・維持するためには、既存の港湾インフラを大幅に強化する必要があります。

  • 戦略的な港湾協力: カリフォルニア州土地委員会(CSLC)とロングビーチ港、フンボルト港といった主要港湾が、浮体式洋上風力開発のハブとなるための合意を結び、タービンの輸送・組み立て・進水のための近代的な海洋ターミナル建設を進めています。
  • 政府補助金の活用: フンボルト湾港などに対して、連邦政府のインフラ助成プログラムを通じて大規模な補助金(例:$4.27億ドル規模)が投入され、インフラ整備が加速しています。

4. 送電網(グリッド)の強化と許認可の迅速化

 発電した電力を効率よく消費地に送るための送電網の増強と、プロジェクトの承認プロセスを円滑化するための規制改革も重要な推進方法です。

  • 送電計画: 大容量の電力を受け入れるための海底ケーブルや陸上送電線の新設・強化計画が電力会社や州規制当局によって進められています。
  • 規制・許認可: 開発の障壁となる許認可プロセスの迅速化や、環境アセスメントの適切な実施を通じて、プロジェクトの早期実現を目指しています。

 カリフォルニア州は、これらの多角的なアプローチを通じて、洋上風力、特に浮体式技術において米国をリードするハブとなることを目指しています。

カリフォルニア州は、深海域に対応する浮体式洋上風力発電を主軸に推進しています。2045年までに25GWの目標を掲げ、連邦政府と連携した海域リース入札を実施。さらに、タービン製造・輸送のための港湾インフラ強化に集中的に投資しています。

風力以外の取り組みはどうか

 カリフォルニア州は、洋上風力発電の推進と並行して、州の2045年カーボンフリー電力100%という野心的な目標達成のため、太陽光発電蓄電池システム地熱発電省エネルギー・電化といった多岐にわたる取り組みを強力に進めています。


太陽光発電(Solar PV)と蓄電池(Storage)の爆発的拡大

 太陽光発電は、風力と並んでカリフォルニア州の再生可能エネルギー源の中で最大の割合を占めており、その不安定性を補うための蓄電池の導入をセットで推進しています。

  • 太陽光発電の義務化: 2020年以降に建設される新築住宅に対し、太陽光発電設備の設置を義務化しました。さらに、2022年以降の建築物エネルギー基準の改正では、非住宅や高層建築にもこの義務を拡大しています。
  • 蓄電池の導入義務: 大規模な太陽光発電の導入によって生じる電力需給のアンバランス(ダックカーブ問題)に対応するため、蓄電池の設置義務または設置レディ(将来的な設置準備)の義務も同時に進められています。州は2045年までに52GWものエネルギー貯蔵が必要になると見込んでおり、導入を加速させています。

安定電源としての地熱発電(Geothermal)

 カリフォルニア州は地熱資源が豊富な地域であり、地熱発電は天候に左右されないベースロード電源として重要な役割を担っています。

  • 再生可能エネルギーの内訳: 歴史的に地熱発電の利用が盛んであり、風力や太陽光と共に州のRPS(再生可能エネルギー導入基準)の目標達成に貢献しています。

省エネルギーと建築物の電化(Electrification)

 エネルギー需要そのものを削減し、ガスなどの化石燃料への依存度を下げるため、建築物における規制とインセンティブを強化しています。

  • オール電化への移行: 2023年以降に建築されるほとんどの住宅をオール電化に対応させることを義務付けています。
  • ヒートポンプの導入推進: 2030年までに600万台のヒートポンプ(高効率な給湯・冷暖房設備)を設置するという目標を掲げ、建築物における脱炭素化を促しています。

その他の新技術への投資

 長期的な脱炭素化に向けて、次世代技術の研究開発と導入も進められています。

  • クリーン水素: クリーンで再生可能な水素市場を構築するための戦略策定を指示し、連邦政府の水素ハブプログラムにも選定されるなど、クリーン水素の活用に向けた取り組みを推進しています。

 これらの施策は、電力会社に再生可能エネルギー導入を義務付けるRenewables Portfolio Standard (RPS)プログラムを通じて一元的に推進されています。RPSでは、2030年までに電力の60%を再生可能エネルギーで賄うこと、そして2045年までにカーボンフリー電力を100%にすることが義務付けられています。

風力以外では、新築住宅への太陽光発電義務化と、その不安定性を補うための蓄電池の導入を最優先。さらに、ベースロード電源として地熱発電を推進し、建築物のオール電化で需要削減を図っています。

新政権下の逆風でも続ける理由は何か

 新政権下で洋上風力発電に逆風が吹く可能性があっても、カリフォルニア州がこの取り組みを継続する主な理由は、州独自の強固な政策目標経済的利益、そして政治的・文化的独立性にあります。


州独自の強固な政策目標

 カリフォルニア州は、連邦政府の政策方針にかかわらず、独自の環境・エネルギー目標を法律で設定し、推進する強い決意を持っています。

  • 法律に基づく脱炭素化: 2045年までに電力システムを100%カーボンフリーに移行するという目標が州法で定められています。この目標達成には、日中の太陽光だけでは供給が不安定なため、風力、特に夜間や季節を通じて安定供給が期待される洋上風力が不可欠な電源と位置づけられています。
  • 大規模な電力需要: カリフォルニア州の経済規模と人口を支え、将来の電気自動車(EV)や建築物の電化による電力需要増に対応するためには、25GWという大規模な洋上風力発電容量が必要とされています。

経済的な優位性と雇用創出

 洋上風力開発は、単なる環境対策ではなく、州経済を強化し、雇用を創出する主要な手段と見なされています。

  • 新規雇用の創出: ギャビン・ニューサム知事は、洋上風力開発が「経済を強化し、新規雇用を創出するゲームチェンジャー」であると明言しており、特に浮体式技術のサプライチェーン確立は製造業や港湾関連産業への投資を呼び込みます。
  • 長期的なコスト削減: 初期投資は大きいものの、化石燃料価格の変動リスクから州経済を切り離し、長期的に安定した再生可能エネルギー源を確保することで、消費者と企業の電力コストの安定化に貢献すると期待されています。

政治的・文化的独立性

 カリフォルニア州は、気候変動対策において連邦政府に依存せず、独自の先進的な政策を推し進めるという政治的・文化的な傾向が強くあります。

  • リーダーシップの発揮: 州は、再生可能エネルギー分野で国内および世界の技術と市場をリードする役割を担うことを目指しています。連邦政府の方針転換があったとしても、州独自の融資やインセンティブ(例:州独自の環境・エネルギー分野への資金投入)でプロジェクトを支援し続けることが可能です。

 連邦政府の補助や規制緩和が減速しても、カリフォルニア州は州法で定められた目標経済成長への期待をエンジンとして、洋上風力の推進を継続すると考えられます。

カリフォルニア州は、2045年カーボンフリー電力100%達成という州法上の義務があり、大規模な洋上風力が不可欠です。また、経済成長雇用創出の手段であり、連邦の方針によらず独自に政策を主導する姿勢があるためです。

トランプ政権が脱炭素に懐疑的な理由は何か

 トランプ政権が脱炭素政策に懐疑的である主な理由は、以下の3点に集約されます。

1. 経済優先とコスト負担の懸念

  • 「アメリカ・ファースト」の経済戦略: 脱炭素のための環境規制は、国内の産業、特に製造業や化石燃料産業に不公平なコストと負担を強いると主張します。
  • 短期的な経済成長の重視: 短期的な経済成長と雇用の維持・創出を最優先し、規制を緩和することで企業活動を活性化させたいという考えです。
  • エネルギー価格の高騰批判: 脱炭素政策(再生可能エネルギーへの移行)がエネルギー価格を高騰させ、家計や産業のコスト増につながっていると批判します。

2. 化石燃料産業の重視とエネルギー自給

  • 化石燃料の推進: シェールガス、石油、石炭などの化石燃料資源を最大限に活用し、「エネルギー優位性(Energy Dominance)」を確立することを目標としています。
  • 規制の撤廃: バイデン前政権下で導入された化石燃料開発を制限する規制(例:掘削許可、パイプライン建設)を撤廃し、「掘って掘って掘りまくれ」をスローガンに掲げています。

3. 地球温暖化懐疑論

  • 人為的な温暖化への疑問: 地球温暖化は人為的なものではなく、自然現象であるという懐疑的な立場をとることが多く、その結果、パリ協定のような国際的な枠組みは不要で不公平であると判断します。
  • 国際的責任の拒否: パリ協定が中国やインドなどの新興国に比べてアメリカに重い義務を課す「不公平な合意」であると批判し、脱退を繰り返す背景となっています。

トランプ政権が脱炭素に懐疑的な主な理由は、「アメリカ・ファースト」を掲げ、環境規制は国内の経済成長雇用の足かせになると考えるためです。また、化石燃料(石炭、石油、ガス)の最大限の利用によるエネルギー自給を重視し、地球温暖化懐疑論の立場からパリ協定などの国際的な枠組みを不公平と見なしています。

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