この記事で分かること
- PTFEとは:ポリテトラフルオロエチレンのことで、デュポン社が開発したフッ素樹脂の登録商標名「テフロン」として広く知られています。優れた特性からプリント基板材料でも特定の用途で使用されています。
- PTFEの特性:誘電率と誘電正接が非常に低く、周波数による変化も少ないため、高周波信号の伝送損失を最小限に抑えられます。また、吸水性の低さや優れた物性も持っています。
- 高周波に対応する必要性:情報量の拡大、速度の上昇、デバイスの小型化などに有効な高周波への対応が必要になっています。
PTFEの特性
プリント基板は電子回路の部品を取り付け、配線するための土台であり、現代の電子機器にはほぼすべて使われています。
前回の記事では、ポリイミドについて解説しました。今回の記事ではPTFEについて解説しています。
PTFE (テフロン) 基材とは何か
PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)は、デュポン社が開発したフッ素樹脂の登録商標名「テフロン」として広く知られています。プリント基板のベース材料としても、その優れた特性から特定の用途で使用されています。
PTFE基材の主な特徴
- 優れた高周波特性: 誘電率と誘電正接が非常に低く、周波数による変化も少ないため、高周波信号の伝送損失を最小限に抑えられます。マイクロ波やミリ波などの高周波回路に最適です。
- 低い吸水率: 水分をほとんど吸収しないため、湿度による電気特性の変化が少なく、安定した性能を維持できます。
- 優れた耐熱性: 高い耐熱性を持ち、種類によっては200℃以上の連続使用が可能です。
- 優れた耐薬品性: ほとんどの化学薬品や溶剤に対して非常に安定しており、腐食されにくい性質を持ちます。
- 低い摩擦係数: 表面が滑りやすく、摩擦による損失が少ないです。
- 非粘着性: 物がくっつきにくいため、特殊な用途で利用されます。
PTFE基材の種類
PTFE基材は、その特性をさらに向上させるために、他の材料と複合化されることがあります。
- 純粋なPTFE基材: PTFEのみで構成された基材で、最も優れた高周波特性を示しますが、機械的強度が低い傾向があります。
- PTFEガラスクロス基材: PTFEにガラスクロスを含浸させた複合材料で、機械的強度と寸法安定性を向上させています。高周波用途で広く使用されます。
- PTFEセラミック充填基材: PTFEにセラミック粉末を充填することで、誘電率を調整したり、熱伝導性を向上させたりした基材です。
- 多層PTFE基材: 複数のPTFE層を組み合わせた構造で、複雑な回路設計に対応できます。

PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)は、デュポン社が開発したフッ素樹脂の登録商標名「テフロン」として知られており、優れた特性からプリント基板材料でも特定の用途で使用されています。
なぜ誘電率が低いのか
PTFE(テフロン)基材の誘電率が低い主な理由は、その分子構造と組成にあります。具体的には以下の点が挙げられます。
1. 電気陰性度の低い原子で構成されている
- PTFEは、炭素 (C) と フッ素 (F) のみで構成されています。フッ素は非常に電気陰性度の高い元素ですが、炭素との結合においては、比較的共有性の高い結合を形成します。
- 水素原子を含む一般的な有機材料(例えばエポキシ樹脂)と比較して、PTFE分子内の電荷分布の偏りが小さく、分極(電気的な偏り)が起こりにくい傾向があります。
2. 極性結合のキャンセルアウト
- C-F結合は極性を持っていますが、PTFEの分子構造は非常に対称的です。炭素原子がフッ素原子に囲まれたような構造をしており、個々のC-F結合の持つ双極子モーメント(電気的な偏りの大きさ)が、分子全体として打ち消し合う傾向があります。
- 分極が起こりにくいということは、外部の電場によって分子内の電子が偏りにくく、誘電分極(物質が電場によって電気的に偏る現象)が小さくなるため、誘電率が低くなります。
3. 電子分極の小ささ
- 誘電分極には、原子内の電子雲が電場によって変形する電子分極と、分子全体の向きが電場によって揃う双極子分極などがあります。
- PTFE分子は、上述の理由から双極子モーメントが小さいため、双極子分極はほとんど起こりません。また、フッ素原子は電子雲が比較的小さく、変形しにくいため、電子分極も小さいと考えられます。
4. 密度の低さ
- 一般的に、物質の密度が低いほど、単位体積あたりの分極しやすい分子の数が少なくなるため、誘電率が低くなる傾向があります。PTFEは、他の多くの固体誘電体材料と比較して密度が低いことも、誘電率の低さに寄与している可能性があります。

PTFEは、構成元素の電気陰性度のバランスと比較的共有性の高い結合。対称的な分子構造による極性結合のキャンセルアウト、小さい電子分極、比較的低い密度などの特長から誘電率が低くなります。
なぜ、高周波に対応する必要があるのか
高周波に対応することは、以下のように現代社会における情報通信の根幹を支え、より便利で快適な生活、そして新たなテクノロジーの発展に不可欠な要素となっています。
1. 情報伝送容量の拡大
- 周波数が高くなるほど、電波に乗せられる情報量が増えます。例えるなら、低い周波数の電波が細い道だとすると、高い周波数の電波は幅広くてたくさんの車が通れる高速道路のようなものです。
- スマートフォンで高画質の動画をスムーズに視聴したり、大容量のデータを高速でダウンロードしたりするためには、より多くの情報を運べる高周波の電波が不可欠なんです。
2. 通信速度の向上
- 情報伝送容量の拡大と密接に関連しますが、高い周波数帯域を利用することで、通信速度を飛躍的に向上させることができます。
- 現在普及が進んでいる5G(第5世代移動通信システム)は、従来の4Gよりもずっと高い周波数帯域を使用することで、超高速・大容量の通信を実現しています。これにより、遅延が少なく、より快適な通信体験が可能になります。
3. 多数同時接続の実現
- 高い周波数帯域は、より多くのチャンネル(電波の通り道)を確保できるため、多数のデバイスが同時に接続しても通信速度が低下しにくいというメリットがあります。
- IoT(Internet of Things)の普及が進み、私たちの身の回りの様々なものがインターネットに接続されるようになるほど、この多数同時接続のニーズは高まります。
4. 新しいサービスの実現
- 高周波技術の進展は、これまで実現できなかった新しいサービスの可能性を広げます。例えば、自動運転、高精細なVR/AR(仮想現実/拡張現実)、リアルタイムでの遠隔医療などは、高速・大容量・低遅延な高周波通信があってこそ実現可能になります。
5. デバイスの小型化・高性能化
- 高周波回路の設計技術が進むことで、より小型で高性能な電子デバイスの開発が可能になります。スマートフォンをはじめとするモバイル機器の小型化、軽量化、多機能化は、高周波技術の進化に支えられています。

現代のテクノロジーが目覚ましい速さで進化しており、情報量の拡大、速度の上昇、デバイスの小型化などに有効な高周波への対応が必要になっています。
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