南鳥島のレアアース どのようなレアアースが埋蔵されているのか?課題は何か?

この記事で分かること

  • 埋蔵されているレアアース:需要が高く供給が偏っているジスプロシウムやイットリウムが豊富に含まれています。
  • 課題:レアアース泥の課題は、水深6,000mの深海からの採掘技術確立、泥からの高効率な分離・精製、高コストへの対応(採算性)、そして深海生態系への環境影響評価と対策です。

南鳥島のレアアース

 南鳥島沖に眠るレアアースは、日本の経済安全保障にとって非常に大きな意味を持つ資源です。東京から南東約1,850kmに位置する日本の最東端の島である南鳥島の排他的経済水域(EEZ)内の海底に、膨大な量のレアアース泥が確認されています。

 南鳥島レアアース泥の商業的な採掘が実現すれば、日本はレアアース供給において中国への依存度を大幅に低減し、経済安全保障を強化できるだけでなく、世界のレアアース市場における影響力も高まることが期待されます。

どのようなレアアースが埋蔵されているのか

 南鳥島沖の海底に埋蔵されているレアアースは、17種類ある全てのレアアース元素を含んでいます。しかし、特に注目されているのは以下の元素です。

  • ジスプロシウム (Dy):
    • ネオジム磁石の耐熱性を向上させるために不可欠な重希土類です。
    • 南鳥島沖のレアアース泥は、中国の陸上鉱山と比較して、ジスプロシウムの濃度が非常に高いことが特徴とされています。一部の報告では、中国鉱山の32倍の濃度が含まれるとされています。
    • 電気自動車(EV)やハイブリッド車(HEV)のモーター、風力発電機など、高温環境下で使用される高性能磁石に不可欠なため、戦略的に非常に重要な元素です。
  • イットリウム (Y):
    • ディスプレイの発光材料、レーザー、燃料電池など幅広い用途に使われるレアアースです。
    • 南鳥島沖には、世界需要の数百年分に相当するイットリウムが埋蔵されていると推定されています。
  • その他の重希土類:
    • テルビウム (Tb) など、ジスプロシウムと同様に高性能磁石の特性向上に寄与する重希土類も含まれています。
  • 軽希土類:
    • ネオジム (Nd) やセリウム (Ce) など、軽希土類も含まれています。
    • ただし、南鳥島沖のレアアース泥の大きな特徴は、特に供給リスクの高い重希土類の含有比率が高い点にあります。

 この「超高濃度レアアース泥」は、魚類の歯や骨片を構成する「アパタイト(リン酸カルシウム)」という鉱物に特に多くレアアースが含まれており、その濃度が20,000 ppm(2%)を超える高い値であることが分かっています。

南鳥島沖のレアアースは、単に埋蔵量が多いだけでなく、特に需要が高く供給が偏っているジスプロシウムやイットリウムが豊富に含まれています。

課題は何か

 南鳥島沖のレアアース泥の商業的な採掘と利用には、いくつかの大きな課題があります。

  1. 深海からの採掘技術の確立:
    • 水深の課題: 南鳥島沖のレアアース泥は水深約6,000メートルの深海底に存在します。このような極限環境下での採掘は前例が少なく、既存の技術では困難が伴います。高水圧に耐え、泥を効率的に吸い上げ、地上まで輸送するシステムの開発が必要です。
    • 効率的な採泥・揚泥技術: 広大な海底からレアアースを含む泥を効率的かつ大量に採取し、揚げる技術(揚泥システム)の確立が求められます。
  2. 分離・精製技術の開発:
    • 泥からの分離: 引き上げた泥の中から、高濃度で含まれるレアアースを効率的に分離する技術が必要です。陸上鉱山とは異なる泥状の特性に対応したプロセスが求められます。
    • 放射性物質の処理: レアアースはウランやトリウムといった放射性元素と挙動が似ているため、精製過程で放射性物質が混入する可能性があります。これを安全に分離・処理し、隔離する技術が必要です。
  3. 採算性の確保(コスト競争力):
    • 初期投資と運用コスト: 深海採掘システムの開発、建造、そして実際の運用には莫大な初期投資と継続的な運用コストがかかります。
    • 中国との競争: 現在、世界のレアアース市場は中国が圧倒的なシェアを占めており、その生産コストは比較的安価です。南鳥島からのレアアースが、中国産レアアースに対して価格競争力を持てるかどうかが商業化の大きな鍵となります。高濃度である点は有利ですが、いかに低コストで採掘・精製できるかが重要です。
  4. 環境影響評価と対策:
    • 深海は未解明な生態系が多く存在します。大規模な採掘活動が、深海生態系にどのような影響を与えるのかを詳細に評価し、環境負荷を最小限に抑えるための対策を講じる必要があります。国際的な海洋環境保護の観点からも、透明性の高い評価と対策が求められます。
  5. 法整備と国際的な調整:
    • 深海資源開発に関する国際的なルールや国内の法整備、そして近隣諸国との排他的経済水域における潜在的な紛争リスクへの対応なども考慮する必要があります。

 これらの課題は複雑かつ多岐にわたり、単一の技術や企業で解決できるものではありません。そのため、日本政府は「レアアース泥・マンガンノジュール開発推進コンソーシアム」を設立し、産官学連携でこれらの技術的・経済的・環境的な課題を克服しようと取り組んでいます。 

南鳥島レアアース泥の課題は、水深6,000mの深海からの採掘技術確立、泥からの高効率な分離・精製、高コストへの対応(採算性)、そして深海生態系への環境影響評価と対策です。これら克服が商業化の鍵となります。

レアアース泥から直接、商業規模でレアアースが生産・流通した例はあるのか

 現在までに、海外で海底のレアアース泥から商業的にレアアースが採掘され、市場に流通したという実績はまだありません。

 しかし、世界各国、特に中国、カナダ、ノルウェー、米国などの企業や政府が、深海に眠るレアアースを含む鉱物資源(ポリメタリックノジュール、熱水鉱床、コバルトリッチクラストなど)の探査と商業化に向けた技術開発を積極的に進めています。

現状と今後の動向

  • 探査段階が主流: 多くのプロジェクトはまだ探査段階にあり、商業生産に至るための技術的、経済的、環境的な課題を克服しようとしています。
  • 国際海底機構 (ISA) の規制: 国際水域における深海採掘活動は、国連の下にある国際海底機構(ISA)によって規制されています。ISAは探査契約を締結していますが、商業的な採掘に関する最終的な規則(マイニングコード)は、まだ完全に確立されていません。この規制の不確実性が、商業生産への移行を遅らせる一因となっています。
  • ポリメタリックノジュールへの注目: レアアース泥とは少し異なりますが、深海底に広がる「ポリメタリックノジュール(マンガン団塊)」には、ニッケル、コバルト、銅、マンガンといったバッテリーやハイテク製品に不可欠な金属が豊富に含まれており、一部の企業(例:The Metals Company)は、これらのノジュールの商業生産を2024年末までに開始することを目指していると報じられています。これらノジュールにも微量のレアアースが含まれることはありますが、レアアース泥のようにレアアースを主目的とした採掘とは異なります。
  • 環境への懸念: 深海採掘は、その未解明な生態系への潜在的な影響から、環境保護団体や一部の国から強い反対の声が上がっており、商業化を一時停止すべきだという主張も出ています。
  • 中国の動向: 中国は、陸上レアアース資源で世界をリードしていますが、深海資源の探査と技術開発にも積極的に投資しており、将来的に深海資源の採掘において優位に立つことを目指していると見られています。

海底のレアアース泥から直接、商業規模でレアアースが生産・流通した例はまだありませんが、各国がしのぎを削ってその技術開発を進めています。

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