この記事で分かること
- プラスチックのマテリアルリサイクルとは:プラスチックくずを化学的な分解ではなく、物理的な処理によって再びプラスチック原料や製品として再利用する技術の総称です。
- プラスチックのケミカルリサイクルとは:使用済みのプラスチックを化学的に分解し、新たな化学製品の原料として再利用する技術のことです。
サーキュラーテクノロジー実装研究センター
産業技術総合研究所(産総研)は、2025年4月に「実装研究センター」を新設し、社会課題の解決に向けた技術の社会実装を加速する取り組みを開始しました。
https://www.aist.go.jp/aist_j/news/au20250401_2.html
産総研の第6期中長期目標では、「エネルギー・環境・資源制約への対応」「人口減少・高齢化社会への対応」「レジリエントな社会の実現」の3つの社会課題の解決が掲げられています。
これらの課題に取り組むため、7つの実装研究センターが設立され、所内の研究成果を結集し、産総研の総合力を最大限に生かした研究開発を推進していくとしています。
今回は7つの実装研究の一つである「サーキュラーテクノロジー」のひとつであるプラスチックのリサイクル技術についての解説となります。
サーキュラテクノロジー実装研究センターの役割は
産総研のサーキュラーテクノロジー実装研究センターは、2025年4月に発足した、サーキュラーエコノミー(循環経済)の実現を目指すための研究開発と社会実装を推進する新しい研究センターです。
目的と課題
このセンターは、日本および世界的に高まる、従来の線形経済から循環経済への移行の動きに対応し、以下の課題に取り組みます。
- 資源制約、環境負荷の低減: 廃棄物を資源として捉え、再利用・再資源化することで、天然資源の消費を抑え、環境への負荷を低減します。
- 新たな価値創造: 産総研が独自に開発してきた高度な選別技術、不純物除去技術、リサイクル技術、指標構築・評価技術などを融合し、高付加価値な再生材や製品を生み出すアップサイクル技術などを開発します。
- 社会実装の推進: 開発した技術を社会で広く活用してもらうため、実証研究や社会システムの実装に向けた取り組みを行います。
主な研究テーマ
- アルミニウムのアップサイクル技術
- プラスチックのマテリアルリサイクル技術
- プラスチックのケミカルリサイクル技術
- 指標構築・評価基盤システム

実装研究センターでは様々なサーキューテクノロジーの開発と社会実装を推進する役割を持っています。
プラスチックのマテリアルリサイクル技術とは
プラスチックのマテリアルリサイクル技術とは、使用済みのプラスチック製品や製造工程で発生したプラスチックくずを、化学的な分解を行わずに、物理的な処理によって再びプラスチック原料や製品として再利用する技術の総称です。
具体的には、回収されたプラスチックを選別、破砕、洗浄、溶融、成形といったプロセスを経て、新たなプラスチック製品の原料や、元の製品に近い形状の製品として再生利用します。
マテリアルリサイクルの主なプロセス
- 回収: 家庭や事業所から排出された使用済みプラスチック、または製造工程で発生したプラスチックくずを回収します。
- 選別: 回収されたプラスチックを、樹脂の種類(PE、PP、PET、PSなど)や色、異物の有無などによって分別します。この選別がリサイクルの品質を大きく左右します。
- 破砕・粉砕: 選別されたプラスチックを、 мелкие частицы(フレークやペレット)に механически раздробляют. これにより、後の洗浄や溶融の効率が向上します。
- 洗浄: 付着した汚れや異物(ラベル、金属片など)を тщательно удаляют. 洗浄が不十分だと、再生プラスチックの品質低下につながります。
- 溶融: 洗浄されたプラスチックフレークやペレットを加熱し、溶融状態にします。
- 成形: 溶融したプラスチックを、射出成形、押出成形、ブロー成形などの成形技術を用いて、新たなプラスチック製品や原料(ペレット)の形状に加工します。
マテリアルリサイクルの種類
- 水平リサイクル(ボトル to ボトル、フィルム to フィルムなど): 使用済みの製品を、元の製品と同じ用途の製品として再生利用するリサイクルです。品質を維持する必要がある用途に適していますが、技術的な難易度が高い場合があります。
- カスケードリサイクル(オープンループリサイクル): 使用済みの製品を、元の製品とは異なる、より品質要求の低い用途の製品として再生利用するリサイクルです。例えば、PETボトルを繊維や строительный материалにリサイクルするなどがあります。
マテリアルリサイクルのメリット
- 資源の有効活用: 限りある石油資源の消費を抑制し、資源の枯渇リスクを低減します。
- 廃棄物削減: 埋立処分されるプラスチックごみの量を減らし、環境負荷を軽減します。
- エネルギー消費量の削減: 新たなプラスチックを製造するよりも、リサイクルする方がエネルギー消費量を抑えられます。
- CO2排出量の削減: エネルギー消費量の削減に伴い、温室効果ガスの排出量も削減できます。
- 比較的確立された技術: 他のリサイクル技術に比べて、技術が比較的確立されており、多くの実績があります。
マテリアルリサイクルの課題
- 異物混入や品質劣化: 回収されたプラスチックには様々な異物が混入している場合があり、選別や洗浄が不十分だと再生プラスチックの品質が低下する可能性があります。
- リサイクル困難なプラスチック: 複合素材や着色されたプラスチック、汚れがひどいプラスチックなどは、マテリアルリサイクルが難しい場合があります。
- リサイクルコスト: 回収、選別、洗浄などの工程にコストがかかる場合があります。
- 用途の限定: 再生プラスチックの品質によっては、元の製品と同じ用途に再利用できない場合があります。

プラスチックのマテリアルリサイクル技術とは、プラスチックくずを化学的な分解ではなく、物理的な処理によって再びプラスチック原料や製品として再利用する技術の総称です。
産総研では、高度な選別技術や不純物除去技術、品質劣化を防ぐための技術などでより高品質なマテリアルリサイクルを行う検討がされています。
プラスチックのケミカルリサイクル技術とは
プラスチックのケミカルリサイクル技術とは、使用済みのプラスチックを化学的に分解し、元のモノマー(プラスチックの構成単位)や、それ以外の低分子化合物、あるいは新たな化学製品の原料として再利用する技術の総称です。
マテリアルリサイクルが物理的な処理によってプラスチックを再利用するのに対し、ケミカルリサイクルは化学反応を利用してプラスチックの分子構造を分解し、より根源的なレベルで資源を再活用します。
ケミカルリサイクルの主な方式
ケミカルリサイクルには、様々な方式があり、分解するプラスチックの種類や得られる生成物によって使い分けられます。主な方式として以下のようなものがあります。
- 解重合: プラスチックを構成するモノマーに化学的に分解する技術です。これにより、バージン原料に近い品質のモノマーを回収し、再びプラスチックの製造に利用できます。PETボトルのボトル to ボトルリサイクルなどで実用化されています。
- 熱分解(パイロリシス): プラスチックを酸素の少ない状態で高温加熱し、油状の液体(熱分解油)やガス、炭化物などに分解する技術です。熱分解油は、燃料油や化学製品の原料として利用できます。
- ガス化: プラスチックを高温で反応させ、一酸化炭素や水素などを主成分とする合成ガス(syngas)を生成する技術です。合成ガスは、燃料や化学製品の原料として利用できます。
- 加水分解: 水と触媒を用いてプラスチックを分解する技術です。主にポリエステル系のプラスチック(PETなど)の分解に用いられ、モノマーやオリゴマーを回収できます。
- 溶解・再沈殿: 特定の溶媒にプラスチックを溶解させた後、溶媒を除去または別の溶媒を加えることでプラスチックを再沈殿させ、不純物を除去する技術です。品質向上や異種プラスチックの分離に利用されます。
ケミカルリサイクルのメリット
- リサイクル困難なプラスチックの処理: マテリアルリサイクルが難しい、複合材や汚染されたプラスチック、多種混合プラスチックなども処理できる可能性があります。
- 高品質な再生原料の取得: 分解・再合成により、バージン原料に近い品質のモノマーや化学製品の原料を得ることができます。
- 多様な製品への応用: 得られた原料は、元のプラスチック製品だけでなく、様々な化学製品の製造に利用できます。
- 資源の有効活用の促進: これまでリサイクルできなかったプラスチックを資源として活用することで、資源循環を促進します。
ケミカルリサイクルの課題
- 高い技術的ハードル: 化学反応を伴うため、反応条件の制御や触媒の開発など、高度な技術が必要です。
- 高いコスト: 設備投資や運転コストがマテリアルリサイクルよりも高くなる傾向があります。
- エネルギー消費量: 反応によっては高温や高圧などの条件が必要となり、エネルギー消費量が大きくなる場合があります。
- 環境負荷の可能性: 使用する触媒や溶媒、副生成物によっては、環境負荷が生じる可能性があります。
産総研のサーキュラーテクノロジー実装研究センターでは、これらの課題を克服し、より効率的で環境負荷の少ないケミカルリサイクル技術の開発に取り組んでいます。特に、高効率な触媒の開発や、再生可能なエネルギーを利用したプロセス構築などが重要な研究テーマとなっています。

ケミカルリサイクル技術とは、使用済みのプラスチックを化学的に分解し、新たな化学製品の原料として再利用する技術のことです。
マテリアルリサイクルと比較し、適用できるプラスチックの種類が多いという利点があるものの、技術的ハードルやコストの高さ、エネルギー使用量の多さが課題となります。産総研では高効率な触媒の開発や、再生可能なエネルギーを利用したプロセス構築などが重要な研究テーマになっています。
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