重希土類フリーネオジム磁石によるレアアース削減 重希土類が必要な理由と削減できた理由は何か?

この記事で分かること

  • ネオジム磁石のハイブリッド車での役割:ハイブリッド車(HEV)の駆動モーターにおいて「回転の源となる強力な磁場を作る」役割を担います。世界最強の磁力により、限られたスペースで大きな力を生み出せるため、モーターの小型化と燃費向上に不可欠な基幹部品です。
  • 重希土類が必要な理由:ネオジム磁石は、高温で磁力が弱まってしまうというう弱点がありました。重希土類の添加によって磁石の結晶構造内で磁力の向きを一定方向に固定する力(結晶磁気異方性)が飛躍的に高まります。
  • 重希土類に実現方法:磁石の結晶をナノサイズまで小さく整列させることで、高温下で磁力が反転するのを防ぎます。これにより、ジスプロシウムなしで高い磁力を維持可能にしました。

重希土類フリーネオジム磁石によるレアアース削減

 2026年現在、日本企業によるレアアースの「脱中国」および「中国依存の軽減」は、地政学的リスク(輸出規制の強化など)を背景に、単なるコスト削減の枠を超えた経済安全保障の最優先課題となっています。

 日本企業は、調達先の多角化(オーストラリアやベトナム等)に加え、「技術革新」によるレアアースの使用量減少を検討しています。

レアアースの使用量を減らす技術にはどのようなものがあるのか

 レアアースの使用量を減らす技術は、大きく分けて「磁石そのものの改良」「モーター設計の変更」「代替材料への置換」の3つのアプローチで進化しています。

 2026年現在、特に中国の輸出規制強化を受けて、以下の技術が実用化・高度化のフェーズに入っています。


1. 磁石の改良(省レアアース・重希土類フリー)

 最強の磁力を持つ「ネオジム磁石」には、熱に弱いという弱点があり、それを補うために高価で希少な重希土類(ジスプロシウムやテルビウム)が添加されてきました。

  • 重希土類フリー技術: 磁石の結晶粒を極限まで小さくする(微細化)技術により、添加剤に頼らずに耐熱性を高める手法です。大同特殊鋼ホンダが共同開発した「熱間加工ネオジム磁石」が代表的で、ハイブリッド車の駆動モーターに採用されています。
  • ネオジム削減(省ネオジム磁石): ネオジムの一部を、より安価で豊富な「ランタン」や「セリウム」に置き換える技術です。トヨタ自動車などが開発しており、性能を維持しつつネオジムの使用量を大幅に抑えることができます。

2. モーター設計による回避(レアアースフリー・モーター)

 強力な磁石(レアアース)を使わずに、電気の力や鉄の特性を利用して回るモーターへの転換です。

  • 同期リラクタンスモーター (SynRM):磁石の代わりに、鉄心の「磁気抵抗(リラクタンス)」を利用して回転させる方式です。かつては効率が悪かったのですが、最新の制御技術と複雑なローター構造により、レアアース磁石を使わずに高い効率を実現しています。
  • 巻線界磁型モーター (EESM):磁石の代わりにコイルを巻き、そこに電流を流して電磁石を作る方式です。レアアースを一切使わないため、供給リスクがゼロになります。日産自動車や欧州メーカーが、高速走行が得意なEV向けに採用を広げています。

3. 代替材料の活用(フェライト磁石の高性能化)

 身近な「フェライト磁石(酸化鉄)」を、レアアース磁石に近い性能まで引き上げる挑戦です。

  • 高性能フェライト磁石: プロテリアル(旧日立金属)などは、材料の配合や加工方法を工夫し、従来のフェライト磁石よりも強力な磁力を引き出す技術を開発しました。
  • 鉄・窒素系磁石: 次世代技術として、レアアースを一切含まず、鉄と窒素という安価な材料だけで作る磁石の研究が進んでいます。

技術別の特徴まとめ

技術アプローチターゲット素材特徴主な採用先
重希土類フリージスプロシウム等耐熱性を添加物なしで確保ハイブリッド車
省ネオジムネオジム安価なレアアースで代替次世代EVモーター
リラクタンス磁石そのもの磁石を使わない構造産業用ポンプ、家電
巻線界磁型磁石そのもの電磁石で回転させる高性能EV(日産、BMW等)

レアアース削減技術は主に3点です。1.耐熱用ジスプロシウムを不要にする「重希土類フリー技術」。2.磁石を使わず電磁石等で回る「新型モーター開発」。3.使用済み製品から磁石を回収する「リサイクル技術」です。

ネオジム磁石はハイブリッド車のモータでどのような役割か

 ハイブリッド車のモーターにおいて、ネオジム磁石は「回転するための強力な磁場を作り出し、小型・高出力化を実現する」という極めて重要な役割を担っています。


1. 強力な「回転力(トルク)」の発生

 モーターは「磁石(回転子)」と「電磁石(固定子)」が引き合ったり反発したりする力で回ります。

  • 役割: ネオジム磁石は、世界最強の磁力を持つ永久磁石です。これを使用することで、電力を効率よく大きな回転エネルギーに変換できます。
  • メリット: 発進時や加速時に必要な、力強いトルクを生み出すことができます。

2. モーターの「小型化・軽量化」

 ハイブリッド車は、エンジンとモーターの両方を狭いエンジンルームに収める必要があります。

  • 役割: 磁力が極めて強いため、他の磁石(フェライト磁石など)を使う場合に比べて、磁石自体を小さくできます。
  • メリット: モーター全体をコンパクトに設計できるため、車内空間の確保や燃費の向上(車体の軽量化)に直結します。

3. 高い「エネルギー効率」の維持

  • 役割: 永久磁石自体が磁力を持っているため、回転子側に電流を流し続ける必要がありません(電磁石方式との比較)。
  • メリット: バッテリーの消費を抑え、燃費性能を最大限に引き出すことができます。

なぜ「技術革新」が必要だったのか?

 一方で、ネオジム磁石には「高温になると磁力を失う(熱減磁)」という弱点があります。ハイブリッド車のモーター内部は150℃〜200℃に達するため、これまでは中国に依存する「ジスプロシウム(重希土類)」を添加して耐熱性を補っていました。

 重希土類(ジスプロシウム等)を添加すると、磁石の結晶構造内で磁力の向きを一定方向に固定する力(結晶磁気異方性)が飛躍的に高まります。これにより、高温時の熱振動や外部磁界による磁力反転を強力に抑制できるため、耐熱性が向上します。

ネオジム磁石は、ハイブリッド車(HEV)の駆動モーターにおいて「回転の源となる強力な磁場を作る」役割を担います。世界最強の磁力により、限られたスペースで大きな力を生み出せるため、モーターの小型化と燃費向上に不可欠な基幹部品です。

重希土類フリーでどのように耐熱性を持たせたのか

 重希土類(ジスプロシウム等)を使わずに耐熱性を高める技術の核心は、「結晶をナノレベルまで小さくして、磁力の逃げ道を塞ぐ」ことにあります。

 通常、ネオジム磁石は高温になると磁力が反転しやすくなり、使い物にならなくなります。これを防ぐためにジスプロシウムを添加していましたが、日本企業は以下の2つの技術革新でこれを克服しました。


1. 結晶粒の微細化(ナノレベルの制御)

 従来の磁石は、数ミクロン(1,000分の数ミリ)の大きさの結晶の集まりです。温度が上がると、この結晶の境界から磁力の「乱れ」が始まり、全体の磁力が弱まってしまいます。

  • 革新点: 大同特殊鋼などは、独自の「熱間加工法」を用いて、結晶を従来の10分の1以下(ナノサイズ)まで小さくしました。
  • 効果: 結晶が極限まで小さくなると、熱による磁力の乱れが隣の結晶に伝わりにくくなります。これにより、ジスプロシウムを加えなくても、200°C近い高温下で磁力を維持できるようになりました。

2. 界面(粒界)のコーティング技術

 結晶と結晶の隙間に、磁力の反転をブロックする薄い層を作る技術です。

  • 革新点: トヨタ自動車プロテリアルなどは、ネオジムを磁石全体に均一に混ぜるのではなく、結晶の「表面(界面)」だけに集中させる技術を開発しました。
  • 効果: 磁力が反転しやすいのは常に結晶の表面からであるため、そこだけをピンポイントで補強することで、少ない原料で効率的に耐熱性を確保しています。

 単に小さくするだけでなく、粒同士の境界を特殊な技術で「壁」として機能させることで、外部からの熱や磁力の干渉を受けにくい強固な構造を作り上げています。

重希土類を使わず耐熱性を高める鍵は「結晶粒の微細化」です。磁石の結晶をナノサイズまで小さく整列させることで、高温下で磁力が反転するのを防ぎます。これにより、ジスプロシウムなしで高い磁力を維持可能にしました。

なぜ高温になると磁力が反転するのか

 磁石が熱で磁力を失ったり、向きが変わったり(反転したり)する理由は、主に「原子レベルの熱振動」「磁区(じく)の乱れ」にあります。


なぜ反転・減磁が起きるのか

  1. 原子の激しい振動(熱運動)磁石の正体は、内部にある無数の小さな原子の「スピン(回転)」の向きが一定方向に揃っている状態です。温度が上がると、原子が激しく震え出し、揃っていた向きをバラバラにしようとする力が働きます。
  2. 磁区(じく)の「壁」の移動磁石の内部は「磁区」という小さなグループに分かれています。高温になると、隣り合うグループの境界線(磁壁)が動きやすくなります。
  3. 外部磁場による「反転」の誘発モーターの内部では、磁石の向きとは逆方向の強い磁界(逆磁界)が常に発生しています。
    • 低温時: 磁石自身の「向きを維持する力(保磁力)」が強いため、逆磁界に耐えられます。
    • 高温時: 熱振動で「向きを維持する力」が弱まっているため、逆磁界に負けて、磁力の向きが「くるり」と反転(逆向きに固定)してしまいます。これが致命的な故障の原因となります。

磁石内部では、原子が磁力を揃えようとしていますが、高温になると原子の熱振動が激しくなり、整列が乱れます。この状態でモーター内の逆方向の磁界を受けると、磁石の向きが耐えきれず「反転」してしまうのです。

結晶が小さいと熱による磁力に乱れが伝わりにくくなる理由は何か

 結晶が小さい(微細である)と熱に強くなる理由は、主に「磁力の反転の連鎖を物理的に遮断できるから」です。


1. 「磁力のドミノ倒し」を防ぐ

 磁石の中では、隣り合う原子同士が「同じ向きを向こう」とする力が働いています。

  • 結晶が大きい場合: どこか一箇所で熱によって磁力が反転すると、それが「ドミノ倒し」のように結晶全体に広がってしまいます。一つの大きな部屋で火事が起きると、一気に燃え広がるのと似ています。
  • 結晶が小さい場合: 磁石がナノレベルの小さな結晶(部屋)に分かれているため、ある結晶が反転しても、隣の結晶へその影響が伝わりにくくなります。「小部屋に分けて防火壁を作っている」状態です。

2. 「磁壁(じへき)」の移動を封じ込める

 磁石の内部には、磁力の向きが異なる境界線「磁壁」があります。

  • 温度が上がると、この磁壁は動きやすくなり、磁力の向きを簡単に変えてしまいます。
  • 結晶を小さくすると、結晶の境界(粒界)が磁壁の動きを邪魔する「障害物」として機能します。これを「ピン留め効果」と呼びます。道が狭くて障害物が多いほど、磁力の反転(磁壁の移動)が進みにくくなるのです。

3. 「単磁区(たんじく)」構造になる

 結晶を一定のサイズ(ネオジム磁石なら数十ナノメートル程度)以下にすると、一つの結晶の中に一つの磁力の向きしか存在できない「単磁区粒子」という状態になります。

 この状態になると、磁力を反転させるためには非常に大きなエネルギーが必要になるため、結果として熱に対しても非常に強い「保磁力」を持つようになります。


結晶が小さいと、内部で起きた磁力の乱れが隣へ広がるのを結晶の境界が「壁」となって食い止めるからです。また、結晶を極小化すると磁力の向きを変えるのに大きな力が必要な状態になり、高温下でも反転しにくくなります。

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