この記事で分かること
- 光電融合技術とは:電気信号と光信号を融合させる技術です。消費電力の大幅な削減や高速かつ大容量のデータ通信を可能にするため、次世代の半導体技術として注目されています。
- 光電融合技術での大日本印刷の強み:長年培ってきた「印刷技術」と「微細加工技術」を応用することで、光電融合に不可欠な精密な光学フィルムや、回路を形成するためのフォトマスク、そして高機能なガラス基板を製造できる強みを持っています。
- 光電融合技術のフォトマスクに必要な要素:光・電気両方の回路を超高精度で重ね合わせる技術が不可欠です。ナノレベルでのパターン精度に加え、光の特性を考慮した特殊な設計と、熱や歪みに強い材料が求められます。
大日本印刷の光電融合技術研究開発
大日本印刷(DNP)は、初の海外研究開発拠点として、オランダのハイテクキャンパス・アイントホーフェン内に新拠点を設立し、光電融合技術の研究開発に着手しました。
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGR01BJ00R00C25A9000000/
DNPは、光電融合技術に不可欠な半導体パッケージ部材の開発を進めており、オランダの拠点で光電融合向け光学材料の精密パターニング技術などを開発することで、この分野での事業を拡大する計画です。
光電融合技術とは何か
光電融合技術は、電気信号を扱う電子回路と、光信号を扱う光回路を融合させ、両者の利点を組み合わせる次世代の情報通信技術です。従来の電気信号に加えて光信号を用いることで、情報通信の高速化と低消費電力化を目指します。
仕組みと重要性
現在、コンピューターのCPUやGPUといった電子チップ間のデータ伝送には、主に電気信号が使われています。しかし、AIの普及やクラウドサービスの拡大により、データ処理量が増大し、以下の問題が顕在化しています。
- 消費電力の増大: 電気信号は伝送時に多くのエネルギーを熱として消費するため、データセンターの消費電力増加に繋がります。
- 熱による性能低下: 発熱はチップの性能低下や故障リスクを招きます。
- 伝送速度の限界: 電気配線の物理的な制約により、これ以上の高速化が困難になりつつあります。
光電融合技術は、これらの問題を解決する「ゲームチェンジャー」として期待されています。電気信号の一部を光信号に置き換えることで、低消費電力で高速なデータ伝送が可能になります。
主要技術と展望
光電融合を実現するための主要技術の一つに、「Co-Packaged Optics (CPO)」があります。これは、電子チップと光通信部品を一つのパッケージに統合する技術です。これにより、チップ間の配線距離を大幅に短縮し、電力消費と遅延を低減できます。
この技術は、データセンターの電力問題の解決策として特に注目されており、日本でもNTTなどが開発を推進しています。最終的には、チップ内部のデータ伝送にも光を用いる「光電融合チップ」の実用化が目指されています。

光電融合技術は、電気信号と光信号を融合させる技術です。これにより、AIやクラウドなどのデータ処理で急増する消費電力を大幅に削減し、高速かつ大容量のデータ通信を可能にします。次世代の半導体技術として、データセンターを中心に開発が進められています。
DNPは 光電融合技術に対しどんな強みがあるのか
DNPは長年培ってきた「印刷」と「微細加工」の技術を光電融合分野に応用することで、独自の強みを持っています。
印刷技術から派生した強み
DNPの印刷技術は、単なる紙へのプリントに留まりません。フィルムや金属などの様々な素材に、精密かつ均一にインクや材料を塗布する「コーティング技術」や、複数のフィルムを貼り合わせる「ラミネート技術」へと進化しました。
これにより、光電融合パッケージに不可欠な、異なる素材を高精度で積層する技術や、光の反射を制御する光学フィルムの製造に強みを発揮します。
微細加工技術
印刷に使う「版」を作る技術が、半導体の製造工程に不可欠な「フォトマスク」の製造へと発展しました。
フォトマスクとは、半導体の回路パターンをウェハに露光するための原版で、ナノメートルレベルの超微細な加工が求められます。この高度なフォトリソグラフィ技術とエッチング技術は、光電融合パッケージ内の微細な光導波路や電極を形成する上で、DNPの大きな強みとなります。
これらの技術を組み合わせることで、DNPは次世代の半導体パッケージ部材として、電気と光を融合させるための高機能なガラスコア基板などの製品開発を進めています。

DNPは、長年培ってきた「印刷技術」と「微細加工技術」を応用することで、光電融合に不可欠な精密な光学フィルムや、回路を形成するためのフォトマスク、そして高機能なガラス基板を製造できる強みを持っています。
光電融合技術でのフォトマスクに必要な要素は何か
光電融合技術で使われるフォトマスクには、従来の半導体製造用のものに加えて、光信号を扱うための特殊な要素が求められます。特に重要となるのは、超高精度な位置合わせ技術と、光の特性を制御する材料と設計です。
高精度な位置合わせ
光電融合は、電気回路(電子チップ)と光回路(光導波路など)を一つのパッケージに統合する技術です。光は電気信号と異なり、接触していれば伝送されるわけではなく、光ファイバーなどの経路に正確に位置を合わせて結合させる必要があります。そのため、フォトマスクには以下の要素が不可欠です。
- ナノレベルでのパターン精度: 光導波路の幅や、光を扱う部品の位置はナノメートル単位で制御される必要があります。フォトマスクは、この超微細なパターンを忠実に形成するための原版であり、高い解像度と線幅の均一性が求められます。
- 高精度な重ね合わせ: 複数の層を重ねて回路を形成する際、各層のパターンがわずかでもずれると、光信号の伝送効率が著しく低下します。フォトマスクには、露光装置の光路の歪みなどを補正する機能(補正パターン)を含めることで、製造工程における位置ずれを最小限に抑えるための技術が必要です。
光特性を制御する材料と設計
光電融合では、フォトマスクは単にパターンを転写するだけでなく、光の特性そのものを制御する役割も担います。
- 高い透過率を持つ基板: フォトマスクの基板には、露光に使う特定の波長の光を効率よく透過させることが求められます。そのため、合成石英のような高純度で光学特性に優れた素材が用いられます。
- 光を制御するパターン設計: 光導波路や光結合部を形成するために、フォトマスク上には光の反射、回折、屈折といった現象を精密に制御するための特殊なパターンが設計されます。これは、単なる電気回路のパターンとは異なる、より高度な光学設計技術が必要です。
これらの要素が組み合わさることで、光電融合技術の性能を最大限に引き出すフォトマスクが実現されます。DNPが持つ微細加工技術は、まさにこれらの高度な要求を満たす上で、大きな強みとなります。

光電融合技術のフォトマスクには、光・電気両方の回路を超高精度で重ね合わせる技術が不可欠です。ナノレベルでのパターン精度に加え、光の特性を考慮した特殊な設計と、熱や歪みに強い材料が求められます。
オランダに拠点を作った理由は何か
DNPがオランダに海外初の研究拠点を設立した理由は、主に光電融合技術の先進的な研究開発ネットワークへのアクセスと、グローバルな事業拡大の足がかりを築くためです。
光電融合技術のハブ
オランダ、特にアイントホーフェン市は、ハイテクキャンパス・アイントホーフェン (High Tech Campus Eindhoven) を中心に、光電融合を含むフォトニクス(光科学技術)分野の世界的な研究開発拠点となっています。
この地域には、関連する研究機関やスタートアップ、そしてASMLなどの世界的な半導体製造装置メーカーが集積しています。DNPは、このエコシステムに加わることで、最新の技術トレンドをいち早く把握し、共同研究やオープンイノベーションを加速させることが狙いです。
欧州市場へのアクセス
欧州は、次世代の情報通信インフラやデータセンターの需要が拡大している市場です。オランダに拠点を置くことで、DNPは欧州の顧客やパートナー企業との連携を強化し、光電融合技術に関連する事業をグローバルに展開する足がかりを築くことができます。
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