この記事で分かること
- レゾナックの宇宙生活市場への参入:レゾナックは主に2つの材料を提供しています。一つは宇宙放射線による電子機器の誤動作を防ぐ「半導体封止材」で、ISSでの実証実験が進んでいます。もう一つは月の砂を固めて熱を貯める「レゴリス蓄熱材」で、月面基地のエネルギー基盤を支えます。
- 半導体封止材でどのように中性子を吸収するのか:封止材のエポキシ樹脂に、中性子を吸収する性質が極めて高い「ホウ素」を配合しています。飛来した中性子がシリコンチップに届く前に、ホウ素の原子核がそれを捕獲してブロックし、半導体の誤動作を防ぐ仕組みです。
- レゴリス蓄熱材とは:月の砂(レゴリス)を特殊な樹脂で固めて作った、熱を蓄える建材です。昼の太陽熱を貯め込み、マイナス170度にもなる極寒の長い夜に放出することで、月面基地の暖房や電力源として活用する「宇宙の湯たんぽ」です。
レゾナックの宇宙生活市場
レゾナック(旧・昭和電工)や三井化学といった日本の大手化学メーカーが、従来の「衛星パーツ」としての素材供給を超えて、宇宙での「生活」や「製造」を見据えた市場にいち早く手を打っています。
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC291P10Z21C25A1000000/
宇宙環境で一度採用された素材や技術は、高い信頼性の証明となり、将来のデファクトスタンダード(事実上の標準)になる可能性が高いため早期に市場での定着を図っています。
前回は宇宙生活市場全般の記事でしたが、今回はレゾナックの宇宙生活市場での取り組みにについての記事となります。
レゾナックの宇宙生活市場で提供する材料は何か
レゾナックが宇宙「生活」市場、およびそれを支えるインフラ領域で提供・研究している主な材料は、主に「半導体関連材料」と「月面基地用材料」の2つです。
特に、宇宙での生活に欠かせない高度な計算機や通信機器を支えるための「守る」技術と、現地でインフラを作る「建てる」技術に強みを持っています。
1. 宇宙放射線から機器を守る「半導体封止材」
宇宙生活では、PCやスマートフォン、生命維持装置などの電子機器が不可欠ですが、宇宙放射線による「ソフトエラー(誤動作)」が大きな課題です。
- 提供材料: 中性子を吸収する素材を配合した「半導体封止材(パッケージング材)」。
- 役割: 宇宙放射線が半導体に当たって起こる誤動作を防ぎます。これにより、地上用の高性能なチップをほぼそのまま宇宙へ持ち込めるようになり、宇宙生活でのデジタル環境を飛躍的に向上させることが期待されています。
- 状況: 2025年に国際宇宙ステーション(ISS)での実証実験が開始されています。
2. 月面でのエネルギー基盤を作る「レゴリス蓄熱材」
将来の月面生活において、極寒の夜(約マイナス170度)を生き抜くための熱エネルギー確保は生命線です。
- 提供材料: 月の砂(レゴリス)を固めるための「特殊樹脂(レジンコーテッドサンド技術)」。
- 役割: 地球から持ち込むのは少量の樹脂のみ。現地の砂と混ぜて加熱・成形することで、熱を貯めるための「蓄熱ブロック」や建材を現地生産します。
- 状況: JAXAとの共同研究が進められており、月面基地という「住」のインフラを支える技術として注目されています。
レゾナックが提供する価値
| カテゴリ | 具体的な材料 | 生活への貢献 |
| 通信・計算 | 高機能半導体封止材 | 宇宙でのスマホやPCの安定動作(誤動作防止) |
| エネルギー | レゴリス固定用樹脂 | 月面基地の暖房や電力の安定供給(蓄熱システム) |
| 次世代製造 | SiC結晶などの次世代半導体 | 宇宙工場での超高性能デバイス生産 |
レゾナックは、「生活を支える高度なインフラ基盤」となる材料を提供しているのが特徴です。

レゾナックは主に2つの材料を提供しています。一つは宇宙放射線による電子機器の誤動作を防ぐ「半導体封止材」で、ISSでの実証実験が進んでいます。もう一つは月の砂を固めて熱を貯める「レゴリス蓄熱材」で、月面基地のエネルギー基盤を支えます。
半導体封止材でどのように中性子を吸収するのか
レゾナックが開発している宇宙向け半導体封止材は、材料の中に「中性子を吸収する性質を持つ物質」を特殊な配合で加えることで、ソフトエラーを防ぐ仕組みになっています。
具体的なメカニズム
- ターゲットの特定: 宇宙空間には「宇宙線」が飛び交っており、その中の中性子が半導体のシリコンチップに衝突すると、電荷が発生してデータの書き換え(ソフトエラー/誤動作)を引き起こします。
- 吸収材の配合: レゾナックはこの中性子を効率よく捕まえる(吸収する)特性を持った添加剤を、チップを包み込む「封止材(樹脂)」の中に均一に混ぜ込みました。
- バリア機能: 外部から飛んできた中性子がチップに到達する前に、この封止材が「盾」となって中性子を吸収・減衰させます。
使用される物質
レゾナックが中性子を吸収するために封止材(エポキシ樹脂など)に配合している具体的な物質は、「ホウ素(ボロン / B)」、あるいはホウ素を含む化合物です。
なぜ「ホウ素」なのか
中性子は電気的に中性であるため、多くの物質を通り抜けてしまいます。しかし、特定の原子核は中性子を非常に効率よく捕獲する性質(中性子吸収断面積が大きい)を持っており、その代表例がホウ素10(10B)です。
- 高い吸収能力: ホウ素10は、飛んできた熱中性子を吸収してアルファ粒子とリチウム原子核に変化します。この「核反応」によって、中性子が半導体のシリコンチップに到達するのを未然に防ぎます。
- 封止材との相性: ホウ素の化合物(窒化ホウ素など)は耐熱性や絶縁性に優れているため、精密な電子部品である半導体を包み込む「封止材」の機能を損なうことなく混ぜ合わせることができます。
ソフトエラーを防ぐ「逆転の発想」
実は、地上の半導体では封止材に含まれる微量のホウ素が逆に誤動作の原因になることが知られていました。しかし、レゾナックはこれを逆手に取り、「宇宙から降り注ぐ大量の中性子をブロックするために、あえて適切な形でホウ素を配置する」という設計を行いました。
主な効果
- ソフトエラー率の低減: 地上の実験では、最も基本的な回路において約20%の誤動作低減が確認されています。
- 汎用チップの宇宙利用: これまでは放射線に強いが高価で低性能な「宇宙専用チップ」が必要でしたが、この封止材を使うことで、地上用の高性能なチップをそのまま宇宙で安全に使える可能性が広がります。
2025年からは国際宇宙ステーション(ISS)での実証実験も予定されており、宇宙でのスマホ利用や高度なAI処理を支える基盤技術として期待されています。

封止材のエポキシ樹脂に、中性子を吸収する性質が極めて高い「ホウ素」を配合しています。飛来した中性子がシリコンチップに届く前に、ホウ素の原子核がそれを捕獲してブロックし、半導体の誤動作を防ぐ仕組みです。
レゴリス蓄熱材とは何か
レゴリス蓄熱材とは、月の表面を覆う砂(レゴリス)を原料として、熱を蓄える機能を持たせた建材のことです。
月面での過酷な「生活」を支えるために考案された、レゾナックなどが研究を進める革新的な技術です。
なぜ必要なのか?
月の環境は、人間が住むには極めて過酷です。
- 激しい温度差: 太陽が当たる昼は約110℃、日が沈む夜は約-170℃まで下がります。
- 長い夜: 月の夜は約2週間も続きます。この間、太陽光発電ができないため、凍死を防ぐための「暖房」や「電力」をどう確保するかが最大の課題です。
仕組みと特徴
- 現地調達(地産地消): 地球から重い建材を運ぶと莫大なコストがかかります。そこで、月面に無限にある砂(レゴリス)をそのまま利用します。
- 熱を貯める: 昼間の太陽熱を、レゴリスで作った「蓄熱ブロック」に貯め込みます。
- 夜間に放出: 太陽がない夜の間、貯めておいた熱を少しずつ放出し、居住施設を暖めたり、スターリングエンジン等で発電したりして命を繋ぎます。
レゾナックの技術:砂を固める「糊」
レゴリスは単なる「粉」なので、そのままではブロックになりません。そこでレゾナックは、地上で培った「レジンコーテッドサンド(樹脂を被覆した砂)」の技術を応用しています。
- 特殊な樹脂: 極少量の特殊な樹脂を月へ持ち込み、現地のレゴリスと混ぜて加熱・成形します。
- 強み: 少ない樹脂量で、効率よく、かつ強固に砂を固めて「熱を逃がさないレンガ」を作ることが可能です。
レゴリス蓄熱材の役割
| 項目 | 内容 |
| 原料 | 月の砂(レゴリス)+ 少量の特殊樹脂 |
| 役割 | 昼の太陽熱を貯め、夜の暖房・電力源にする |
| メリット | 地球からの輸送コストを大幅に削減できる |

月の砂(レゴリス)を特殊な樹脂で固めて作った、熱を蓄える建材です。昼の太陽熱を貯め込み、マイナス170度にもなる極寒の長い夜に放出することで、月面基地の暖房や電力源として活用する「宇宙の湯たんぽ」です。

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